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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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精霊の王8

「この大陸がその時に出来た物なのだとしたら、ふたつの世界がぶつかった時に、その一部が融合した結果なのかもしれません。この大陸の植生は、私の世界とこの世界のものを、掛け合わせた物のように見えるますからね」


 信じ難い話ではあるが、それならばひとつ納得できる事があった。

 これは以前から言われてる事だが、新しく出来た大陸に、こんなにも植物が繁殖している訳が無い。

 外に見える巨木なんかは、新大陸が出来てから20年程しか経っていないにも関わらず、樹齢千年は超えていそうだ。

 つまりは、これらの自然物が異世界から飛ばされてきたという事にすれば、その原因に説明がつく事になる。


「新庄、あなたは世界が衝突した原因に何か心当たりはありませんか?」


「心当たりと言われてもなぁ……俺はあの地震はただの自然現象だと思ってたからな。世界が衝突した原因なんて全然分かんねーよ」


 何故こいつは俺にそんな事を聞くんだ?

 どう考えても、聞く相手を間違っていると思うんだが……


「そうですか……もしかしたら、この世界に神が降臨されたのかと思っていたのですが……」


「神だって?」


 ……宗教勧誘でも始める気か?

 でも、確かエルフも自分達は神様が作った存在だとかほざいてたよな……

 だとすると、その神様とオベロンの言ってる神様が同じ存在ってことも考えられるのか?

 ……まあ、そんな事はどうでもいいか。


「一応聞いておきたいんだが、あんたの世界には神様がいるのか?」


 ただの疑問に思っただけだ。

 神様が降臨したなんて言うからには、その存在を認識しているって事だろ。


「いいえ、現在はいませんね。私が生まれる前、太古の昔に世界を去ったと伝えられています」


 昔はいたのかよ……

 いや、考えてみればこの世界にも神話ってもんがある。

 そういったものだと考えれば、その真偽は疑わしいもんだ。


「世界を動かして衝突させる力を持つ者など、私の世界には存在しません」


「それはこっちの世界でもだよ」


 そんな奴いてたまるか。

 そもそも、世界をぶつける技術など人類が持っている筈がない。

 仮に、何処かの国の軍や研究所などがそんな技術を作り出していたら、今頃世界はそいつらに支配されてるだろう。

 そんな技術があるなんて、どんな陰謀論者でも流石に信じやしない。


「それ故に、この世界に神が降臨したのではと考えたのですが、その様子では、何も知らないようですね……」


 オベロンが残念そうな表情を浮かべる。

 当たり前だが、俺に神様の知り合いがいる訳がないので、そんな顔をされても困るだけだ。


 それにしても、神か……

 それなら、確かに世界をぶつけるぐらい簡単にやれそうそうだな。

 

「元の世界に帰る前に、原因が特定できればと思っていたのですが、そう上手くはいきませんね」


「神が現れたのは、あんたの世界だったんじゃないのか?」


 俺はそんなくだらない質問をしてみたが、その答えに興味は無い。

 あまりにも俺の世界を悪く言うもんだから、少し意地の悪い質問をしただけだった。


「その可能性もありますが、私が神の存在に気付かなかったとは考えにくいのですよ……」


 ん?それはちょっとおかしな話じゃないか?


「あんたが神の存在を探知できるなら、今この世界に神が居ないということも分かるだろ?」


 それとも何か?

 神様がこの世界に一瞬だけ現れて、地震だけ起こしてそのまま帰って行ったとでも言うのか?

 それじゃあ、神様ってよりはどっちかって言うと、悪魔とか魔王って感じだろ。

 少しずつ、オベロンの話に綻びが見えてきたように思える。


「そう、ですね……だとすると私が見逃した?いいえ、あの爆発が神の降臨の際の余波だと考えれば……」


 オベロンが独り言を呟きながら、深く考え込んでしまった。

 今まで話していたのはあくまで仮説だったので、オベロン自身でも考えが纏まって無かったのだろう。

 俺は、その考えを纏めるために、話し相手としてここに呼ばれたのかも知れない。

 何とも迷惑な話だ。


「何か分かったら、ぜひ教えてくれ」


 少し投げやりな感じになってしまったが、俺はこの話題を打ち切る事にした。

 これ以上付き合っても、俺が欲しい情報は出てこないだろうし、余りにも壮大な話になってきたので、冴羽か久保あたりにでも押し付けてやりたい所だ。

 

「それよりも、あんたは元の世界に戻れるとか言ってたが、本当にそんな事が出来んのか?」


 俺てしては世界がどうのこうのといった話よりも、こっちの方が遥かに気になる話題だった。

 もしオベロンが人間に敵対する事になったら、かなりの数の犠牲が出てしまいそうだからだ。

 まあ、俺はそんな事が出来るとは思っていないので、後はオベロンの機嫌を損ねないようにするしか無いだろう。


「新庄。実は貴方は私の話を信じていないのでしょう?」


 オベロンの今まで穏やかだった表情が、スッと消える。

 背筋が一瞬で凍りついた気がした。

 今までの話を、信じるか、信じないか、と言われれば完全に後者だ。

 なるべく話を合わせて、そう思わせないようにしてはいたが、読まれてた……

 

「いや、そんなことは……」


 言い訳を言い終える前に、この場に殺気が充満していくのがはっきりと分かった。

 その殺気は、6号と対峙した時に感じたものと同等かそれ以上に感じる。

 急に自分の存在がちっぽけなものに思えて、簡単に踏み潰されしまいそうに思えた。

 ヤバい、殺られる━━恐怖そのものが、襲いかってくる感覚に陥る。

 一瞬で逃げると判断した俺は、慌てて椅子から立ち上がろうとするが、足がすくんで動けない。

 次の瞬間、張り詰めた空気が一気に霧散するのを感じた。

 

 …………

 

 余りの緊張感の落差で、全身の力が抜けてしまい椅子からずり落ちてしまう。


「ふふっ、冗談ですよ。本当に精神攻撃には全然耐性がないのですね」


 精神攻撃……今のが、そうなのか?

 あまりにも心臓に悪すぎる感覚だった。

 オベロンは笑って俺の情けない姿を見てくるが、こんなもん冗談ってレベルじゃねーだろ……

 

「精霊王である私ですら信じ難いことです。人間のあなたが信じられないのは仕方のないことですよ」


 椅子からずり落ちたまま動けなくなっている俺を無視して、オベロンが話を続ける。

 せめて、謝れよ……


「証拠にはならないかもしれませんが、これを見せましょう」


 オベロンはそう言って、俺の前に自身の右手を差し出してきた。

 思わず恐怖でビクっとしまったが、あんな事された後じゃ当然だろ……

 恐る恐るオベロンの手のひらを見ると、そこに黒い球体が浮かび上がる。


「何だ……これは?」


 その球体は、全ての光を飲み込んでいるかのような漆黒だった。

 まるで空間に穴が空いているように見えて、ずっと見ているとその中に吸い込まれそうな感じがしてくる。


「これが世界を繋げるゲートです。世界を繋ぐトンネルの様な物だと考えて下さい。今はまだ、そのトンネルを掘っている段階なのですが、奥に光りがあるのが見えませんか?」


 オベロンの言うことを確かめるために、その球体を覗き込む。

 すると、ただの黒い塊にしか見えなかったその球体の奥に、確かに光る物が見える。


「ああ、確かに見えるな」


「それが私の世界です」


「世界……これがか?」


 とても信じられなかったが、そのあまりにも不思議な光景を目の当たりにして、思わずその球体に手を伸ばしてしまう。


「いけません!」


 オベロンが急いで手を引き、球体を俺から遠ざけた。


「このゲートには、私とサラマンダーの力をかなりの量注ぎ込んでいます。人の身で触れれば……」


 オベロンが、球体を俺たちの間にあるテーブルにそっと当てる。

 すると、そのテーブルは一瞬で砕け散り、粉微塵になってそのまま球体に吸い込まれていった。


「こうなります」


「マジかよ……」


 どうりで、エレンに付いてくるのを諦めさせようとしてた訳だ。

 こんなもの、生身で通れる訳がない。

 俺がビビってるのを察したのか、オベロンは黒い球体を消してくれた。

 出来ればもう見たくない……


「でも、そんなすぐに帰れるってんなら、なんでエレン達を保護するなんて言ったんだ?希望を持たせてすぐに居なくなるのは、流石に酷すぎんだろ」


 それが謎だった。

 オベロンにメリットが無いのは元からだが、それじゃあエレン達を騙している事になる。

 何の為にそんな事をしたのか……


「そんな事はしませんし、そもそも出来ません。私とサラマンダーの力を使い、何とか後少しという所までは来ましたが、もうそんなに余力はありません。これ以上、力を使っては、自分の身も守れなくなってしまいます。後はこの森の精霊力を集めて、少しずつ進めるしかないのです。それには、まだまだ時が必要でしょう」


「そうか、なら良いんだが。でも、大丈夫なのか?ここが、エレンの村から離れていると言っても、直に探索者はここまで来ちまう……もう、たいして力が残ってないんだろ?」


「それは心配ありません。この森全体に認識阻害の結界を張りましょう。それで探索者は無意識にここを避けて通るようになります」


 そんな事まで出来んのかよ……

 だとしたら、俺達が来る前にその結界が張って経ったら、この森に踏み入ることすら出来なかったという事か。

 精霊王の力を誇示されて、改めて敵に回したくないと思わされる。


「仮に戦う事になったとしても、この世界の人間相手に負けないぐらいの力は残してありますよ。この世界の人間は精々レベル2といったところでしょう?」


「……何いってんだ?少なくても俺は60を超えてるが?」


「そんな、馬鹿な!」


 オベロンが初めて驚きの表情を見せた。

 まだまだ、情報のすり合わせが必要そうだ。

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