26.浮気疑惑
かわいいミハエルが誕生して数ヶ月。皆、彼に夢中になっていて迂闊なことにラルフの実家の母カタリナの監視が最近おざなりになっていた。
カタリナは来月王宮で開催される夜会に参加すると言ってえらくご機嫌でゴットフリートが怪しいと思っていたところ、有名オートクチュールメゾンからノスティツ子爵家に目の玉が飛び出るような額の請求書が届いた。
このオートクチュールメゾンは、カタリナがラルフの結婚式の時に着たドレスを注文した最高級店だったが、それ以前に注文したことがなかったので、注文を受け付けないでほしいとラルフ頼んだ店のリストから迂闊なことに漏れていた。
ラルフの持参金やタウンハウスの売却金の残りから、ゴットフリートが今回のドレス代を支払うことはできた。でもまだラルフもその資金を共同管理していたので、ラルフも知るところとなった。もちろん、ラルフ達はこれ以降、注文を受け付けないでくれと店に頼み、カタリナはこってり絞られた。もっとも打たれ強い彼女に効いたかどうかは微妙ではある。
それからまた数ヶ月過ぎて、ゾフィーが出産してから既に1年近く経った。ミハエルはハイハイするようになり、日々成長していた。
その日、ゾフィーはミハエルを乳母に任せて、貴族街の商業地区に侍女のマイカと護衛とともに久しぶりに買い物に行こうとしていた。屋敷に商人を呼ぶこともできたが、ミハエルのもうすぐ1歳のお祝いにかわいい服を買おうと気分転換に外出したのだった。
馬車が商業地区に差し掛かった時、路上にラルフがいるのが見えた。ゾフィーが声をかけようと馬車を停めさせようとしたその時、彼の隣に同年代ぐらいの貴族らしき女性もいるのを見つけた。
一瞬声をかけるか躊躇した間に2人はすぐそばのカフェに入って行ってしまった。ゾフィーは妻なのだから、堂々と声をかけてもいいはずなのに、妙に動揺してしまって結局馬車を停めずに通り過ぎてしまった。
でも彼女が動揺してしまったのも無理はない。ラルフは結婚前、職場と家の往復だけで女っ気は全くなく、それどころか女性の友人もいないと話していた。なのにその女性とラルフがゾフィーの目には親し気に見えたのだ。
ゾフィーは買い物を楽しみにしていた気分が吹っ飛んでもやもやした気分だったが、この気持ちが何なのか自分で説明がつかなかった。
「マイカ、あれはラルフだったわよね? あの隣にいた女性は誰かしら?」
「確かにあれは若旦那様でしたが、隣の女性は知らない方でした。でもただの知り合いかせいぜい昔の友人みたいな感じにお見受けしました」
マイカの目にはラルフと隣にいた女性がそれほど親しいように見えなかったのか、それとも女主人の不安を感じ取って忖度してそう言ったのか、ゾフィーには判断がつかなかった。
「今日は貴族街で何か会合があるって言ってなかったかしら?」
「はい、親しくしている他家の後継ぎの方々と昼食をご一緒になるというご予定があったと伺っております」
昼食の時間はとっくに過ぎていて、長話していなければもう会合は終わっていそうな時間だった。その日、ゾフィーは結局気もそぞろで何も買わずに帰宅した。
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