混ざり合う陰謀13
「この子の事を知っているのですか?」
6号の顔を知らない冴羽は、俺とフレッドの態度に疑問を持ったようだった。
「いや、知らない子供だけどな……似てんだよ、6号に……」
「これだけ似ちゃってると、実子なのかはともかく、赤の他人とは思えないよね……」
余りにも6号に似ているその子供は、はっきり言って俺には奴の子供としか思えなかった。それならば、この施設を襲ったのも頷ける。
6号からは子供がいるという印象を全く受けなかったので、こんな事になるとは想像もしてなかった。
「華菱慎二が6号の子供を人質にとっていたという事ですか……有り得なくは無いですが……」
どうやら、華菱慎二はそんな事をしでかすような人物ではあるらしい。
それにも関わらず、冴羽は何か納得できていない様子だった。
「どうした?何か気になる事があるのか?」
「これは、ここで行われていた実験の被験体リストなのです……」
ある程度予想はしていたが、やはりそういう事になるか……
━━華菱は、子供を使って人体実験をしている。
いざ、それが事実だと確定してしまうと、なんともやるせない気持ちになる。
それは冴羽も同じなのか、言葉を詰まらせ、その表情を曇らせていた。
「でも、人質を人体実験に使うってのはちょっと考え難いよね?」
冴羽が言葉に詰まったからか、フレッドが後を引き継ぐように話を切り出した。
コイツにとっては子供の事などどうでもいいのだろう。いつものふざけた態度のままだ。
その冷淡な態度に苛つきはしたが、言ってる事は間違っていない。
「それなら、順番が逆なんじゃないか?」
「被験体に選んだ子供が、たまたま6号の子供だったって事かい?」
それなら辻褄は合う気がするが……いや、流石に偶然が過ぎるか。
「それもちょっと考えられないかな。米軍基地を襲撃するような奴だよ。簡単に身内を拐われる様なヘマをすると思うかい?」
「私も同感ですね。記録によると実験が始まったのは3年程前になりますが、それ程の力を持つ人物が、子供を誘拐されてそんなに長い間放置する理由が有りません」
6号と華菱の間に繋がりがあるのは間違いなさそうだが、それがどんな物なのかが見えてこない。何か必要なピースが欠けている気がする。
改めてモニターをじっくり見ると『被験体N O.06』と記載されている。
「ナンバー06……6号か……」
アイツは名乗る時に、「その方がおもしろそうだ」と言っていた。
6号という名前は、華菱に対する当てつけだったという訳か……
「そんな単純な……もしそうだとしたら、6号は華菱の関係者って事になるよ。そうじゃないと、個人に割り振られた番号なんて知り用がないからね」
確かにそうだが、俺には何故かそれが無関係だとは思えなかった。唯の勘ではあるんだが……
氏名の欄には前澤明と書かれてある。前澤という名前が、アイツの顔に妙に馴染んでいる気がした。
「因みに聞くけど、どんな実験をやってたんだい?」
それが手掛かりになるとは思えないが、気掛かりな事ではある。まあ、知ったところで胸糞悪くなるだけだろうが……
「ざっと見ただけですが、どうやら魔石を人間に移植してその力を引き出すもののようです……」
「全く、人間というのは……随分と酷い事を考えるものですね……」
今まで沈黙して事態を見守っていたシロだったが、これには黙ってられなかったようだ。
それが、どんな結果を生み出すのかが分かっているらしく、見た目からは分かりずらいが、かなり怒っている。
「魔石を移植するとどうなるんだ?」
「私が貴方に聖霊力を流し込んだのと原理は同じですよ。上手くいけばレベルアップできますが、まともな制御も無くそれを行えば、魔力の流入に体が耐え切れず爆散してしまうでしょうね」
成程。あんなものに子供の体が耐えられる筈が無い。
それなら6号の子供は実験をされる前に、助けられたという事になるが━━
「そのようですね……実験台にされた子供は、この子を除いて全員死亡しているようです」
どうやら、そうでは無かったらしい。
生き残ったというのは喜ぶべき事なんだろうが、無理矢理あんな感覚を味わわされた子供には哀れさを感じてしまう。
「奇跡と言って構わないでしょうね。自分と同じ種族の子供をこんな目に遭わせるなんて……私には信じられません!」
余程腹に据えかねたのか、白は俺の肩の上でそっぽ向いてしまい、それ以上何も語らなかった。
奇跡━━果たして、前澤明という少年はそう思えているのか……
実験がどのようなものだったのか、それを想像する事しか出来ない俺には、それを判断する事ができなかった。
「それにしたって、何で子供を使うんだい?華菱の研究者は、ホントにサイコパスしかいのかな?」
「研究者を庇うわけでは無いですが、恐らく逆らえなかったのでしょう。これは華菱慎二が直接指揮しているプロジェクトのようですから……子供を対象にしたのには、一応理由があったようです。大人の探索者を使っては情報漏洩の可能性が跳ね上がりますし、予測以上の能力を手に入れられては叛逆の恐れがありますから、子供の内に洗脳を施してから、強化する事にしたようですね……」
碌なもんじゃねーな。そんなのが子供を実験台にする理由になってたまるかよ。
「成程、理解は出来るけどねー。ところで冴羽、その情報もコピーしてもらえるかな?」
フレッドは表情を変える事も無く、物のついでとばかりにそう言い放つ。
「フレッド!お前、ふざけた事言ってんじゃねーぞ!」
子供とはいえ、所詮は他人……その筈だった。
とっくにレベルアップの高揚感は抜けている筈なのに、俺は怒りの感情が抑えられず、感情のままに叫んでいた。
自分の中にそんな感情があった事に驚く。
これでは真夏みたいだな……いつの間にか、俺はあいつに感化されていたようだ。
「そう熱くなるなよ新庄くん。ウチの組織は子供相手にそんな酷い事をしたりはしないよ。なんせ、強くなれるって言うだけで、志願してくるような命知らずが山ほどいるからね」
フレッドははっきりとは口にはしなかったが、恐らく米軍の軍人の事を言ってるのだろう。
確かにそんなイメージはあるが、実際に命を懸ける奴がいるのかは疑問だった。
自国の兵隊を強化出来る技術━━フレッドとしてはモンスターを作る技術と同じく、何としても手に入れたいもものの筈だ。とてもじゃないが信用できない。
「それに、これは冴羽が望んでいた情報でしょ。子供を使った人体実験。ボクには華菱慎二を失脚させるのに充分なものだと思えるけどね。この情報があれば、ボクとしても上層部を説得しやすくなるけど。どうする?」
フレッドの提案は、反論の余地が無いものだった。
選択を迫られ、冴羽が長く考え込んだ。
「……………………分かりました……この情報も渡しましょう……」
冴羽は何とか絞り出したといった感じで、苦しそうにそう返事をした。
いや、正確にはフレッドにそうするように誘導されたと言うべきだろう。
冴羽もそれは分かっていただろうが、それでも華菱慎二を止めることを選んだようだった。
下手したら、華菱という一企業の規模で済んでいた事が世界中に飛び火するかも知れないような話だ。もしこれで米国が暴走する事になったら、冴羽は一生後悔し続ける事になるだろう。
「これは……」
「どうやら時間切れみたいだね」
索敵スキルの反応から、泰志が動いたと分かる。
「どうしました?」
「泰志が地下に降りて来た。本社の奴が来たら連絡があるんだろ。多分そういう事だ」
広い敷地の中ですぐにこの場所を特定できるとは思えないが、いずれはその本社から派遣された探索者の索敵スキルに引っ掛かってしまう。
今は疲労の極致なので、戦闘になるのは出来るだけ避けたい。こんな所にいては言い訳のしようも無いので、一刻も早くここから脱出しなければならなかった。
「冴羽、データのコピーは終わってるのかい?」
「C R Mの方は終わりましたが、人体実験の方は今からです」
「クソッ、時間が足りないか……どうする?」
データのコピーにどれだけ時間が掛かるか分からないが、さっきのを見た感じでは一瞬で終わるという事は無さそうだった。
「ボクならギリギリまでここにいてもバレないから、君たちが時間を稼いでくれれば何とか間に合うかも知れない」
「……それしかないか」
どうやって時間を稼ぐかという問題はあるが、代案も思いつかないのでフレッドの作戦に乗る事にする。
そんな中、冴羽がアイテムボックスから別の外部ストレージを取り出した。今パソコンに接続されているものを取り外すと、もう一つの方を取り付けデータをコピーし始める。
「では、CRMの方は私が持ち帰ります。フレッドさんはそちらのコピーが終了したらそれを持って直ぐに離脱してください。後で合流しましょう」
「上手い事考えるねー。口論してる暇はなさそうだし、それで行くしか無いかな」
確かに上手いやり方だ。
これなら、フレッドが情報だけ手に入れて逃亡してしまう事を防ぐ事ができる。
「冴羽さん!本社の人が来たと連絡がありました!」
泰志が合流して、状況が確定した。もうそれ程猶予はない。
「分かってます。すぐにここから出ましょう」
「よし行くぞ!」
シロが再び俺の肩に飛び乗り、脱出の準備が整う。まだ機嫌は直ってないようだが、状況は理解しているようで協力はしてくれそうだ。
冴羽を抱える役は泰志に任せる事にした。こんな逼迫した状況で、またあんな脱力させられる事態は御免だからだ。
急いで縦穴がある場所に戻り、各階の残っている床を足場にして一気に地上まで駆け上がる。




