5年後という未来
「博士が若い?」
「君は誰だ?」
男は突如として端末の画面に映し出された少女に尋ねる。
つい先ほどまで男は端末でニュース記事を読んでいたのだが、端末の電源が急に切れて、この少女が姿を現した。見ず知らずの少女を怪しむ男に対し、少女は男のことを知っている口ぶりだ。
「え? そちらって、何年ですか?」
「二×××年」
怪訝な表情をしつつも男は答える。
「十年前!?」
少女自身の驚嘆する声に画面の彼女の姿が揺れる。
「そんな……」
少女は項垂れる。
「それよりも人の端末を勝手に乗っ取っている君は何者なんだ」
見たところ、十代前半の少女。幼い見た目に反して、やっていることは褒められることではない。
少女は表情を曇らせるも、すぐに笑顔で悲しみを覆う。
「私はコスモス。あなたに作り出されたアンドロイドです」
「アンドロイド?」
少女は見るからに人間のように見える。人間のようにミスをし、慌てる姿を見ているからだろうと男は結論づける。随分と表情豊かなアンドロイドだ。
「はい。ただ、二×××年時点ではまだ私は生まれていませんが」
コスモスの姿にノイズが走り、徐々に荒くなっていく。
コスモスは落胆する。どうしても話したいことがあったのだが、自分が会いたいと思った男が存在する時間に繋ぐことができなかった。システムも万全ではないようで、これ以上の通信もできないようだ。
なら、とコスモスは暗い思考を振り払うように頭を振ると男を真っ直ぐに見つめる。想定外のことではあるが、男に会えたことは奇跡だ。
「博士」
コスモスの声にノイズが走る。
「私たちは五年後にある約束をします。どうか、その約束の本当の意図を教えてください」
コスモスは悲しみを耐えるような顔で男に訴えると、姿を消す。そして、男の端末には読みかけだった記事が表示される。
「……五年後」
男はコスモスの言葉を繰り返す。結局、彼女のことはよくわからなかった。
男は記事の見出しに改めて目を通す。
<人類滅亡まで残り十年か>
度重なる戦争、続く異常気象でこの世界は人が住める環境ではない。そのため、シェルター内での生活を強いられている。さらに、謎の感染症が流行り、人口は減少し続けている。
残された時間は短い。
「それでも、未来はあるのか」
先の見えないこれからに抱くべきは希望か、絶望か。
男はそう思いながら部屋を見渡す。
広がる花畑も宇宙も見えない、無駄に整った無機質な空間が広がるのみだった。
コスモスと約束を交わす日の話→「パスワードに願いを」https://ncode.syosetu.com/n5876io/
コスモスが問いかける話→「コスモスは眠りに就いた」https://ncode.syosetu.com/n6025io/