表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新太平洋大陸  作者: 双理
四章 混ざり合う陰謀
61/79

ポータル発見機2

「なあ、いい加減仕事を始めてくれないか?」


「…………」


 俺の言葉に全く反応する事なく、冴羽が無言でシロを撫で続けている。

 何故こんな事になってしまったのか……


 それは、周辺のモンスターを狩り尽くした結が戻ってきたとたん、冴羽がその頭に乗っていた白い塊を強奪してしまったからだった。

 それからというもの、ずっとこの状態が続いている。

 たまにシロの腹に顔を埋め、思いっきり息を吸い込んでいるのを見ると、かなり犬が好きなんだろう。

 シロが特に嫌がる様子を見せなかったので、今まで放置してたが、そろそろ立ち直ってもらいたい所だ。


「冴羽さんは、犬が好きなんですか?」


 真夏が、一目見れば分かる事をわざわざ冴羽に尋ねる。


「ええ、仕事が忙しくて自分で飼うことは出来ませんが、このふわふわ感がたまりません」


 無表情で子犬を愛でる姿は少し怖かったが、本当に好きなんだという事は十分に伝わってくる。

 こいつって、結構ポンコツだよな……

 まあ、こいつの世代では犬を飼う余裕なんて無かっただろうし、その気持ちは理解できなくもないが……


 それにしても、真夏の問い掛けには答えた所を見ると、俺の言葉はあえて無視していた事が分かってしまう。

 もう真夏に全部任せて、俺は帰ってもいいだろうか……


「ほら、暫く預けとくから、いい加減仕事しろって」


 まさか本当に帰る訳にもいかないので、俺は冴羽の手からシロを奪い、頭の上に乗せてやる事にした。

 取り敢えず、両手を開ければ動き出すのではないかという、浅はかな考えから起こした行動だった。

 俺の突然の行動に冴羽は驚いたようだったが、結が同じように頭に乗せていたのを思い出したのか、恐る恐る頭を揺らしてみせる。

 冴羽の頭上でお座りしているシロは、そんな場所でも何故かかなり安定していて、落ちる事はなさそうだった。

 どんな原理でそうなってんだよ……


「では、仕事を再開しましょうか!」


 どうやら、気に入ってくれたようだ。

 ようやく再起動してくれた冴羽は、すっかりいつもの引き締まった表情に戻っている。

 ただ、頭の上にでかい毛玉を乗せている姿は、とても大企業のお偉いさんには見えなかった。


「あー、駄目ですよ!それは結の役目なんです!」


 こいつは何を言ってやがる?

 お前の役目は護衛だ。

 決して、犬を頭の上に乗せる事じゃない。


「お前はいつもやってんだから、少しぐらい我慢しろって」


 俺がそう言うと結は少しグズり出したが、真夏の口添えしてくれた事で、渋々ながら納得したようだった。

 そんな様子を見て、真夏は優しく微笑んでいる。


 …………俺はホームドラマでも見せられてんのか?

 そして、俺に止めを刺さんとばかりに、フレッドがモンスターを見つけて駆け出して行く……


「ホォーーーーーーオッ!あんなモンスターは、初めて見マース!」


 俺はそれを止める為に、慌ててその後を追い掛けた。

 華菱の探索者達と助手くんは、ただそれを呆然と見ているだけで、手助けはしてくれなかった。


 フレッドが見つけたのは、カブトムシに似た昆虫型のモンスターだった。

 確かに、俺も見た事のない珍しいモンスターだ。


「突っ込むなって言ってんだろうが!」


「ワット?邪魔しないでくだサーーーーーーーィ」


 取り敢えず首根っこを掴み、そのままフレッドを後ろにぶん投る。

 これで、護衛対象の安全は確保できた。

 結構な勢いで飛んでったが、多分後ろをついて来ている、真夏か結のどっちかがキャッチしてくれるだろう。

 いくらフレッドがそこそこ強いと言っても、この辺りのモンスターはかなり危険なので仕方ない処置だった。

 まずは安全が第一だからな。


 モンスターの数は5匹、こちらに向かって飛んでくるのが見える。

 これまでは空を飛ぶモンスターなどいなかったのだが、ワールドクエストが発生した頃から、飛行するモンスターも徐々に現れるようになっていた。

 

 その中の1匹が突出して、その長い角を突き刺す為に、俺に向かって突っ込んでくる。

 その角がかなり硬そうに見えたので、俺はその攻撃に軽くナイフを合わせて逸らす事にした。

 だが、思ったよりもその角は柔らかかったのか、ナイフが当たった箇所から簡単に折れてしまった。


「なっ!」


 あまりの手応えの無さに驚き、思わず動きを止めそうになる。

 それでも、次のモンスターが襲ってくるのが視界に入り、迎えうつ体勢を整えた。

  

 今の光景を見ていなかったのか、馬鹿みたいにカブトムシが突っ込んでくる。

 今回は、その攻撃を体を逸らして躱し、その突進の勢いを活かし、体に沿わせるようにナイフを押し付ける。


 ……手応えが軽い?


 いつかのシャドーのような実体の無いタイプのモンスターかと思い、警戒しながら後ろを振り向くと、そのモンスターの体は真っ二つになって地面に転がっていて、消えていく途中だった。

 更に襲ってくるカブトムシを同じように処理すると、最初に角を折った1匹が、間抜けにも地面に転がったままなのが見えたので、俺はそいつにナイフを突き立て止めを刺した。


「随分弱いな……」


 これではフレッドの投げ損だったかと思ったが、ここで俺はある事に思い至った。

 そういえば、これが6号と戦って以降初めての戦闘だ。

 昨日は、フレッドが自分でモンスターを処理していたし、ここまでの道中も俺は手出ししなかった。

 まさか、モンスターが弱いんじゃ無くて……俺が強くなってんのか?


「……少し、試してみるか」


 俺は、残り2匹のモンスターに向って走る。

 体が異常に軽く、流れる景色が今までに見た事が無い速さだった。

 最近までスキルの反動で寝込んでいたので気付かなかったが、以前と比べるとかなりスピードが増している。

 

 俺はフェイントすら仕掛けずに、そのまま正面からモンスターを切り付けた。

 硬そうに見える昆虫の外殻が、あっさり切断できてしまう。

 どうやら、攻撃力も以前とは段違いのようだ。

 ここまでになると、逆にナイフが折れないかが心配になる。


 残った最後の1匹が、翅を広げて逃げようとしているのが見えた。

 それを逃すまいと、俺はモンスターに向かって思いきり踏み込む。

 すると、予想以上の加速をしてしまい、俺の体はターゲットのモンスターの位置を遥かに通り過ぎてしまった。

 すれ違いざまに、慌ててモンスターにナイフを突き出して攻撃を加えたが、手応えが無さすぎて、それで倒せたのか判断できなかった。

 だが、俺が振り向いた時には、もうその姿は消え去っていた。


「成程な……」


 俺が思ってた以上に、真のレベルというのはヤバい物のようだ。

 そして俺は、初めてレベルが上がった時の事を思い出した。

 自分が人で無くなったみたいな感覚……


「新庄は、すごく強いデスネ……デモ、もうちょっと、ゆっくり観察したかったデス……」


 冗談めかしてそう言っているが、あまりの驚きからか、フレッドがその目を大きく見開いて俺を見ていた。

 その後ろでは、華菱の探索者達が口を半開きにしながら、呆然とコチラを見てくる。

 真夏たちがうまく手加減でき無かった理由が、今更ながら分かった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ