卑劣な策略
「………先生…ッ!!」
お義母さまの部屋へ飛び込んだ私の視界に、異様な光景が飛び込んできた。
「え…あの…お義母さま…?」
私と入れ違いに飛び出していったメイドは、なにやら叫びながら父さまを呼びに行ったらしい。あまり趣味が良いとは思えない広々とした部屋の中には、義母と、先生、そして、もう1人のメイドが、義母を庇うように支えて悲鳴を上げていた。
「ううう……ッ」
義母はまるで悲劇のヒロインよろしく、床にへたり込んで泣きながら自らの手で自らの体を抱き締め、先生は椅子に座ったままの姿勢で、飄々と目の前で展開される事態を見守っている。
「え…先生…な、何が…」
「フィーリウお嬢様!!その男に近づいてはなりません!!」
何があったのか良く解らずに、ただ、押し寄せる嫌な予感に怯えながら、ふらっと先生へ近づこうとすると、義母ではなくメイドが私を制止してきた。
「えっ……な、なにが……」
「その男は奥様に暴行を働いたのですよ!!お嬢様も何をされるか…!」
「暴行……先生が、そんなことするはず、ない!」
同じだ。また同じことが起きてしまった。
そう思った私は反射的に、メイドの言葉を否定する。
「その男に近づいてはなりません!!フィーリウ!!」
義母の制止を振り切って先生の側へ近づくと、私は彼を背後に庇う姿勢でその前面へ立った。途端に、睨み付けてくる義母や、メイドの視線は怖かったけど。絶対にここを譲る気はなかった。
だって、もう二度と、後悔したくなかったから。
「先生は酷いことしないわ!!何かの間違いよ!」
「ではお前は、私が嘘を付いてるとでも言いたいの?」
ギッと睨む義母の視線に体が震える。でも、怯まない。
きっと兄さまが来てくれる。だからそれまで私が守らなくちゃ。
「……………ッッ」
そう。義母が嘘を付いてるのは明らかだった。だって、私は前世の記憶で知っている。覚えてるもの。
義母が私から味方を無くすために、先生を遠ざけたってこと。
たったそれだけのために義母は、先生の人生を全部台無しにした。
赦さない。
今度はそんなこと、させないんだから。
「違うもの!!先生は…先生は、悪いことなんかしない!!」
「フィーリウ……お前ッッ!!」
怒鳴り声をあげ、射殺しそうな目で睨み付けてくる義母。
怖い。怖い。
前世での恐怖が、私を芯から怯えさせる。
だけど、震える身体を気力で支えて、私は両手を広げて先生を庇い続けた。
「フィーリウお嬢様……」
背後に庇っている先生が、私の名を呼ぶのが聞こえた。
その声に励まされて、私は俯きそうな顔を上げる。
大丈夫。
私は負けない。
絶対に守ってみせるんだ。
──だけど
「お前がそんなに頑張った所で無駄よ。こちらには証人がいるの。その男が私に暴行したという、目撃者もね。でも、その男には身の潔白を証明することが出来るの??出来ないわよね?」
「……………ッッ」
私のこころを折ろうとしてか、義母は嫌な笑いを浮かべてそう言った。そんな彼女に同意するように、側に控えるメイドがニヤリと口元に笑みを見せる。
「……………っ」
確かに彼女の言う通りだ。
先生には無実を証明することが出来ない。
私が先生を無実だって言い続けても、そんなの証拠にはならないだろう。
せめて私が現場にいてさえいれば。
先生から離れるんじゃなかった。目を離すんじゃなかった。
後悔してもしきれない。
「…………違う…先生は…先生は……ッ」
先生にかけられたのは冤罪だ。それは間違いない。
だけど、これからどうすれば良いんだろう。
どうしたら先生を救えるのか。
どうすれば義母の嘘を。メイドらの偽証を。
これが卑劣な罠だと言うことを、証明できるんだろう。
私に出来るのはただ、違うと、先生は悪くないと、必死に言い募るだけだった。




