魔法使いの青年と捨て子の少女
とある日の夜明け_________
蔦が生え、古ぼけた紫色の屋根の一軒家の庭先から、高く誰かを呼ぶ赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。
そんな家の扉から銀色に藤色が混じった髪にアクアマリンの蝶の髪飾りをつけた青年が眠そうな瞳を擦りながら出てきて、その鳴き声のする方を見ると、みるみる間に驚いた表情を浮かべていた。
「おいおい…マジかよ……」
眠そうな目は見開き、口はあんぐりと開きながらも驚愕の声を上げてしまっていた。
青年は目で辺りを見回し、自身とその箱の中のモノ以外は人っ子一人いないのを確認すると、頭を抱え溜息をついた。
溜息をついている間も箱の中は泣き声をあげ、誰かを呼んでいる様で青年も気の毒に思ったのか箱を小脇に抱えて一軒家の中に戻っていった。
箱の中身を改めて確認すると、それは青年の目に間違いはなく、赤ん坊__臍の緒の取れた新生児であった。
青年は頭を掻き毟りながら、再度頭を抱えてしまった。
「どうすんだよ……オレ、魔女の子なんて育てた事ねぇぞ……」
ため息を吐きながらも、新生児を左右に揺らしてみたり、牛乳を薄めた飲み物を飲ませてみたりと試行錯誤を繰り返していると、赤ん坊はきゃっきゃと笑いながら、青年の横で結ばれた肩までの髪に興味を示したりと、オレに歩み寄ろうとしている……そう青年は考えた。
だが、軽く結界の貼った寝具に子供を寝かせると、途端に疲れがこみ上げてきたのか、その場にへたりこんだ。
それもそうだ、子育て経験がなく、弟妹もいない青年にとってはこれが初めての子供と触れ合う機会なのだ。
飲み物を吐いたり、意味もわからずに泣き叫んだりと青年にとっては理解不能と言わざるを得ない程に子供の相手は厳しかったのである。
それでも、寝ている子供を見ながら笑ったり、頬をふにふにと優しく突いてみたりと青年なりに歩み寄ろうとしているのはよくわかった。
子供の入っていた箱を見つめると、IRIS=FLAGRISとか拙い字ながらも、優しく愛の籠もった字を発見した。
「イリス=フラッグリス…?
フラッグリスなんてファミリーネームの奴なんていたかぁ…?」
とんだ誤読であるが、青年の故郷であるここではアイリスではなく、イリスと読むのが正解であったのだ。
その字を見て、青年は赤ん坊に話しかける。
「お前がどこ出身かは知らねぇけど、イリスって言う名前いいと思うぞ。
俺はASTAR=CARISTEFASっていうんだ。
お前も喋れる様になったら、呼んでくれよ?」
そう話しかけながら、笑い掛ける様はまるで兄弟の様であった。