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新太平洋大陸  作者: 双理
四章 混ざり合う陰謀
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混ざり合う陰謀1

 さて、この状況……まずは色々と整理したい所だ。

 まあ、どこから手を付けるべきかは悩むまでもない。


「お前、なにもんだ?」


 突如現れたこの男、何処に隠れたかのか知らんが恐らくフレッドの仲間だろう。

 男が手にしている銃が、フレッドの持っていた物と同じ型なのがその証拠だ。

 ブラウンの髪と青みがかった瞳、そして白い肌━━まあ、日本人には見えない。

 大方どっかのスパイか何かだろうが、その服装は一般的な探索者のもので、所属を推測する事はできない。


 人質を奪われ、周りを囲まれている状況にも関わらず、整ったその顔からは追い詰められた緊張感は感じられなかった。

 どうやら、俺の質問には答える気がないようで、その口を動かす気は無さそうに見える。


「新庄、その男がフレッドです。どうやら、幻影を纏って姿を偽っていたようですね。私の目を欺くほどの手だれ……注意しなさい」


 シロが俺の足元に駆け寄り、忠告してくる。


「マジかよ……」


 こいつがフレッドって事は、涼とぶつかった瞬間に幻影を残して俺の後ろに回り込んだのか?

 だとしたら、幻影と分かれた瞬間を俺の目が捉えたはずだが、そんな感じには見えなかった。

 コイツ……何しやがった?

 目の前で見た筈なのに、スキルの効果が全く分からなかった……かなり厄介な相手だ。


「……今、シロちゃんがお話したの?」


「喋る犬……いや、モンスターか?」


 喋る犬の存在がよほど衝撃的だったのか、男が声を漏らす。

 その声は間違いなくフレッドのもので、シロが言った事は間違っていないようだ。

 幻影で姿は変えられるが、声色までは変えれないといった所か。

 冴羽の声が妙に嬉しそうだったのも気になるが、今ポンコツ化するのは流石に勘弁してもらいたい。

 それどころじゃ無いからな……


「冴羽、あの銃は何なんなんだ?」


 冴羽は、あの銃に心当たりがある感じだった。

 そこから何か分かるかも知れない。


「あれは我が社で開発した銃です。フレームと銃弾、それに使われている火薬に至るまで、全てこの大陸で入手したもので作られています。その効果は実証済みで探索者にも有効です」


 冴羽らしい、実に簡潔な答えが返ってくる。

 だが、その言葉に含まれている内容を理解するのに、少し時間が掛かってしまった。

 ……今、探索者に有効な銃って言ったか?

 それってつまり……


「お前は、なんちゅーもん作ってんだよ!」


 現在、中世チックな武器でモンスターと戦っている状況で、そんな物騒な物をばら撒かれたりしたら、間違いなく新大陸の勢力図が大きく描き変わってしまう。

 俺はてっきり低レベルの冴羽だから有効なのかと思っていたが、下手したら戦争の火種になり兼ねない代物だ。


「そう懸念するような代物ではありませんよ。新大陸であれを量産化出来るほどの素材を集めるのは困難ですし、遠距離攻撃という事なら魔法がありますから。殆ど開発者の趣味で作ったような、有用性の無い代物です。興味を持った数カ国に、その技術を売り払いはしましたが」


 コイツ……その銃で危険な目に遭ったばっかで、よくそんな事言えんな……

 いや、ちょっと待てよ。

 今さらっと数カ国に売り払ったって言ったよな?

 つまり、何だ……


「どっかの国が絡んでんのかよ!」


 その衝撃に事実に、思わず突っ込んでしまう。


「はははっ、君は、面白い反応するねー。でもまあ、冴羽はそう言うけど、この銃もそんなにバカにしたもんじゃないよ。モンスターが弱体化したお陰で素材が集めやすくなったから、量産化する目処はたったしね。これもウチで作ったものだよ」


 男はその正体がフレッドだとバレたからか、妙に口が軽くなっている。

 終いにはウインクまでしてくるような有様で、その小馬鹿にした態度が造形の良い顔と相まってかなりムカつく。

 ああ、殴りてぇ!


「それで、何でお前は冴羽を狙ったんだ?」


 その理由が分からない。

 単に華菱の商売相手の国、というなら冴羽を狙う理由なんて無い筈だ。

 取引で何か揉めたのか?

 まさか、その程度で誘拐しようとはならないと思うが……


「その事なら、冴羽に心当たりがあるんじゃないかなー」


 フレッドの軽薄な表情に、一瞬だけ憎しみのようなものが混じる。

 華菱が何をしたのか知らんが、あくまで民間人である冴羽を誘拐しようとまでしたのだから余程の事だろう。

 事情を確認しようと冴羽を見るが、その当人は何も思い当たらないのか、無言で首を横に振るだけだった。

 いまだ張り詰める緊張感の中で、冴羽の視線が徐々にシロに向けれれるのが分かる。

 そろそろ、ヤバい……


「知らねーってよ!」


「へー、そうかー。シラを切ってるのか、それとも冴羽でも知らされてないのか、どっちなんだろうね?」


 それは俺も問い正したい所だが、もう半分イキかけている冴羽の表情からそれを読みとる事は不可能だ。


「それにしても、その犬はなんなんだい?急に喋り出すし、僕のスキルに勘づいたみたいだし……気になるなぁー」


 フレッドが、冴羽とは明らかに違う興味の視線をシロに向ける。

 正体をバラされたのだから、気にするのは当然だろう。


「そっちがいろいろ教えてくれんてんなら、教えてやらなくもないけどな」


 勿論それは嘘で、こんなヤツに教えてやる気はさらさら無い。

 まあ、シロに関しては、正直に答えた所で信じないだろうがな……


「うーん、いまさら冴羽を連れ去るのも無理そうだし、情報は欲しいかな。うん、悪くない条件だ。じゃあ、情報交換をするとしようか」


 意外にも、冗談で言ったつもりの俺の提案をフレッドが受け入れた。

 しかも、証拠とばかりに、手に持った銃をホルスターに収める。

 それでも、幻影を扱うような奴を簡単に信じる事はできない。

 自分の目で見ているその動作ですら、幻影かもしれないからだ。


「それとも、まだ睨み合いを続けるかい?無駄な時間だし、そもそも君たちはウチに喧嘩を売るつもりなのかな?」


 脅しか……

 さっき冴羽が言った事が真実なら、相手は国家組織という線が濃厚になる。

 流石に国を相手に喧嘩はしたく無い。

 仕方なくないので俺がナイフを鞘にしまうと、他の奴らもそれに倣い、それそれの武器を納めた。

 フレッドがその姿を見てニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。

 次の瞬間、その姿が一瞬にして消え去った。


「いやー、正直君とはやり合いたく無かったから、聞き入れてもらえて助かったよー」


 いつの間にか、フレッドがポータルの横に移動していて、扉の部分に寄り掛かっていた。

 瞬間移動のマジックでも見せられた気分だ。

 逃げる準備は万端だったって事か……どうりで余裕ぶっこいてた訳だ。


「えーと……落ち着いたんなら、ちょっといいっスかね?」


 フレッドの方に注意を割いていた為、亮の存在を今まですっかり忘れてた。

 そういえば、コイツは何で戻ってきたんだ?

 量は余程慌てているのか、誰の返事も待たずにその理由を話し出した。


「ヤバいんスよ!自分たちが施設に戻ったら、その施設が襲撃されたてたみたいで、もうメチャクチャなんスよ!」


「はあ?襲撃だと?」


「そうなんスよ!もう、モンスターがそこらじゅうにいて、それでも生存者を何人か見つけたんスけど、6号ってヤツにやられたって……」


「「6号!」」


 俺とフレッドの声が重なる。


「新庄!お前、6号を知ってるのか!」


 フレッドが俺の胸ぐらを掴んでくる。

 俺はその腕を力ずくで振り解いた。


「気安く触んなクソが!それはこっちのセリフだ!」


 思わず口から出てしまった怒声は、いくら怒っていたとはいえ、自分でもチンピラみたいなセリフだなと思ってしまった。

 だが、6号が絡んでると思うと、冷静ではいれなかった。

 このまま殺ってやろうかと俺の中で殺意が高まったが、それを止めたのは冴羽だった。


「ふたりとも落ち着きなさい!」


 俺とフレッドの間に割って入った冴羽は、いつの間にかシロを抱き抱えていた。

 もう手放す事はないといと言わんばかりに、しっかりとだ。

 怒りが霧散していくどころか、気力を根こそぎ奪われる。


「今の反応でだいたいの察しはつきました。はっきりと言っておきますが、我が社と6号の間には何の繋がりもありませんよ」


 ちょっと待て……フレッドの目的は、冴羽自身にある訳じゃなくて6号の方って事か?

 しかも、6号と華菱が関係あると疑っている?

 ……どういう事だ?

 冴羽が言い放った言葉は、俺を酷く困惑させた。


 いや、考えてみれば、あの6号の異次元な強さの秘密が、華菱の何らかの技術に関係しているというのはあり得るか……

 俺はそうは思い直したが、アイツが誰かと組むという事に、どうしても違和感を感じてしまう。


「そう言われても、簡単には信じられないかなー」


 フレッドは落ち着きを取り戻したのか、先程までの戯けた態度に戻っていた。


「6号が我が社の施設を襲っているという事実は、証拠として充分かと思えますが?」


 それもそうだ。

 その事実が、完全に両者の繋がりを否定しているように思える。


「自作自演って可能性もあるだろ?」


 ん?

 ああー……もう駄目だ。

 さっぱり話に着いていけねぇ……

 そもそも、何で6号の奴はフレッドの国に追われてんだよ?

 テロでもやらかしたのか?

 まあ、あいつならそんな事をやらかしても、おかしくはないが……


「何の為にですか?そもそも、我が社が米国と敵対するメリットがありません」


 おいおい……今、何て言った?

 流石に米国はヤバいわ、勘弁してくれよ……

 絶対に敵にはしたくない相手だ。

 かつて程の強力な力は持ってはいないだろうが、今でも大国である事に変わりはない。

 ビビり始めた俺をおいてきぼりにして、冴羽とフレッドが話を進めていく。


「どうだか……花菱が裏で何を考えているかなんて、ボクには分からないからねー」


「今の状況を鑑みれば、お互い協力できると思えます。今ならまだ、6号の足取りを追えるかも知れませんよ?」


「それは、ボクが襲撃された華菱の施設に立ち入ってもいいって事かな?」


「ええ、構いません。こちらとしても6号を追う事になるでしょうし、米国の協力を得られるならメリットはありますから」


 フレッドは冴羽の提案を吟味するために、暫くの間考え込んだ。

 この間、何処かに連絡して指示を仰ぐという事をしなかった為、この男に相当な裁量が与えられている事が伺える。

 また、現時点では単独で動いているという事が分かり、それはフレッドが相当な実力を持っているいう事を示していた。


「……分かった。じゃあ、それで行こうか」


 どうやら話が纏まったようだ。

 置き去りにされた感はあるが、正直もう関わりたく無いので勝手にやってろって感じだ。

 もう、帰ろうか……


「新庄さん、済みませんが、もう少しだけあなた方には付き合って頂きます。我が社の施設にモンスターが大量に侵入した事を考えると、あなたの力が必要です」


 俺の心の声を聞き取った訳では無いだろうが、冴羽がそんな提案をしてくる。


「絶対に嫌だ!俺をこれ以上巻き込むな!そこには6号がいるんだろ?そんなアブねー場所には絶対に行かねーからな!」


 こっちはこの間ボコボコにされたばっかなんだ。

 何で、わざわざそんな奴に会いに行かないといけねーんだ?

 ふざけんな!


「6号って人なら、今はもういないみたいっス。ただモンスターが暴れ回ってて、生存者の救出もままならない状態なんスよ」


 おいおい、亮くんよ……もう少し、空気ってもんを読んでもらえないかな?


「新庄さん、俺からもお願いします。あの施設には、防衛の為の探索者がいた筈です……それが機能してないとなると、俺の手に負えない可能性があります」


 泰志くんも、何を言ってんのかな?

 期待するのは勝手だが、6号が相手じゃ、俺がいても何も変わんないよ?


「先輩、人命が懸かってるんです。ここは行くしかないですよ」


 真夏はそう言うが、もし6号がどっかに潜んでいたら、こっちの命が危なくなる。

 俺は他人の為に、命を懸けるつもりは無い。


「新庄、私も行くべきだと思います。あの男の情報は少しでも集めるべきです」


 冴羽の胸元から顔を覗かせながら、シロまでもそんな事を言ってくる。

 確かに6号の情報は欲しい所だが、アイツに対抗できる手段がない以上、俺にはここが引き時だと思える。


「助けに行くです!」


 結に関しては無視だ。

 断言しても良い。

 こいつは絶対に何も考えてない。


「先輩が行かなくても、私は行きますよ。どれだけ危険があったとしても、それで誰かを救えるなら……私は行きます!」


 真夏は真剣な表情でそう宣言した。

 変な正義感出してんじゃねーよ……

 人の死が間近にあるこの大陸では、この真夏の考え方は珍しいものであり、甘すぎる考えだ。

 いつかそれが真夏の身に危険を及ぼすのでは無いかと思うと、ここで注意しておくべきなのだろう。

 だが、こうなってしまった真夏は、俺が何を言った所で聞き入れはしない。

 それが真夏の本質だと言われればそれまでだが、あまりにも危険すぎる。

 他人ならともかく、コイツに危害が及ぶのは……


「クソ、行けばいいんだろ!分かったよ……」


「ありがとうございます」


 真夏が満面の笑みで礼を言ってくる。

 クソ、なんで俺はコイツの言う事を聞いちまうのかな……

 どうにも俺は、真夏の言う事には逆らえない。


「話がまとまったのなら、行きましょうか」


 冴羽はそう言いうと、ポータルに向かい歩き始めた。

 俺以外の面子が冴羽に続き、続々とポータルに触れていく。

 最後に渋々ながら俺がその扉に触れると、周囲が光で満たされ、俺達を包み込んだ。

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