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新太平洋大陸  作者: 双理
5章 師匠
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 フレッドが謁見の間に入る瞬間、俺は今までに感じた事が無い程の達成感を感じていた。余りにも強烈なその刺激が俺の体を震わせる。


「……えっ?モンスター?何で?…………まさか……新庄!ボクを嵌めたのか!」


 ナイス反応!

 くん付けを忘れてないか?フレッドくん?

 それだけでも、かなり混乱している事が分かる。

 だいたい、こんな手の込んだ嵌め方をするぐらいなら、意識が無い内にとっくに消してるっつーの。少し考えたら分かるだろ?


 ここまできたら、もう堪える必要は無い。

 後は、煽り散らかすだけだぜ!


「ぎゃはははははははははは!勘違いすんなって、人じゃねーってさっき言っただろ!」


 俺の笑い声をきっかけに、シロの顔つきが少しずつ変化していくのが見えた。

 どうやら精霊王の人格が戻ってきたらしい。フレッドの焦りまくる姿を見て、とてもいい笑顔を浮かべていらっしゃる。

 女王様には、たいへんご満足していただけたようで、俺としても実に誇らしい気分だ。


 いつもならこの辺で真夏が止めに入りそうなものだが、今回は何故か、にこにこしながら現状を見守ってるだけだ。

 もしかしたら、俺がフレッドと仲良く遊んでいるだけと思ってるのかも知れない。


「何を言ってる!」


「おいおい、読解力が足りてないんじゃねーか?異世界から来たシロだって理解してたぞ」


「……異世界だって?気でも狂ったのか!」


 おおー、そうくるか。

 じゃあ、そろそろサラマンダーさんにファンタジー成分を思いっきり注入して頂こうか?


「のう、新庄……こやつはいったい何者だ?お主は、わしに何をさせるつもりなのだ?」


「喋るモンスター……成程ねー、あの犬の親玉って訳かい?」


 いいねー。俺が何か言う前に煽っていくそのスタイル━━なかかな真似できないよ。


「おい貴様……犬というのは、まさか我が主を指して言っているのではあるまいな?さすればその侮辱、万死に値するものぞ!」


 周囲の気温が急激に上がり、サラマンダーの怒りが直接的に伝わってくる。


 おーっと……ちょっと拙いか?

 ここは流石に止める━━━━訳ねーだろ!


 こんな面白い見せ物、いったい誰が止めるってんだ?

 別に建物が燃えてる訳じゃなし、フレッドもやる気満々だしな。

 さぁ、続行だ!


「傷が治ったばかりだってのに……やるしかないのか……クソ!」


 フレッドの体が一瞬だけブレて見え、複数の分身が姿を表す。完全に戦闘態勢だ。


 さっきまではシロと仲良くしてたってのに、何故サラマンダーとはそうしない?やっぱ見た目か?

 でもなー、頑張ればちょっと肌が赤い人に見えなくも無いだろ?それとも、お前は肌の色で人を差別するような奴なのか?

 そんなんじゃ、俺はやっぱっりお前と友達になねーよ。

 人種差別反対!……まあ、人じゃねーけどな。

 

 混乱して自爆していくフレッドの姿を見ていると━━━━面白過ぎて笑いが止まんねーな!


「ぎゃはははははっ!いいぞーやれやれ!せいぜい頑張れよフレッド!」

 

 俺のヤジが飛ぶ中、周囲の熱気が更に上がる。

 サラマンダーとフレッドの視線が交わり、互いの殺意が謁見の間を満たしていく……


「我が主よ。この無礼者を消し炭に変える御許可を……」


 フー!痺れるねー。

 大精霊の殺意がありありと伝わってくるセリフだ。


 済まない……

 俺がお前の困った顔を見たがったばかりに、まさかこんな事になるとは……

 こりゃ、今日がフレッドの命日になりそうだなー。


「ダメです。痛めつける程度に留めなさい」


 なんて事だ!シロの寛容な?言葉のおかげでフレッドの命は翌日に持ち越す事になりそうだ。

 非常に残念なお知らせである。

 まあ、痛めつけてはくれそうなので、それで我慢しとくか……ちっ。


「承知!王命、確かに承りましたぞ!」


 そのサラマンダーの言葉で戦いの火蓋が切られた。




 戦いの結果は説明するまでもないと思うが、勿論サラマンダーの圧勝に終わる。

 レベル差が大きかったというのが主な要因だったが、開始早々、場を展開したサラマンダーに対してフレッドの幻影が意味を成さなかったというのも大きかった。

 シロが言うには、展開された場の中では、幻影などで位置情報を誤魔化すのはそもそも不可能なんだそうだ。

 つまり、フレッドの戦法では、はなから勝てる見込みはなかったって訳だ。


「あー、こんなに笑ったのは久しぶりだなー」


 痛めつけられて床に突っ伏しているフレッドの姿を見ると、散々笑った後とはいえ、ついニヤけてしまう。

 嫌いな奴が痛めつけられるってのは、最高のエンタメだな。色々と溜まってたものが、一気に発散された気分だ。

 折角だし、写真でも撮っとくか。


「先輩……ちょっと人が悪すぎますよ」


 ここで遂に真夏が口を挟んできたが、それでも無理やり俺を止めようとはしなかった。

 お前、本当はフレッドの事が嫌いなんじゃないか?


「そんな事もないでしょう?寧ろ、この程度で済んだのを感謝すべきでは?」


 一方、シロはフレッドが嫌いな事を隠す気が無いようで、その倒れたままの体に飛び乗って顔面を踏みつけていた。

 人を足蹴にする凛々しいお姿は、まさしく、この神聖な森を守る神獣。

 こんな芸術性の高い情景を見せつけられたら、シャッターを切る手が加速するってもんだ。

 俺はシロにいろんなポージングを支持しながら、奇跡の一枚を目指して撮影を続た。


 ところが、折角モデルがノってきたという所で、それに水を差すようにノックもしない無礼なクソガキが乱入してくる。


「うえっ……何か臭いです。生ゴミでも焼いてるですか?」


 こいつは天才か?

 碌に確認もしていないのに、的確に現状を言い当ててきやがった。

 しかも、開口一番にこの罵りの言葉だ。

 俺は、とんでもねー化け物を育てちまったのかも知れねー……


「ふぁーあ……起きたらシロがいなかったです。どこにいるか知らないですか?」


 まだ寝ぼけているのか、半分閉じている目ではシロの姿を見つけられなかったようだ。


「結、私はここですよ」


「見つけたです!」


 シロを見つけた事がよほど嬉しかったのか目標に向かって一直線に走り出す。

 だが、シロを抱き上げる寸前でフレッドの体に躓いてしまった。

 本来ならそのまま盛大にすっ転ぶ所だったが、バランスを崩した結の体を、真夏がしっかりと抱き止めた。


「おはようございます結ちゃん。足元には気をつけないとダメですよ」


「あっ、真夏お姉ちゃんもいるです。おはようです!」


 朝の挨拶を交わしながら、結が真夏にギュッと抱きついた。

 仲が良いのは結構だが、朝から女同士の甘ったる過ぎるスキンシップを見せつけられると、何だか胸焼けがしてくる。

 俺は視線を逸らし、先ほど結に蹴られてグエっと鳴っていたフレッドを見て、症状を緩和する事にした。

 心配されるどころか、誰にも相手にすらされていないその姿を見ていると、スッと胸焼けが治っていくのを感じた。素晴らしい効き目だ。


 真夏とのスキンシップを終えると、結はシロを抱き上げて頭の上の定位置に据えた。

 最早見慣れた光景ではあったが、さっき封印した記憶が蘇り兼ねないので、できれば今は遠慮してもらいたい……


「みんなで集まって何してるです?」


「何してるって言われるとな……」


 真夏とジャンキー女に朝っぱらから叩き起こされ、少しだけ小難しい話をした後、フレッドがズタボロにされる様を見て笑ってただけだ。


 ………………俺は、いったい何してたんだろう?


 フレッドの間抜け面を見てそれなりに楽しんだのは事実だが、どう考えても睡眠時間を確保した方が有意義というもんだ。

 いつの間にか、俺の人生の中でも稀に見る、実に下らない過ごし方をしてしまっていた……

 

 だが、今更そんな事を言っても、貴重な睡眠時間が返ってくる訳でも無い。

 どうせなら、この下らない時間を楽しもうじゃないか!


「写真を撮ってたんだ。折角だし、お前の事も撮ってやるよ」


 さて、今度はどんな構図にしてやろうか……

 シロの協力もあって既に芸術的な写真は撮れているが、若い女に踏みつけられる男の姿というのも、どこか倒錯感あって評価が高そうだ。


「え“えー、新庄さんに撮られるですか?何かエロい目で見られそうで嫌です」


 結が、全く起伏のない胸を隠すような仕草を見せる。

 コイツのビジュアルに対するどっから湧いてくるんだという疑問と共に、ロリコン扱いされた怒りが込み上げてくる。


「ああ?ふざけた事ぬかしてんじゃねーぞ、このクソガキが!そういうのは、色々と育ってから言いやがれ!何なら、今からテメーの真っ平な平原を耕して盛り土してやろうか?まあ、盛れる程あるとも思えねーけどな!」


「ぐぬぬー。結はまだ成長期なんです!これからまだまだ育つですよ!」


 ほう、成長期ときたか。

 見た目の幼さからすると説得力がありそうな言い訳だが、こいつは既に18を超えている。これからそれ程成長する見込みがあるとは思えない。


「まあまあ、喧嘩はやめて下さい」


「……ああ、分かったよ」


 別に真夏に言われたからという訳じゃないが、ここは大人な対応を見せる事にした。

 数年後、お前の成長が完全に止まる時が今から楽しみだぜ。それまでは、精々その貧弱な大地を耕しておくんだな!


「じゃあ、真夏はどうだ?モデルになってくれよ」


 俺はどうしても頭に描いた画を形にしたかった。

 見た目が幼い女であればコンセプトは変わらないで済む。この際、別に真夏でも構わないだろう。

 

「えっ、私ですか?それは……ちょっと恥ずかしいです……」


 真夏は頬を赤く染め、くねくねと身を捩りながら顔を隠した。


 駄目……なのか?恥ずかしがる事なんか……何もないというのに……

 希望が叶わないという絶望感に襲われ、膝から崩れ落ちてしまう。


 そんな露骨にテンションが下がった俺の肩に、そっと真夏が手を添えてきた。

 まさか、ご慈悲をくださるというのか?


「ひとりは恥ずかしいですけど……皆んなで写るなら別に良いですよ」


 そうじゃ無い……そうじゃ無いんだ!

 何故、どいつもこいつも俺の芸術を理解しようとしない!

 それじゃただの記念撮影だろ?

 俺は、もっと前衛的かつ退廃的な感じでフレッドの哀れさを引き出した作品を生み出したいんだ!

 それなのに、皆んなで仲良く記念撮影をするだと?


 …………………それはそれでアリだな。


 フレッドに屈辱を与えるという点では、何の工夫も無い集合写真の方が逆に効果的かも知れない。


「よーし。じゃあ、皆んなで撮ろうぜー」


 俺の一声で、全員がフレッドの元に集合する。

 今回はは真夏の意見ということもあり、反対する奴はいなかった。


「でも、誰が撮るですか?」


「そうですねぇ。この人数では自撮りも厳しいですし……」


「サラマンダーに撮らせれば良いのでは?画面を押すくらいは出来るでしょ」


 この素晴らしい状況を作ってくれたサラマンダーさんに対して少し失礼すぎる気がするが、俺としてもこの集合写真には是非とも参加したい所だ。

 特に反対はせず、サラマンダーにスマホを渡し、撮影方法をレクチャーする事にした。


「ここを押せばいいのか?」


「ああ、軽く触る程度でいいからな。絶対に壊すなよ」


「たわけ!分かっておるわ!」


 初めてスマホを触ったジジイと会話している気分にさせられたが、何とか撮影はできそうだ。

 後は、どんなポーズを取るかだが……


 俺はフレッドを仰向けにしてからカメラの方向を向かせる事にした。

 折角の記念撮影で、顔が写って無いってのは可哀想だからな。

 後は━━━━


「じゃあ、踏め!」


 俺の指示に従い、全員が一斉にフレッドの体を踏みつけた。

 全員が、である。あの真夏ですらも、一切躊躇が無かったように見えた。

 俺はこの時、真夏がフレッドを嫌っているのだと確信した。


「今だサラマンダー!」


「うむ。ではいくぞ……」


 そーっとサラマンダーの指がスマホに近づき、パシャリとシャッターの音が響いた。スマホが壊されるなんて余計なハプニングも無く、無事に撮影が終わる。

 後は上手く撮れているかどうかだが━━サラマンダーからスマホを受け取り、出来栄えを確認する。


「おっ、これは中々いいんじゃねーか」


「ですね。皆んないい感じで写ってます」


 写真の中には、晴れやかな笑顔を浮かべる3人の男女と可愛らしい小型犬がしっかりと収められており、この世の幸せを全部詰め込んだのではないかと思えるような素晴らしい出来栄えだ……まあ、気絶した人間を踏みつけていなければの話だが。


 じゃあ、早速この写真をばら撒きに━━って訳にもいかねーんだった!

 逃亡の身だという事を思い出し、急に現実に引き戻される。


 こんな事やってる場合じゃねーんだよ……俺、いつになったら家に帰れんのかな?

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