22:小さな約束
部屋に足を踏み入れた瞬間、木の温もりに包まれた静かな空気が出迎えてくれた。
ダークオークの家具、厚みのあるラグ、書棚の端に置かれた小さなスタンドライト。
「……今夜はここにいた方がいい。外は、あまりに気配が多すぎる」
「はい、そうします」
ミラは小さく笑って、ソファに腰を下ろす。
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ミラの手元で、湯気の立つカップが静かに揺れていた。
白い湯気が、夜気の中に静かに消えていく。
「……眠れませんね」
「そうだな」
ふと、ソーレンが口を開く。
「……俺の両親、今でも“鍵は閉めたか”って電話してくるんだ。……いい歳してさ」
ミラが吹き出すように笑う。
「……それで、毎回私にも言ってくるんですね、ウルフさん」
ソーレンが微かに笑みを返す。
「その呼び方」
「呼び方?」
「……ここにいる間くらいは、“ソーレン”でいい」
「……わかりました。ソーレン」
その声には、少しだけ距離が縮まった気配が滲んでいた。
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部屋の静けさを破るように、レトロな呼び鈴が短く鳴る。
ソーレンが立ち上がり、受話器を取る。
「……はい、ソーレン・ウルフです」
受話口から、低く穏やかな声が届いた。
「私だ。ルシアン・モローだ」
ソーレンの眉がわずかに動く。




