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「ちょっと待てよ……じゃあ、お前は黒服じゃなくて、6号と戦ったって言うのか?」
俺達が華菱の研究所に到着した時には、6号は既にあの場所を去っていた筈だ。
それは敷地内を廻ってモンスターを退治している間に、俺自身が確認している。
まさか、あの後6号が研究所に戻ってきたってのか?
「黒服だって?さっきもその名前を口にしてたよね。まさかとは思うけど……華菱本社直轄のあの黒服の事じゃないよね?」
「いや、正にそれだ。お前と別れた後、何でかその黒服と遭遇しちまってな、まあ予定通りに多少足止めはしたんだが、その後はお前がいる方に移動していった。で、次の日にお前がボロボロになって俺の部屋まで来た訳だろ。それもあって、お前は黒服にやられたと思ってたんだけどな」
「成程ね。黒服が相手なら、確かにそうなっててもおかしくは無かったかな……でも、そもそもボクは黒服とは接触していないよ」
俺が想定してた事態とは、だいぶ違ってるようだな……
フレッドは黒服と戦闘をするどころか会ってすらいないらしいし、しかも、この口ぶりではどうやら研究所からは何事も無く、無事に脱出しているようだ。
じゃあ、後は6号とは何処で遭遇したのかって話だが━━
「では、フレッドさんは逃げている最中にたまたま6号さんと会ったって事ですか?」
真夏もこの想定外の話には困惑しているようで、眉間にしわを寄せながら疑問を口にした。
確かに、真夏の言う通りたまたま会ったと言うのなら辻褄は合う気もするが、既にあの時は、6号が研究所を出てからかなりの時間が経過していたはず。だいぶ後から出たフレッドと遭遇するとは考えにくい。
まさか、研究所を襲撃した後、呑気にその隣で野営してた訳じゃあるまいし、奴が転移石を持っている以上、あの場に留まる理由はないと思うが……
「ボクが6号と遭遇したのは、基地に戻った後の話だよ。真夏ちゃんが言う通りだったら、まだ良かったんだけど……それならボクがやられるだけで、基地が壊滅するなんて事はなかっただろうしね」
先程の様に表情には出していないが、言葉の節々から悔しさが滲み出ているようだった。
「はあ?じゃあ、アイツは華菱の施設を襲った後、その足で米軍基地を襲撃しに行って壊滅させたっていうのか?」
「そうなるね……」
………………イカれ過ぎだろ。
奴の強さは身をもって知っているが、流石に無茶苦茶すぎる。
しかも、華菱の研究所みたいに米軍基地を壊滅させたって?
いったい、何の冗談だよ……怖っ。
現代戦では、ぶっちゃけレベルさえ高ければ、複数人を相手に戦闘で圧倒する事は不可能では無い。
何なら、俺ひとりでも小隊規模くらいまでなら潰せるかもしれない。
でも、あくまでその程度だ。限度というものがある。
もっと大規模な部隊に包囲され、その後に持久戦に持ち込まれたりしたら、いずれ体力が尽きて、最後にはくたばる事になる。
それに、探索者に対して現代兵器の効果が薄いと言っても、それはあくまで銃火器の話であって、ミサイルなんかを撃たれたらどうなるかは分かったもんじゃない。
まして戦略兵器なんぞ持ち込まれた日にゃ、少なくとも俺には生き残る自信は無い。
流石に核ミサイルをいきなりぶっ放すなんて事は無いだろうが、いずれにせよ、個人で国に対抗するというのは無理があるって話だ。
それでも6号は、米軍基地を潰すという常識はずれな事をやってのけている。それも、前回と合わせてふたつもだ。
アイツ…………どんだけレベルたけーんだよ。
「まさかとは思うが……馬鹿正直に正面から6号とやり合ったんじゃねーだろうな?」
「……キミが言う真のレベルとやらが上がったらしいボクなら、勝てるかもって思ったんだけどね……全然だったよ……」
成程。それで思い上がったフレッドは、6号と戦っちまったって訳か━━まあ、そいつは無茶ってもんだ。まだレベルアップ時の高揚感が残っていたのだとしても、迂闊すぎるとしか言えんな。
俺のレベルは前に6号と対峙した時より上がっていて強くなっているという実感もあるが、それでもアイツと正面切って戦えるとは全く思っていない。
俺よりレベルが低いフレッドが何の作戦も無くぶつかれば、負けてしまうのは当然の結果だった。
「まあ結局、6号に会ったら何も考えずにさっさと逃げるしかねーんだよ……」
それは別にフレッドだけに言った訳ではなく、俺自身がアイツの脅威を再確認する為に必要な言葉だった。
今の時点で対抗できそうなのはサラマンダーだけだが、精霊の森を守る必要があるので、その移動範囲は制限されている。
常にサラマンダーを連れ歩く事ができない以上、アイツには手を出すべきではないだろう。
そもそも、仮にサラマンダーを連れ出せたとしても、見た目がモロにモンスターでしかない奴をあまり人前に出す訳にもいかないしな……
「ああ、今度はそうするよ。まあ、出来るなら、もうあんな奴らに関わりたく無いけどね……」
「奴ら?……6号単独じゃなかったのか?」
「そうだよ。正確な人数は分からないけど、少なくてもボクは6号の他にも2人の仲間がいるのを確認した。せめて、アイツがひとりだったら━━いや、それでも結果は変わらないか……他の奴らは魔石の回収役って感じだったしね」
これで6号に協力者がいる事が確定した事になる。そして、またしても俺の予想は外れたって訳だ。
勘が鋭い方だと思ってる訳でも無いので、そんなものだろうとしか思わないが……
まあ、俺が勝手に6号は単独で動いているというのは、単に思い込んでいただけで、普通に考えれば米軍基地の襲撃なんぞをひとりでやる筈も無いか。
「どんな奴らだった?」
予想が外れた事は置いといて、奴に仲間がいるってんならその素性は気になる。
「ボクは6号を相手にしてたからちょっとしか見れなかったけど、それでも基地内で高レベルで通っている兵士を一撃で仕留めている所は確認したよ。6号ほどじゃ無いにしても、かなりの手練れなのは間違いない」
拙いな……6号だけでも苦労するのに、その上仲間がいるんじゃ逃走できるかすらも運頼みになっちまう。
「顔は見たんだろ?どこの奴らか分からなかったのか?」
「いや、顔は覆面で隠してた。装備も一般的に販売しているもので、どこの組織に属しているかは……」
フレッドが両手を広げ、首を大袈裟に左右に振った。検討もつかないって訳か。
せめて6号のバックについている組織が分かればと思ったが━━そう上手くはいかないらしい。
まあ、今すぐアイツと事を構えようって訳じゃあるまいし、それは後回しでも構わないか━━
「それじゃあ、研究所で攫われた子の救出は無理、ですよね……」
「「あっ?」」
真夏のその言葉で、俺は迂闊にもフレッドと声をハモらせてしまった。
昨日から色々ありすぎてすっかり忘れていたが、そう言えばそんな問題もあったな。
どうやら、真夏は6号に攫われた子供を救出するつもりのようだ……はっきり言って、冗談じゃねー!
今し方、6号からは逃げるしかないと結論が出たばかりだっつーのに、何で逆にアイツを追わなきゃいけねーんだ?
勘弁してくれよ……
「ああ……確かにそうだな……でも、考えてもみろよ。その子供は6号の子供かもって話だったろ?だったら、そう酷い目にはあって無いと思うぞ……多分……」
如何に真夏でもこの状況で追いかけようとは言わないと思うが、一応それっぽい言い訳を言っておく事にした。
可哀想な子供が絡んでるとなると、暴走する可能性もあるからな……
「うん……ボクもそう思うよ……真夏ちゃん。こう言うのも何だけど……寧ろ、あの研究所から出れた事は、その子にとっては幸せだったかもよ?」
これに関してはフレッドも俺と同意見のようで、援護をしてくれるようだ。
こいつと意見が一致するのはいい気分ではないが、よほどのマゾか自殺志願者でも無い限り、この意見が合致するのは仕方ないし、当然の事だろう。
「ですよね……」
俺とフレッドの必死の言い訳を聞いても、真夏は釈然としない様子を見せた。
一瞬ヒヤリとさせられたが、それでも追いかける手段が無いのは理解しているようで、救出は不可能だと納得してくれたようだった。
これに関しては、ある意味、6号のバックに付いている組織が割れなくて良かったと言える。
絶対に助けに行くって言うからなこいつは……
さて、攫われた子供の話がひと段落し、あと気になるのは━━
「魔石か……」
「魔石がどうかしたのかい?」
「何でアイツが魔石をパクったのかって話だよ」
前回に引き続き、6号の目的は魔石を盗む事だったのは明かだ。
でも、その理由はなんだ?
「単純に、魔石を金に変えてるんじゃないかな。その金を使って、どっかのテロ組織と手を組んだんだでしょ。そして、華菱の研究所を襲った……いや、それだとちょっとおかしいよね……」
そう、それでは色々と辻褄が合わなくなる。
研究所の襲撃が目的だったのなら、二度目の米軍基地襲撃は必要なかったはずだからだ。
「そもそもが、研究所を襲う金策の為に軍事施設を襲撃しようなんて思う奴がいるか?戦力的には明らかに研究所より上なんだぞ?」
救出作戦に人手が必要で金で人を雇うにしても、わざわざそんな方法を取った理由が分からない。なんせ、これからずっと米軍に追われる事になるんだからな。
まあ、アイツなら簡単に撃退できそうではあるが、それでも面倒には感じる筈。
それに、金なら他にも色々と稼ぐ方法があるってもんだろ?
なんせ、あんだけ強いんだ……その腕を売り込むだけで金は手に入るだろうし、テロ組織とつながるだけなら、寧ろ金なんかいらないんじゃないかとすら思える。




