陽気な教授様4
真夏と結に先導されて、集会所前にあるポータルから転移した先は、ポータル探しの最前線と言えるような場所だった。
街の周辺では、ポータルが探し尽くされているので見つける事が出来ないだろうから、こいつらの目的としては間違って無いのだが、素人がひとり混ざっている事を忘れないで欲しい。
最も、いくら最前線とはいえ、この周辺のモンスターでは今のふたりには物足りなさを感じる程度なのかも知れなかった。
一応、ふたりには本気を出さないように釘を刺しておく。
真のレベルを上げた俺達は、周りから見ると異常とも言える強さになっていたからだ。
勿論、シロにも人前では話さないように普段から指示してある。
フレッドの様な無害なオヤジ相手に気を遣い過ぎだとは思うが、何処で誰が見ているか分かったもんじゃないしな。
「えっ!じゃあフレッドさんは米軍基地から逃げてきたんですか?」
「そうデース。ワタシの探究心は誰にも止められまセーン!」
「だっ、脱走ですか?フレッド……なかなか侮れない奴です……」
ぶらぶらと探索している内に、この3人はすっかり打ち解けていた。
今はフレッドが何で街に来たのかを話をしているようだった。
元々フレッドは、魔石をエネルギーに変換する研究で新大陸にある米軍基地に招聘されてたらしい。
だが、本当はモンスターの生態について研究したかったらしく、無理やりやりたくも無い研究をさせられる日々に嫌気がさし、秘書と護衛の兵士の目を掻い潜り、基地内にあったポータルに飛び込んだそうだ。
第一特区を選んだのは、以前ファーストキャンプを観光で訪れた事があり、多少は土地勘があると思ったからだった。
先日、俺の案内など全く聞く気が無く、モンスターに対してのみ異常な興味を示した理由が分かった気がした。
「それにしても、何だってそんなにモンスターに興味を持つんだ?」
そこまで興味がある訳でもなかったが、何気なしに聞いてみた。
米軍基地を抜け出してまで、モンスターに固執する理由が少だけ気になったからだ。
「ただの趣味ですヨ」
フレッドは、何を当然の事を聞いてるんだと言わんばかりの表情だ。
そっか、趣味か……じゃあ、仕方ねーよな。
その反応から、今後コイツと話が噛み合う事は無いだろうと思い、俺はそれ以上追求するのを諦めた。
そんな呑気な話をしている内に、俺たちは通常なら危険と言えるエリアにまで進んでいた。
周囲が草木で覆われ、視界が悪くなってくる。
索敵スキルを使ってモンスターの反応を探っているのか、真夏と結の口数も減ってきた。
それにしても、このふたりはどこまでフレッドを連れていくつもりなんだろうか?
真のレベルが上がった事で危機管理が甘くなっているのかも知れない。
まあ、その依頼人が恐怖心を全く見せる事なく付いて来ている事にも、問題があるとは思うが……
念の為に、俺はさりげなくフレッドのそばに近寄る事にした。
そろそろ、忠告しなければならない事があったからだ。
もしも、フレッドがその事を知らないのなら、危険な状況に陥るかも知れない。
「なあフレッド、どうしてそんなもの持ってきた?まさかとは思うが、モンスター相手に効果がないのを知らないのか?」
俺は自分の腰を指差しながら、フレッドに小声でそう告げた。
フレッドは、最初何を言われているのか分からない様子だったが、自分の腰のあたりをまさぐり、ようやく自分の腰にぶら下げていた銃の存在に気づいたようだった。
外からは見えないように隠してあるので、多分、真夏と結は気付いていない。
俺は、フレッドが何故そんな物を持ち込んだのか理解できなかった。
「オウ、この銃の事ですカ。効果がないのは分かってマース。コレは父の形見デース。お守りみたいなものデスネ」
フレッドがわざわざ俺に銃を見せつけるように、ジャケットをめくってみせた。
見た事のない型だったが、俺は銃にあまり興味が無いので知らないだけだろう。
銃が効かないと分かってるならそれでいい。
いざという時、乱発されて周囲のモンスターを集められてはたまらないので注意しただけだった。
「あいつらに見つかんなよ。絶対オモチャにするからな」
「気をつけマース」
フレッドがジャケットの裾を直し、再び銃を隠す。
その次の瞬間、何を思ったのか、フレッドが俺達を置き去りにするようにして、猛然と走り出した。
「オウ、あれは何のモンスターですか!」
どうやら、遠目でモンスターの姿を見つけしまい、無意識に駆け出してしまったようだった。
距離があり、まだ相手がこちらに気付いて無いようなので良かったが、マジで危険なのでやめて欲しい。
フレッドは走り出しこそしたが、何とかモンスターを双眼鏡でモンスターを覗くにだけに留めているので、まだ理性が働いてはいるようだった。
しかしこの男、この距離でモンスターの居る位置が分かる所を見ると、もしかしたら探索スキルを持っているのかも知れない。
そんな感じで、俺たちはなぜかフレッドに導かれるように、新大陸の中央部の方に向けて進む羽目になっていた。
そんな時だった。
「先輩!」
真夏の声には、これまでに無かった緊張感が含まれていた。
「分かってる。結、フレッドを下がらせろ!」
「了解です!」
結はすぐにフレッドに駆け寄り首根っこを捕まえて確保すると、俺と真夏の後ろに移動した。
「ワット?何するんデスか!」
フレッドがあまりの扱いの酷さに抗議の声を上げるが、今は無視する。
索敵スキルに反応があった。
その反応は明らかにこちらにを目指して向かって来ており、すでに俺達の存在に気付いているようだった。
しかも、反応の大きさと、動き方からすると……
「多分、探索者だ!移動速度から見てかなりの手だれだな……警戒しろ!」
「「了解!」」
一気に緊張感が高まる。
昨今の状況を考えれば、探索者同士の接触など避けたい筈なのだが、相手はお構いなしにこちらに向かってきている。
そのことから、この相手が腕に相当な自信を持っているのが分かる。
6号の存在が頭をよぎり、逃げるべきかと判断に迷うが、仮にそうだとしたら既に手遅れだろう。
違うことを祈るしかない。
反応の主は、視界に入るかという距離まで俺達に近づくとその動きを止める。
すると、突然そいつが大声を張り上げた。
「警告する!それ以上こちらに近づくな!ここから先は華菱が確保している土地だ。これ以上近づけば、敵対行動とみなす!」
その声に反応して、俺達はそれぞれの武器に手を伸ばして構えた。
………………ん?
今、花菱って言ったか?
相手の反応が少しずつ距離を詰めてきて、その姿が視界に入る。
ナイフを構えた男がひとり。
コイツは……
「あなたは、まさか……新庄さんじゃないですか!」
その男は、驚いた顔をしながら俺の名前を呼んだ。




