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新太平洋大陸  作者: 双理
一章 無謀な依頼
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無謀な依頼3

「おい無口!盾役が簡単に後ろに下がんな!」


「イケメンも位置取りを考えろ!前衛が崩れんぞ!」


「後衛は早くサポートして立ち直らせるんだよ!」


 ダンジョン攻略を初めて3日が経ったが、その進捗具合はあまり芳しくなかった。

 原因は単純に経験不足だ。

 華菱の探索者達はレベルこそ高かったが、全員が探索者になって2年くらいと圧倒的に経験が足りていなかった。

 

「魔法で援護してやれよフリル!」


「ギャルもヒーラーだからってぼさっとすんな!バフは切らすなよ!」


 今はダンジョンの入り口付近で、連携を取れるように指導しているところだった。

 役割を分けその動きを教え込んでいるのだが、はっきり言って全くダメだ。

 前衛に、長剣を持ったイケメンと大楯を持つ無口を配置している。

 ギャルは貴重な回復スキル持ちだった為、後衛にいる。

 フリルもまた貴重と言える攻撃魔法を覚えていた為、こちらも後衛に配置していた。

 どうやら炎系統の魔法を使うようだ。

 問題なのがメガネで、こいつは器用貧乏というかよく分からないスキル構成をしていた。

 一応中衛において前衛と後衛の繋ぎのような事をさせているが、難しい位置なので全然役割をこなせていない。


「先輩、私たちも手を貸した方がいいんじゃ……」


「別に大丈夫だろ。レベルだけは無駄に高いんだ。死にはしない」


 俺の言葉通り、ひよっこ達はなんとか盛り返す事ができ、モンスターを殲滅する事に成功した。

 華菱の探索者達は今の戦闘で疲れ切ったのか、地面に突っ伏して休み始めた。


「終わったからってまだ気を抜くなよ。メガネ!索敵わすれんな!」


「すみません!……周りに敵はいません」


 息を切らしながらもなんとか返事が返ってくる。

 もはや、指一本動かせない有様だった。


「……やりすぎでは?」


「そう思うか?」


 確かに、モンスターと20連戦はやりすぎたかもしれん……

 だってコイツらが全然連携できないからしょうがないだろうが。

 死ななきゃ別にいいだろ?


「まあ、今日は一旦引き上げるか……」


 俺達は暫くひよっこ共の回復を待ってから、ダンジョンを後にした。



 俺達がダンジョンを出ると、冴羽が待ち構えていた。

 

「彼らはどうですか?」


「まあ、最初に比べれはマシになったんじゃないか」


 ダンジョンからようやく這いずり出た探索者達を見て、俺はそう答えた。

 今は、ダンジョン前に作ったベースキャンプで休んでいるところだった。

 真夏が奴らの世話を焼いているのが見える。

 律儀なやつだ。


「そろそろ、攻略に取り掛かって頂きたいのですが」


「分かってる。俺だってこんなもんにいつまでも付き合いたくねーんだ」


 そもそも、そっちが用意した奴らが使えないのが悪いんだろーが。

 

 俺たちが今挑んでいるのは、街から20kmぐらい離れている洞窟型のダンジョンだ。

 その中は広かったが足場が少し悪い。

 最も問題なのが、暗いということだった。

 全員に暗視のスキルを取らせて対策はしたが、正直コイツらを連れてダンジョンを攻略できるかは疑問だった。

 華菱の調査の結果このダンジョンが攻略に適切だろうという事だったが、俺にはそうは思えない。

 いったい、どんな調査をしてんだよ。


「今日はもう終わりだ。アイツらももう動けなさそうだしな」


「そのようですね。全く不甲斐ない」


 日が暮れ始め、華菱のサポート役達が夕食の準備を始めていた。

 それが出来上がる頃になると、探索者達はようやく復活したが食事を終えると早々に眠りについてしまう。

 真夏も奴らの世話に疲れたのか、今はテントの中だ。


「あなたは、まだ休まなくていいのですか?」


 俺がひとりで酒を飲んでいると、冴羽が声をかけてきた。


「俺はそんなに動いてないからな。でも、そろそろ寝るとするか。明日から本格的にダンジョンに潜るからな」


 この3日間、出来るだけ華菱の探索者達に動き方を叩き込んできた。

 後は、実戦で身につけた方が早いだろう。

 これ以上仕込むとなると、年単位で時間が掛かってしまう。

 そこまでコイツらに付き合う義理はない。


「ようやくですか。期待していいんですね?」


「それはダンジョン次第だろ。俺はダメだと思ったら迷わず逃げるぞ」


「それは!……そうですね。そういう契約です。仕方ありません」


 冴羽は俺の言葉に反論しようとしたが、思い直したようだ。

 しかしこの女、ダンジョン攻略に対する意識が強すぎるな。

 この時俺は酒に酔っていたからか、冴羽にどうでもいい質問をしてしまった。


「なあ、どうしてダンジョン攻略にこだわる?」


 冴羽は珍しく言葉に詰まり、一息入れてから口を開いた。


「……今の華菱があるのは、魔石からエネルギーを取り出すという未知の偉業を成し遂げたからです。ですがそれに胡座をかいていては、すぐにその地位は直ぐに失われるでしょう。そうならない為にも華菱は常に新技術を模索しなければなりません。その為のダンジョン攻略です」


 冴羽はそう言うが、魔石のエネルギー技術に関してはほんの一部でも再現できたと言う話は聞かない。

 特許も取ってあるのだし、華菱を脅かす存在があるとは俺には思えなかった。


「この大陸はまだ未知の部分が多いですが、殊更ダンジョンはその全容がつかめていませんから。そこにある未知の技術を手に入れ、もう一度世界の主導権を握る事が我が社の目的です」


 随分大それた目的に、そんなもんに巻き込むなよと思う。


「あんたは、ダンジョンに何があると思てるんだ?」


 冴羽はダンジョンに対して、過剰に期待しているように思えた。

 何を求めているのかは聞いておきたかった。


「そうですね……昔からダンジョンといえば、持ちきれないほどの財宝や強力な武器や防具、そして……若返る魔法の薬などがあるのではないですか?」


 俺は冴羽が何を言ったのか一瞬分からず、ポカンとしてしまう。

 

「冗談です」


 いや、無表情で言われると本気か冗談かわかんねーんだよ!

 コイツも酔ってるのかと疑ってしまう。


「ああ……なんか気が抜けたな。俺はもう寝るぞ」


「ええ、そうしてください」


 俺は言葉通りに自分のテントに向かい、そのまま眠りについた。



 翌日、俺達は朝食を終え、ダンジョンの前に集合していた。


「あー、今日からは本格的にダンジョン攻略に入る」


「マジで?もうあんな無茶な狩りをしなくていいってこと?」


「もうあんな目に遭うのは嫌ですー」


 何やら女2人がうるさい。


「イケメン!黙らせろ」


「はい、……って新庄さん。いいかげん名前覚えてくださいよ」


 どうせ今回きりの付き合いだ。

 別にいいだろ……正直、面倒なんだよ。


「ダンジョンは、その殆どが幾つかの階層に分かれているのが確認されている。恐らくこのダンジョンもそうなっているだろう。そこで、今日は最低でも2回層に入ることを目標にする」


「すみません。えーと、もしですがダンジョンが1階層だけだったら、どうしますか?」


 メガネが質問してくるが、そんなもんは決まっている。


「そしたらラッキーだろうが。奥まで行ったら、それで仕事は終わりだ」


 まあ、そんな事はまず無いだろうが……


「今日は俺と真夏が先行する。お前らは取り敢えずついてこい!」


 ダンジョンに入ってすぐに、昨日みたいに潰れられてはただの足手まといだからな。


「じゃあ行くぞ!」


「「「了解!」」」


 ダンジョンの前に元気な声が響く。

 全く……なんで俺が、こんな遠足の引率みたいな事しなきゃいけねーんだ?

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