帰り道
夏のホラー2023投稿用です。
残酷表現があります。ご注意下さい。
それと、テーマの帰り道ですが、主人公の帰り道ではありません。
私が不思議な体験をした事を話そうと思う。
前置きとして、私の趣味は山でキャンプをして過ごす事だ。
あれは…………そう、お盆の終わりだったな。
お盆が終わりだからと、その後にキャンプへ行くんだと気が逸り、送り火を昼間に焚いた後。
休みの日を何日も取れない事から、キャンプの候補地として今までは選択肢に絶対に入れてこなかった、自宅から見える近くの山でキャンプをすると決めた。
理由は、しばらく用事やらなんやらでキャンプへ行く時間が取れず、溜まったキャンプ欲が爆発してどこでも良いからキャンプしたい! と、なったからだ。
それで取るものも取らず、本当に最低限のキャンプ道具だけを引っ掴んで山へ向かった。
それで山を適当に登り、山にあった小さな川から少し離れた所をキャンプ地と定め、一泊したらすぐ山から下りる弾丸キャンプを始めることにした。
私は、それはもうウキウキだった。
久し振りのキャンプで、短い時間だけだとしても趣味に浸れるのだ。
それはそれは楽しい時間だった。
テントを張って、キャンプ用の座椅子に座って、ボーッとするだけで、もう幸せだった。
食事の用意を忘れたと気付いても、キャンプ用品として備蓄していた携帯保存食を、しかたなく侘しくかじっている時でさえ至福の時だった。
電気ランタンも持ってくるのを忘れているのに夕方頃に気付いて、キャンプセットへ入れっ放しの非常用ロウソクをいそいそと用意する事だって楽しかった。
本当に久し振りのキャンプを楽しみ、テントの中で寝袋に潜り込んで、満足感でいっぱいになったまま眠りについた。
不思議な体験は、この後からだ。
ふとした時に、目が覚めた。
目を開けた感覚はあっても、真っ暗。
体……背筋には少し冷たい感覚がして、身震いをひとつ。
ついでに下腹部に違和感。
どうやら尿意で目覚めたようだった。
手探りで寝袋の近くに置いといた非常用ロウソク立てを見つけ、これまたその傍に置いといた着火装置で火を灯す。
それでどうにか視界を確保して、テントを出て用を足す。
それから満足してテントへ戻ろうとした時、ロウソクの火以外の光源が、少し離れた所に有ることに気付いた。
その光源は妙に青白く、仄かに紫がかってもいる、不思議なモノだった。
そんな光に興味を引かれ、そちらへ向かうことにした私。
光源は川べりにあった。
山の頂上へ向けて、ゆっくり動いていた。
その光源は、
おそらく幽霊。
まるで生きているようにしか見えないほど、元気に歩く子供や青年の幽霊。
満足そうな顔で杖をつきながら歩く老人の幽霊。
包丁で胸を突かれ、流血しながら歩く幽霊。
切られたり千切られたり潰されたりして、四肢のどこかが欠けていても、平然と歩く幽霊。
下半身が無く、這って動く幽霊。
手だけ、足だけで動く幽霊。
皮膚の病気や火傷で皮膚が爛れているのに、痛がらず歩く幽霊。
それはもう、様々な幽霊が集団で列をなして川にそって山を登っていた。
私がなぜ彼等が幽霊だと断定したかと言えば、その列の中に、生前の最期の姿をした祖父母そっくりな2人 (?)を見かけたから。
その事に驚き、呆然と立ち尽くしていたのだが、途中で列に変化が起きた。
列の中の誰かが私を見て指さして、私には理解できない音を出したのだ。
恐らく「あそこに生者がいて、こっちを見ているぞ!」とでも声を上げたのだろう。
事実、謎の音の後に周囲のモノが反応し、こちらを確認し、叫び声に似た音を出す。
それからはまるでお祭り。
なぜか私めがけて、幽霊らしきナニカの集団の一部が駆け出した。
と同時に、祖父母らしき2人はこちらを見て目を丸くし、満面の笑みで小さく手を振っていた。
祖父母らしき2人に手を振り返したくはあったが、それどころではない。
駆け寄るナニカによって恐怖心を掻き立てられた私は、少しの寂しさと共に川から背を向け、最初から全力の逃亡を決め込んだ。
無事ナニカ達に捕まらず逃げた先は、テント。
心許ないロウソクの火を頼りに、荷物を漁る。
探しているものは、塩。 遭難した時の塩分を確保したくて、非常用の常備品に塩を入れていたはずだ。
その塩で、盛り塩をしたいのだ。
迷信だろうが、こんな超常現象としか言えない事態に巻き込まれている以上、そういったものに縋るしかない。
私のこっちに関する知識は、これ位しかないのだ。
…………あった!
なんとか塩を荷物から引っ張り出し、テントの入口と、念の為に四隅にも塩で小さな山を作る。
その作業が終わって間もなく、テントの周りが騒がしくなり始める。
私には理解できない音が飛び交い、少なくない足音が私の恐怖心を煽る。
この状況で私に出来ることは、無い。
せめてもの抵抗として、寝袋に潜り込んで目を強く瞑り「はやく居なくなれ!」と心の中で唱えるだけだ。
はやく居なくなれ! はやく居なくなれ! はやく居なくなれ! はやく居なくなれ! はやく居なくなれ! はやく居なくなれ! はやく居なくなれ! はやく居なくなれっ!!!
〜〜〜〜〜〜
ふと気が付くと、テントの外が明るくなっていた。
こっそり外の様子を覗うと、すっかりと日が出ている。
そして周りには何もなく、風で擦れる木の葉や鳥の鳴き声しかせず、どうやら超常現象は終わった様だ。
それでもまだ何かがあってはタマランと、ビクビクしているとしか思われないだろう挙動で、キャンプに使った道具を全て片付ける。
その時に盛り塩の処分をどうするかに迷ったが、出来るだけ集めてジッパー付きの小袋へ入れて、自宅へ持ち帰ってから台所で流した。
そして、思う。
あれは一体、何だったのだろうか。
後日、そのキャンプで起きた事を自分なりに理解しようと、図書館でオカルトの本を読み漁った。
難解な言葉回しを使っている本も多く、解読には苦労したが、自分なりには理解した。
県境などにも使われる川は、境界同士の狭間である。
そんな概念が在るらしい。
その狭間と言う概念を利用し、あの世とこの世の狭間でもあると見做して、そこからお盆期間中でなんやかんやあって、この世へ一時的に帰れる道や扉として使えるんだとか。
それでお盆の終わりであの世へ帰ろうとしているその道に、私が居合わせてしまったと。
どうもそうらしい。
…………まあそれが合っているかどうかなんて、確認しようが無いが。
それでも私が納得できる程度には、なった。