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「ただいまー」
と少しだけ気怠そうにアスターが云うと、ドアを一枚隔てた部屋から高く元気な声で「おかえりー!!」といい、ドタドタと云うイリスが走る様な音が響いた。
ドアを強く開けると、そのまま靴も脱がないアスターに抱きつき、外では何があったの?や面白い事はあった?など根掘り葉掘り聞こうとするのを「少し待ってくれよ…」と呆れた様に言い、イリスを自身から剥がし、大広間に向かう。
その道中のイリスは案外大人しく、後ろをついていっていたのはそうだが、根掘り葉掘り話を聞こうとするのではなく、圧力でどうにか言ってくれないかと云う実験をしている様だった。
そして、漸くアスターが部屋着に着替えて大広間に
横たわると、待ってました!と言わんばかりにイリスはアスターの横に寝転がり、今日の事を聞こうとしていた。
「ねぇねぇ、面白い事とか楽しい事あったの?
教えてよ〜!」
「面白い事……珍しく宮廷幻術師が路上で幻術を披露していたな!
流石は王御用達だとは思う位にクオリティが高かったな…!」
そう横たわりながら、今日見た事を道端の草花から、珍しい事など色々な事象をぺらぺらと上機嫌に話し、その中で街中で見た幻術師の話をしてみると、突如としてイリスから驚きの発言が飛んできて、思わずアスターは目を見開いてしまった。
「アスター、わたしも幻術師になれる?」
と問われてアスターは口を開けて呆然としてしまった。
まさか、先程の話から幻術師になりたいと言い出すとは予想打にしていなかった。
「な、なんでだー?」
取り繕いながら、そう尋ねる。
イリスは体を起こしながら、嬉々とした様子でこう答えた。
「だって、幻術師ってみんなを笑顔にする仕事なんでしょ!!わたし、アスターを笑顔で一杯にしたいの!!」
そう言い、満面の笑みを浮かべるイリスに対して呆れた様なそれでいてとても嬉しそうにしながら、アスターも身体を起こし、イリスの頭を乱雑に撫でた。
「なにするの?」とでも言いたげな少し怒った表情を浮かべながら、イリスの頭を撫でるアスターを見つめる。
「愛い奴め〜!!!」
イリスの表情に気付いたのか、気付かないのかは不明瞭だが、そう言いながら、頭を撫でる。
イリスもアスターがやった行為が嬉しさからくる物だと理解し、怒って頬を膨らませていたのを和らげた。
数分経つとアスターは撫でるのを辞め、口を開いた。
「あはっ、幻術師、お前ならきっとなれるよ。
オレが保証してやる!!」
保証と言っても相手はまだ齢10になりたての少女だ。
これから夢が変わる可能性だってある。
ましてや、魔力の消費が多い幻術師に魔力を循環させる臓器のない彼女がなれる可能性の方が低いだろう。
だが、どこにも絶対はない。
それは、絶対なれるという確証がない事の証明にもなると同時に絶対になれないというのが存在しない事の証明にもなるのである。
それを知っているからこそ、なれないとは言わずにきっとなれるという曖昧な言葉を使ったのである。
例え、イリスが幻術師になれなかったとしてもどうにでもなる、どうにかしてみせる。
その覚悟があったから、保証という言葉を使ったのである。
だって、イリスはアスターが育てた我が子の様な者なのだから。
血は繋がっていなくとも、我が子を信じたいと思うアスターはきっと、端だから見たらおままごとをしている奴に映るかもしれない。
だが、その内には熱く愛の溢れる心が存在していたのである。
「幻術師の資格を取るには辛く厳しい道のりが待っているぞ〜?
その道を歩む覚悟はあるのかぁ〜?」
「うんっ!!アスターの笑顔の為に、わたし頑張るの!!」
そう胸の前で拳を作り、やる気をアピールしていた。
それに応える様に、アスターは「よしっ!なら、大丈夫だ!!これから頑張ろうな!」と答えた。