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13.ノスティツ子爵家の行く末

 ラルフの実家のノスティツ子爵家は、コーブルク公爵にはずっと頭痛の種だった。それは結婚後のゾフィーとラルフにとっても変わりそうもない。


「……それから妹夫婦――君達の両親のことだ。養子縁組の支度金の名目でまとまった金を払うので、結婚後は彼らと絶縁してほしい。持参金は必要ない。君が我が家の後継ぎになると決まったら、あの妹と義弟だから、絶対に援助をたかってくるはずだ。もちろん、『支度金』を本当に結婚準備のために支出する必要はない。私達が君達の結婚に必要なものは全て支払うから、この『支度金』は一種の手切れ金と思ってくれていい」


「両親の性格を考えると、まとまって大金が入るとあっという間に使ってしまうはずなので、分割支給のほうがいいです。その管理は私に任せていただけませんか? 兄にはまだ両親は御せません。両親が借金まみれになって私達と絶縁したとしても、彼らが私の実の親であることも母が伯父上の妹であることも変わりないわけですから、どちらにしても公爵家に迷惑がかかります。なので、むしろ関わって管理するほうがいいのです。だから、公爵家の養子になっても実家に関わることは許していただけませんか?」


「うーん、監視する人間が必要か。だが、君も我が家の領地経営など、後継ぎとして覚えることが多い。それに差し障らないようならいいだろう」


「兄さえ立ち直って仕事を見つけて、あの分不相応なタウンハウスを売却すれば、私がそんなに干渉しなくても子爵家はやっていけるはずなんです」


「タウンハウス売却はよい考えだね。妹達が渋るようなら、それが公爵家の後継ぎになる条件の1つだって言ってやればいい」


「では、ギャンブルや娼館通い、度を越えた分不相応なドレスや宝石の購入を止めることも公爵家の後継ぎになる条件だと言うことにします」


「ははは、妹達は君にうまくやられたな。君はあの夫婦の息子とは信じられないくらいしっかりしているね」


「お誉めにあずかるほどではありません。実際、今の状況は薄氷の上に成り立っているだけですから。だから兄には仕事を見つけてもらわないと。兄には、かつて憧れていた騎士がいいのではと思ってるんです。ご存知の通り、兄は騎士になりたくて寄宿学校の騎士課程に通っていたのですが、その頃にうちが破産状態になって中退せざるを得なくなって婚約も破談になりました。それからというものの、ずっと気落ちして家に閉じこもったままなのです。ですが、兄をなんとか外の世界に出るように説得しますから、兄を従騎士として公爵家で雇っていただけないでしょうか?」


「ゴットフリート君は君の1歳上だったか?」


「いえ、2歳上で28になります」


「うーん。実技から離れて大分経つし、従騎士には遅くても10代半ばまでになるから、その年ではかなりきついのではないかな? それに従騎士は拘束時間が長いから、いくら領地がないからと言って、当主をしながらでは現実的ではないだろう。それよりも我が家の家令見習いをやってみれば、当主としての実務に役立てられそうでよいのではないかな? ゴットフリート君とよく相談したまえ。彼の希望になるべく合わせられるようにするよ」


「ありがとうございます。それからあともう1つお願いがあります。王宮の仕事をしばらくの間は続けさせていただけませんか?」


 それを聞いた公爵は訝し気だった。それもそのはず、ラルフの王宮の仕事は下級官吏で、三大公爵家の後継ぎが惜しいと思えるような仕事ではないからだ。


「兄が立ち直るまで『支度金』だけでずっと子爵家がやっていけるわけではないでしょう。兄は10年も引きこもっていたんです。立ち直るまでに何年もかかることも覚悟していますが、なるべく精神的にも金銭的にも彼の助力をしたいと思っています」


「ゴットフリート君が立ち直るまで君がサポートするなら、後継ぎとしての仕事や妹夫婦の監督もあるし、外で仕事する時間はますますなくなると思うよ。必要な経費は我が家から出すから、仕事は辞めてほしい。それが君の実家への援助だとしても、我々が納得していて妹達に無駄遣いされない範囲なら問題はない。君が妹達を監視しているなら大丈夫だろう。でもなるべく早くゴットフリート君ができるようになってほしいけどね」


「私は人にたかりたくないのです。公爵家から援助があると両親が知ったら、際限なくお金をねだるでしょう」


「それは妹夫婦への援助ではない。子爵家が立ち直る手助けだ。そこは君たち兄弟の腕の見せ所だよ」


「その自信は正直言ってありませんが頑張ります。それでは……どうせ私が王宮の仕事を辞めなければいけないのなら、兄が私の職を引き継げるよう手配いただけませんか? 兄に仕事を引き継げたら私は辞めます。もちろん、兄がこの仕事を選ぶなら、ですが」


 ラルフの兄ゴットフリートは引きこもるようになってから自信を失ってしまったが、元来は優秀でプライドが高かった。だから公爵家で弟を主として勤めるよりは、王宮で働くほうがよさそうだとラルフは考えを変えた。


「下級官吏の職ぐらい、うちの力でどうにでもできるが、下級官吏のために公爵家のコネを使うことは普通はないよ」


「兄と私は寄宿学校卒業前に退学しなければならなくなったので、上級官吏試験を受ける資格がありません。それに兄は社交もせずにずっと家にいましたし、引っ込み思案な性格なので、上級官吏は合わないと思うんです」


「上級官吏になる資格は公爵家のコネを使えばどうとでもなると思うが?」


 筋を曲げたことが嫌いなラルフは、丁重にその申し出を断った。それに、無理に上級官吏になったとしても、退学からずっと家に引きこもっていたゴットフリートは苦労するだろう。でもラルフが引き継ぎをサポートできる今の職だったらなんとかなりそうだ。それでも兄が心配なラルフは結婚後すぐに官吏を辞めずに兄にゆっくり引き継ぐ時間をとってよいという言質をとった。

読んでいただいてブックマークもいただき、ありがとうございます。

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