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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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精霊の王7

 次の日、俺は早朝からオベロンに会いにきていた。


「来て頂けたようで何よりです。まさかこんなに朝早くから来るとは思いませんでしたけどね」


 俺としてもあまり朝早くから訪ねるのは迷惑かもとは思っていたが、これには事情がある。


「ああ、悪かったな。実の所を言うとだな、俺はさっさと全部終わらせて早く自分家に帰りてーんだよ」


 早く帰りたいという思いが強すぎて、朝早くに目覚めてしまったのだ。

 最も、このオベロンとの対談を済ませても、エルフ達の移住が済むまでは帰れる訳じゃ無いんだが……


「ふふっ……あなたは面白い事を言うのですね」


 オベロンは俺の言葉を冗談だと思ったようだ。

 別にそう思うのは勝手だが、間違いなく今のが俺の本音だぞ……

 

 真夏と結はリルクドアに置いてきた。

 いつ探索者が来てもおかしくない状態なので、村の守りが必要だったからだ。


「あなたも、また来てくれたのですね」


「わん!」


 今日、俺が連れてきたのはシロだけだった。

 優しく声をかけられると、白がオベロンに駆け寄っていく。

 オベロンは両手で包み込むようにシロを抱え上げ、その頭を撫で始めた。


「済まなかったな。サラマンダーからあんたの子供だって聞いて、こいつを返そうと思ってたんだが……昨日はすっかり忘れてて、連れて帰っちまった」


「わんわん!」


 実は、シロをここに連れてくるまでには結構な苦労をさせられていた。

 シロをオベロンに返すと言った所、結が駄々を捏ね始めたのだ。

 『シロは私の子なんですー!』と言って泣き出した時は流石に結の正気を疑ったが、真夏の説得によって何とか納得してくれた。

 これで堂々と親権を放棄できる。


「そうでしたか」


 オベロンは、シロをひと撫ですると地面にはそっと放した。

 すると、今度は俺の方にに走ってきて足元でじゃれついてくる。

 クソ、可愛いじゃねーか……


「そっちは、ひとりか?」


 サラマンダーが俺とオベロンの一対一の対談を許すとは思えないが……


「アレが居てはなかなか話が進まないかと思い、今は見回りをさせています」


 確かに、アイツがいても邪魔なだけし、昨日みたいに威圧されながら話すのも嫌だったので、俺としても助かる。

 良い判断だ。

 だがそれは、俺程度には護衛なんか必要ない、という意味も含まれているのかも知れなかった。


「このまま立ち話もなんですし、場を変えましょうか」


 そう言って、女王はパチンッと指を鳴らした。

 次の瞬間、俺は知らない部屋の中に移動させられていた。

 部屋の中には椅子がひと組とその間にテーブルあるだけで、なんの飾り気もない場所だった。

 転移させられたのかと思い窓から外の景色を覗くと、先程までと変わらない景色がそこにあった。

 昨日、オベロンが座っていた巨大樹も見えるので間違いは無い。


「これは……」


「そう驚くことではありません。この森は私の場が支配しています。なので多少作りを変える事など、そう難しくは無いのですよ」


 オベロンはそう言うと、身振りで俺に椅子を勧めてきた。


「……ああ、済まない」


 俺は、いったい何を相手にしているんだ……

 恐怖心を隠し、勧められるままに椅子に座る。

 背筋が凍りつきそうな恐怖を感じていたが、別に今は敵対している訳では無いと自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。

 オベロンも椅子に腰掛けると、シロがオベロンの膝に飛び乗り、その膝の上を自分の居場所と決めたようだった。

 オベロンが優しくシロを撫で始めると、気持ちよさそうにそれを受け入れている。


「まずはこの子のことですが、子供とはいってもそれは人間とは違い、私自らが産みだしたという訳ではありません。人間の感覚で言えば同族というぐらいの感じですかね。なので、この子があなた方と共にいることを選ぶのならば、それはそれで構いません」


「そんなんでいいのか?まあ、結は喜ぶだろうが……」


 俺としては、このまま置いて帰りたいんだが……

 まあ、面倒を見るのは俺では無いだろうし、今はオベロンの言う事に逆らう気がしない。


「結というのは、あの勇者の資質を持つ女の子の事ですか?それならば尚更、何も問題はありません」


「勇者の資質だぁ?」


 いきなり訳の分からん事を言いやがる。

 勇者の資質……何それ?

 結は、ちょっと頭が弱いだけのただのガキだが?


「ええ、私の見立てでは間違いありません」


「いや、俺が聞きたいのはそう言う事じゃなく、その勇者ってのは何なんだよ?」


 勇者と言うと、真っ先に浮かぶのはゲームの主人公の事だろう。

 世界を回って悪者を倒し、最終的には仲間と一緒に黒幕をリンチに掛けるあれだ。


「知らないのですか?……この世界では勇者とは言わないのかも知れませんね。これはあくまで私の世界の話ではありますが、勇者とは、世界の危機に現れ、ただ世界を救う為に戦い続ける運命を持つ、清く正しい心の持ち主の事を指します」


 いや……それって、ただのイカれた奴なのでは?


「具体的な特徴としては、能力の成長が異常に早いというのが挙げられます。初めは普通の人間と何も変わりありません。ですが、徐々にその力を覚醒し、いずれは異常とも言える程の能力を身に付ける事になります。あの娘の側にいるなら、貴方はその片鱗を見ているのではないですか?」


 俺は結と出会ってからの事を思い出してみた。

 確かに、結の成長速度はかなりのもんだった。

 だが、そこまで現実離れしたものとは思っていなかった。

 ただ成長速度の速い奴が、勇者と呼ばれているって認識でいいのか?

 いまいち、ピンとこない。


「まあ、結の話はもういいだろ。あいつが勇者だったとしても、この世界じゃなんの意味もないだろうしな」


「そうなのですか?まあ、あなたがそう言うのであれば構いませんが。では、他に何か聞きたい事があればどうぞ」


「聞きたいことか……」


 いざそう言われると、何を聞いたもんかと考えてしまう。

 まあ、時間がない訳じゃないし、気になっている事を片っ端から聞く事にした。


「それじゃまずは……お前達はいつからこの世界にいるんだ?」


「そうですね……私はこの世界の日時の数え方を知りませんから、その疑問に正確に答える事は出来ませんが、まずは、私とサラマンダーがこの世界に来るきっかけになった事から話しましょうか……」


 オベロンがそう前置きして話し出したことは、何とも奇妙なものだった。


「あの時、私は自分が治める精霊の国の中で急激に強まる力場があるのを感じ取り、サラマンダーを伴ってその調査に向かっていました。ですが、目的の場所に辿り着く前にその力が爆発してしまい、それに巻き込まれてしまったのです。私達はしばらく意識を失い、気付いた時にはもうこの見知らぬ世界に飛ばされていました」


「それで、何故ここが異世界だと思ったんだ?意識を失ったんなら、そんな事分からなかった筈だろ?ただその爆発で、知らない場所まで飛ばされた可能性もある」


 いくら何でも、何かが爆発したぐらいで異世界までぶっ飛ばされたりはしないだろ?

 どんな威力だよ。


「私たち精霊は自然の変化に敏感です。この世界の自然は私の世界のものと似てはいますが、違うとものだと断言できます。それに、私達も最初は世界を渡ったなどとは信じられず、精霊の国を探してみたのです。ですがこの大陸では見つからず、ならばと海を渡り世界中を巡り探しましたが、結局は見つかりませんでした。そして、世界中を回り尽くした時、私たちはここが異世界であると結論づけました」


「ちょっと待て……お前ら新大陸の外に出たのか?そんな事したら大騒ぎになるだろうが!モンスターが侵略してきたってな」


 モンスターが新大陸の外に現れたならば、とんでもない騒ぎになったはずだ。

 だが、俺はそんな話は聞いた事がない。

 姿を消す事でも出来んのか?

 ……まあ、出来そうではあるな。


「いえ、人の姿を見かけることはありませんでしたが?」


「全くか?」


「ええ、私が知覚出来る範囲では」


 大地震後人口が激減したとはいえ、それなりに生き残りはいる。

 全く人に出くわさなかったとなると、世界中を周ったというのも程度が知れるってもんだ。

 

 

 この時、本当はもっと突っ込んで聞くべきだった……

 そうしておけば、この時点で重要な情報を得られたからだ。

 だが、オベロンがすぐに話を続けたために、その機会は失われた。



「それから、私達は何とか元の世界に戻れないかと考え、その手段を模索する為にこの世界で比較的精霊力が集まりやすいこの場所に戻ったのです」


「それで、あんたらは帰れそうなのか?」


 この話が全部本当だとしても、簡単に帰る方法が見つかるとは思えなかった。

 オベロンが遭遇したという爆発の事は全く不明だし、簡単に世界が繋がるとも思えないからだ。

 だが、こんな危険な生物には、さっさとこの世界から退場して頂きたい所ではある。


「ええ、恐らく帰還は可能でしょう。世界を繋ぐというのは私としても初めての試みだったので、かなり手こずりはしましたが……目処はつきました」


 いや、帰る方法あんのかよ……


「……そいつは良かった」


 精霊王が頷き、微笑みを漏らす。

 とんでもない力を持つ存在でも、故郷に戻れのは嬉しいもんなんだろう。


「そして世界を繋ぐ過程で、私がこの世界に飛ばされた原因がおおよそ判明しました」


「原因?それは何なんだ?」


 向こうの世界から、こっちに飛ばされたってんなら、その逆もあり得る。

 原因があるならば、それを取り除くに越した事はない。

 オベロンは少し間を置き、話しはじめた。


「おそらく、私の世界とこの世界は衝突したのです」


 …………


 えーと、まあ何だ……俺はそろそろ突っ込むべきか?

 俺はオベロンのこれまでの話をかなり疑っていた━━というか、全く信じてない。

 オベロンが怖くて黙って聞いているが、世界の衝突など、とてもじゃないが信じられるような話じゃ無かった。

 それを知ってか知らずか、オベロンは更に話を続ける。


「私は二つの世界を繋ぐ為に、まずは世界を隔てる壁に穴を開け、そこに自分の力場を少しずつ浸透させながら元の世界の位置を探りました。かなりの時間が掛かることをを覚悟していましたが、意外にもそれはすぐに見つける事が出来ました」


 世界の壁ねぇ……まあ、俺には見えないとかそういう設定なんだろうな。

 本当にそんな物があるなら、ぜひ一度見てみたいもんだ。


「嬉しくはありましたが、あまりにもその位置が近すぎると感じ、違和感を覚えたのです。元々そういうものなのかとも思いましたが、しばらくの間調査した結果、二つの世界が徐々に接近している事が判明しました。そして、その時に私にある考えが浮かんだのです。それは、もう既に世界は衝突していたのではないかということ事でした。世界は一度ぶつかり合い、その反動で一旦は離れましたが、今再び接近して衝突しようとしている。そういう事ならば全てが納得が出来ます」


 いや、俺にはさっぱり納得出来ないが……

 作り話としては面白いが、流石にちょっと無理がないか?


「私がこの世界に飛ばされる原因となった力場は、その衝突が起きた歳に発生した物だったのでしょう。あれほど膨大な力の爆発ならば、こちらの世界でも大きな変化があった筈なのですが……貴方に何か心当たりはありませんか?」


「大きな変化か……」


 オベロンが、いつこっちに来たのか分からないので何とも言えないが、大きな変化と聞いてまず思い浮かぶのは……まあ、あれだろう。

 俺が何かに思い至ったのを察したのか、オベロンは先を促した。


「20年前、地震が起きてこの大陸が現れた」


「その時で、間違い無いでしょう」


 オベロンは深く頷き、確信したようだった。

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