25.幸せな日々に隠れた葛藤
ルドルフの忘れ形見は、ノスティツ旧侯爵家の中興の祖にちなんでミハエルと名付けられた。本当は、ラルフはゾフィーの実家のロプコヴィッツ侯爵家か、コーブルク公爵家にちなんだ名前にしようと提案していた。でもゾフィーもコーブルク公爵夫妻も、この子がラルフの息子としてラルフの祖先にちなんだ名前を持つほうがいいと主張してそう決まったのだった。
ラルフは、ルドルフやゾフィーのように金髪碧眼ではなく、この王国によくある茶髪と茶色の瞳を持っていて父親似だ。ミハエルは金髪碧眼だが、ゾフィーに似たと言えばミハエルの出生の秘密を知らない人にも納得はしてもらえるだろう。でも大きくなってどんどんルドルフに似てくれば、その秘密は隠しきれなくなるかもしれない。赤ん坊の今ですら、どちらかというとルドルフに似ているように見えるのだ。
コーブルク公爵家は、悲しみに打ちひしがれた1年前に打って変わって、ミハエルの誕生後は喜びにあふれていた。公爵夫妻とゾフィーがミハエルを溺愛しているのはもちろんのこと、なさぬ仲のラルフも義息子のことがかわいくて仕方なかった。
「あーあー……あー」
「「「なぁに、ミハエル?」」」
ミハエルがあーあーと言うだけで皆自分に話しかけたんだと主張してゾフィーは半ばあきれながらも、家族と一緒にいられる幸せを感じていた。それと同時にいつもこみあげるのが罪悪感だった。
――この幸せはルドルフの犠牲の上になりたっている、義父母だって息子が自殺するきっかけになった自分を本当は恨んでいるのではないか――ゾフィーは幸せを感じるとすぐにいつもそう思ってしまってつい表情が陰ってしまうのだった。それにラルフが気付かないわけはなかった。
「ゾフィー、どうしたの?なんだか落ち込んでいるみたいだけど?」
「いいえ、何でもないわ」
「本当に? また自分のせいでとか考えている?」
「……っ」
「図星みたいだね。僕は君がこんなにかわいいミハエルを産んでくれて本当に感謝しているよ。ミハエルがこの世に生を受けられて僕たちは幸せになれた。この子がいない人生なんて考えられない。ルドルフのことは不幸だったけど、それが君とこの子のせいだって考えないでほしい。そうじゃないとミハエルが実の父親のことを知った時に自分の出自に否定的な考えを持ってしまうよ」
「ありがとう……貴方は本当にやさしいのね」
「……うっ」
ゾフィーに女神のような慈愛をこめた微笑みを向けられ、ラルフは言葉がつまって頬を赤らめた。
だけど、ゾフィーがルドルフへの罪悪感で悩んでいる今はまだ、夫婦の形をどうしていくか、話し合えそうもない――そう思うとラルフは、自分は彼女の本当の夫として隣に立てないのだなと寂寥感がこみあげてきたのだった。
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