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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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精霊の王10

「ああ、だが……こいつは、あんたの仲間じゃねぇのか?」


 俺達の前に現れたのは、前に苦戦させられたモンスター、シャドーだ。

 既に一度倒してしまっているが、オベロンの目の前でその仲間を倒すのは流石に気が引ける。


「仲間?精霊という事ですか?それは違いますよ。恐らくですが、この世界には私とイフリート、それとこのシロだけしか精霊はいません。遠慮はいりませんから、倒してく下さい」


「わん!」


 自分の名前を呼ぶ声に反応したのか、オベロンに抱かれているシロが返事をした。

 そのタイミング的に、なんか子犬に急かされているような感じがした。


「そうか。じゃあ遠慮なく……って言っても、流石に多過ぎないか?」


 シャドーの数は、軽く10を超えている。

 前回と違い倒す方法は分かっているが、面倒な敵であるのは変わらない。

 エレンがいない為、実体化する一瞬の隙を突く方法で倒すしかないので、流石に数が多過ぎると感じていた。


「そうですか?では、少し数を減らしますか」


 そう言うと、オベロンはひとつの光球を自身の目の前に作り出した。

 多分、攻撃魔法の類だろう。

 異世界の魔法がどんなものかと見ていると、その光球から幾つもの光線が放たれ、シャドーを一瞬で貫く。

 全ての光線がひとつも狙いを外す事なく直撃し、その威力もかなりの物だったようで、一撃でシャドーの姿を魔石へと変える。

 ……残るシャドーは一体になっていた。


「ヤベーな……」


 それしか言えなかった。


「やべー?褒め言葉ですか?」


 首を傾げ、可愛い仕草でそんな事を言ってくるが、もうこいつには恐怖しか感じられない……

 オベロンがその気になれば、俺なんかは骨も残さずに消されそうだ。


「さて、あなたの番ですよ新庄」


「ああ、分かってるよ……」


 もう十分、オベロンの力は見せつけられたが、これで終わりとはいかないだろう。

 仕方なく俺は腰のナイフを引き抜いた。


 残りは一体。

 先程のオベロンの攻撃で、こちらには気付いている状態だ。

 警戒していのか、その姿が薄くなっていて、今は物理攻撃が通りそうもない。

 このまま攻撃しても、俺のナイフは空を切る事になる。


「じゃあ、行くか!」


 シャドーとの距離を一気に詰める。

 その身体が一層薄くなるのが見て取れたが、構わず体当たりをするようにナイフを突き刺す。


「うおっ!」


 当然、俺の攻撃が当たるはずもなく、体ごとすり抜けてしまう。

 足を滑らせバランスを崩し、無様に転んでしまう。

 それを見逃すことなく、シャドーが攻撃を仕掛けてくるが……


「それを待ってたんだ!」


 俺は転んだ勢いを活かし、そのまま前転をして、シャドーの攻撃をギリギリで躱す。

 そこから体を捻ってモンスターに向き直り、逆にその胴体にナイフを突き立てた。

 それが致命傷とはならずに、シャドーが右手を振って反撃をしてくる。


「おっと!」


 素早くナイフを引き抜きいて後ろに一歩下がり、反撃の一撃を避ける。

 更に少し距離をとり、相手の出方を伺う。

 シャドーは攻撃を受けて怒ったのか、半実体化すること無く、俺を追撃してきた。

 実体化さえしていれば、たいした敵では無い。

 その追撃に合わせて、カウンターでナイフを突き刺すと、今度はシャドーがその姿を光の粒子に変えた。


「これでいいのか?」


「ええ、ありがとうございます」


 オベロンの先程の戦いと違い、余りにも姑息でみみっちいものに思えたが、問題は無いようだった。


「ですが、やはり私の見立ては間違ってなかったようですね。あなたのレベルが2に達しているとはとても思えません。ふたつの世界のレベルは違うもの━━そう考えて間違いないでしょう」


 これには納得せざるを得ない。

 俺にはというか、そもそも人間に、オベロンのような芸当がでいるとは思えなかったからだ。

 レベルが上がればとか、そういう次元の話じゃない。

 生物として、格が違うんじゃないかとすら思える。


「新庄、この石が何か分かりますか?」


「魔石のことか?エネルギー源として使われてる石だな。俺も詳しく知ってる訳じゃ無いが、それを使って発電とかが出来る。そっち世界に魔石は無いのか?」


 俺はレベルの違いの方が気になっていたが、オベロンの興味は魔石に向いたようだった。


「この世界に来るまでは、見た事がありませんでした。精霊の核石に似た感じではありますが、この石から感じられるのが、精霊力では無く、魔力だったので気になっていたのです」


「ずっと気になってたんだが、精霊力ってのは魔力とは違うのか?それに核石って何だよ?」


 また情報が渋滞してきやがった。

 どうにも、頭の処理が追いつかない。


「魔力は世界を書き換える為の力と言えますが、精霊力は自然その物が持つ力と言えます。最も、絶えず自然がその姿を変えるのは、ある意味、世界を書き換えているとも言えるので、本質的には同じものと言えなくもないですが、精霊の私にとっては違うものと認識できます」


「ん?うーん、成る程な……」


 ちょっと何言ってるか分からないが、話の腰を折るのも何なので、分かった振りをしておく。


「レベルが上がるという現象は、この魔力が関係しています。モンスターを倒すとその魔力が漏れ出し、討伐した者の体に蓄積されていきます。それが一定値を超えた時、その者の体をより強い体に書き換えると言った感じですかね」


 何か今、世界の構造について重要な事を知った気がするが、それについて考える暇も無く、オベロンがそのまま話を続ける。


「核石とは、精霊の核を成す心臓のような物です。大きな精霊力を宿し、精霊の姿を形作る事が出来ます。人間の作り出した、ゴーレムなどの人工生物の核をそう言う時もありますが、そちらは魔力を元に作られているようです。私は見た事が無いのではっきりとはいえませんが、もしかしたら、この魔石と同じ物かも知れません」


「じゃあ何か?この世界のモンスターは、魔石を元にして作られた物だってことか?」


「私にはそう思えます。私の世界のモンスターは魔石など落としませんし、この世界のモンスターからは、何処か作り物のような不自然な感覚を感じるのです」


 元々、モンスターはこの世界には存在しなかった。

 それを踏まえれば、誰かが作ったというのは確かに考えられる事だが、いったい何の為に……


「それに、他にもおかしな点があります。今あなたが戦っていた時、私は魔力の流れを見ていたのですが、モンスターから漏れ出す魔力量が余りにも少な過ぎました」


「そのせいで、この世界のレベルはお前の世界のレベルに劣るっていう事か……」


「ええ、恐らくは。更に言えば、モンスターの死骸が残らないというのは、余りに不自然だと思いませんか?このモンスターのように精霊に近い体を持つものならば、核石を残したという事でまだ理解できますが、実体を持つモンスターは違います。はっきり言って異常ですよ」


 人類が初めてモンスターを倒した時から今まで、死骸が残ったという事例は無い。

 単にそういう生物だと思っていたが、言われてみれば確かに異常だと思える。

 倒したモンスターの体がどこに消えるのか……


「モンスターを倒すと、本来ならばその死骸から直接魔力が外に漏れ出し、その魔力を得る事になります。ですが、この世界では死骸が残る事は無く、その魔力が魔石化されてから僅かに残留している魔力だけが得られるようですね。これではまともにレベルが上がるとは思えません」


 オベロンはこちらの世界を異常だというが、まだ新大陸が現れる前の感覚ならば、レベルがあるという事自体、異常だと感じると思うんだが……

 どちらの世界がおかしいのか、その判断は俺には出来ない。


「新庄、後ひとつだけ、私に付き合って頂けませんか?」


「何だ?言ってみろよ」


 正直、頭を使いすぎて疲れているので、もう勘弁してほしいんだが……


「私に対して、全力で攻撃して頂けませんか?決して反撃はしませんので」


「何言ってんだ?正気か?」


 オベロンが何故そう言ったのか、全く理解が出来ない。


「もしかしたら、貴方の力が、私の知覚できない力に変換されているのかも知れません。それならば、この世界のレベルは私には測れないという事になります」


 おいおい、それなら俺がオベロンを殺しちまうって事もあんだろうが……


「何をしたいのかは、分かったが……」


 恐らくだが、オベロンが言ったような事は起きない。

 それでも、オベロンの見た目は弱々しい女の子なので、どうしても躊躇ってしまう。


「お前がやらないなら、俺がやらせてもらおうか!」


 突然、聞き覚えがある声が聞こえた。

 その次の瞬間、俺が目にしたのは、白銀のナイフの刃が貫通したオベロンの姿だった。

 そいつはオベロンからナイフを引き抜くと、その体を無造作に地面に投げ捨てる。


「なっ、6号!」


 あまりに一瞬の出来事で、反応出来なかった。

 呆然としている俺を残し、オベロンの体は徐々に薄くなり、そして消え去った。

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