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新太平洋大陸  作者: 双理
四章 混ざり合う陰謀
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混ざり合う陰謀5

 モンスターの外見は、地球上の生物を模したものが多い。

 生物からかけ離れた外見をしたものもいるにはいるが、それはごく少数だと言える。

 今、俺の目の前にいるモンスターは前者にあたると思えるが、俺の記憶にこんな生物は存在しない。

 何故なら、それが明らかに複数の生物の特徴を合わせ持っていたからだ。


 そのモンスターはヒヒのような顔をしており、そこから首で繋がっている胴体は馬のものに見え、その背には鳥類のものと思われる翼が備わっていた。

 それだけでも異様なのだが、それを更に際立たせているのが、その四肢だった。

 右の前脚は五本の指があり、毛に覆われている事から、恐らくその顔と同様にヒヒのものなのだと思われるが、左の前脚はとても細長く華奢な感じで、その先端には馬の蹄が付いている。

 更に、後ろ脚は鳥類を模しているのか、鋭い鉤爪があるのが確認できた。


 気色悪い……

 その姿を見ていると、本能的な嫌悪感が呼び起こされてしまい、俺の背中に悪寒が走る。


「何だ……こいつは?」


 あまりの嫌悪感からか、俺の口からそんな単純な疑問が漏れてしまう。

 その言葉がモンスターを刺激したのか、面長の真っ黒な面をこちらに向けてくる。

 その不気味な黒い瞳が俺を捉えると、不揃いな脚を屈め、飛び掛かるための予備動作に入った。


 迂闊だったか……いや、寧ろ俺が狙われるのは好都合だ。

 初めて見るモンスターだけに、その戦闘力がどれほどのものか不明だ。

 それを考えれば、この場にいる者の能力的には、まず俺が相手をした方が良いと思えた。

 俺はナイフを抜き、モンスターの攻撃を受ける体勢に入る。

 この一撃で能力を測る━━


「イ゛ア゛アアアアアーーーー!!!!!!」


 甲高い人の叫び声のような奇声を上げながら、モンスターが飛び掛かってくる。

 たいした速さじゃない。

 受け止められると判断して、両足を踏ん張り、全身に力を込める。


「避けなさい!」


 シロの叫び━━体が一瞬で反応して、受けから逸らす事に切り替える。

 鋭い爪をもつ猿の手がナイフに当たり、その引っ掻きの一撃を逸らす。

 完全に見極め、力を逃したはずだったのに、尋常じゃない衝撃が攻撃を受け止めたナイフに掛かり、全身がその勢いで後ろに押される。


 パキンッ!!


 ドガ!!ガァガァガガガガーーーー!!!!


 金属音が鳴り響き、次いで、モンスターが建物に突っ込みそれが崩れる音。

 土煙が立ち上る中、体勢を立て直し手元を見ると、俺が持つナイフの銀色の刃が、その刃渡りのど真ん中からポキリと折れていた。

 新品のナイフという訳では無かったが、整備は怠ってなかったので寿命という事は考えられない。

 更に言えば、たいして速くもない攻撃だったし、それを正面から受けた訳でもない。

 にも関わらず、得物を折られた。

 ……攻撃力が尋常じゃない。


「先輩、大丈夫ですか!」


 真夏が俺を心配して声を掛けてくる。

 今の一撃の威力を見ていた為か、その声色は通常よりも真剣なものだった。

 真夏はこちらに駆け寄ろうとしたが、俺はそれを手で制した。


「ああ、無事だ!俺の事よりモンスターに集中しろ!」


「了解!」


 俺の無事を知った真夏は、ハンマーを手にしてモンスターに向き直った。

 結と泰志もそれに倣い、それぞれの武器を構える。

 フレッドだけは武器を手にする事なく、静観の構えだった。

 そういえば……コイツの獲物は何なんだ?

 そんな、どうでもいい疑問が頭に浮ぶ。

 まあ、今はそれどころじゃないか━━そう思い直し、俺はモンスターに意識を戻した。


「あのモンスター、あなたよりレベルが高いようです。恐らく、レベル6相当かと……」


 いつの間にか足元に駆け寄っていたシロが、そう告げてくる。


「マジかよ……」


 シロが言っているのは、真のレベルの事だろう。

 この世界のレベルなら、決してナイフが折れる事は無かった筈だ。

 現在、俺のレベルは4━━ふたつ程上という事になる。

 真のレベルによる能力上昇率を考えると、コイツに勝てる見込みはかなり薄いと言わざるを得ない。


「それに、このモンスター……何処かおかしい……」


「まだ、何かあんのか?」


 レベルだけでも十分な脅威なのに、これ以上は勘弁して欲しい。


「体内に魔力の核が複数あるように感じます。まるで複数のモンスターを組み合わせたかのような……」


 核が複数?

 組み合わせる?

 まさか━━


「冴羽!モンスターを作る技術はもう完成してるのか!」


 真夏の横で呆然としている冴羽に疑問を投げ掛ける。


「いえ、私が知る限りではそれは無い筈です!」


 ドンッ!!


 モンスターが突っ込んだ場所から大きな音が鳴り、瓦礫が吹き飛ぶ。

 舞い上がる土煙に大きな影が写り、モンスターが健在であるのを知らせてくる。

 何処かぎこちない動きで、モンスターが土煙の中から再びその姿を現した。


「そんな!まさか、あれは……キメラ?」


 今度は、はっきりとモンスターの姿をその目で捉えた冴羽は、ひどく動揺しているようだった。

 だが、今はそんな事に構ってられない。


「そのキメラってのは何だ!何か知ってんなら早く教えろ!」


 まだ冴羽は驚いていたが、俺の怒鳴り声で正気を取り戻した。

 慌てて俺の質問に答えてくる。


「C R Mプロジェクトの中に複数のモンスターを掛け合わせて、より強いモンスターを作るというものがあります。ですが、まだモンスターを作る技術自体が完成していないので、その研究は先送りにされていた筈です!」


「ああ?ふざけんな!じゃあ、目の前にいるのは何なんだよ!」

 

 現に、ここで作られたと思われるモンスターは目の前にいるし、その見た目は冴羽の言った通り、複数のモンスターを掛け合わせたようにしか見えない。


「よく見てください!所々モンスターの体に欠損が見受けられます。やはり、モンスターを作成する技術は完成していないようです!」


 …………そういう問題か?

 だが、確かにその姿をよく確認すると、そこら中の部品が足りていないように見えた。

 背中にある大きな翼は途中で途切れていて、その先端が不自然に丸まっているので飛行能力を備えているとは思えない。

 馬の胴体は、背骨の形成がうまくいかなかったのか、背中を突き破りそうなほど隆起していた。

 片方の後ろ脚も、いわゆるもみじと言われる部分が欠損している。

 このモンスターがその高いレベルの割にスピードが遅いのは、それが原因かも知れない。


「完成もしてない技術でモンスターを作りだし、その応用まで……華菱の研究者はイカれてるのかい?」


 フレッドが呆れた表情を見せる。

 コイツの意見にはあまり同調したくないが、反論の余地が無い。

 率直に言って、バカだろ。


「冴羽、こいつを抑える方法を知らないか?」


 このモンスターが地下から出てきた事を考えると、地下施設で捕えていたに違いない。

 だとしたら、何か大人しくさせる方法があるかも知れない。


「私はこの研究に直接関わっていた訳では無いので、分かりません。それを知る者はいるかも知れませんが、この状況では生きてるかどうか……」


 クソ……そう、上手くはいかないか。

 だとしたら、まともに相手をするのも馬鹿らしいので逃げ出したい所だが……


「泰志!救助活動に後どれくらい掛かる?」


「既に、他の施設から救助隊が応援に来ていますが、すぐに終わるような状況じゃありません。数日は掛かると思って下さい」


 ……だよな。

 こんな状況で逃走することは、真夏が許さない。

 戦うしか道は無さそうだが、相手は格上。

 更に、レベルの事を考えると、戦力になるのは俺と真夏と結の3人だけだ。

 この戦力では勝てるかどうか……


 キメラが獲物を探すかのように、その不気味な顔で俺達の方を見回す。

 誰から仕留めるか、選んでいるようだった。

 その視線が俺の所で止まり、獲物の選別が終わったのだと分かる。

 最初の獲物に固執する所を見ると、知能はたいして高くなさそうだ。

 俺は折れたナイフをアイテムボックスにしまい、代わりに黒のナイフを取り出して構えた。

 周りの目が気になるが、格上のモンスター相手をするのに手の内を隠す余裕は無い。

 案の定、目ざといフレッドが『モンスタードロップか?』と呟いたが、それはもう割り切るしかない。


「イ゛ア゛ア゛アアアアーーーー!!!!!!」


 キメラが大きく口を開け威嚇のつもりか、大きな咆哮を上げた。

 完全に俺にしか意識が向いてないと判断したのか、真夏と結が挟み込むように両サイドから攻撃を加える。


 バキィッッ!!!!


「折れた?」


「壊れたです!」


 それぞれのもつ武器が、レベルアップで強化された自身の力とキメラの高い防御力が合わさった結果、あっけなく壊れてしまう。

 一方、キメラの方はそれ程の攻撃を加えられたのにも関わらず、俺から視線を外す事もなく威嚇を続けていた。

 その口腔から光が溢れる━━


ズドォーーーーーーン!!!!


 眩い閃光と衝撃が、俺の真横を通り過ぎた。

 口が光った瞬間、嫌な予感がして全力で真横に回避したので、巻き込まれずに済んだ。

 先に、地中からの一撃を見ていたから出来た事だった。

 キメラの放った一撃は凄まじく、俺の後ろにあった建物を地面ごと円形にくり抜いていた。


「やばいね……コレは……」


 回避した先にいたフレッドの呟きが聞こえた。


「だったら、さっさと逃げりゃーいいだろ」


 そう提案したのは、単純にこいつがいても役に立たないだろうという思いと、こいつに本気の実力を測られたく無いという思いからだ。


「……そうしようかな」


 かろうじて保っている皮肉めいた笑顔が引き攣っている。

 どうやら、フレッドは自分の命と情報収集の任務を秤にかけているようだ。

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