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新太平洋大陸  作者: 双理
5章 師匠
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 翌朝、目を覚ましたフレッドの部屋を訪れると、まず最初に言われたのは謝罪の言葉だった。


「いやー、昨日は迷惑かけちゃってごめんねー」


 口でこそ謝罪しているが、そのふざけた口調とニヤついた表情を見るにそれが本心でないことは明らかだ。実にムカつく野郎である。

 怪我の方は結のヒールによってほぼ完治しているらしく、それもあってか、さっき目覚めたばかりだというのにフレッドは既にいつもの調子を取り戻していた。

 

「ああ、全くだ。お前が血まみれにしたドアを見た時は、マジでどうしてやろうかと思ったぜ……死ね」


 おっと、うっかり本音が漏れちまった。


「嫌だなー、最後にちょっとだけ本音が漏れちゃてるよ。相変わらず酷い事言うねーキミは。それでも、なんだかんだ言って助けてくれるんだから、お人好しっていうかなんというか……でもまあ、今回は本当に感謝してるよ」


 今度はしっかりと頭を下げ、真剣な表情で感謝の意を示してきた。

 でも、こんな事で騙されてはいけない。コイツは所詮スパイだ。

 そもそも、欧米人に頭を下げて謝罪するなんて文化は無い。

 見え透いた演技である。


「そういう事は冴羽に言うんだな。俺が家の前に落ちてた汚ねぇ生ゴミを捨てに行こうとしたら、必死に止めてきたからな……今すぐ死ね」


 さっきの皮肉があっさりと流されてしまったので、今度はもう少し分かりやすくしてみた。

 後、最後のセリフはうっかり漏れたのではなく、今回はわざとだ。

 何々?前回もそうだったろって?

 言いがかりはよしてくれ……わざとに決まってんだろ。


「いや、だから漏れてるって……でも、そうなのかい?まさか、冴羽嬢に助けてもらえるとは思ってなかったけど……まあ、お礼は言っとくよ。ありがとね」


 フレッドが再び頭を下げ、今度は冴羽に対して礼を伝える。


「いえ、礼は結構です。単に、今あなたに死なれるのは困ると判断しただけですから」


 昨日は見捨てられないとか言ってたくせに、ずいぶんな変わりようだ。

 まあ、単にフレッドに対して弱みを見せないようにしてるだけだろうけどな。

 そういった弱みに漬け込んでくるのがスパイというものなので、いい判断だと思えた。


「今のをちゃんと聞いてたか?まいったな。誰もお前の心配なんかしてねーみたいだ。何でか分かるかフレッド?それはなテメーが真正のクズ野郎だからだ。だからな……さっさとくたばれ」

 

 因みに、現在この部屋の中にいるのは俺とフレッドの他に、真夏と冴羽を合わせた合計4人。

 朝っぱらから女ふたりがフレッドが起きた事をわざわざ知らせにきて、俺をここまで引っ張ってきたって訳だ。

 結とシロはぐっすり寝ていたので、そのままにしておいたらしい。

 だったら俺もそうしてくれよと言いたかったが、そんな事を言ったら昨日の拷問が再開されるのは目に見えている。

 おかげさまで、二日連続フレッドのせいで早起きを強いられているって訳だ。

 これで何故フレッドに対する俺の殺意が異常に高いのか、その理由がお分かりいただけただろう。


 泰志の奴もここにはいないが、それは結のようにまだ寝ている訳ではなく、エルフ達と一緒に早朝トレーニングに出かけたそうだ。

 あいつも俺と似たようなスケジュールを送っていたので大分疲れている筈だが……まあ、それが若さというものなのかも知れない。


「もう勘弁してよー。それじゃあ全部ただの悪口になっちゃってるよ。流石にボクも傷ついちゃうなー……」


 このクズが自分で口にしたように、少しでも傷ついてくれているのなら俺としては嬉しい限りなんだが、明らかに演技だと分かるような泣き真似をしてみせる程の余裕っぷりだ。まじで死んでくれ。


「本当に仲がいいですね。先輩に新しい友達が出来たみたいで良かったです」


 真夏が満面の笑みでそんな事を言ってくる。

 一昨日も似たような事を言われたが、いったい、何をどうしたらそんな風に見えるんだ?

 俺ははっきりと本心を語っていると言うのに、何故ちゃんと伝わらないのかが理解出来なかった。

 

「友達だって?」


 フレッドも真夏の言ったその単語が気に食わなかったのか、露骨にその顔を顰める。

 おお、いいぞ。その調子で俺の代わりにはっきりと否定してやれ。

 この女どもは、俺の言う事なんざ聞いちゃくれねーからな。


「ちょっと待ってよ真夏ちゃん……ボクと新庄くんは、とっくに親友と言ってもいいような間柄だよ。そんな言葉で表現してほしくはないかなー」


「おいフレッド。誰と誰が親友だって?よく考えてみろよ……俺がテメーみたいな役立たずの生ゴミと親友なんかになるわけねーだろ?何なら、これからお前を細かく切り刻んで、有機肥料に加工してからその辺の植木鉢に詰めんでやろうか?」


「ほらね。普通の友達じゃあ、こんなに毒舌を言い合えないだろ?」


 クソッ!俺の毒舌が通じやしねー。

 挙句、真夏がフレッドの言うことを間に受けて素直に謝罪をしてやがる。

 何なんだよコイツら……ここまでくると、自分が異次元にでも飛ばされた気がしてきて怖えーよ……

 

「全く、何をじゃれあっているのか……あなた方の仲良しアピールはもう結構です。そんな事をしている場合では無いのが分からないのですか?」


「はぁ?……何言ってんだお前は?まさか、こんな朝っぱらからシロをキメてきたんじゃねーだろうな?ラリってんなら黙ってやがれ、この小動物ジャンキーが!」


 あまりにもイラついたので、つい思いつく限りの罵倒を浴びせてしまった。

 すると、冴羽の様子がみるみる変わっていき、うわ言のように何かをブツブツと呟き始めた。


「シロ……シロちゃんの……寝顔……可愛い……尊い……」


 あ、やべ…………やっちまった…………


 冴羽の目からは輝きが失われ、終には恍惚の表情を浮かべながら天を仰ぎ始めた。

 どうやらあの白い悪魔は、その名前だけで冴羽を違う世界にトリップさせてしまったようだ。

 俺の一言で冴羽が使い物にならなくなってしまった訳だが……これは断じて俺の責任では無い。

 だって、ホントに朝から白い薬物を決めてるだなんて誰も思わねーだろ?


 あーどうしよ……もう完全にカオスだよ……


 冴羽は完全に廃人になっているし、フレッドは、俺とどのようにして仲良くなっていったのかという嘘で塗り固められた作り話を真夏に力説していて、真夏はそれを楽しそうに聞いている。

 最早、この局面を乗り切るのは不可能。

 そう判断した俺は、無理矢理本題を捩じ込むことで話題を変えることにした。


「なあ、フレッド。結局、人体実験のデータは手に入ったのか?」


 まず、この事は確実に確認する必要がある。

 このデータの有無で今後の方針が左右されるからだ。


「えっ?ああ、人体事件データね。勿論手に入れたよ」


 フレッドが話す友情サクセスストーリーが佳境を迎えていたらしく、明らかに気のない返事だった。

 話を中断されたのが余程嫌だったのか、剥れ顔を俺に向けてくる。

 何でそんな顔されなきゃいけねーんだ?意味わかんねーよ。


 真夏も真夏だ。

 いつまでコイツの作り話に付き合うつもりだ?

 俺とフレッドが一緒にいた時は、だいたいお前も一緒にいただろ……

 

 ストレスが限界に達しそうだったが、ツッコミだすとキリがないので口には出さなかった。


「何が勿論だ。黒服にやられてボロボロになってたくせに……」


 取り敢えずデータが有る事は分かったので、次は黒服の情報を聞き出さなければならない。

 なんせ、冴羽の計画ではあいつら相手は俺がしないといけないらしいからな……


「黒服?キミは一体何を言ってるんだい?ただ逃げればいい状況で、ボクがそんなヘマをする訳ないだろ?」


 その言葉は、この場にいる全員━━いや、冴羽は抜いておいて……俺と真夏を困惑させた。

 思わず互いの顔を見合わせてしまう。


「じゃあ、テメーはいったい誰にやられたんだよ?」


 俺がそう問いかけると、フレッドはその端正な顔をいびつに歪ませた。

 その表情からはいつも見せている作り笑いが完全に消え去り、怒りと恐怖の感情に支配されているように見える。

 殆ど嘘しか言わないような奴だが、その表情だけは嘘では無いように俺には思えた。


「…………6号にだよ」

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