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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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精霊の王11

「先輩!」


 目を覚ました俺を出迎えたのは、真夏の抱擁だった。

 今いる場所は、俺の知らない場所だ。

 病院という訳でも無さそうだが、今はそんな事より━━


「イデーッ!ばか、放せっ!」


 スキルの反動でボロボロな体に、真夏の怪力はキツ過ぎる!


「あっ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃねーよ!」


 6号に負わされた傷はオベロンが治してくれたので問題は無い筈だが、真夏に絞められたせいでどこかの骨が折れたかも知れない。

 俺は痛みを堪えながら、寝かされていたベットから体を起こし、自分の体が無事かどうかを確認した。

 骨は折れてはいないようだが、身体中が痛い。


「やっぱり、ダメですか!ああ、いったいどうしたら……あっ、そうだ唯ちゃん!ヒールを掛けて貰えば!」


 真夏は泣きそうというか、もう既に泣いていた。

 右往左往と動いているが、どうして良いのか分からずに何も行動出来ないでいる。


「あー……もういいから、落ち着け!大丈夫だ、怪我もしてない」


 これ以上責めると何をしでかすか分からないので、取り敢えず落ち着くように言い聞かせる。


「本当ですか?」


 真夏が俺の手を両手で包み込みながら、上目遣いで問い詰めてきた。

 その顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。

 だいぶ心配させてしまったようで、申し訳なく思う。


「ああ、だからもう泣くなよ……」


 俺はガッチリホールドされた手と逆の手で、真夏の頭を撫でてやった。

 体を捻ったせいで激痛が走ったが、何とか表情に出さないように堪える。


「良かった……」


 真夏はそう呟くと、ようやく落ち着いたようだった。

 

 バタン!


「新庄さん、目が覚めたですか!」


 真夏が騒いでいるのを聞きつけたのか、結が勢いよく部屋のドアを開け、その勢いのままに迫ってきて……

 結果、再び俺の絶叫が響き渡る事になった。


 『こいつら俺を殺す気か?』と思いながらも、なんとか何とかふたりを宥め終わる頃に、今度は子犬の姿になってしまったオベロンとサラマンダーが姿を現した。


「それで、どうなった?」


 俺がそう問い掛けると、オベロンは事の経緯を語り始めた。



 あの時オベロンは、世界を繋げるゲートに使っていた力を、サラマンダーに戻せばこちらが有利になると思い、それを実行したらしい。

 だが、肝心のその力を戻す際に経験値のロスが発生してしまい、サラマンダーのレベルは10に届かなかったそうだ。

 それでも場を支配し、改変することで、状況は五分五分といった所だった。

 すぐに戦闘に突入するかと思われたが、6号は戦う事なくその場を立ち去ってしまった。

 その時の奴は、ひどく焦った様子だったとオベロンは言う。


 その逃走を見届けた後、サラマンダーに俺を担がせオベロンの支配する森に戻った。

 ちょうどそのタイミングで、エレンから連絡が入り、事態を知った真夏と結が合流する。

 6号に脅威を感じたオベロンは、すぐにリルクドアの住人をオベロンの森に移すように指示した。

 その指示はすみやかに実行され、村の住人の避難は既に終了したそうだ。

 今俺がいる部屋は、エルフ達のためにサラマンダーが場を改変して作った住居の一部らしい。

 そして俺が目を覚まし、現在に至る。


「おおよそは、こういった所ですかね」


「そうか……」


 寝起きで、まだ混乱している頭ではそんな返事しか出来なかった。


「慌てましたよ。ステータス画面を見たらクエスト失敗ってなってて、エレンさんにお願いして連絡をとってもらったんです」


 そんな中で真夏が変な事を言い始める。


「クエスト失敗?」


 無事にエルフの移住が済んだのなら、そんな事がある訳がない。

 俺はすぐにステータス画面を開き確認すると、確かにクエストは失敗となっていた。

 気になったのは、失敗した原因が精霊王の死亡の為となっていた事だ。


「どういう事だ?オベロンは生きてるんだが……」


 その姿こそ変わってしまったが、オベロンは死んではいない。

 失敗条件を満たしているとは言えない筈だ。

 それでも、誰が下した判断なのか知らないが、クエストは失敗したという事になっ

てしまった……


「クエストとは何なのですか?」


 オベロンが俺たちの会話についてこれず、そんな質問をしてきた。

 クエストが発生した際、その場に居合わせて無かったので知らなくて当然だ。

 簡単にクエストが発生した経緯を説明をする。


「あまりよく理解できませんが、その判断を下した者には少し心当たりがあります。貴方があの6号と名乗る者と戦っていた時、私は何者かに監視されている気配を感じていました」


「監視?そいつは、近くにいたのか?」


 俺は戦闘中も索敵スキルを使っていたが、そんな気配は感じなかった。


「いいえ、近場にはいませんでしたので、恐らく魔力を利用した遠視でしょう。ただ見ているだけ、といった感じだったので気に留めなかったのですが……それならば、そのクエストが失敗と判断された理由は分かります」


「どういう事だ?」


「私達精霊は、身体を保つ為に精霊力の力場で全身を覆っています。その為、魔力を通した遠視ではかなり見えづらいのです。なので、恐らくその者は私の元の肉体が滅んだ事を精霊力の減少で感じ取り、それで死亡したと誤認したのでしょう」


 つまり、クエストを作り出した奴が、単純に間違えたって事かよ……ふざけんな!

 報酬があるって書いてあったから、ちょっとは期待してたってのに!


 まあ、それは置いとく事にして……

 オベロンが言った事が真実だとしたら、あのふざけたクエストはその監視していた奴が作ったって事になる。

 そんな事できる奴が、この世界にいるのか?


「もしかしたら、その監視者こそが神なのかも知れませんね……」


「神様ですか?」


 既に話についてこれてなかった結だったが、神という言葉には引っ掛りを覚えたようだ。

 一方、今度は真夏が急な話の展開についてこれず、キョトンとしていた。

 面倒だったが、オベロンと話した内容をふたりに説明する事になった。

 俺が起きる前にそういう面倒な話は終わらしとけ、とは思ったが、あの時の真夏の状況を思い出すとそんな話をする余裕は無かったんだろう。


「神様……カッコいいです!」


 何を想像してるのか知らんが、そんなものが仮に居たとしても結が想像している様な存在では無いと思うぞ。

 何せ、この世界をおかしくした張本人かもしれないからな……


「これから、どうしたら良いんでしょうか……」


 真夏が不安を口から漏らす。

 だが、その答えは決まっていた。

 俺は、今回の件にこれ以上首を突っ込むつもりは無い。

 異世界?精霊?神?

 そんなもん知るかよ!

 完全に俺の手に余る話で、もう関わるべきじゃないとしか思えない。

 それを真夏に伝えようとした時、オベロンが再び語り始めた。


「私は、この世界について詳しく調べるべきだと思っています。そこで、まずはあなた方に付き添い、この世界の人間の事を調べたいと思っています。私は、余りにもこの世界を知らな過ぎたようです。あなた方は、それで構いませんか?」


「はい、私は構いません。というか寧ろ心強いぐらいです」


 真夏は先程までの不安をどこかにぶっ飛ばし、一転して喜びの表情を見せる。

 真夏の中では、既にオベロンを受け入れることが決まってしまったようだ。


「またシロと一緒にいられるですか?やったです!」


 それに、結も乗ってきてしまう。

 勝手に話を進めるなと言いたいが、こうなっては俺の入り込む余地はない。

 今までの経験でそれが分かっているので、俺は口出しするのを早々に諦めた。

 だが、俺は得体の知れない生物を飼う気は無いので、是非ふたりには、責任を持って精霊王のお世話をして頂きたいもんだ。

 そんな中、この場にはこいつらの事を分かっていないヤツが、ひとりだけいた。


「王よ、この場を離れるなど危険すぎますぞ!」


 ごもっともな意見だ。

 頑張れ、サラマンダー!

 女共に負けんじゃねーぞ!


「そうは言っても、今の私がここに留まっても何の役にも立たないでしょう?それならば、この者達と一緒に、人間の街に潜り込んで情報収集に努める方がマシに思えます。この姿ならば、違和感なく人間の街にも溶け込めるでしょうし、そう危険はありませんよ」


 俺は、今後街にいるペットに迂闊に近づかない事を、心の中で誓った。


「ではせめて、我もご一緒させて頂きたい!」


 気持ち的には応援したいんだが、何を言い出すんだコイツ、正気か?

 サラマンダーが今の姿のまま街に入ったらどうなるか……燃え上がる街の風景が、容易に想像できる。

 それは拙い!


「お前は何を言っているのですか?あなたはこの場所を守らなければいけないでしょうに……」


 いや、確かにその通りだが、それがお前も随分と変な事を言ってたけどな。

 自分の事は意外と見えないって言うのは、人間も精霊も変わらないようだ。


「しかし……」


「黙りなさい!これは命令です」


「ぬぐっ……」


 結局はオベロンが命令する形となり、主従の契約に縛られているサラマンダーは口を紡ぐ事しかできなくなった。

 ちょっと卑怯過ぎないか?


「さて、結論は出ました。皆さん、これからよろしくお願いしますね」


 もう、勝手にしてくれ……

 諦めの境地に至っていた俺は、何も言い返さなかった。

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