歌姫は奇跡を起こす
「ぐ・・・!こ・・・の・・・っ!」
カナスは、先ほどスロンから奪い手に持ったままだった大剣を鞘のまま振りかざし、スロンを横に殴打した。その金の鞘が、スロンの首の傷をさらに抉る。その上、ごきりと骨の折れる音がし、大柄な体躯が床に転がる。
「ふ・・・ははは・・・っ、愚かな・・・お前も、道連れ・・・だ・・・」
ごぷりと口から真っ赤な血をあふれさせながら、目を血走らせ、それでも笑い続ける国王の姿は異様だった。
息絶えようとしているその瞬間でも、床を這いながらまだカナスのわき腹に刺さったままの柄に手を伸ばそうとする。
「余は・・・ひとりでは・・・・死な・・・・・」
ぐわっと一際勢い良く手を伸ばし、カナスの首を掴もうとしたところで、スロンは床に顔から倒れこんだ。
アキューラを畏怖で支配し、世界を大戦へと巻き込んだ狂王は、ついにその野心を摘み取られたのだ。
「・・・・っ・・・く・・・そ・・・っ!」
それを見届けたカナスは、鈍く毒付いて、深々と刺さった短剣を抜いた。
カラン・・・という妙に軽く響く音に対して、その傷からはぼたぼたと鮮血が止まることを知らないかのように流れ出てくる。
「カナス様!動かないでください!止血します」
「・・・・っ・・・」
わき腹を真っ赤に染めたカナスは、短く浅い息を繰り返し、大剣を支えにして体を支えている。
ラビネが止血をする間、広間は水を打ったかのように静まり返っていた。
息を呑む音さえ遠慮するかのようだった。
シェーナは腰が抜けた状態でぺたりと床に座り込み、ただ瞳に現実を写しているだけだった。そばに行きたいのに、体がちっとも動いてくれない。
「一応止血はしましたが、これは・・・。すぐに医師を」
「いや・・・いい。それより・・・外の奴・・・らを・・・止め・・・ないと・・・」
「無茶です!どうか安静に!」
「・・・そう、しなければ・・・意味が・・・」
「カナス様!」
刀を杖代わりにしてどうにか立ち上がったカナスの顔色はひどく悪かった。
額にも脂汗がびっしりと浮かんでいる。
それでも彼は必死に息を整えて、すでに息絶えた王のマントを剥ぎ取り、傷ついた体を覆い隠すように身につけた。
「・・・っグィン!」
「は、はい!」
「手を貸せ。・・・っ・・・王間のテラスに行く」
「しかし・・・」
「さっ・・・さとしろ。これ以上無為な戦いを・・・く・・・」
「カナス様!」
「ラビネ、お前は銅鐘・・・を、鳴らせ・・・先に、行け。戦いを・・・止める」
「この傷では無理です。他の者に・・・」
「馬鹿野郎!“これ”を始めたのは俺だ!大将が出なくて、この先の猜疑の根を摘めるか!俺を楽にさせたいならさっさとしろッ!ラビネ近衛宮兵団隊長!」
「―――はっ!」
牙をむき出しにした獣のような形相で怒鳴ったカナスに、そして与えられるべき新たな役名に、ラビネは一瞬ぶるりと身震いをして、深々と頭を下げた。
王たるにふさわしい威を持つ主に礼を拝して、慌しくその場を去る。
「グィン、てめえもだ!さっさと手を貸せ!」
「はい!」
「他の者はこの場で待機。・・・ここまでついてきてくれたお前たちの忠義、有難く思う。この恩には、新たなこの国で必ず報いよう。あと少しだ、誰一人取り逃がさぬよう頼むぞ」
飛び出してきたグィンの肩を借りながら、カナスは広間を鎮圧している部下たちに声をかけた。
四方からで、感に極まった受諾の声が上がる。それがスロンの圧政を逃れられた喜びのためだったのか、カナスの強がりを配してのためなのかは、分からなかった。
カナスは浅く息を吐く口元にわずかな笑みを浮かべて、体を引きずりながら広間の荘厳な扉の向こうを目指した。
途中、シェーナとすれ違うことになったが、彼は前だけを見て立ち止まらなかった。
ただ、シェーナはわき腹を押さえている彼の手が、止血をしたはずなのに真っ赤に染まっているのを、視線の高さでちょうど見てしまっただけだった。
「・・・カナ・・・スさ・・・」
床に点々と続く血の跡におののきながら、シェーナは出来の悪い人形のように背後を振り返る。
グィンに支えられながら歩くカナスの背が、外からの光の向こうに消えた。
そのとき、突然貴族の一人が高笑いを始めた。スロンの宰相を務める側近中の側近、デアーノ公爵だ。
「愚かなり。争いは止まらぬ。新時代は血塗られた歴史の始まりとなる」
「何!」
デアーノは刀を喉下に突きつけられてもひるむ様子なく、笑い続けた。
「王の触れを告げる大鐘は、陛下が処分された。覇気と獣の咆哮で十分であると、伝統を嫌い畏を好む陛下らしく、由緒あるお告げの銅鐘はとうに刀の柄に鋳造されておるわ。若造に、争いを止めるだけの覇気もあるまい。ましてあの体では。自らが巻き起こした戦に絶望しながら野垂れ死ぬのが末路よ」
「こいつ・・・!」
「政とは力なり。畏怖なり。その器なき者は、王たる資格を有さぬ。王子は、身の丈に合わぬ器を望んだ。その愚かさ、無力さゆえに待つのはただ死のみ」
「・・・・っ!」
耳障りに笑い続けるデアーノの言葉の意味を遅れて理解したとき、シェーナは、すくっと立ち上がった。
どこにそんな力があったのかわからないほど、すばやく踵を返して、転がるように走る。
「“歌姫”様!?」
「お待ちを!」
その場を動けない兵士たちが慌てて静止をかけたが、シェーナは止まらなかった。
あまりに一生懸命に走るので、階段の途中で片方靴が脱げてしまう。
邪魔だとばかりに両方の素足になりながら、シェーナはまた走り続けた。
あまり走ったことのないシェーナの息はとっくに切れていて、心臓が太鼓でも叩いているかのようにうるさくて痛い。それでも、シェーナは血の痕を追って走った。
階段を2つほど登ったところで、視線の先にカナスの姿を見つけた。宣言したとおり、彼の姿は王が兵たちの参賀を見下ろす広いテラスにあった。
まともに酸素を吸い込んでくれない息を整えながら、シェーナは一歩ずつ近づこうとする。すると、目の前でがくん、とカナスの体が崩れた。
「カ・・・カナス様っ!」
小走りに近づくと、グィンに横で支えられたカナスは、地面に拳を叩きつけていた。
「・・・クソ親父・・・!どこまで・・・どこまで、俺を愚弄すれば気が済むんだ・・・っ」
「カナス様・・・」
「銅鐘がなければ・・・あの音ほど、響くものはないのに・・・くそ、くそ・・・っ!」
「っ地下から獣を連れて参りましょう!この混戦の中でも耳に届くやもしれません」
ラビネの言葉にも、彼はうなだれたままだった。父が愛玩していた猛獣たちは、父にしかなつかず、その言うことを聞かないことをよく分かっているからだ。獣をここまで連れてくるのがどれほど手間なことなのかも。その間に失われる命は多すぎる。
もう、戦う必要はないのに。それを伝えたいのに、声が届かない。
「くっそ・・・・っ」
カナスの声が、無力さに、はがゆさに、歪んだ。
その瞬間、シェーナの胸が、走った息苦しさとは違う痛みを強く訴えた。そして―――・・・
旋律が流れた。
最初シェーナはそれが自分の中だけに流れているものだと思った。けれど、それは違った。シェーナは気がついたら歌っていたのだ。
まるで、何かに憑かれたかのように、歌い始めていた。
次々と柔らかな旋律が、シェーナからあふれ出てくる。その“歌”をシェーナは知っていた。神殿で歌われ続けている『平和』の歌。神話の最後にでてくる、フィルカの始祖、銀の姫君が歌った楽園を願う歌。
彼女は、カナスの横まで歩み出ると、空に向かって歌い続けた。
(・・・銀の姫君、どうか届けてください。皆に、届けてください)
シェーナは祈った。
(争いは、もう、やめてください。これ以上、悲しむ人を出ないでください。もう、傷つけあうことはやめてください)
その祈りを込めて、歌い続ける。
「・・・無理です、いくらフィルカの“歌使い”の歌でも、この喧騒に届くわけがない」
ラビネの悲観的な言葉が聞こえた。
それでもシェーナはあきらめない。
たとえこの声が枯れても、今、やるべきことをやるだけ。
「シェーナ・・・もう、いい・・・」
カナスもまた、落胆とあきらめの声を上げようとした。そのとき。
ふわっとシェーナのローブが風にはためいた。着せられた赤いローブが風にさらわれ、青い空に飲み込まれていく。その向こう側に現れたのは。
「・・・鳥・・・?」
ピールルル、と甲高い声を上げて、空中を旋回する大鷹の群れだった。
およそ群れを成さぬ孤高の鳥が、どこからともなく現れて、まるで協力し合うかのように一匹また一匹とその旋回の輪に加わっていく。やがて、ピギィィーッと耳障りな鳴き声を繰り返しながら、乱戦している地上を飛び抜け始めた。
「うわっ!」
「な・・・なんだ!?」
鳥たちに邪魔をされて、兵士たちの争いの一瞬手が止まる。すると、彼らはけたたましい鷹の鳴き声の他に、風に乗りわずかに耳に届く澄んだ音色に気がついたのだ。
「・・・歌?」
ぽつり、とそう呟いたのは誰だっただろうか。初めに武器を落したのは誰だっただろうか。
一人ひとり確認できることなどできはしない距離だったが、いつの間にか彼らは一様に刀を交わすのを止め、呆けたように空を、テラスを見上げていた。
喧騒が収まった地上に、シェーナの歌は広がっていった。
シェーナの歌声は太いものではない。声の響く場所でもない。だが、風がその音色を届けた。
荒々しいと評判のアキューラの風は自身の音で彼女の歌をかき消すことなく、ただ穏やかに音色を運び続けた。
それは、まさに奇跡というにふさわしい光景だったのかもしれない。
カナスはただ、呆然とシェーナの横顔を見つめていた。弱々しく、いつも人の影に隠れていたばかりの少女の神々しいまでの姿を。
人間たちが争いを止めたのを見届けると、やがて鷹たちは、羽根を散らしながら去っていった。
ピールルル、とシェーナと通じるような透明な鳴き声を残しながら。
そんな鳥たちを見送った兵士たちから、声があがった。
「“歌姫”・・・」
「“歌姫”様だ!“歌姫”様が我らの下にお戻りになられた!」
カナスの軍の側から色めき立った声が上がった。
国王軍側は、まだ狐につままれたような、呆けた表情をしている。
シェーナはふっと歌うのを止めて、カナスを振り返った。彼は、借りていたラビネの手を払い、堂々とした足取りでテラスの先に姿を見せる。
地響きのような歓声が上がった。
「国王軍よ!このとおり、王座はこの手に落ちた!これ以上の戦いは無益である!速やかに投降し、わが軍門に下れ!」
とても怪我人とは思えないほどの威堂ぶりで声を張り上げ、カナスは国王から奪った豪奢な大剣をかざして見せた。ますます歓声が大きくなる。
カナス様万歳!新国王陛下万歳!と歓喜の声が次々と上がった。その一方で、うなだれる国王軍の姿がある。
カナスは続けた。
「今ここに、アキューラ王国第7代国王を承継することを宣言する!そして王の名の下、第一の勅命である!アキューラ領内の戦火すべての沈静化、および、対外的侵略行為の停止を宣言する!現在交戦中のザイーツ連合とは速やかに和睦を結び、前国王により併合された旧国家は自治領として再興するものとする!」
わあああっ、と、兵士たちは自らの武器を掲げる。待ち焦がれた平和を喜ぶ声、声、声―――。
「なお、現国王派の官は更迭、当面の宰相は、私が信頼を置く近衛長官のラビネ=リカレドに任命する。その余については、このラビネを通じ、追って触れを下す。速やかに武装解除をし、令を待て。・・・最後に、同胞たちよ。ここまでこれたこと、感謝する!」
カナスがすらりと剣を抜いて、その美しく磨かれた刃を天に突き上げると、きらりと刃が太陽を反射してまるで彼が光を発しているかのようだった。
それを受けた地上は熱狂の渦だった。
だが、目的をやり遂げたカナスの顔には満足気な笑みではなく、苦悶の表情が浮かんでいた。
顎を滑り落ちる汗は、決して暑いからなどではない。その証拠に、彼の顔色は紙のように白かった。
「・・・く・・・っ・・・」
カナスは逆に刃先を床に刺して、それを支えにしながら膝を折った。
倒れるだけはすまい。
そんな彼の強がりが目に見えて分かったが、もはやそれどころではない状態だったのだ。
「カナス様!」
シェーナが慌ててそばにしゃがみこむと、彼の状態のひどさがわかる。
マントで隠したはずの傷の部分は、じわじわと血の染みが広がっていた。
「カ・・・カナス・・・さま・・・」
震える手で、柄を持つカナスの手に触れると、うつむいていた彼は苦しそうな表情に、小さく笑みを浮かべた。
「・・・悪い・・・な・・、おまえ・・・血が・・・・にがて、なのに・・・・」
こんなときでもシェーナを気遣うカナスに、涙が出てきた。シェーナは言葉が出ず、そのまま無言で首を振る。
「カナス様っ、剣から手をお放しください!これ以上ご無理をなされるな!」
「もう・・・しねえ・・・よ・・・。これで・・・ひとまずは・・・あとのことは、安心・・・。ラビネ、あと・・・頼むぞ」
「カナス様!」
カナスの手からカラン、と剣が滑り落ち、彼がラビネの肩に倒れこむのを、シェーナは信じられない気持ちで見ていた。
「グィン!すぐにイマル医師を!近くにいるはずだ!」
「はいっ!」
「カナス様、しっかりなさってください!すぐに医師が参ります!」
「・・・・・・・はっ・・・ヤブ医者の、手術は・・・いてえ・・・んだよ・・・な・・・」
「それでも腕は確かです。それまで気を失わないでください」
「っ・・・・むちゃくちゃな・・・注文つけ・・・がって・・・」
「無茶でも何でも、意識を保ってください。シェーナ様、何か話しかけて差し上げてください」
今にも目を閉じそうなカナスの傷をもう一度止血しなおしながら、ラビネはシェーナを必死の形相で振り返った。それだけで、今のカナスがどれほど危ないのか分かる。
一瞬喉が干上がったかのように声が出なかったところ、シェーナは必死で音を搾り出した。
「カ・・・ナス様、カナス様・・・、しっかりしてください、しっかり・・・」
涙がぱたぱたと横たわるカナスの頬に落ちた。
シェーナは掴んでいる彼の手が滑り落ちていかないように、精一杯握り締める。
すると、カナスの青い瞳が再び開いた。
「・・・ご・・・めんな・・・シェーナ・・・」
「な、何を謝るのですか?!謝らなくていいです!」
「・・・・・お前の、大切な・・・ものを・・・失くしちまって・・・あや、まりも・・・してなかった・・・」
「いいです、そんなの!もう、怒ってません。だから、しっかりしてください」
シェーナの金の鎖を誤って捨ててしまったことを、彼はずっと後悔してくれていたのだろう。
だが、もうそんなものどうでもいい。カナスが助かってくれるのなら、ちっとも惜しくない。今このとき、捨てろと言われたら喜んで捨てただろう。
「・・・・・・・つけて、くれた・・・んだな・・・・」
「え?」
突然何を言われたのか分からなかったが、彼の視線の先に銀のペンダントがあるのがわかってシェーナは頷いた。
「はい・・・!ありがとう、ございます。お礼を言っていませんでした。お母様のペンダントも、鎖をつけてもらえて、喜んでいます。ありがとうございます。とても、綺麗です」
「よく・・・似合う・・・」
「そうだといいです。カナス様がご自分で買って来てくださったものだから、大切にしていました。新しい宝物です。ほんとうです。カナス様がいらっしゃらない間、ずっと、話しかけていました。無事でいてくださいって。そうしたら、お願いをきいてくれたんです。ご無事で、よかったです。もう一度会えて、本当に嬉しかったんです」
「・・・・・・・・そう・・・か・・・。心配・・・かけて・・・ごめんな・・・」
「いいです。こうして、また、私の前に姿を見せてくださいました。助けてくださいました。それで十分です」
「・・・・・・・」
「カナス様・・・っ?」
一瞬、長いまつげの影をふっと落したカナスに、シェーナは慌てた。ぎゅうっと力の限りで手を握り締めると、再び、青い瞳が現れる。だが、うつろな眼差しだった。それでもシェーナを見て、淡く微笑む。
「・・・・俺の“歌姫”様は、あいかわらず・・・泣き虫だな・・・」
「だ・・・だって・・・だって・・・っ」
「あんなに・・・すごい、力を・・・・・・持ってる、のに・・・、・・・・ありがとな・・・シェーナ、お前のおかげだ・・・」
「私は何もしてません。カナス様、しっかりしてください!カナ・・・っ?」
カナスは、何故かシェーナの握り締める手からするりと抜けて、シェーナの頬に触れた。頬で感じる彼の体温はひどく冷たかった。
「こんなに・・・痩せこけて・・・・、ちゃんと、食べろって・・・・・」
カナスはとにかく思いついたままを口にしているようだ。脈絡がないのは、彼の意識がはっきりとしないせい。そう思うとますます涙が出てきたが、シェーナは必死でしゃべり続けた。
「カナス様がいてくれたら、またすぐに元に戻ります。元気になります」
「・・・ふ・・・」
「だから、カナス様、もうどこかへ行かないでください。どこかへ行くのなら一緒に連れて行ってください。待っているのはもう嫌です。そばにいたいです」
「・・・そう・・・か・・・」
だが、シェーナの頬に触れる手はそのままに、カナスは目を閉じた。
「お前に・・・見せたい景色・・・たくさん・・・ある。・・・・元気にな・・・ったら、連れて行って、やる・・・」
「はい、はい・・・っ!お願いします。約束です」
「ああ・・・そ・・・だ・・・・・な・・・」
「カナス様?カナス様!しっかりしてください!」
「・・・・・・・」
ぱたん、とカナスの手が落ちた。
「カナス・・・さま・・・?」
「カナス様!?しっかりなさってくださいっ!」
ラビネが慌てて脈を確かめ、すぐに心臓マッサージを試みる。そこへ、グィンとイマル、そして数人の兵士が駆け込んできた。
「カナス様!」
「すぐに処置します!誰かお湯と新品のガーゼを」
「はっ、只今!」
途端に騒がしくなるテラスで、シェーナは何一つできなかった。ただ、呆然と、カナスの体に手術を施すイマルやその手助けをするグィン、緘口令を命じるラビネ、あわただしく走り回るその他の兵士たちを見つめているしかなかった。
どこか遠い出来事のように、その黒い瞳にただ現実を写していた。
第三章としてはここで終わります。




