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新太平洋大陸  作者: 双理
5章 師匠
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「では、魔石を手に入れること自体が目的だったのではないですか?以前、6号は私を魔石化しようとしていましたしね。そんな事より……なぜ私を起こさなかったのですか?」


 俺の疑問に答えたのは、いつの間にか開いていたドアの側でちょこんとおすわりをしているシロだった。

 普段は落ち着いた高音の声が、今はいつもより低く、少し荒っぽい。明らかに不機嫌そうだ。

 その原因は説明するまでも無く、この集まりに招待されずに蚊帳の外に置かれた事だろう。


 あーあ、怒らせちまったな……俺は知らねーぞ。


 子犬の姿をしていると言ってもシロの正体は精霊王様だ。

 今はその力の殆どを失っているらしいが、それでもどんな能力を隠してる分ったもんじゃない。間違っても敵に回してはいけない存在だと言える。

 それを怒らせたってなると、どんなお仕置きが待っているのか……一度その力の片鱗を見せつけられただけに、想像もしたくない。


 まあ、今回の件に関しては、俺に過失が無いのは明白(俺は巻き添えにするという意味でシロを起こすべきだったと思っていた)なので、俺がお仕置きされる心配は無い。

 よって、ターゲットはここにいる二人の女共に絞られる訳だが、冴羽がシロの登場で再び絶頂に達している今、その矛先は真夏に向かう事になる。


 良し!たまには、真夏が怒られる側に回ればいいんだ!

 流石に時空の狭間に飛ばされるような事態にはならないだろうし、ネチネチと説教される気分をじっくりと味わうがいい……


 だが、真夏が疲れていたようなのでそのまま寝かせていたと普通に理由を伝えただけで、シロはあっさりとその怒りを収めてしまった。


 クソッ!真夏に日頃の俺の気持ちを分からせるチャンスだったというのに……

 俺とは違い、よく自分の面倒をみてくれている真夏に対しては、随分と対応が甘いようだ。

 やっぱ餌か?餌をやれば良いのか?

 自分の待遇改善の為に、今後は出来るだけシロに餌を与るようにしようと俺は心の中で誓った。


 因みに、結は気持ちよさそうに寝てたので置いてきたそうだ。

 実は、これが怒りをあっさりと沈めた原因だったのかもしれない。

 自分がそうしたのにも関わらず、他の奴を責める訳にもいかないだろうしな。


「それで、いつから話を聞いてたんだ?」


 それ次第ではここまでの話の流れをいちから説明しなきゃいけなくなるが、正直それは面倒だ。


「6号の目的は何なのかというあたりからですかね。それより前は聞いていませんよ。寝てましたから」


 じゃあ、起きてからは全部聞いてたって訳か。

 ん?今いるこの部屋は、シロと結が一緒に寝ていた部屋からは結構離れてる筈だよな……


「随分とお耳がよろしいようで……」


 改めてシロの能力に驚かされたせいか、ついいつもの癖が出てしまい、探りを入れるような口調になってしまった。

 別に敵対してるって訳じゃないのに、何でそんな言い方をしたのか……まあ、原因は多分、二日連続の早起きのせいだろう。

 考えてみれば、少し耳が良いってくらいなら普通の犬と大して変わらないってのにな……

 流石に大人気なかったなと反省してしまう。


「この場はサラマンダーの支配する領域内ですから、主人である私もある程度は干渉できるのですよ。その気になれば、どこにいても領域内にいる者の声を聞くくらいは出来ます。そういう訳で、私に聞かれたくない話をする時は領域外に出るのがお勧ですよ。理解できましたか?新庄」


 クソッ!やっぱただの犬じゃねー!何だその能力は?私には盗聴器なんか必要ありませんってか?しかも、さりげなく俺だけに嫌味を言ってきやがった。

 拙い……これ以上シロの機嫌を損ねたら、俺がお仕置きされ兼ねない。

 どうする?ここは素直に謝っとくか?

 いや、いっそ嫌味に気付かなかった振りをして、さらっと流してしてみるか……


「ああー、まあ、聞いてないところは後で真夏に聞いてもらうとして、話を先に進めてもいいか?」


「ええ、構いません。ここで話を打ち切るのもなんですし、6号の話題は私も気になりますから」


 良し!うまくいったぜ!

 シロが変に絡んでこなかったいのもそうだが、同じ話を繰り返す手間が省けたのも非常にありがたい。いい流れだ。

 だが、ここでシロがとった行動が、ある人物の人生を終わらせ兼ねない事件に発展してしまう。

 なんと、よりにもよって冴羽の膝を足掛かりにして、その頭の上に飛び乗ってしまったのだ。

 シロとしては結がいないので、前に乗ったことのある冴羽の頭を選んだだけなのだろうが、それでも、その選択だけはしてはいけなかった……


 最初の異変は、冴羽の体がガタガタと震え始めた事だ。

 ただ喜びに打ち震えているのだろうと、この時はまだその程度の認識だった。


 しかし、暫くするとぐったりと脱力して、椅子からずり落ちそうになってしまった。

 真夏がその体を椅子に戻しながら、冴羽の様子がおかしい事を俺に伝えてくる。

 仕方なく冴羽の様子を確認しようと見てみると、目の焦点が全くあっていないのが分かる。

 ……まあ、まだ冴羽としては通常運転の範囲だろ。


 だが、次第に左右の目がバラバラに動き始め、別々の意識を持ったを持っているかのように動き始めた。

 それはまるで、自身の頭上に消えたシロを探して彷徨っているかのように見える。

 …………まだ、大丈夫だよな?


 その視線に引きずられているかのように、表情筋がひくひくと痙攣しはじめ、普段はキリッとしている冴羽の表情が徐々に歪んでいく。

 決して苦しんでいる訳ではない。

 寧ろ、快楽に溺れているのだろう。

 その証拠に、その口元は完全に緩み切っていて、へへへっと呟きながら笑っている。

 ……………………


 突然、今まで聞こえていた冴羽の不気味な笑い声が一瞬で消え去り、あたりが静寂に包まれた。

 そうなると、当然、自然と冴羽の方に視線が集まる。


 その時、冴羽の口から涎とも泡とも取れるような絶妙なものが溢れ出してきた!

 これは拙いと今更ながら焦り始めたが、いったい、どうすればいいと言うのか……

 こんな怪奇現象は俺の管轄外だ。助けようがない。


 結局、俺は冴羽の霰もない姿を見ていることしかできなかった。

 せめてもの救いは、こんな姿を部下である泰志に見られずに済んだことだろう。

 これが、絶頂の向こう側を覗いてしまった者の末路か……

 そして、俺はそっと冴羽から目を逸らした。


『こんな状態になってるのに、なぜ失禁はしていないのだろう?』


 ふと、そんな疑問が浮かんできて、しばらくの間俺の頭の中に残り続けた……




 完全にシロの過剰摂取である。

 既にキマっていた状態だったというのに、不意打ちのようにシロ成分を吸収してしまい急性中毒を引き起こしたようだ。

 コイツはもう駄目だろう……助かる見込みは無い。

 まあ、最後にシロに看取られるなら冴羽としては本望だろうし、後はもう……そっとしておこう……

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