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新太平洋大陸  作者: 双理
四章 混ざり合う陰謀
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黒スーツには気をつけろ!1

 地上に出た途端、強い日差しが俺を襲ってくる。目を細めて、日差しに慣れるのを少しの間だけ待つ。

 その間に、泰志が冴羽を抱えながら穴の中から飛び出してきた。


「泰志、悪いがそのまま冴羽を抱えて移動してくれ。すぐにここから離れるぞ」


 泰志は直ぐに冴羽を下ろそうとしたが、俺はそのまま抱えているように指示する。


「了解です。でも、何故ですか?」


 地下で俺達の話を聞いていなかった泰志は、何で俺が急いでいるのか理解してないようだった。

 冴羽が説明するかと思ったが、今はまたしても恐怖で動けなくなってしまい、銅像のように固まって完全に使い物にならなくなっている。


「時間を稼ぐ必要がある」


 どうやってかは、まだ考えつかないけどな……

 簡単過ぎる説明だったが、それでも泰志は頷いて理解を示してくれる。


 本社の探索者はポータルの方からやって来る筈なので、俺はまずそちらに向かって移動する事にした。どんな手段を取るにせよ、時間稼ぎをするのならある程度近づく必要がある。

 

 泰志は冴羽を抱えながらも、遅れる事なく俺の後に着いて来た。

 全速で移動してる訳じゃ無いが、通常の探索者にとっては十分に速いと言える速度は出している。


「お前、今レベルは幾つぐらいだ?」


「40を超えましたけど……新庄さんはどうなんですか?」


 何となく聞いただけだったが、返ってきた答えは俺を驚かせた。

 確か初めて会った時は20そこそこだった筈。この短期間で倍にしたとなると、相当無茶なレベル上げをしたというのが分かる。

 こいつもだいぶ苦労してんな……昔の自分と重ねてしまい、何となく同情心が湧いてくる。


「さっき、レベル5になった所だ」


 だいたい数字ではあったが正直に答えてくれた泰志に対して、俺は本当の事を伝える事にした。


「……ずるくないですか?俺にだけ言わせるのは」


 まあ、そうなるよな……

 

「嘘じゃねーよ。お前にその気が有るならまた鍛えてやる。その後なら俺が本当の事を言ってるって分かるだろーよ」


 先程までの態度から、泰志は冴羽に着いていくと決めたように思える。

 これからも冴羽に関わると言うのならば、今のこいつのレベルでは正直厳しいだろう。

 あのダンジョンに一緒に挑んだ華菱の探索者で、生き残っているのは泰志だけになってしまった。出来れば泰志には死んで欲しくは無いと思っている。

 既にこいつには本気で戦闘した姿を見られているし、俺の強さが通常のレベルの範疇を超えているのは薄々勘づいているだろう。

 俺は、泰志にならば真のレベルの事を教えても構わないと思い始めていた。


「よく理解できませんが、その時はよろしくお願いします」


「ああ、任せろ」


 泰志とこんな会話をしたのは、余りにも陰鬱な展開が続いたからかも知れない。

 少しでも善行を行えば、この悪い流れを断ち切れるのでは無いか━━そんな浅はかな考えからの行動だった。

 気晴らしの為に、泰志を利用したのか思うと自分自身に嫌気が差してくる。

 どうにも、思考の切り替えが上手くいかない。 

 今は暗い方に思考が偏っているだけだ━━そう自分を無理やり納得させ、俺は移動に集中する事にした。




「人の反応が三つ、近づいてきます」


 シロが人の接近を知らせてくる。

 今まで随分と剥れて押し黙っていたが、いざと言う時はこうやって手助けしてくれるのだからありがたい。


「了解だ。地下施設からは十分離れた。ここら辺で十分だろ」


 俺が走るのを止めると、泰志もそれに倣って足を止める。

 俺の索敵スキルにはまだ反応が無い。それは相手も同じはずなので、こちらの位置はまだ捕捉されていないだろう。

 別に戦う訳じゃ無いが、こちらが有利な状況。何か仕掛けるとしたら今しかない。


「お前ら、何か時間を稼ぐ良い方法を知らないか?」


「そんなの、急に聞かれても出てきませんよ」


 はい、次!


「元の力があれば精神操作で穏便に事を運べますが、今の私では無理ですね」


 シロも駄目か。

 残るは冴羽だが……まだ泰志に抱えられたまま固まってやがる。

 ……どうりでずっと静かだった訳だよ。


「冴羽!何か案はあるか!」


「え?もう、怖いのは終わったの?」


 クソッ、まだポンコツになってやがる。


「しっかりしろ!時間稼ぎの案はあんのかって聞いてんだよ!」


「えっ、あっ、そうですね……戦闘が目的ではありませんから、寧ろ注意を引いてこちらに誘導すれば、相手によっては私が話をする事で時間が稼げるかも知れません」


 なるほど、話をして時間を稼ぐって手もあるか。疲労のせいか、そんな事すら思い当たらなかった。だとしたら、下手に動かずに接触した方が良さそうだが……


 いや待て!

 よく考えれば、外部の人間である俺が既に華菱の施設の敷地に入り込んでいる訳なんだが……それは何とかなるのか?


「なあ、俺とシロは逃げた方が良くないか?」


「どうですかね。もしも私があなた方をこの施設に招き入れたという情報が漏れていた場合、逆に危険になるかも知れません」


 救助された奴の中に、俺の姿を見た奴がいてもおかしくは無い。そこから情報が漏れる可能性は十分に考えられる。ならば、いっそ下手に逃げたりせずに堂々としていた方がいいのかも知れない。

 後は冴羽の話術頼みになるが……

 今になって、ようやく冴羽が泰志の腕から地面に降り立つ。その足はまだ震えていて、バランスを崩してコケそうになっていた。

 コイツを信用していいのか?


 索敵スキルに反応が現れる。反応の数は三つ。シロが言った通り間違いなく3人だ。


「索敵に掛かった」


「では、相手もこちらに気付きましたね。通り過ぎないように、どうにかして引き付けて下さい」


 引き付けろと言われても、どうしたらいいものか……もう少し時間が欲しい所だが、もう考えている暇は無い。

 クソッ!要は見過ごせない状況を作ればいいんだろ!

 だったら━━


「力尽くでいくぞ!」


 俺は地面に落ちている拳大の石を拾い上げて、ほぼ廃墟と化している建物に向かって力一杯投げつけた。その石は猛烈な速さで飛び、次々と廃墟の壁を貫通していく。

 僅かな間を置いて、幾つかの建物がその後を追うように順々に崩れ去っていった。

 建物が崩壊する音が鳴り響き、地面が揺れると同時に大きな土煙が立ち上る。


 ………………良し!これだけ派手にやれば嫌でも目に入るだろ!


「やり過ぎじゃ無いですか?」


「これ位の方が、強いモンスターと戦ってた感じが出るだろ」


「つまり、まだモンスターと戦っていた事にする訳ですね。それは良い考えかも知れません。元々そのために貴方をここに招いた訳ですから」


 そうだったな━━今思えば、俺はモンスターを倒す為にここに来たんだった。

 それが、何でこんな事になってやがるのか……


「掛かったようです。3人共こちらに向かってきます」


 どうにか、バラけさせずに誘導する事には成功したようだ。

 まずはひと安心といった感じだ。


「冴羽、後は任せるぞ」


「分かってます。くれぐれも怪しまれるような行動は控えて下さい」


 それは俺に言ってんのか?

 今まで散々醜態を晒してたくせに、偉そうなに言ってんじゃねーよ……文句を言ってやりたかったが、3人の姿が見えてきたのでそれは諦める。

 近づいてきた奴らは、全員が同じ黒いスーツを着ていて、サングラスを掛けていた。その姿は一見すると探索者には見えないが、その身のこなしを見るとコイツらで間違いはなさそうだ。

 体格のいい男と、猫背のひょろ長い男が先を走り、その後ろに黒髪のショートカットの女が追い掛けている。


「黒服ですか……拙いですね」


「何が拙い?」


「華菱慎二直属の護衛部隊です。まさか、黒服が動くとは思っていませんでした。何度か見た事はありますが、話をした事はありません。時間稼ぎが出来るかは正直微妙ですね……」


 どうやら、いきなりピンチらしい。

 だが、既に互いの姿を視界に収めている状況なので、今更どうしようもない。俺は、間に合わせで腰にぶら下げている華菱製のナイフに手を添え、取り敢えず警戒する振りでもしておく事にした。

 黒服たちは三角の陣形を保ったまま俺達の前まで走ってくると、少し距離を置いた位置でその動きを止めた。

 体格のいい黒服が一度だけ俺達の方を見回すと、冴羽の方に無造作に近づいて来る。恐らくコイツがリーダーだ。

 その動きを見て泰志が間に入ろうとするが、冴羽はそれを手で制して後ろに下がらせた。護衛の演技としてはそんなもんで十分だろう。


「貴方が冴羽支社長ですか?」


 低く野太い男の声。特に威圧感は感じられず、ただ質問をしているといった感じだった。

 その様子から、すぐに攻撃される事は無さそうだと思えたので、まずは上々な滑り出しといった所だろう。


「ええ、そうです。まさか本社から黒服のあなた方が派遣されてくるとは思いませんでしたが、助かります。見ての通り、人手が足りていませんから……」


 そうそう、俺の肩の上で寝た振りをしているシロを見てくれよ。こっちは子犬の力まで借りてんだ。説得力が違うだろ?

 思わずそんな下らない事を考えてしまった。

 まあ、それは冗談として……この広い敷地で、殆どの建物が崩れているのを見れば、いくら人手があっても足りないのはすぐに分かるだろう。


「横に居る男が、貴方が雇ったという探索者で間違いありませんか?」


 男は俺を一瞥した後、冴羽の言葉に被せるように次の質問してきた。

 どうやら冴羽が杞憂していた通り、既に関係者では無い者が施設内に入り込んでいるのは把握しているようだ。

 冴羽が雇ったという所まで知っているとなると、亮か真由が話したのかも知れない。これは冴羽が口止めし忘れたと言うよりは、2人に疑惑の目が向かないように敢えてそうしたように思える。


「ええ、そうです。他に3人いましたが、疲労で動けなくなったので先に帰らせました。何か問題でも?」


 冴羽は黒服を睨みつけ、最後には吐き捨てるようにそう言い放った。

 言葉を被せてきた男の態度が気に入らないと、そんな感じで挑発して言い争いに持ち込むつもりのようだ。

 俺は泰志に余計な口を挟まないように目配せをしつつ、またかといった感じを出して首を横に振って見せた。


「この施設が第三者の立ち入りを禁止しているのは、ご存知かと思いますが?」


 だが、男は挑発に乗ってこず、冷静な態度で切り返してきただけ。

 護衛として働いているだけあって、かなり理性的な男のようだ。この相手では、挑発して話を長引かせるのは無理だと思える。


「防衛の探索者が全滅したので、急いで戦力を確保する必要がありました。仕方のない処置だったのです」


 冴羽も俺と同様に感じたのか、挑発するのをやめて事実を話す事にしたようだ。

 嘘はついていない。ただその裏にあった目論みまでは話してはいないが……

 

「理解はしています。ですが規則ですので、今後はこのような事が無いようにお願いします」


「当然です。今回のような緊急事態でなければ、私としてもわざわざ外部の探索者を使ったりしませんよ」


 どうやら、俺の事はお咎め無しで済みそうだ。そして、ここから戦闘に発展する事も恐らく無いだろう。

 後は、どれだけ冴羽が話を長引かせるかだが……


「では早速、彼には退去して頂きたいのですが━━」


 それも、ここまでか……フレッドが逃げ切るまでにどれ位の時間が必要なのか分からないので、これで充分なのかが判断できない。

 冴羽は色々言い訳をして話を長引かせようとするが、余りやり過ぎると逆に疑惑を持たせる事になる。この辺が潮時だろう。

 それでも、俺には後ひとつだけやれそうな事がある。


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