21:アロームの灯り
柔らかな陽の名残がカフェ・アロームの窓を染めていた。店内は夕刻の片付けに追われる時間。
ドアが開いて、ミラとソーレン・ウルフが入ってきた。
カウンターの内側では、アレックス・モローがコーヒーポットを手に振り返る。
「ミラ……!」
アレックスが駆け寄る。抱きしめるように肩をとられたミラは、思わず目を伏せた。
「朝から来られなくてごめんなさい。お店、ありがとう。……お願いしてよかった」
「そんなことより、無事だったの? 顔色、悪いじゃない……」
その言葉に重なるように、奥の扉からルシアン・モローが姿を現す。ゆっくりと歩み寄るその老紳士の所作は、静かで落ち着きがあり、全体に威圧のない温かさをまとっていた。
「こんばんは。ミラ、それに……お連れの方は?」
「ソーレン・ウルフです」
ソーレンが一歩前に出て、軽く頭を下げる。
「探偵をしています。……今日はミラさんの身の安全のために、同行しています」
テーブルに着き、ミラはカップを手に、今日一日で起こったこと――スターリングとピジョンの襲撃、事情聴取、そしてクロウとの接触――を落ち着いた声で説明する。
その間、アレックスは静かにミラの背をさすり続けていた。
その手には、言葉よりも深い優しさがこもっていた。
「……そういう事情なら、店はしばらく閉めておいたほうが良さそうですね」
アレックスが不安そうに言い、ミラが小さくうなずく。
「ごめんなさい……迷惑をかけて」
「違うわ、ミラ。あなたが無事でいてくれるのが一番大事よ」
それまで黙って耳を傾けていたルシアンがゆっくり口を開いた。
「ミラ、店のことは私たちに任せなさい。今は、それより大事なことがある」
彼は視線をソーレンに向ける。物腰はあくまで丁寧だが、その目には静かな鋭さが宿っていた。
「……あなたがミラを守ってくださるのですね?」
「はい。全力で」
ルシアンは一瞬、ミラを見やり、それからソーレンに視線を戻した。
「それを聞いて、安心しました。……私たちにとって、ミラは“大切な存在”なのです」
ルシアンが言うと、アレックスがミラの手を握った。
「……ありがとうございます」
ソーレンが軽く一礼し、胸ポケットから名刺を取り出す。
「連絡が必要な場合はこちらへ。固定電話です。外線は24時間通じます」
ルシアンは受け取り、軽く頷いた。
「承知しました。何かあれば、すぐに連絡します」
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アロームを出て並んで歩く二人。ミラが静かに言う。
「……アレックスさんも、ルシアンさんも……あんなふうに心配してくれて、ちょっと、泣きそうでした」
ソーレンがちらりと彼女を見る。
「孤独じゃないって、思った。……なんか、それだけで、ちょっと元気出るんですよね」
「……いい人たちだ。あの店の居心地がいい理由、分かったよ」




