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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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逃亡戦1

「ちっ、核石のままか……」


 6号が地面に落ちた拳大の石を拾い上げる。

 それが多分、オベロンが言っていた核石なのだろう。


「まさか、魔石化が阻害されるとはな……投影された身体自体がフィールドになっているのか?ふん、まあ良い。精霊王ならば経験値としては十分だろう……」


 6号の呟きが、俺の耳を通り抜ける。

 何を言ってる……いや、何が起きた?

 目の前で繰り広げられた光景が受け止めきれず、思考が纏まらない。

 何をするにしても、6号が考え事をしている今がチャンスのはずなのに、体が動く事を拒絶する。

 奴の放つ威圧感が、質量を持って全身に伸し掛かってくる感覚がした。


「6ごおおぉぉっーーーーーー!」


 俺はその感覚を振り払う為に、声を張り上げて絶叫した。

 その叫びに声に反応して、6号が振り返り俺を視線に収める。

 

「ん?お前は確か、リルクドアにいた探索者だったな。名前は確か……新庄、だったか?」


 まるで、久しぶりに会った顔見知りに声を掛けられたかのような反応━━俺の存在を、全く障害として見ていないようだった。

 その舐めくさった態度に、怒りが込み上げてくる。

 熱くなってはいけない状況だが、それが逆に良かったのか、体の自由が戻っている事に気付いた。

 まさか、精神攻撃だったのか?

 ビビってたって事もあるかもしれんが、今はそんな事どうでも良い。

 

「テメー!何しやがる!」


 こいつ、オベロンを一撃でやりやがった……


「うるさい奴だな。狙われているとも知らずに、自分のフィールドを出た間抜けを、殺っただけだろ……いちいち喚くな」


 フィールドだか何だか知らないが、オベロンはこの世界の人間を全く脅威としていなかった筈だ。

 それなのに、6号はいとも簡単にあの精霊王を仕留めてしまった。

 これがオベロンの言っていた、認識できない力って事なのか?

 だめだ……まだ頭が回らない。


「ああ、そうかよ。でもなー、悪いけどその石ころは俺の知り合いなんだ。返してく貰えるか?」


 俺は自分の心を落ち着かせるために、わざと軽口を口に出す。

 核石を取り返した所でこの状況が変わるとも思えないが、このまま逃げてしまっては、俺はサラマンダーに殺される事になるだろう。

 かといって、6号に立ち向かった所で勝てる気がしない……

 どう転んでもまずい状況だ。


「そう言われて、俺が核石を渡すと思うのか?魔石では無かったが、これはこれで使い道がある……」


 6号が、何度も核石を空中に放り投げて弄ぶ。

 ただ質問に答えただけ━━そんな感じがした。

 そこには、何の感情も感じられない。

 精霊王を仕留めたという喜びすらも、感じ取れなかった。

 恐ろしく場慣れしている。

 

「行っていいぞ。今回は見逃してやる。これでも、精霊王をここまで連れてきてくれたお前には感謝してるんだ。いくら弱体化していると言っても、ずっとフィールドの中にいられては、手が出せなかったからな」


 自身の言葉を証明する為か、6号は手に持っていた白銀のナイフを鞘に納めた。

 眼中にないと言わんばかりに、全くこちらを警戒していない。

 その態度に苛つきはするが、俺に何か出来るとも思えなかった。

 サラマンダーの事は後でどうにかするとして、今は引くしかないか……

 そう思い始めた時だった。

 双方にとって予想外の事が起きる。


「わん!」


 小さな白い塊が6号に向かって飛び掛った。

 6号がその白い塊を振り払うと、いつの間にか、その手から核石が消えてしまっていた。

 唐突に起きた出来事に、俺と6号の動きが止まる。

 その白い影を目で追うと、シロが核石を口に咥えているのが見えた。

 犯人はシロだったようだ。

 そして、シロの奇行は止まることなく続き、口に咥えた核石を……飲み込んだ?



 ……………………



「これは……お前の犬か?」


「ああ……まあ、そうかな」


 俺と6号の間に、微妙な空気が流れる……


「ふざけた奴だ……死にたいのか?」


 先に立ち直ったのは6号だった。

 再びナイフを手にして、完全にやるきになってやがる。

 相当怒っているのか、今までと違い、怒りの感情を剥き出しにしていた。


「こっちに来い!シロ!」


「わん!」


 俺の要望に応え、シロがこちらに向かって駆けてくる。

 全く、賢い奴だ。

 俺もシロ目掛けて走り出し、シロを拾い上げると、そのまま抱きかかえて6号の横をすり抜けるように駆け抜けた。

 すれ違いざまに、6号の足元にスラッジを仕込む。

 そんな小技が通用する相手とも思えないが、一瞬でも時間が稼げれば良い。


「じゃあな、6号!」


 そんな小物臭漂う言葉を残し、俺は森の中を全速力で逃げた。

 オベロンの核石はこっちの手に……いや、シロの腹の中にある。

 それでサラマンダーが許してくれるかは分からないが、このまま逃げ切れば何とかなるかも知れない。

 僅かにだが、俺が生き残る為の道筋が見えてきた気がする。

 そろそろ6号を撒いたかと思い、スピードを落とをうとした次の瞬間━━


「そんなに簡単に逃げられると思ったか?」


 すぐ横から6号の声が聞こえ、俺の腹を強い衝撃が突き抜けた。

 6号の一撃を喰らい、進行方向とは逆の方にぶっ飛ばされ、体が宙を舞う。

 地面に落下してもその一撃の勢いは止まらず、滑るように地面の上を転がり、背中から木に激突する事で漸く体が静止する。

 すぐに体を起こそうとしたが、全く動くことが出来ない。

 ヤバい━━かなりのダメージを受けちまった……

 

 状況を確認しなくてはならない。

 腹に穴が空いてないので、喰らったのは多分打撃だ。

 シロの方は胸に抱き抱えていたので、今の攻撃は受けていない筈。

 6号の姿は、俺が吹き飛ばされた時の砂煙で現在は確認出来ない。

 状況を整理していると、急に頭に痛みが走った。

 髪を掴まれたようだ。

 顔の向きを無理やり変えられると、そこには当然6号がいる。


「核石を渡せ。期待外れだったとはいえ、それなりには貴重な物だ」


 俺は髪を掴まれて頭が動かせなかったので、何とか抱き抱えたまま離さなかったシロに視線をやった。


「おい゛おい゛……見でなかっだのか、こいづが……くっち゛まったよ゛」


 息が詰まって、まともに話せない。

 6号は俺の髪を無造作に放すと、抱えていたシロをむしり取るように奪いさった。

 子犬の首筋を摘むように持ち上げ、ナイフを腹に近づけていく。


「じゃあ、腹を開くしかないな」


 6号がシロの体にナイフを突き刺そうとする姿を見て、俺はシロの死を覚悟した。

 だが、次の瞬間ひとつの光球が目の前に現れ━━弾ける。

 凄まじい閃光が辺りを覆う。


「何っ!」


 その光をもろに見てしまったのか、6号がその身を大きくよろめかせ、シロを手放す。

 倒れ込みこそしなかったが、目が眩み、周りの景色が見えていないようだった。

 俺はぎりぎり目を背ける事が出来たので、その様子を見る事が出来ていた。

 シロが、こちらに駆け寄ってくるのが見える。

 逃げる為に立ち上がろうとするが、足に力が入らない。


「そのまま逃げろ!」


 何とかシロだけでも逃がそうと声を張り上げるが、全く逃げようとしない。

 さっきまでの賢さはどこにやったんだ!


「今、回復させます!」


 聞き覚えのある声が聞こえ、俺の体が光に包まれる。

 ダメージが抜けていくのを感じた。

 ヒール……いったい誰が?

 いや、それは分かる━━今聞こえたのは、確かにオベロンの声だった。


「新庄、今すぐ逃げなさい!目を眩ませただけです!」


 オベロンの声が聞きこえのは、間違いなく小さな子犬からだった。

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