15.両親の欲望
兄弟だけで話した後、ゴットフリートとラルフはすぐに両親のところへ行った。ゴットフリートは、ラルフが公爵家に養子として迎えられることをフランツとカタリナにも既に話していた。
「ラルフ、公爵家に養子に入ることについて何か俺達に話すことがあるだろう?」
「確かに公爵家に養子に入ることは決めたけど、それに関して父上達には何の権利も利益もないよ」
「何を言っている! だいたい親に直接打診がないのはおかしいじゃないか!」
「貴方はもう当主ではないでしょう? 当主の兄上には伯父上から話がもう行っているのだから正式な手続きを踏んでいる。だから成人した子供がどこに養子に入ろうと、あなた達にいちいち承諾をとる必要はないよ」
「何生意気なことを言っているんだ! 俺達はお前の親だろう! お前が公爵家の養子になるなら俺達は次期公爵の実の両親だ。それなりの支度をしなければいけないだろう?」
「宝飾品も贅沢なドレスもゴテゴテして趣味の悪い置物も、分不相応な物は何も買えないし、買わないよ。つけ払いも受け付けないように行きつけの店には頼んであるし、取引したことのない店はつけ払いは受け付けないはずだよ。カジノにも父上と母上の出禁を頼んできた」
「なっ!……そんな恥をさらすようなことを言いふらして!」
「浪費を防げるならそんなこと何でもないよ。僕がもうすぐこの家を出て行ったら、今までみたいに毎日監視できないようになるからね。むしろ僕にそこまでさせる父上と母上に恥じ入ってもらいたいよ。ああ、それから、このタウンハウスは売却してもっと小さい家に住み替えることになっているからね」
「だめよ! 次期公爵の実の両親は立派な家に住まなくちゃいけないのよ! だいたい貴方は当主じゃないんだから、そんな決定権はないでしょう!? ねぇ、ゴットフリート?」
「そ、そりゃその通りなんだけど、それは……」
「『それは』って何だ!まさかラルフに言いくるめられてないだろうな?」
母親にものすごい勢いで責められてゴットフリートはタジタジとなってラルフに助けを求めるような視線を送った。ラルフはため息をついて仕方なく兄に加勢した。ラルフが結婚して家を出て行けば、ゴットフリートは1人で両親に対峙する覚悟を持たなければならないのにもうこんな状態ではラルフは安心できない。
「言いくるめるも何も、兄上と僕の2人で話し合ってこの家の売却はもう決定済みだよ。兄上がこの家の維持費を払えるなら別だけど、それは無理でしょう?僕は公爵家の養子になったらもう間貸しを管理する時間はないよ」
「それならお兄様に仕送りを頼むわよ!」
「公爵家のお金をあてにするのは伯父上が許さないはずだよ。でも支度金を公爵家からもらえるし、今の家を売って新しい家を購入した残りのお金もある。僕は兄上に王宮の仕事を引き継いだら辞めるけど、そうなったら兄上の給料も入るから、贅沢はできなくてもちゃんと生活できるはずだよ。支度金と家の売却金は僕と兄上が管理するから、父上達が勝手にはできないけどね」
「支度金も家の売却金も全部うちに入るものだ。お前が公爵家に行く前に俺達によこせ!」
「もちろんそのお金はうちのものだけど、父上達の小遣いじゃないから、管理させないよ。そんなことしたら、父上も母上も全部すぐに使い切っちゃうだろう?」
「ぐっ……」
「安心して、流石にみすぼらしい家に貴方達が住むことはないから。小さくてもきちんと維持されてきた家を今、王都の中で探している。新しい家の管理は兄上がすることになるから大丈夫だよ」
「そんなの当たり前よ! 次期公爵の両親がみすぼらしい家に住めるわけないでしょう?」
フランツとカタリナは、息子が公爵家の後継ぎになるのなら贅沢ができると思っていたのに、当てが外れてかなり不満そうだった。それに加えて出てきた話はもっと2人の癇に障った。
「ああ、それから聞いてると思うけど、僕はルドルフの元婚約者ゾフィー・フォン・ロプコヴィッツ嬢と結婚することになるよ」
「どうしてわざわざ死んだ跡取りの傷物婚約者を娶る必要があるんだ! それともルドルフが死ぬ前からお前はゾフィーとできていたのか?!」
「もっと持参金を期待できる女と結婚すべきだ!」
フランツとカタリナはギャーギャー騒いだが、ラルフは両親の言い分を全く聞かずに一方的に結婚宣言して話を切り上げたのだった。
もっとも、ラルフはまだ直接ゾフィーに結婚を承諾してもらっていない。でも彼女がラルフと結婚しなければ子供と離れ離れになるはずだから、説得できる自信はあった。
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