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01:呼び出し プロローグ

雨が静かに窓を叩いていた。灰色の雲に覆われた空が、郊外の住宅地を沈黙に包んでいる。


 一軒家の二階、書斎の片隅で、イーライ・シェパードは壁に貼られた古い地図の端を押さえ直していた。紙の端は湿気でわずかに波打ち、何度も剥がされた跡がそこに刻まれている。




 元刑事という肩書を持つ男の動きには、過去の負傷が影を落としていた。左肩をかばうような仕草が、無意識に滲み出る。


 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。




 イーライがドアを開けると、そこに立っていたのは革のジャケットに身を包んだ男――ソーレンだった。




「来たか、ソーレン。……悪いな、こんな天気に」




「珍しいな。あんたが直接呼びつけるなんて、何かあったんだな」




 書斎へ案内されると、ソーレンの視線は自然と壁に貼られた一枚の新聞記事へと向かった。




《未解決:幻の窃盗団〈ギャラリーゴースト〉、最後の痕跡》




 黄ばんだ紙面に印刷されたその見出しは、まるで過去からの亡霊のように、彼の胸をざらつかせる。


 イーライはため息と共に机へ向かい、封筒の中から数枚の写真を取り出して広げた。




「……何かわかるか?」




 並べられたのは、荒らされた邸宅の内部、壁から引き剥がされた額縁、そして顔に痣ののこる男の遺体写真。


 ひと目でわかる。ソーレンにとっては見慣れすぎた――いや、忘れようにも忘れられない“構図”だった。




「これは……」




「先週起きた事件だ。警察はただの空き巣だと言って片付けたがな」




 イーライの目が鋭く細められる。




「だが、これは間違いない。レイブンバンクの手口だ」




 その名が口にされた瞬間、ソーレンの目が変わった。深い霧の奥で何かを見つけた猟犬のように、黒い光を帯びる。




「……奴らが、また動いてるのか」




「ギャラリーゴーストの再来なんて呼ばれて、調子にのっているらしい。だが、こいつらはただのコソ泥だ。粗暴で、冷酷で、まったくのクズ野郎どもだ」




 イーライはそっと左肩を押さえた。古傷が疼くのか、それとも記憶が痛むのか――。






「この体じゃあもう第一線には立てん。だが……お前なら、あの“匂い”を嗅ぎつけられる」




 ソーレンは無言で頷くと、机の上に置かれた黒いファイルへ手を伸ばした。


 その表紙には、烏のシルエットが浮かび上がっていた――〈レイブンバンク〉。


ソーレンが追い、未だ捕らえられていない影だ。

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