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新太平洋大陸  作者: 双理
四章 混ざり合う陰謀
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混ざり合う陰謀4

「ちょっと待て。そんな話をするなら、俺達のいない所でやってくれ。関わりたくない」


 どさくさに紛れて、巻き込もうとしてんじゃねーよ!

 そもそも何でこんな事になったんだっけ?

 俺はただフレッドの依頼をこなしていただけなのに、いつの間にか、それこそ密約と言えるようなものが結ばれる瞬間に同席する羽目になっている。

 いったい、どこで道を踏み外したんだ……


「先輩、私は聞くべきだと思います。事が事だけに見過ごせません」


 そうは言っても、国家と世界的大企業が絡む話だ。

 あくまで一般人の俺たちが、関わっていいようなものだとはとても思えない。

 話がデカすぎて、完全に俺の手には余る問題だ。


「新庄さん、真夏さん。済みませんが、私はこの施設にあなた方を連れてきた時点で、その戦力を当てにするつもりでした。あなた方の戦力が周りと比べて異常なのは、探索者でない私でも分かりますから……」


 コイツ……


「華菱慎二が連れている護衛はかなりの実力者揃いと聞いています。米国の協力を得たとしても、身柄を捕らえられるかは正直微妙な所でしょう。彼を拘束する際、あなた方の協力があればその可能性が高まると判断しました」


 ……ふざけんなよ。


「おい、冴羽。俺を巻き込むのは百歩譲って許してやる……」


 もう、我慢の限界だった。 


「でもな……そんな下らない事に真夏を巻き込むな……殺すぞ」


 今までは、偶然が重なった結果だとまだ納得していた。

 だが、コイツはそれを意図的にやったと言いやがる。

 こいつが真夏を巻き込んだのは、これで二度目。

 もう、許せなかった。

 自分の中で、爆発的に高まる殺意が抑えられない……


 俺の殺気に当てられ、冴羽が顔から血の気が失せていくのが分かった。

 だが、それがどうした?

 恐怖に後ずさる冴羽の首筋に向けて、俺は、ゆっくり手を伸ばす━━


「ダメです先輩!」


 真夏がその腕に必死にしがみついてきた。

 冴羽を殺そうとしていることに感づいたか。

 でも、心配するな……俺は、まだ冷静だ。

 少なくても、真夏の前ではそんな事はしない。

 安心してくれ……殺るのは、お前の目が届かない所まで運んでからだ。


「今は話を聞きましょう……何か理由があるんだと思いますから」


 真夏が、俺の腕にしがみつくその腕に更に力を込めてくる。

 さっきまで自分は怒りのままに行動していたと言うのに、俺の事は止めるのか?

 それが、すごく理不尽に感じた。

 だが必死な真夏の姿を見ると、それ以上の行動を起こす事が躊躇われる。


「すみません……真夏さん……」


 謝罪の言葉を口にしながら、冴羽が頭を下げる。

 それは、真夏を巻き込んだ事に対してなのか、俺を止めた事に対してなのか━━恐らくは、その両方なのだろう。

 真夏は無言で首を縦に振り、その謝罪を受け入れた。

 だからといって、俺の気が晴れた訳じゃない。

 この女を始末する時間が、少しだけずれ込んだだけだ。


「だから、さっきから言ってるだろ?ボクはキミ達の茶番を見にここに来たわけじゃないんだよ。いいかげん、話を続けたいんだけどね」


 フレッドは呆れた表情でそう言うと、心の底からからの大きなため息を漏らす。

 皮肉にも、その呆れた態度が俺に冷静さを取り戻させた。

 それは、熱くなった自分の姿をコイツに見られるのが不快だったからだ。


「分かった……取り敢えず、話だけは聞いてやる」


 今だに俺の腕を離さない真夏を引き離す為に、強めに腕を振り払う。

 そんな事をしたのは、ムキになった姿を見られた事に対する照れ隠しだったかも知れない。

 真夏が俺の腕から離れると、この下らない会合は再開された。


「じゃあ、続けようか。冴羽の話はボクにとっては非常に魅了的なんだけど、ひとつ気になる事があるんだよねー。そんな事をして、キミにはどんなメリットがあるだい?」


 確かに、冴羽の動機が全く見えてこない。

 これまでの話を聞いた限りでは、華菱にとっては勿論だが、冴羽にとっても何か利益があるとは思えない。

 この女、いったい何を考えてやがる?


「華菱慎二を失脚させて、私が華菱産業の実権を握ります」


 ……………………


 その答えは、俺の怒りをぶり返させるのに充分なものだった。

 何を考えてんのかと思えば、結局は権力が目的かよ……

 やはり、コイツは━━


「はっはっはっ……いいね!随分と大それた事を言うじゃないか。でも、それが目的だって言うなら、逆に信用はできるかな」


 その笑い声が、俺の中で湧き上がった怒りを霧散させた。

 冴羽は随分と運がいい女のようだ。


「勘違いしないで頂きたいのですが、私は私利私欲のためにそう言っているのではありません」


「どう言い繕っても、他に取りようが無いと思うが……まあいい、続けろよ。聞くだけ聞いてやる」


 内心、こいつにはもう何も期待していなかった。

 だが真夏の前で話を聞くと言った手前、ここで話を遮ぎる事はできなない。

 俺に視線を向けられ、先程の恐怖がぶり返したのか、冴羽がびくりと体を硬直させる。

 それでも、ここで話を止める訳にはいかないと思ったのか、冴羽は意を決したように再び話し始めた。


「あの男は危険過ぎるのです。間違いなく、このモンスターを作り出す技術を軍事に活用する事しか考えません。そして、自身の権力を強める為ならば、どんな危険分子であってもその技術を売り渡してしまうでしょう」


「でも、結局は誰がトップに立ったとしても、モンスターを創り出す技術なんか、軍事利用を考えない奴なんていないだろ?キミは違うっていうのかい?」


 フレッドのいう通り、この技術を自由に扱う権利を持った人間が、その魅力に抗えるとは思えない。


「確かに、軍事に利用される事は止められないでしょう。ですが、私はそれをある程度コントロール可能だと考えています」


「へー、どうする気なんだい?」


「私はこれから複数の国に接触して、共同研究を持ち掛けるつもりです。勿論、話を持ちかける国は厳選しますが、それで技術の独占は防ぐ事ができますし、テロリストなどの危険分子の手に渡る事も防げます。また、互いに危険な技術をもち合うことで、使用の抑止力にもなるでしょう」


 何だ?

 コイツは、核兵器の話でもしてんのか?

 冴羽はそれで上手くいくと思っているようだが、この技術は放射能をばら撒く核とは違い、ある意味ではクリーンな兵器と言えるものだ。

 俺にはそんな事で解決できる問題だとは思えない。


「成程ね……だからさっきから、ボクの前でベラベラと貴重な情報を喋ってた訳か。でも、そんな事をうちの上層部が許すと、本気で思ってるのかい?」


 そう、米国としては何としても独占したい技術の筈だ。

 力尽くでも、自国以外に情報が漏れる事を防ぐだろう。

 冴羽の思い通りにいく筈が無い。


「いいえ……そうは思っていません。ですが、このモンスターのなれ果てを見れば、モンスターを作り出す技術が完成間近なのは間違いありません。あの男に独占させるくらいならば、いっそ米国に渡してしまった方がマシです」


 その苦々しい表情を見ると、自身の計画が既に破綻している事を理解しているのだろう。

 同情を誘うような姿だが、真夏を巻き込んだコイツに対して、俺はそんな気持ちは持てなかった。


「確かに、あまりいい噂を聞かない男だけど、何故そこまで警戒するんだい?」


 フレッドは意外と慎重な男なのか、米国にとっては十分魅力的な提案である筈なのに、それに飛び付く事は無かった。

 あまりにも、自身に都合が良すぎると思ったのかも知れない。

 逆に猜疑心が芽吹いたようだった。

 俺としても、会った事も男の性格なんて知らないので、寧ろ、冴羽が華菱慎二を出しに使っているのでは無いかと疑ってしまう。


 俺とフレッドに疑惑の目を向けられた冴羽が、深く考え込む。

 どうやら、華菱慎二の脅威をどうやって伝えるべきか悩んでいるようだった。


「あなた方は、華菱沙織という人物をご存知ですか?」


 冴羽は悩みぬいた末に、新たな人物の名前を口に出した。 

 華菱沙織━━俺の記憶が間違ってなければ、確か、魔石からエネルギーを取り出す技術を確立した研究者の名前だった筈だ。

 俺の記憶があやふやなのは、華菱沙織という人物が、全くと言っていいほど表舞台に顔を出さない事に起因している。

 その事もあってか、世界を救った言えるような偉大な研究者の筈なのに、一般的には知ってる人は知ってるという程度の認知度だった。

 原子力発電を知っていても、それを考えた人の名前を知らないといった感じが近いかも知れない。


「名前は聞いたことあるが、それがどうした?」


「華菱産業は元々、華菱慎二の姉にあたる華菱沙織のものだったのです。ですが、彼女は企業の経営に興味が無かったらしく、慎二が巡らせた策略に嵌り、失脚させられたという過去があります。それにも関わらず、現在でも彼女はいち研究者の立場で、華菱に所属している事になっています」


 何故ここで華菱家のお家騒動の話を持ち出すのか、俺には理解できなかった。

 そんなのは華菱に限らず、別に珍しい話じゃ無いだろ。

 失脚させたという話も周りが勝手に言ってるだけで、華菱沙織が経営に興味が無かったという事ならば、寧ろ、自分で望んで研究者に戻ったという可能性すらある。


「私も研究者の端くれですから、華菱沙織という人物には興味があり、入社して以降、何度か接触を試みました。ですが、いまだにお会いする事ができていません。現在の私の地位を活用しても、その居場所を掴むどころか、その存在自体が社員名簿以外からは確認する事ができませんでした……」


「キミは、華菱慎二が自分の姉を消したっていうのかい?」


「当時、華菱沙織と親しくしていた数少ない友人すらもその行方をくらませています。この事実からしても、そうで間違いないかと……」


 本人だけならまだしも、その周囲の人間も纏めて消したって事か……なんとも陰湿な話だ。

 冴羽はよほど華菱沙織に思い入れがあるのか、これまで以上にその表情を暗くしている。

 

「自分が権力を得る為ならば、身内すら消すような男です……エネルギー技術とモンスターを作りだす技術、その二つを独占した華菱慎二が何をしでかすか、正直私には想像ができません」


 世界のエネルギー産業を牛耳り、さらに世界最強と言えるような軍事力までも手に入れてしまっては、華菱が世界を支配したというような状況になってしまう。

 更に言えば、華菱慎二という個人が世界を支配すると言ってもいい。

 いまだかつて世界征服なんかに成功した人間はいないので、それがどういう結果をもたらすのかは分からないが、まあ、それがまともな事だとは思えない。


「……分かったよ。プロジェクトの情報をどう扱うかはこれから本国に伺いを立てるとして、ひとまずはキミと手を組もうじゃないか」


 フレッドが片手を差し出すと、冴羽は躊躇いなくその手を取った。

 それは、冴羽とフレッドの同盟関係が成立した瞬間だった。

 両者にはそれぞれの思惑があり、あっさりと崩れさりそうな脆い関係ではあったが……


 正直、俺は勝手にやってろってしか思わない。

 だが、真夏はふたりが握手を交わす姿を見て、喜んで拍手を送っている。

 こんな話を聞かされた真夏は、多分、自分からこの件に関わっていくつもりなのだろう。

 何だかんだで、俺はそれに付き合わされる事になる。

 めんどくせー……

 冴羽が絡むと、いつも碌でもない目に遭わされる気がする。


「冴羽さーん!」


 遠くから、冴羽を呼ぶ声が聞こえた。

 声がしてきた方向に目をやると、泰志がこちらに向かって走ってくるのが見える。


「この件は、泰志達にも秘密でお願いします。彼らは、あくまで華菱に雇われている探索者ですから……」


 そんな事を言うなら、俺と真夏は完全に無関係の一般人なんだが?

 こいつの判断基準は、いったいどうなってんだよ……

 泰志が俺達の元に辿り着くと、余程急いで走って来たのか、かなり息を切らしていた。


「はあはあ、冴羽さん大変です。生存者に話を聞いたところ、6号が人を攫ったという情報が出てきて━━」


「新庄、下です!何かいます!」


 シロの叫びが、泰志の報告を遮る。

 その声から緊急事態であることを察し、索敵スキルを足元に向けて発動した。

 地下にデカいモンスターの反応。


「退がれ!」


 ドズンッ!


 俺が全力で後ろに跳び退ると同時に、でかい地響きが鳴り響き、衝撃を伴った閃光が夜空を貫いた。

 その閃光は地中から放たれたものだった。

 足元を見ると、地面が丸く抉り取られていて、さっきまで無かった深い穴が開いている。

 時間差で巻き上げられた土砂が空中から降り注ぎ、土煙が視界を塞ぐ。


「全員無事か!」

 

 悪い視界の中、無事を知らせる返事が返ってくる。

 その数からして、どうやら閃光に巻き込まれた奴はいなかったようだ。

 冴羽以外はそれなりにレベルが高い為反応できたが、今の尋常じゃなかった閃光の威力を考えると、もし直撃していたら命があったかどうか……

 報告からすると、その冴羽は真夏が抱えて脱出したようだった。


「何か登ってくる!警戒しろ!」


 穴の底から、大きな反応がよじ登ってくる。

 その反応の主は勢いよく地上に飛び出し、俺達の前に姿を現した。

 その姿は、異形そのものだった。

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