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新太平洋大陸  作者: 双理
四章 混ざり合う陰謀
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黒スーツには気をつけろ!2

「さっきから、なに見てやがる……」


 少し前から猫背の男が近づいてきて、何故か俺を舐め回すように見てくる。

 何が目的なのか分からないが、これを利用しない手は無い。


「お前、かなり強いだろ?でも、知らない顔なんだよな……」


 猫背の男はかなりおつむがアレなのか、おかしな事を聞いてきた。

 コイツの言い回しでは、強い奴の顔は全員知っているという事になってしまう。

 この男の記憶力がずば抜けていて、実力者の顔写真を丸暗記している可能性はあるかも知れないが、その惚けた面を見た限りではとてもそうは思えない。単にバカなだけだろう。


「どうだろうな……まあ、お前よりは強んじゃないか?お前、頭悪そうだし……」


 コイツなら挑発に乗ってきそうだと思い、仕掛けてみる事にした。


「ギャハハハハハ!やっぱそう見える?よく陰口叩かれんだよなーオレ」


 男は下品な笑い声を上げながら、調子に乗って俺の肩に手を回してきた。その喋り方には、知性のかけらも感じられない。

 男の笑い声釣られたのか、全員がこちらを振り向き、注目が集まる。


「でも、正面切って言ってきたのはお前が初めてだ。おもしれー奴だなお前」


 口元から白い歯を覗かせて、笑みを浮かべながら俺の肩をバシバシと叩いてくる。

 嫌味では無く、本当にそう思っているように見えた。何でか知らんが気に入られたらしい。

 鬱陶しく感じ、男の手を払い除けて距離をとる。


「気安くさわんじゃねーよ。気持ちわりぃなー」


「そう言うなって。なあ、お前ちょっと俺と戦ってみないか?」


 猫背の男は何の脈略も無くそう言ってきて、俺に向かって握った拳を突き付けてきた。

 戦闘狂って奴だろうか……結にも似たような所はあるが、こいつはそれ以上に狂っている感じがする。

 ヤバい薬でもキメてんのか?

 俺が思い描いた感じでは無かったが、何故か目論見通りに事が進んでいく。


「喧嘩売ってんのか?」


 更に挑発の言葉を重ね、畳み掛ける。


「そうじゃねーって。あれだ、手合わせってやつだ。強そうなやつ見ると我慢できねーんだよ……」


「何言ってんだお前?なんか段々イラついてきたな……ぶちのめしてやろーか?」


 完全に嘘だ。正直もう運動はしたくない。

 そろそろ止めてくれと思い、冴羽に目配せをすると、あのくそ女は視線を逸らして気付かない振りをしやがった。

 おいおい……このままやれってのかよ……

 時間稼ぎには良いかも知れんが、冗談じゃねー!

 とは言え、話の流れ的にここから日和るのもおかしな気がするし……どうする?

 取り敢えず、これから喧嘩しますよという雰囲気を醸し出しながら、それっぽく猫背の男から距離をとる。


「良いねぇ。じゃあ、ぼちぼち始めっか……」


 振り返ると、男は準備万端で拳を構えていた。サングラスで隠れているが、声色からして多分その目はガンギマリだろう。

 少しずつ、戦意が高まっていくのを感じる。


「やめろ!」


 体格の良い方の黒服が叱責の声を張り上げ、俺と猫背の間に割って入ってきた。

 止めんのがおせーんだよ……

 そうは思いながらも、どっかの裏切り者と違って、しっかり喧嘩を止めてくれた男には感謝の念に堪えない。


「あなたもやめなさい!みっともない……」


 一歩遅れて、裏切り者が俺を叱り付けてきた。

 一見、表情を歪めてかなり怒っているように見えるが、これは多分、喧嘩に発展しなかった事を残念がっている顔だ。俺は、絶対に後で仕返ししてやると心の中で誓った。


 一方、猫背の男は喧嘩を止められた事にかなり苛立ったようで、舌打ちをして露骨に機嫌を損ねていた。

 それを見兼ねたのか、体格の良い男が何か耳元で囁くと、今度はその態度を一変させ、俺の顔を見て驚いているようだった。体格の良い黒服が俺の事を知っていたのかも知れない。

 もしそうなら、多分この男は自衛隊の関係者だ……何を吹き込んだのかは、だいたい想像がつく。

 猫背がそんな事を聞いて引き下がるような性格とは思えなかったが、何故か納得した様子で、渋々といった感じではあったが後方で控えている女の所まで戻って行く。

 すると、突然その女が猫背の脛を蹴り上げる。猫背はかなり痛がって、膝を抱えて悶え苦んだ。

 何だか、あの男の立ち位置がどんなもんなのかが、分かった気がする……


「あなたは立ち入り禁止の施設に侵入しています。すぐに退去して頂きたい」


 体格の良い黒服は、猫背の事など無かったかのようにそう告げてきた。


「何言ってんだお前?俺は冴羽に雇われて、わざわざこんな所まで来てモンスターを倒してやったんだぞ。それなのに、礼も無しかよ!」


 一応挑発を試みるが、男はそれに乗ってくるどころか、だた無言で俺を見返すだけだった。


「やってられるか!冴羽、俺はもう帰るぞ!」


 流石にこれ以上は無理ってもんだろう。そこそこの時間は稼いだ筈だしな。

 もしこれでフレッドが逃げて無かったら、それはもう諦めるしかない。

 っていうか……早く帰ってもう寝たい!


「ええ、そうして下さい。あなたみたいな底辺の探索者の顔など、あまり長く見ていたくは無いですからね」


 底辺って━━コイツ……いくら演技とはいえ、流石に酷すぎないか?

 冴羽はここに残るつもりのようだが、もう心配するのも馬鹿らしくなってきた。

 そう思って、本気でひとりで帰ろうとした時だった。


「冴羽支社長も他の社員の方を連れてお帰り下さい。社長の指示で、この施設は暫くの間、完全封鎖となります」


 どうやら、冴羽も追い返されるらしい。よほど見られると困る物があるようだ。

 まあ、それが何かは知ってる訳だが……

 そうなると、キメラの死体が見つかるのは拙かったか?今更だが、死体をすぐに処理しなかった事が悔やまれる。

 いや、あれは6号が倒したって事にして、俺達は死体を見てないって事にすれば、何とかいけるか……


「何を言っているのですか?あなた方だけで、人命救助ができるのですか?」


 そうだった━━そのせいで逃げる事もできなかったんだよな。

 ヤバいな……このままでは、真夏に顔向けできない事になってしまいそうだ。


「直に専門の救出チームが来ますので、その点は問題ありません。ここからは自分が指揮を執ります。あなた方はどうぞお引き取りを……」


 これ以上は、もう話す事は無いといった感じだった。

 まあ、華菱としても優秀な研究者を死なせるのは大きな痛手の筈なので、救助はしっかりしてくれるだろう。


「社長命令なら仕方ありませんね。後の事は任せます」


 冴羽もそう思ったのか、あっさりと退去する事を受け入れた。時間稼ぎは十分にできたと思ったのかも知れない。

 男は無言で頷き、踵を返した。


「済みません!俺の仲間がモンスターとの戦闘中に死んでしまったんです……少しだけで良いので、遺品を探させてもらっても良いでしょうか?」


 黒服に声を掛けたのは泰志だった。

 それは時間稼ぎとかそういった物では無く、本心からの言葉だと思えた。


「申し訳ありませんが、それは出来ません。もし遺品を見つける事ができたら、必ずあなたに届けますので、今はお引き取り下さい……」


 黒服が喋る事はもう無いだろうと思っていたが、泰志の言葉に何か思う所があったのか、やけに丁寧な返事を返してきた。

 華菱慎二の部下という事で警戒していたが、こいつ自身は結構良い奴なのかも知れない。


「行くぞ泰志」


 残念がる泰志の肩を叩き、帰るように促す。

 酷い奴だと思われるかも知れないが、これ以上ここに留まる事は黒服が許さないだろう。

 結局、俺達は全員でポータルに向かって歩いて帰る事になった。




「あなたは、黒服の事をどう見ましたか?」


 帰り道の途中で、冴羽がそんな事を俺に聞いてきた。


「どうって言うのは、戦力的な話か?」


 冴羽は俺の疑問に頷く事で答え、話を続けた。


「あれは華菱慎二の持つ戦力の中核を担う者達です。黒服をどうにかしない限り、華菱慎二を捕らえる事は恐らく出来ないでしょう。あなたに彼らを抑えることは可能ですか?」


 俺にアイツらを抑える役ができるか聞きたい訳か。

 黒服の動きを思い出し、どれほどの能力があるのかを推測してみる。


「実際に戦った訳じゃ無いからなんとも言えないが、そう強い感じはしなかったな。ただ……」


 冴羽の問いに答えるとすれば、それは出来るといってしまって構わないだろう。

 黒服達の所作からは、武術の達人といった感じは受けなかったし、6号のようなひりつく威圧感も感じなかった。俺の感覚では、3人を一編に相手にしても問題ない程度にしか思えない。

 ただ、アイツらからは、何かおかしな感じがした……

 その感覚が、黒服が不気味な存在だと俺に認識させてくるようだった。


「ただ、何です!出来るのですか!」


 冴羽が、言葉に詰まった俺に詰め寄ってくる。


「シロお前はどう思った?」


 冴羽が必死すぎて怖かったので、シロの声を聞かせて落ち着かせる事にした。単に俺がシロの見解を聞きたいというのもあったが……


「そうですね……レベルで言うのならば、新庄より上という事は無いでしょう。それでも、戦うというのならば気をつけた方が良いですね。あの者達には、何にかおかしな感じがありました。なんと言えばいいか表現しにくいですが……存在が薄い━━そんな感じですかね」


 そう、それだ!

 あれだけ強烈な個性を持っていたのにも関わらず、存在感が薄い感じがした。もし俺が幽霊を見る事が出来たら、同じような感覚を受けるかも知れない。

 まさか、アイツらは本当に幽霊で、攻撃がすり抜けるって事は無いよな?

 何か背筋が寒くなってきた……


「結局は、どうなんですか?」


「まあ、実際にやり合ってみないと分からないな」


 俺がそう答えると、冴羽は機嫌を損ねたのか、それ以降は話し掛けてこなくなった。




 ポータルに近づくと、亮と真由の姿が見えてくる。

 こいつらも退去するように言われた筈だが、ポータルの前で待機していたようだ。上司の冴羽の指示が無いと、動くに動けなかったのだろう。

 黒服も、この位置で待機する事は許したのかも知れない。


「新庄さん遅かったですね。ずっと、待ってたんですよ?」


 真夏が居ないのを良い事に、真由が俺の腕に組みついてくる。

 しかし、俺にはコイツの相手をする気力はもう残っていない。一刻でも早く帰る為に、真由を引きずりながらポータルに近づく。

 ポータルの前に全員が揃うと、一緒に集会所前のポータルまで転移する事になった。


 転移が完了すると、見慣れた街の風景が目に入ってくる。

 ボロボロの俺を見て数人ほど街の住人が振り向くが、そんなに珍しい光景でもないのですぐに興味を失い、人混みに紛れていった。

 空を見上げると、西の方角が赤みを帯び始めている。いつの間にか夕方になっていたようだ。

 ひとつため息をつき、俺は早速帰宅する事にした。

 

「冴羽、俺はもう帰るぞー」


 それでも、雇い主には一応断りを入れておく事にする。礼儀ってやつだ。

 

「ええ、構いません。また声を掛けると思いますが、その時は宜しくお願いします」


 社交辞令のテンプレみたいな返事が返ってくる。冴羽は緊張から解放されて一気に疲労が押し寄せたのか、フラフラしていて今にも倒れそうだった。


「冴羽さん!大丈夫っすか?」


 見兼ねた亮が冴羽に肩を貸す。年下の男に情けなく介抱される冴羽は、それはそれで見ものだったが、それを笑う気力も残ってやしない。

 俺が自宅に向けて歩き始めると、真由は名残惜しそうにしながらも腕を離してくれた。

 流石に、そのまま着いてくるほど非常識では無かったようだ。


「じゃあ、またな」


 帰り際に、泰志に別れを告げる。


「はい、お世話になりました。色々片付けたら、後日、新庄さんの所に伺いたいと思っています」


 俺は軽く手を振ってそれに答えた。

 泰志は深く礼をして俺を見送る。

 そこまでしなくて構わないのに、律儀な奴だ。

 

 泰志に修練する気があるのは、今の言葉で十分に伝わってきた。

 泰志の性格なら、本当にすぐに訪ねてくるだろう。

 でなければ、こいつと冴羽は多分死ぬ事になる。

 それだけ危険な事に首を突っ込んでしまったという事だ。

 その未来を回避するために、せいぜいしごいてやる事にしよう。

 とは言え、今はまず睡眠が必要だ。


 その後の記憶は、はっきり言って殆ど無い。

 何人かに声を掛けられた気がしたが、全部無視した。

 何とか家に辿り着き、ベットに倒れ込んだのだけは覚えている。

 あっという間に意識が暗闇に飲み込まれた。






 ドンドンドンドン!


 ドアが叩かれる音が聞こえた気がする。

 凄まじい眠気に襲われ、体を動かす事ができない。

 意識が薄れて、遠のいていく……


 ドンドンドンドン!


 あ゛あ……うるせー……寝かせてくれ……

 こっちは、疲れてんだよ……


 ドンドンドンドン!


 ……………………


 ドンドンドンドン!


「うるせー!寝かせろつってんだろーが!」


 あまりのしつこさに、ブチギレて叫んでしまった。

 それは部屋の前にいる奴にまで聞こえた筈だが、今だにドアを叩く音は止まらない。

 我慢ならず、ぶっ飛ばしてやろうと思い、部屋の入り口まで移動してドアを開け放った。


「うるーんだよ!ぶっ飛ばすぞ!」


 開け放ったドアの前には、血まみれの男が今にも倒れそうな感じで立っていた。


「やあ……新庄くん……昨日ぶりだね……」


 目の前の事態に理解が追いつかず、俺はドアを閉めて、一旦見なかった事にした。

 きっと夢に違いない……

 

 再びドアが叩かれ、声が聞こえてくる。

 やっぱり、夢じゃないか……仕方なくドアを開けてやる事にした。


「酷いことするねよねキミは……知らない仲じゃないんだし……助けてくれてもいいだろ?」


 部屋の前にいたのは、傷だらけでボロ雑巾のようになっているフレッドだった。

これにて四章終了となります。

楽しんで頂けたでしょうか?

もし気に入って頂けましたら、ブックマーク、評価などをして頂けたらありがたいと思います。


少し書き方を変えたりもしましたので、お気楽に感想なども頂ければ嬉しいです。

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