捨て子の少女と魔法の贈り物
そんな会話をした翌月の事__
イリスはアスターの上機嫌な声で目を覚ました。
「どうしたの」と寝惚け眼を擦りながら、アスターに尋ね、それに気付いたアスターは人差し指を立ててイリスの唇に当てて、少し静かにというジェスチャーを行った。
「うん、今日の午後向かうなっ〜!!
手土産も持ってくからな!」
そんな返事をし、アスターが電話を切るとイリスに向き合った。
「どうしたの?アスターが朝から電話って珍しいね」
「幼馴染からの電話だったんだ!
"例の物ができたからさっさと取りに来い"ってなー!!」
例の物?イリスが小首を傾げるとアスターは「危険な魔草とか機械とかじゃないからなぁー!?安心しろ!!」と言った。
「そういう事は思っていないよ?」
「そ、そうなのか?
おっかしーな、オレと関わると大抵の場合そういうのを危険視してくるんだけど…」
顎に手を当てて疑り深そうにイリスを見るアスターだったが、数分後には楽観的な普段の性格に戻っていた。
「まっ!どーでもいいよなっ!!
飯食って行こうと思ってるけど、イリスも来るか?」
前回行けなかったしと付け加えて言うと、イリスは真ん丸な瞳を輝かせて「行く!!」と元気良く答えた。
「よしっ!決まりだなー!!
さっさと飯作るから食って寄り道しながら行こうぜ!」
「わーい!!」
そう喜びながら、食事を済ませると二人共髪を結ったり、衣服の調節をしたりし準備を着々と熟していった。
「アスターって、なんで髪を伸ばしてるの?」
そう突拍子もなく聞いたが、アスターはなにも答えなかった。
だが、その表情には少しばかり暗い要素が含まれていて、イリスはそこから聞くのをやめてしまった。
そして、準備が終わり、最終チェックをした。
「鍵は閉めた!電気も消した!
出発だー!!!」
そう声高らかにイリスに言うとイリスも「出発だー!!!」と答え、二人で手を繋ぎ街中に出ていった。
アスターの家の周りと近い自然は少ないが、綺麗な家々や活気のある人々、街の奥には、本でしか見たことがないくらいに大きな中世的なお城___
初めて見る景色にイリスは胸を高鳴らせていた。
「アスター!アスター!あのお城にはお姫様とか王子様とかが住んでるの?!
メイドさんとか執事さんとか!!」
「んいや、五百年前くらいには前王妃とか住んでたけど、今では王しか住んでねぇな。
なんなら、従者の一人もいやしねぇよ〜」
そうまるで内情を知ったかのように答えるアスターに脳内でハテナを浮かべながらもそっか…と落胆するイリスを横目にアスターは工房へと向かう
数時間歩くと工房が見えてき、ノックすらせずにイリスと共に入っていった。
「おせぇぞ。」
「ごめーん。」
そう短い会話のやり取りをする
真っ赤と真っ白のまるで、紅白饅頭の様な綺麗な瞳の唐紅色と桃色の二色の短髪の青年……
銀色に紫色の長髪、片目は見えないがとても綺麗な紫色を称える瞳を持つアスターとはまた違った魅力を持った青年を見て、目を輝かせるイリス
「そいつがイリスか?」
「そーそー!!うちの可愛い一人娘だっ!!」
「お前なぁ…
初めまして、俺はBOUVARDIA=PROCESSINGだ。
コイツからはブバリアって呼ばれてる。よろしく頼む。」
そうイリスを可愛い一人娘と云うアスターに呆れた様な声色と表情を向けながらも、イリスに向き合い名前を名乗った。
イリスも緊張しているのか、「は、はじめまして!!
わ、わた、わたしはイリスです!!」といくつかの言葉を繰り返し言ったりしていた。
普段から、あまり人見知りをするタイプではなかったのか、緊張してるイリスを見てアスターは少し驚いた表情を浮かべていた。
「あ!ブバリア、今日は例の物を取りに来たんだ!!」
浮かべていた表情を取り直し、手を一度叩きながら、今日の本題である"例の物"の話をする。
「あーあれな。
俺も初めてやったんだ、クオリティは気にすんなよ…」
実力不足を恥じているのか、アスターから目を逸らし気不味い…と言わんばかりの表情を曝すブバリアにアスターは「オレが頼んだんだから、気にする事ねぇーよ!」と元気良く答えた。
「…そうかよ…」
少々照れくさそうにしながらも笑顔で答えるブバリアを見てイリスは仲が良いんだーと感心し、心の根っこにあったブバリアに対しての一つまみ掴んだ砂糖の様な警戒心はサラサラと溶けていった。
「二人共仲良しだね!!良いと思う!!」
そう口走るイリスの言葉にアスターはにっこりと笑って「おう!」と答えるが、ブバリアは「腐れ縁だ…」と不愉快…と言わんばかりの態度でイリスとアスターを眺めた。