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新太平洋大陸  作者: 双理
四章 混ざり合う陰謀
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混ざり合う陰謀7

「結、仕掛けるぞ!」


「待ってたです!任せるですよ!」


 ちまちまと攻撃する事にうんざりしていたのか、結が嬉しそうな表情を浮かべる。無駄にバック宙で攻撃を回避している所を見ると、体力的にはまだ余裕がありそうだ。

 それに、結が戦闘を受け持っている間に俺と真夏もひと息つく事が出来たので、多少は疲労が回復している。

 全員で本気で仕掛けるとしたら、今が最後の機会かも知れない。


「俺が正面で注意を引く。ふたりは後ろに回って攻撃してくれ。反撃と武器の残量には注意しろよ!」


 近接戦を仕掛ける上で、最も反撃を受ける可能性の高い正面を俺が受け持つ。

 他のふたりでは、防御した際に武器を破壊されてしまい、ダメージを受ける事になりかねないからだ。

 ここからは全開で攻撃する事になるだけに、回避に重点を置いていた今までとは違い、反撃を受ける可能性が跳ね上がる。一撃が重く、致命傷を受けることもあり得る敵だ。

 極限まで集中力を高める必要があった。


「「了解!」」


 ふたりの返答を受け、俺はまずキメラの注意を引く一撃を与える為に、側面から接近した。

 結に気を取られているキメラの横顔をナイフで切りつけ、そのままキメラの正面に移動する。その隙に、結がキメラの視線から外れるように後ろに回り込んだ。

 キメラが俺を睨みつける。結から俺にヘイトを移す事に成功したようだ。実に頭が悪い化物だ。

 今まではここで一旦引いていたが、更にダメ押しの追撃を加えると、キメラはその手を伸ばして俺を掴もうとしてきた。

 よし、掛かった!


「遅い!」


 それは初めて見せる行動だったが、やはり身体的な欠損が足を引っ張っているのか、その行動は余裕で回避出来る程度の速さだ。

 その隙をついて、結が巨大な馬体に、真夏が細い後ろ脚にそれぞれ攻撃を加える。

 真夏のハンマーの一撃は、重心が乗った細い後ろ脚を簡単に折ってしまうような勢いだったが、そうはならない。結の斬撃も僅かに馬体を傷つけるだけだった。


「ギア゛アアーー!」


 モンスターの叫び声が響き渡る。

 閃光を出すのかと警戒したが、キメラは閃光を放つ予備動作に入る事は無く、結と真夏がいる後ろを振り向こうとした。どうやら今のは、怒りからくる咆哮だったようだ。

 俺はすかさずナイフでその顔面をナイフで切り付ける。

 だが、柔らかそうに見える毛皮から返ってくるのは、鉄を切りつけたかのような硬い感触。

 

「おいおい、どこ向いてんだよ!」


 大してダメージを与えたとは思えず、挑発をかますと、キメラは再び俺に視線を戻した。

 そう、それでいい━━このまま、俺が注意を引き付けて、後ろに回り込んだふたりが全力で削る。

 だが、俺も攻撃の手を緩める気はない。キメラが後ろ脚一本で立ち上がるような仕草を見せ、踏みつけの体制に入る。その踏みつけを僅かに横に体をずらし、最小限の動きで回避してカウンターの一撃を加える。

 馬の蹄が通る風圧を真横に感じたが、大きく躱しては反撃の機会を失うし、体力の無駄になる。


「イ゛ア゛ア゛アアアアーーーー!!!!!!」


 脚を付くと同時に咆哮。

 今度は口元が光るのを確認した。


「来るぞ!」


「「了解!」」


 ふたりには警告して下がらせたが、俺だけはキメラに接近したまま攻撃を加える。閃光を放つ前の溜め時間も無駄にはしない。

 キメラが身動きできない間に、一撃二撃と攻撃を加えていく。

 この間、真夏と結は攻撃を控える。ターゲットが分散してしまうと、回避が困難になるからだ。この攻撃だけは、間違っても貰う訳にはいかない。

 更に数撃加え、そろそろというタイミングで右に回避━━


 ズドォーーーーーーン!!!!


 爆音と共に閃光と大きな衝撃が俺の真横を通り過ぎ、その風圧で大きく体勢を崩された。

 回避には成功した筈だったが、左腕に痺れを感じる。衝撃の余波で少しダメージを受けたようだ。

 キメラを確認するとそちらもまた体勢を崩しており、ここぞとばかりに真夏と結が全力で攻撃を加えていた。

 だが、余りにも力を込め過ぎた為か、武器が破損してしまう。ふたりが一旦距離を取り、アイテムボックスから予備を取り出すと、キメラは体勢を立て直していた。


「結、ヒールをくれ!」


「むむ、了解です!」


 結が俺の元に駆け寄り、ヒールを掛け始めた。左腕の痺れが引いていくのが分かる。

 結がヒールを掛け終わると、俺は腕を軽く動かしその感触を確かめた。よし、問題無い。

 ヒールを掛けてもらうのは少し大袈裟だったかもしれないが、キメラの正面に立ち続ける為には万全を期しておきたかった。


「先輩、大丈夫ですか?」


 真夏はキメラの相手をしている為、視線をこちらに向けれずにいた。その声色には俺に対する心配の念が滲み出ている。


「ああ、問題ない」


「良かった……」


 真夏はそう呟くと、再び戦闘を加速させた。

 ハンマーを華麗に操り、舞踊を舞うかのように華麗にモンスターを攻め立てる。その動きに見惚れそうになったが、そうも言ってられない。

 ハンマーという武器は威力こそ高いが、遠心力が大きくかかる分、ある程度動きが制限されてしまう。いかにバカなモンスターが相手とはいえ、そこを突かれては反撃を受ける可能性が俺や結より遥かに高い。

 俺は再びキメラの注意を引く為に、その巨体に向かって走り出した。




 どれ程攻撃を繰り返しただろうか━━もう、体感で1時間は経過している気がする。

 だが、集中している中での時間感覚など当てにできないので、実際にはどうなのかは分からない……


「ハァハァ……だいぶ削ったと思うが……」


 少しずつ息が上がり始め、全力で攻撃し続けるのには限界が見えてくる。

 だが、キメラもだいぶ傷付いているようなので、その甲斐はあったと言える。少し前から馬の前脚を引き摺り、躰中から黒い体液を垂れ流して地面を濡らしている。

 ん?……地面が濡れている?

 モンスターが血痕を残す━━そんな一見すると普通の事に、俺は強烈な違和感を覚えた。

 例え血液の一滴だけであっても、モンスターがその躰を構成する物を残す事は無い。本体から離れた時点で、光の粒子になって消え去る筈だ……


バキン!!


「先輩、次が最後の武器です!」


 真夏の報告で、その考えは中断させられた。


 どうやら、最も早く限界がきたのは武器の残量だったようだ。結の方はショートソードというメジャーな武器だけにまだ残量に余裕があるかも知れないが、それもそう多くはないだろう。

 少しの間、今後の方針を考える為に戦闘を離脱したい所だが、全員が消耗してきている分、俺が一時的に抜けるのは危険だと思えた。


「仕方ない、少しだけ手を貸すよ」


 フレッドが俺の横を通り過ぎていった。


「おま、バカ!」


 フレッドのレベルがどれ程の物なのかは知らないが、この世界のレベルで対抗できるモンスターでは無い。

 俺の制止する声を聞かず、フレッドは静止する間もなくキメラに突っ込み、あっさりと猿の手の横なぎの一撃を喰らってしまった。

 だが、次の瞬間その姿が消え去り、別のフレッドが姿を現す。それで、俺は今のフレッドが幻影であった事を理解した。


 ポンと俺の肩に手が置かれ、振り返ると、そこにはまたしても別のフレッドがいた。

 更に俺の横をすり抜けるように2体のフレッドが駆け抜け、モンスターに襲い掛かる。そのフレッド達が、キメラに拳で殴りかかると確かな打撃音が響いた。

 だが、その攻撃の効果は薄く、キメラの次の反撃で向かっていった奴らが全滅してしまう。

 俺には、どいつが本物のフレッドなのか見分けがつかなかったが、その姿が消え去った事でそいつらが全員、幻影だったのだと分かった。


 そうなると、俺の横にいる奴が本物なのかと思ってその表情を伺うが、それも疑わしいもんだ……


「時間稼ぎはしておくから、休むなり武器の補充をするなりしてくれよ。まあ、僕の今の魔力残量じゃ、保っても15分って所だけどね」


 どんな心境の変化があったのか、フレッドが俺たちの手助けする気になったようだ。

 だが、フレッドの打撃は効果があるとは思えない程度の物だった。本人の言う通り時間稼ぎにしかならないだろう。


 それにしてもコイツのスキル、攻撃がヒットするという事は幻影では無いって事なのか?

 いや、幻影を魔力で作り出しているなら、魔法と同じでダメージを与える事が出来るって事も考えられるか……


「新庄、フレッド本人はこの場にいません。フレッドがやられる心配はありませんから、ここは彼に任せましょう」


 シロは俺が動きを止めたのを見て、フレッドの心配をしていると勘違いしたようだ。


「真夏、結。一旦、待機場所まで戻るぞ!」


「「了解!」」


 フレッドに借りを作るのは嫌だったが、少しでも時間を稼いでくれるのはありがたい。

 今はフレッドの言葉に従う事にした。





 泰志が居る待機場所まで戻ると、結が崩れ去るようにその身を大地に投げ出して寝転がった。


「あ゛ああーー!キッツいですー」


 開口一番、そんな事を言い出す。

 余りにはしたない姿だったが、それでコイツの体力が少しでも回復するなら、今は目を瞑る事にしよう。


「フレッドさんのおかげで、助かりましたね……」


 一方、真夏の方は寝転んだりはしなかったが、その場で座り込んでしまう。どうやら、集中力が切れて疲労が押し寄せてきたようだ。

 その姿を見かねた泰志が、俺達に水の入ったペットボトルを配ってくれる。それを一気に飲み干すと、俺達は早速状況の確認に入った。

 休んでいられる時間は、そう多くはない。


「結、武器の残量は?」


「今使ってるのも合わせて、後4本です」


 やはり、結の方も心許ない残量だ。


「泰志、武器の補充は可能なのか?」


「いえ、駄目ですね。一発で壊れてもいい物ならいくらでも準備できますが、あのモンスターとの戦闘にある程度耐えられるものとなると、難しくて……」


 更に、既に集めていた武器は、弥生と一緒に消えてしまったという訳か……

 泰志もその事に思い至ったのか、表情を曇らせている。

 しかし、今は死者に思いを馳せる時間は無い。武器の補充は見込めないとして計画を立てるしか無かった。


 だが、どうする?

 真夏の武器の在庫は既に尽きている。

 一時しのぎで結のショートソードを数本渡すとしても、それを実戦でいきなり使いこなせるとは思えない。得物を変えると言うのは、そんな簡単に出来る事じゃ無いからだ。


 そもそも、ある程度そうやって賄ったとしても、全部の武器が破損する前にキメラを仕留め切れるのか?

 キメラの弱り方を見るに、その可能性は低いと思える。


 いっそ、鬼神を使って仕掛けてみるか……


「先輩。あのスキルは、使わないでください……」


 勘が働いたのか、突然真夏がそんな事を言ってきた。

 俺は思考を読まれたのかと思い、驚いて真夏の方に振り返る。

 すると、真夏が悲しそうな表情で、俺の顔を見上げていた。


「先輩の考えそうな事ぐらい分かりますよ……シロちゃんがあのスキルは危ないって、言ってたじゃないですか。例えそれでモンスターを倒せても、先輩がまたボロボロになるのは……私は嫌です……」


 嫌ですと言われても、キメラを倒すには残存する武器でギリギリまで削り、鬼神を使って倒し切るしかないように思える。

 後はもう全てを投げ出して逃走すると言う手もあるが、今更真夏がそれを支持するとは思えない。


 あれこれ考えている内に、結論が出ないままフレッドが約束した時間が迫ってくる。

 打開策が見出せず、焦りだけが募っていく……



『力が欲しいか……y/n』


 それは予期せぬ出来事だった。

 俺達の前にステータスウインドウに似た画面が急に現れ、そんなメッセージが表示されていた。

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