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新太平洋大陸  作者: 双理
四章 混ざり合う陰謀
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ポータル発見機1

「久しぶりだな、冴羽」


「そうですね」


 やけに素っ気ない態度だが、これがコイツの平常運転みたいなものなので、俺は気にしない。

 だが、今はそれ以前の問題で、冴羽は返答こそしてきたが、多分、俺の存在を認識していないだろう。

 その冴羽の目はノートパソコンの画面に釘付けになっていて、何らかの作業に没頭しているようだった。

 真夏も顔見知りの冴羽に挨拶をしようとしたが、今の俺に対する反応を見て諦める。

 以前、護衛として雇われていた分、俺よりも冴羽の扱いが分かっているんだろう。


「何やってんだ?」


 俺は自分の存在を認識させるべく、冴羽に再び話し掛けてみた。

 無駄だとは思うが、このままでは、ただ待たされる事になってしまう。


「実験です」


 冴羽は視線をよこす事もなく、見れば分かるだろうと言わんばかりにそう告げてくる。

 ああー……こりゃ、ダメだな。

 この様子では、俺達はしばらくこのまま放置されそうな感じだった。

 仕方ないので、俺は冴羽の行動を見て何をしているのか推測してみる事にした。


 冴羽が持つノートパソコンには長いケーブルが付いていて、その先に小さなテレビアンテナのような物が付いている。

 そのアンテナを、助手と思われる白衣を着た男が、冴羽の指示に従って方向を変える為に動かしていた。

 うん、成程。

 ……何をしているのかさっぱり分からん。


 その結論に至った俺は、仕方ないのでしばらく待つ事にした。

 どうせ今話し掛けても、まともな答えは返ってこないだろう。

 だが暇を持て余したのか、フレッドが冴羽のノートパソコンを覗き見た事で、その待ち時間は大幅に短縮される事になった。


「なるほど。ポータルが放つ魔力波動を周囲の環境波から分離して、位置を特定するデスカ?」


「ええ、その通りです。ですが、この辺りの魔素濃度が高すぎて、うまくフィルタリングできない……って、誰ですかあなたは!」


 フレッドの存在に気付いた冴羽が、慌ててノートPCを伏せる。

 どうやら、ようやく現実の世界に戻ってきてくれたようだ。


「よう、冴羽。ひさしぶりー」


 二度目の挨拶は、少し気の抜けたものになってしまった。

 その挨拶に反応した冴羽は、ようやく俺の姿をその目に映し認識してくれたようだった。


「ああ、新庄さん。もう来ていたのですね。それで、こちらの方はどなたなのですか?」


 最もなご指摘だったので、俺は冴羽に軽くフレッドの紹介をしてやった。

 すると、フレッドの出身を知った冴羽が、露骨に警戒の目を向けてくる。

 泰志が極秘任務だと言っていたのを今更ながら思い出し、フレッドが拙いものを見てしまったのだと理解した。

 

「悪いな冴羽。見ちゃまずいものだったのか?」


 流石に、華菱のお偉いさんを敵にまわすのは拙いと思い、この場は素直に謝罪する事にした。


「ソーリー、ごめんナサイ……」


 あの能天気なフレッドでさえ、冴羽の鋭い視線には恐怖を感じたのか、怯えて震えながら謝罪している。

 かなり反省してるみたいだから、許してあげてくれ……


「……まあ、いいでしょう。今更他の企業に先を越される事も無いでしょうし、直に正式発表する予定の技術ですから。ですが教授、念の為に後で口外禁止の誓約書にサインをして頂きます」


「分かりまシタ……」


 俺の願いが通じたのか、冴羽は意外な程あっさりと許してくれた。

 サイン程度で許されるなら、俺が後でいくらでもさせてやるよ。


「お久しぶりです。冴羽さんお元気でしたか?」


 そんな場の空気を変えようと思ったのか、ここぞとばかりに真夏が挨拶をねじ込んできた。


「真夏さんもご一緒だったのですね。気が付かなくて、申し訳ありませんでした。またお会いできて嬉しいです」


 声のトーンこそ変わっていないが、感情に乏しい冴羽の表情が若干緩んだのが目て取れた。

 俺に対した時との落差に理不尽さを感じたが、この場の空気が和らいだことに安堵する。

 暫くふたりで話をした後、真夏は結を呼び寄せ、冴羽に紹介しているようだった。

 俺はその会話に混ざる気になれず、今だに落ち込んでいるフレッドに声を掛ける事にした。


「許して貰えたみたいだし、そう落ち込むなって」


「日本のレディは、おそろしいデース……」


 怯えているフレッドに、冴羽が特別なんだと言いたかったが、今朝、真夏と結が俺を嵌めた事を思い出すと、何も言えなくなってしまった。

 女3人で仲良く話している姿が、何故かだんだん、魔女の集会のように見えてくる。

 目を擦り、再びその会談に目を向けると、冴羽の目が、結の頭上で寝息を立てているシロに向けられているのが目に入った。

 もしかしたら、犬が苦手なのかも知れない。

 仮にそうだとしても、それが魔女を撃退する切り札になるとは思えなかったが……





「では、そろそろ仕事の話をしましょうか。あなた方には、私の護衛をして頂きたいと思っています」


 女どもの会話がひと段落したのか、冴羽がそう話しを切り出した。

 俺達に出来る事なんてそれ事ぐらいしかないので、そうだろうなとしか思わない。


「今更隠しても仕方ないので言いますが、私は現在、ポータルを見つけ出す装置の開発に携わっています。この場所には、実際にこの装置が機能するか実地試験をする為に来ました」


 冴羽は隠しても仕方ないと言ったが、俺は全然何も気付いてなかったので、出来ればそんまま隠し続けて頂きたかった。

 自分から、極秘任務の内容を事を暴露してんじゃねーよ……


 それにしても、ポータルをみつける装置とはな……

 もし本当にそんな装置が完成したら、今ならどこの国や企業でも惜しみなく金を積んでくれるだろう。

 さっきフレッドを強く警戒したのは、産業スパイを疑ったからという事か……

 正直、今すぐ踵を返して帰りたい所だが、話を聞いてしまった以上、冴羽がそれを許すとは思えない。


「ですが、モンスターやこの場所を訪れる探索者が思いのほか多く、護衛の数が足りません。そこで、あなた方を雇う事にしました」


 冴羽が連れてきているのは5人。

 先に会った探索者の3人と助手の男、後は知らない女がひとり。

 そいつは、冴羽の護衛でこの場所に残っていた探索者のようだった。

 探索者と分かったのは、今現在その女が、泰志と共にモンスターと戦闘しているからだ。

 今は俺がここに居るからか、冴羽と助手を残し、全員で襲撃してきたモンスターと戦う判断をしたようだった。

 華菱の探索者達の手際は見事なものだったが、泰志や弥生と比べると、他のふたりは明らかに劣って見える。

 それでも、モンスターだけを相手にするならば、この4人だけで問題無いだろう。

 だが、昨今の状況と、今冴羽が扱っている装置の重要性を考えれば、探索者にも気を張らなければならないので、確かに手が足りているとは思えなかった。


「事情は分かった」


 この装置がすれば、ポータル探しが格段に捗る事になる。

 俺としては全く気乗りしなかったが、ワールドクエストに関わる事だけに知らないふりをするのも気が引ける。


「あなたは、戦闘に参加しないのですか?」


 冴羽が、いつの間にか戦闘に参加している真夏と結の姿を見て、俺にそう尋ねてきた。


「必要だと思うか?」


 花菱の探索者達は、充分ににその役割を果たしている。

 特に俺が面倒をみたふたりは、前とは比較にならない程の実力を身につけているように感じた。

 だが、真夏と結は、そいつらの倍以上のスピードでモンスターを片付けている。

 結に至ってはシロを頭に乗せている状態でだ。


「頼りになりそうで、何よりです……」


 あのバカどもは、何をやってんだ?

 手加減しろって言ってんだろーがよ!

 あの冴羽が、引いてんじゃねーか……


「その依頼、引き受けるよ……」


 女どもが既に戦闘に参加してしまってるので今更だったが、俺は冴羽の依頼を引き受ける事にした。

 というか、それしか俺には道が残されていなかった。

 真夏と結は断らないだろうし、ここまで事情を聞かされた後では、どうせ冴羽が逃してくれないだろうしな。


 俺の隣では、先程までの落ち込み様が嘘だったかのように、戦闘を観戦しながら異様なテンションでフレッドが奇声を上げていた。

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