無謀な依頼4
取り敢えずダンジョン内部に侵入したが、入り口付近は昨日の訓練で狩り尽くしていたので、今のところはモンスターに遭遇していなかった。
気を抜いている訳ではないのだが、索敵のスキルにも反応もない為さっさと先に進む事にする。
しばらく進むと、道が二手に分かれていた。
「誰かマッピングのスキル持ってるか?」
マッピングのスキルは、その名の通り自動でマッピングをしてくれる便利スキルだ。
頭の中で、自分達が進んできた道順を3D映像のように見ることができる。
「俺達は持ってませんね」
イケメンが答える。
「誰か取っとけよ。特にメガネ、お前は斥候役みたいなもんだろ」
「いえ、僕は別に斥候役って訳では……えーと、分かりましたけど、今はスキルポイントがなくて……」
「しゃーねーな、今回は俺がマッピングしとくか」
マッピングのスキルを起動して先に進む。
「誰か、後ろにも索敵を掛けとけよ」
「なぜですか?後ろには何もいなかったじゃないですか」
イケメンが不思議がっている。
「別れ道の後だ。下手したら別の道から来たモンスターに囲まれる」
コイツら、少しは頭使えよ。
「なるほど。分かりました、僕がやります」
今度はメガネが機能してくれたようだ。
それからも、ダンジョンを進む上での注意を指導しながら先を急ぐ。
「……先輩は、ダンジョンを攻略したことがあるんですよね?」
真夏が聞きにくそうに聞いてくるが、それに答える気がない俺は聞こえないふりをした。
「先輩、聞いてますか?ダンジョンの話を聞きたいんですが……」
「そうですね、少しでも情報があるなら僕たちも聞いておきたいです。」
イケメンもそれに同調してくる。
「ダンジョンを攻略する方法は教えているつもりだ。モンスターの情報も渡してるしな。お前らにそれ以上の話をする気はない。黙って進め!」
「新庄さんのケチー」
ギャルがなんかほざいているが無視だ。
真夏も聞きたそうにしているが、ここまで言えばしつこく聞いてはこないだろう。
「モンスターが来るぞ!全員気を引き締めろ!真夏、まずは俺達だけで片付けるぞ」
「了解です!」
俺はすぐに戦闘体制に入る。
華菱の探索者達はまだ切り替えれずにいたが、流石に真夏はその辺を弁えており、すでに自分の武器であるハンマーを構えている。
「えっと……僕たちはどうします?」
イケメンが、気が抜けるようなことを聞いてくる。
使えねーな……
その態度で判断する。
「後ろで見てろ!」
俺たちの前に現れたのはでかいネズミのようなモンスター、グラタニーマウスだった。
まだこちらには気づいていない。
「ネズミ3匹だ。一気に片付けるぞ!」
「了解!」
俺が前に走り出すと、真夏がその後ろに続く。
「右を頼む!」
「分かりました!」
俺は向かって左にいるネズミに狙いを定め、スピードを一段階あげ一気に距離を詰める。
奇襲だった為か、その速さについてこれなかったネズミの胴体にナイフを突き刺す。
視線を移すと、真夏も奇襲に成功して1匹仕留めたようだ。
すぐに中央にいるネズミに意識を向けると、まだこちらに対応しきれていないのが分かった。
「おらよっと!」
俺は小石を拾い、ネズミに向け投げつけ注意をこちらに向けさせる。
「決めろ!」
真夏は瞬歩のスキルを使い一気に距離を詰め、ネズミの頭を後ろからハンマーでぶっ潰した。
ネズミどもは光の粒になって消えていく。
「終わりだ」
あたりに他のモンスターの気配はない。
後ろでは、華菱の探索者達が呆然としている。
「……えっと、早すぎません?」
「こんなもんだろ。なあ真夏」
「ですね。グラタニーマウスは狩り慣れてますし」
コイツらは驚いているが、レベルの高さでゴリ押しただけだ。
大した事はしてない。
「新庄さんって、どれぐらいのレベルなんですか?」
「40位だ。いいからさっさと先に進むぞ」
適当に答え先に進む。
「……絶対嘘ですよね?」
何か聞こえるが、正直に答える義務もない。
それに真夏はそれぐらいだろうから、完全に嘘という訳じゃない。
その後、俺達は幾度かモンスターと戦闘を繰り返し、2階層の入り口を見つけることに成功した。
それは地下に続く階段になっていて、結構深くまで続いているのか底までは見えない。
分かりやすい区切りなので、この階段が階層を分けているのは間違いないだろう。
「もう少し手こずるかと思いましたけど、意外とサクサク進みましたね」
イケメンは、とりあえずの目的が達成された為か安心したようだった。
「お前らは、殆ど何もしてないだろ?」
「新庄さん達が強すぎるんですよ。手を出す隙も無かったです」
俺と真夏で殆どのモンスターを倒してきたためか、華菱組は昨日と打って変わってまだ余裕がありそうだ。
「階層が変わると、一気にモンスターが強くなる。気を抜くなよ」
「はい、分かりました。……それにしてもこの階段、一体誰が作ったんですかね?」
イケメンが地下に続く階段を見てそう聞いてきたが、そんなの俺が知る訳が無い。
「それを調べるのは、俺らの仕事じゃないだろ」
「それはそうですが……何か気味が悪くて」
確かに、こんな自然にできた洞窟みたいなところに、明らかに人工物とわかる階段があるのは不自然だ。
暗視のスキルを使っていても、薄暗い階段というのは不気味に感じる。
「まだ昼前だし、もう少し先に進むぞ」
まだ余裕がある為、先に進む判断をする。
全員が頷き、俺達は階段を降り始めた。
2階層に入ると景色が急変した、といった事もなく今までと変わらない洞窟が続いている。
モンスターの数が若干増えたが、その種類は変わらなかった。
今度は、華菱組にも戦わせる事にする。
俺と真夏を交えた連携の確認したが、特に問題は無いようだ。
まあ、こちらが合わせてやったので当然だったが。
そして3階層の入り口も意外とあっさり発見する事になる。
「これは……何かやばそうですね……」
「そうだな……明らかに今までとは様子が違う」
それは、この階層に降りて来た階段と同じ作りだったが、その周りの壁が今までのような洞窟の岩肌ではなく、人工の石壁のようになっている。
底までは見えないが、石壁はずっと続いているように見える。
「よし、今日はここで引き上げるぞ」
ダンジョン内で野営するか迷ってたが、まだ全然引き返せる距離だ。
一旦、引き上げることにする。
ダンジョンで無理は禁物だ。
階段の下にある暗がりを見つめる。
この先に、どんな地獄が待っているのかと思うとマジで嫌気がさしてきた。