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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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逃亡戦2

「オベロン!お前……大丈夫なのか?」


 オベロンは身体を失って無事な筈が無いのに、驚きのあまり、俺はそんな質問をしてしまった。

 それにしても、随分と可愛らしい姿になったもんだ……シロに乗り移ったって事でいいんだよな?

 オベロンが生きていたと知って、その安堵感からか、どうでもいい事を考えてしまう。


「そんな事は後です!サラマンダーがこちらに向かっています。今は、少しでも時間を稼ぐ方法を考えなさい!」


 オベロンは、いつの間にかサラマンダーと通信していたらしい。

 それならもうちょっと早く助けて欲しかったもんだが、これで6号に対抗出来るかも知れない。

 でもな━━

 

「無茶言うな!こっちは逃げに徹してボコられてんだ。どうやって時間を稼げってんだ!」


 このまま6号とまともにやり合ったら、秒でやられる自信が俺にはある。

 かと言って、逃げ出したとしてもさっきの二の舞になるのが目に見えている。

 俺には、時間稼ぎの方法なんか思いつかねーぞ……


「あの者は、まだ私を倒した時の経験値を得ていません。精霊力を魔力に変換するのに手間取っているようです。今からその精霊力を横取りして、無理やり貴方に流し込んで強制的にレベルを上げます!」


「何だそのヤバそうな提案は?そんな事出来るんなら、自分でやれ!」


 オベロンが言った事を全部理解できた訳じゃ無いが、碌でも無い提案だというのは分かる。

 絶対に嫌だ……


「この体に、そんな力を流したら破裂しますよ!」


 俺の脳裏に、シロの身体が爆散してその内臓がぶち撒けられる映像が浮かぶ……

 ああ……それは色々と拙い。


「時間がありません!覚悟を決めなさい新庄!」


 完全に視力を失っていた6号が、瞬きを繰り返し、視力を回復しつつあるように見えた。


「俺は破裂しねーんだろうな!」


「……たぶん?」


 子犬の姿でオベロンが首を傾げてみせる。

 可愛けりゃなんでも許されると思うな、クソが!

 そうしている内に視力を取り戻したのか、6号の視線が完全にこちらを捉える。

 時間切れだ。


「ああ゛っーークソッ、やれオベロン!」


「身体にかなりの負荷が掛かります。耐えて下さい!」


 そのオベロンの注意を飲み込む間もなく、俺の体に何かが流れ込んでくる。

 その流れが急激に早くなり、体の中に何かをぱんぱんに詰め込められている感じがした。


「くっそ!本当に、体が、弾けそうだ……」


 全身が軋み、とてつもない痛みが襲ってくる。

 俺はその痛みに耐えきれなくなり、思わず大声で叫んでしまった。


「ぐっ、ガッガアアアアァァァァッーーーーーー!」


 もう限界だと思った時、その力の流れがぴたりと止まった。

 徐々に体の軋みが収まり、痛みが引いていく。


「新庄、来ます!」


 気を抜く暇もない。

 正面を向くと、6号が距離を詰めてくるのが見えた。

 俺は慌ててナイフを構え、その攻撃を受け止める。


 ギャリィイイーーーーーーンッ!!


 互いの持つナイフが擦れ合い、とてつもない金属音が鳴り響く。

 それと同時にかなりの衝撃が襲ってきて、真後ろに体ごと吹き飛ばされた。

 その一撃で体勢を大きく崩してしまったが、それでも今回は何とか立っているし、あっちも後退りしているようだ。

 そして何より━━


「攻撃が見える!」


 今までは、6号の攻撃が全くと言って良いほど見えなかった。

 それが見えるってんなら、何とかなるかもしれない。

 6号が、俺を警戒して距離を取ったのが見えた。


「おいおい、これははイイ感じだな!」


 体が軽い。

 力が段違いに上がっているのが分かる。

 全能感と言えばいいのだろうか━━そんな感覚が、全身を包んでいるかのようだった。


「これなら、アイツを……」


 殺れる!

 

 溢れるように、妙な自信が無限に湧き出してくる。

 俺は6号を睨みつけ、ナイフを強く握り直した。

 

 さて、狩りを始めるか……獲物はモンスターじゃなくて、あのクソヤローだけどな!


「新庄!レベルアップの高揚感に飲まれては行けません!」


 高揚感?

 俺がか?

 ………………いや、俺は一体……今、何を考えていた?


「くそっ、なんだこれは!」


「レベルアップは、急激な肉体の変化と共に強い高揚感を伴います。まずは落ち着きなさい!」


「そういう事は、先に言え!」


 危うくあんな化け物に特攻するところだ。


「成程。俺が得るはずの経験値奪い、真のレベルの力を手に入れたか。精霊王というのは、随分と姑息な手段を使うんだな」


「元は私の力です。そのような事を言われる筋合はありません」


 今は子犬の姿に変わっているが、その言葉には威厳が感じられた。

 それが気に食わなかったのか、6号が怒りで表情を歪ませる。


「核石を飲み込んだ者を乗っ取り、復活するとは、精霊とは全く面倒なものだな!」


 言い終えると同時、6号が距離を詰め、オベロンに切り掛かった。

 だが、その斬撃は空を切る。

 俺がオベロンを抱きかかえ、回避したからだ。

 だがその斬撃は凄まじい威力で、さっきまで子犬がいた場所の地面を抉り取るほどだった。


「おいおい、あんま怒らせんなよ……」


 俺は、片手で抱えているオベロンに小声でそう伝えた。

 あんな攻撃はそう何度も躱せる気がしないし、受けたくない。


「あの者、レベル10は超えているようです。ですが、今のあなたはレベル4程度。会話でも何でも良いので、サラマンダーが来るまで時間を稼がなくてはなりません」


 オベロンも俺に倣って小声で返してきた。


「レベル10って……サラマンダーも弱体化してんだろ、いけるのか?」


「考えがあります。今はそれに賭けるしかありません」


 ギャイイイィィーーーーンッ!


 6号の追撃の一撃が再び俺を襲う。

 今度はその攻撃をうまく逸らすことができ、体勢も崩されずに済んだ。

 だが、余りの一撃の重さに手が痺れてしまう。


「何をコソコソと!」


 6号は自分の攻撃を完全にいなされ、完全に怒り心頭といった感じだ。


「まあまあ、そう怒んなって!」


 手の痺れから内心ではヒヤヒヤしていたが、俺は更に6号を煽る。

 奴が冷静さを失えば、少しは対応できそうだったからだ。


「新庄、もう直ぐそこまでサラマンダーが来ています。耐えて下さい!」


「って言われてもなあ……」


 いくら俺が強くなって奴が冷静さを失ったとしても、今のままじゃあ、もって数分って所だ。


「本当にすぐに来るんだろうな?」


「ええ、間違いありません!」


 じゃあ、もうそれに賭けるしかないか━━いい加減、やられっぱなしなのもムカついてきたしな。

 

「じゃあ、ちょっと離れてろ」


 俺はオベロンをそっと地面に下ろした。


「正面からでは勝てませんよ」


「分かってるって」


 だが、俺は自分が言った言葉を裏切るように、正面から全速で6号に迫った。


「狂ったか!」


 俺の特攻に、6号は正面から迎え撃つ構えのようだった。


「かもな!」


 間合いまであと一歩という所で、俺は更に加速した。

 

ズバアーーーンッ!


 俺は、その瞬間空気の壁を突き破ったのを感じた。

 そのスピードの変化についてこれなかったのか、6号の防御行動は間に合わず、俺は渾身の一撃を奴に当てる事に成功した。


 確かに人体を切りつけた感覚があったが━━少し浅かったか?

 振り返ると、6号が片腕を抑えているのが見える。

 血を流しているが、深手という程ではなさそうだ。


「貴様……何をした?」


「さーな、自分で考えろ。簡単にタネを教えちゃ、面白く無いだろ?」


 タネと言っても、ただ鬼神のスキルを使っただけだ。

 今の俺が、このスキルの負荷に耐えられるかは分からなかったが、どうやらその賭けには勝ったようだ。

 だが、凄まじい加速に反応が追いつかず、掠らせるだけで精一杯だった。


「お前のレベルで、あれほどの動きができるとは思えんが……」


「油断してるからだバーカ!傷は大丈夫か?逃げた方がいいんじゃないか?」


 余裕なフリして挑発をかましたが、もちろん俺に余力は無い。

 もう既にスキルの反動が現れ始め、体が軋み始めている。


「余程、死にたいようだな!」


「俺はそんなにマゾじゃねーよ!」


 互いのナイフがぶつかり、金属音が響き、火花が散る。

 先程までとは違い、明らかに本気の攻撃。

 ヤバい……煽りすぎた。

 どうやら、奴の沸点は結構低かったようだ。


「このっ!」


「そう無気になるなってっ!」


 更に二撃目、三撃目とナイフで打ち合う。

 スキルのお陰で力が拮抗しているのか、何とか戦えているといった感じだ。

 これ以上煽るのは拙いと分かっているが、戦闘に伴う興奮のせいか、軽口が止まらない。

 でも、それもそろそろ限界だ。

 ……タイムリミットが近い。


「何をしたか知らんが、スピードが落ちてきてるぞ!」


「そうか?まだ隠し玉があるかもしれないぜっと!」


 クソ!

 ナイフを交えながら、煽る事で何とか誤魔化していたのに、動きが鈍ってきている事を感付かれちまった。

 完全に怒りで周りが見えていないと思っていたが、そうでも無かったらしい。

 だが、俺の言葉を間に受けたのか、6号は俺から距離を取り後ずさる。


「本当に、ふざけた奴だ……」


 その姿を見て、俺は助かったと思いながらも、つい、次はどう煽ってやろうかと考えてしまう。


「サラマンダー、力場を展開しなさい!」


「御意!」


 俺と6号の周囲に、炎の壁が現れる━━間に合った!

 サラマンダーの姿が目に入った瞬間、全身から力が抜けてしまい、俺はそのまま地面にぶっ倒れた。


「新庄!」


 オベロンが俺を呼ぶ声が聞こえ、起き上がろうとするが力が入らない。

 それどころか、少しずつ意識が失われていく……


「サラマンダー、ゲートに注いだ力を自分に戻しなさい!」


「王よ、そのお姿はいったい!」


「いいから早く!」


「ですが、それは……ぬっ、これは!」


 薄れていく意識の中で、周囲を囲む壁の火力が強くなっていくのを感じた……

 どうやら、オベロンが主従の契約を使って、無理やりサラマンダーに行動させたようだ。


「フィールドを完全に支配された!クソッ、サラマンダーが力を取り戻したか!」


 慌てる6号の姿が見えた。


「ざまあ……」


 俺は最後にそう言葉を絞りだすと、そのまま意識を失った。

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