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新太平洋大陸  作者: 双理
一章 無謀な依頼
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無謀な依頼5

 翌日、俺たちはダンジョンの3階層の攻略に取り掛かっていた。

 階段を降りた先は、全てが石壁で覆われている大きな通路だった。

 床にも同じよう石が敷き詰められ、足場としては洞窟よりはマシになっている。


「……ぐっ!」


 自分より大きいクマ型モンスターを、無口が両手で持った大楯で使い押し込むように支えていた。

 一見、ただクマに襲われているように見えるが、その力は拮抗している。

 

 俺が昨日抱いた嫌な予感は的中し、3階層の魔物はこれまでとは別次元の強さになっていた。

 このクマ型モンスター、フィアーグリズリーという名前だが、こいつ1匹対し全員で取り掛からなければならない有り様だ。


「よし、そのまま抑えてろ!ギャルはパワーアップのバフを切らすなよ。切れたら一気に押し込まれるぞ!」


 そう注意すると、俺はクマの後ろに回り込みその後ろ足の腱をナイフで切り裂く。


「グアァアアーーーッ!!」


 クマの叫び声が響き渡り、その巨体がぐらつく。

 その隙をついて、無口が盾を押し込み完全に体勢を崩す。


「今だ!!」


 体制を崩し、頭を下げたクマに真夏はハンマーで頭をぶん殴る。

 さらに、イケメンが両手剣で首筋を狙って切りかかった。

 だが、その攻撃は鈍い音を立てただけで、弾き返される。


「うわっ、硬すぎですよ!手が痺れます……」


「硬っ、刃が通らない!」


「ガァッ!」


 クマがイケメンに向けて、前足の爪を振るってくる。

 俺は、ギリギリの所でイケメンの襟首を掴み後ろにぶん投げた。

 何とか回避させることに成功する。

 だが、無口が巻き添えを喰らって吹っ飛ばされるのが見えた。


「ぼさっとしてんな!」


「すいません。助かりました!」


 どうしたものかと考えていると、クマが再び前足を振り上げる。

 その時、横から炎の玉がクマに炸裂する。


「ガアアアアアッ!」


「ナイスだフリル!」


 俺はまだ炎に包まれているクマに肉薄して、その胸ぐらにナイフを突き刺した。

 炎のせいでクソ暑いが、確かな手応えを感じた。


「ガアアアアァァーーーーーッ!!」


 大きな叫びを上げた後、ようやくクマが沈黙し、その巨体が消えていくのが見えた。


「大丈夫か無口?」


「……なんとか」


 盾のガードが間に合ったらしく、軽い怪我で済んだようだ。

 ヒーラーのギャルがまめに回復スキルを使っているが、モンスターが強くなり生傷がたえない状態だった。

 俺や真夏はまだ良いのだが、イケメンの斬撃が通らないのが一番の問題だった。

 そこを突かれれば、下手をしたら前衛を抜かれかねない。


 だいぶキツくなってきたな……


「先輩!モンスターがきます。おそらく3匹です!」


 考える間も無く敵が迫る。


「一旦引くぞ!俺が殿をやる!」


 もう完全に引き際だ。

 華菱組が疲弊しすぎているし、この階層のモンスターの強さを考えると複数を相手にするのは無理だ。

 これ以上無理を通せば死人が出かねない状況だった。

 

「早く行け!」


「「「了解!」」」


 俺を残し、全員が後ろに向かって全力で走り出す。

 俺の前にフィアーグリズリーが3匹現れる。

 こいつら、足はそう速くないので時間を稼げば逃げることは出来るだろう。


「さて、ちょっと遊んでやるか……」


 俺はクマの相手をする為に、一歩前に踏み出す。

 1匹が俺の左手に噛み付いてくる。

 俺はその攻撃を回避しなかった。

 牙が腕に少しだけめり込む感覚があったが、気にしない。

 少し血が出るくらいだ。

 これで、少しは苦戦したように見えるだろう。

 噛みついているクマの脳天に、ナイフをブッ刺す。

 脳を刺されたためか、叫び声を上げることもなくそいつは消え去った。

 残り2匹。


「少しは粘ってくれよ。じゃ無いと不自然だろ?」


 俺はフィアーグリズリーに向かって、ゆっくり歩き出した……

 

 


 俺は時間稼ぎをした後、無事に他の奴らと合流する事が出来た。

 全員が思いの外消耗が激しいようで、最早ダンジョンから脱出するしか選択肢はなかった。


 どうにかベースキャンプまで逃げ帰ると、待っていた冴羽が声を掛けてくる。


「やはり……一筋縄ではいきませんか?」


 冴羽は傷だらけの探索者達を見て、状況を理解したようだった。


「ああ、3階層から一気にモンスターが強くなりやがった。このままじゃあ、死人が出るかもな……」


 このままではダンジョンの攻略などできないだろう。

 俺が本気で取り掛かればいけるかもしれないが、そんな気はさらさら無い。

 それを考えれば、こちらの戦力が絶対的に足りなかった。


「そうですね……ですが、すでに手は打ってあります。こちらへどうぞ」


 随分と自身ありげなので、とりあえずは冴羽について行く事にする。

 戦力になる奴でも連れてきたならいいのだが、見渡す限りそんな奴はいない。


「こちらです」


「これは……すごいな」


 そうとしか言えなかった。

 そこには、さまざまな武器や防具が並べられていた。

 かなりの数があり、まるで装備品の専門店のようだ。


「ドロップ品から作られた装備です。すぐに準備出来るものを根こそぎ集めました」


「よくこんなに準備できたもんだ……」


 ただの装備品だとしても驚きの量なのだが、それがドロップ品から作られた物となると、もう開いた口が塞がらなかった。

 華菱の探索者たちが、傷だらけなのにもかかわらず装備に群がり騒ぎ始める。

 無理もない。

 ぱっと見ただけだが、かるく数千万はする装備も見受けられたからだ。


「好きに使っていただいて構いません。これを使えば、3階層は突破できるのでは?」


 確かに、この装備を使えば3階層は突破出来るかも知らない。

 その先は知らんがな……


「かもな。だが、俺はもう引き際だと思うけどな」


「そう簡単に、諦められては困ります」


 そう言う冴羽の目は、何か強い決意を感じさせる。

 暫く睨み合いになるが、どのみちこの女には逆らえない。


「分かった……」


 俺は、諦めてそう言う事しか出来なかった。


「お前らその辺にしとけ。明日もあるんだ、さっさと休めよ!」


「分かってるってー」


 ギャルは口ではそう言ったが、装備を漁る手を止めなかった。

 いや、まずお前が怪我を治してやれよ……

 周りが奴らが何とか諭し、装備品からギャルを引き剥がす事に成功する。

 ギャルが治療を始め、全員の傷を癒し終わると、ようやくひと段落ついたような気がした。

 その後は、夕食を済ませ早々に就寝する事になった。


 夕食後、俺がひとりで酒を楽しんでいると、昨日に引き続き冴羽が声をかけてきた。


「あなたは、今日もまだ余裕がありそうに見えますね。もしそうなら、もう少し本気で取り組んで補しいのですが!」


 冴羽にしては珍しく語気が強い。

 少し顔が赤いので、多分手に持っているマグカップにはアルコールが入っているのだろう。

 おぼつかない足取りで俺の横に腰掛ける。


「ふざけんな、こっちだって怪我してんだよ!」


 俺はモンスターに噛まれた跡を見せつけてやった。

 酔っ払いの相手をしたくはないので、適当にあしらう事にする。


「私は!本当にあなたに期待しているんです……あなたならもっと先に行けるはずです!」


 今日はやけに絡んでくるなと思い、冴羽を見ると、俺を睨みつけてきやがる。

 その眼差しは、まるで想いの強さが見えるような気がする程鋭いものだった。

 俺は視線を逸らし、冴羽に問いかける。


「なあ、どうしてそこまでダンジョンにこだわる?」


「それは昨日もお話ししたはずです!」


 確かに昨日も聞いたのだが、俺が聞きたいのはそう言う話ではない。


「昨日のは華菱の話だろ。俺には、あんた自身がダンジョンに囚われてるように見える。何故だ?」


 冴羽は俺の言葉に何かを言いかけるが、それを飲み込み何も言わなかった。

 話すつもりは無いのか、俺から視線を逸らしてしまう。


「こっちは命をかけてんだ、教えてたっていいだろ……」


 冴羽はマグカップの中身を少し口に含み、それを飲み込んだ。

 その後、神妙な面持ちで静かに語り出した。


「……新庄さん、あなたご家族はいらっしゃいますか?」


「いや、いないな。俺にはツレはいないし、親はとっくに死んじまっったみたいだしな」


「そうですか、私も同じ様なものです……」


 それは、別に珍しい事では無い。

 今この世界では、ごくありふれた話だ。

 特に日本は島国だった為、津波の被害が大きかったのだ。

 誰に質問したとしても、近しい誰かを亡くしていると答えるだろう。


「私は許せないんですよ、私の父や母、まだ幼かった妹を奪った全てが!別にダンジョンにこだわっている訳ではありません。あの地震や津波を引き起こした全てが許せないんです!新大陸もモンスターもダンジョンもそんな訳のわからないものに、何故私の大事なものを奪われなければならなかったのか……」


 冴羽は自分の全てを曝け出すように、話した。

 かなり酔いが回っているようだった。


「だから私はその全ての謎を解き明かし、屈服させてやる!今の私なら出来る!出来るだけの地位を手に入れた。もう何も出来なかったあの時とは違う。そうすればもうあんな思いをする人はいなくなる……はずです」


「ようは、復讐したいのか……」


 冴羽は、家族を失った悲しみをダンジョンに、いや、新大陸自体にぶつけているのかもしれない。

 大陸に復讐するなど普通なら考えはしない。

 自然災害なら仕方ない、そう考え、諦める。

 だが、冴羽は違ったんだろう。

 華菱という力が、そうさせたのかもしれない。

 次第に大きくなる華菱を使って復讐することを考えてしまった。


「まあ、なんだ……」


 どう答えたら良いのか分からず、言葉に詰まる。

 冴羽に目をやると、感情的になったことを恥じているのか俯いていた。


「お前の事情は分かったよ。でもな、無理にダンジョン攻略を進めてどうする?本当に人が死ぬ事になるぞ」


 ……………


 暫く待つが、返事がない。

 よく冴羽を見てみると、いつの間にか寝息をたてていた。

 

「おい、ここで寝んじゃねーよ!」


 肩を揺すって起こそうとするが、起きる気配がまったく無い。


「たく、しょうがねーな」


 仕方なくテントまで送り届けようと冴羽を抱え上げる。

 ただの酔っ払いじゃねーか。

 随分大層な話をされたが、昨日の聞いたものよりはよっぽど納得がいった。

 まあ無理をすることはないが、それでも、もう少し本気を出してもいいかと思うには十分だった。

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