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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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精霊の王3

「我が名はサラマンダー。精霊王を守る4大精霊の1柱だ」


 聞いてもいないのに、目の前に居るモンスターが勝手に名乗ってくる。

 それに答えないのもおかしな気がしたので、俺も名乗り返す事にした。


「……俺は新庄だ。まあ、よろしく頼む」


 何が宜しくなのか自分でも分からなかったが、炎を纏っているサラマンダーと握手を交わす気にもなれなかったので、思わず口から出てしまった。

 俺に続き、他の連中も名乗り始める。

 ひと通り自己紹介が済むと、サラマンダーは「ふむ」と一言だけ返してきた。

 揺らめく炎のせいで表情がはっきり見えず、その感情が読み取れない。

 だが、名乗ってはきたのだから、すぐに戦闘になるという事は無さそうだ。


 さっきはモンスターに声を掛けられた事に驚いてしまったが、冷静になって考えてみれば、元々俺達は精霊王と話をする為にここに来たんだった。

 今思うと、俺はどうやって精霊王と対話するつもりだったんだろう?

 どうやらクエストなんぞが発生したせいで、いつの間にかゲーム感覚になっていたようだ。

 だが、配下のサラマンダーが対話出来るという事は、精霊王とも意思疎通が出来るという事になる。

 寧ろ、助かるってもんだ。

 話が通じるって事になると、わざわざ戦う必要も無い訳で、俺はこちらの要求をそのまま伝える事にした。


「俺達はただ精霊王と話をしに来ただけだ。こちらに戦う意思は無い。精霊王に会わせて欲しい」


「それは出来ぬ相談だな。よく分からぬ人間などを我が主に合わせる訳にはいかぬからな。早々に立ち去れ。従わねば、力ずくで追い払う事になるぞ」


 次の瞬間、サラマンダーの身に纏う炎がひと回り大きくなった。

 威嚇のつもりだろう。

 周囲の気温が上り、その凄まじい熱気に後ろに下がらせられる。

 それを受けて、結衣と真夏が自らの武器に手を伸ばし、いつでも戦闘に入れるように身構えた。

 エレンは精霊王の配下に手を出して良いのか分からず、迷っている様子だった。


「ちょっと待てって!」


 俺は、慌てて両者の間に入る。

 サラマンダーが、どの程度の戦闘能力を持ってのか分からない現状で戦闘はしたくは無い。


「なあお前、確かサラマンダーって言ったっけか?あんたが俺の言葉を理解できるって事は、俺の頭ん中を読み取ってるんだろ?」


 理屈は分からないが、そうでもなければ会話が成り立たつ筈がない。

 俺は、精霊の言葉なんかで話し掛けた覚えは無いからだ。


「なら、こちらに敵意がないって事は分かるだろ?」

 

 サラマンダーは首を傾げ、考え込む仕草をみせた。


「……お前の話す言葉は読み取る事が出来るが、深層意識までは読み取れぬ。お前が妨害しているのではないのか?」


「何言ってんだ?俺は何もやってねーよ……」


 サラマンダーの言葉を聞いて、今度はこちらが考え込むはめになった。

 こちらの思考が読まれないというのは普通に考えれば良い事の筈なのに、それが今は裏目に出てしまってる。

 俺が妨害したと思われた事も気になる所だが、今はそれよりもサラマンダーを説得する手段を考えなくてはならない。


「そうか……それは、そこの作り物の命を宿す者も同様という事か?」


 サラマンダーがエレンを指差し、そんな質問を投げ掛けてきた。

 自然とエレンに視線が集まる。


「サラマンダー様の仰る通りです。俺も新庄さん達との意思疎通は、思念の送受信によって行なっていますが、確かに深層意識までは読み取れません」


「そう言えば、エレンさんも正確に言うと話してはいないんですよね」


「えっ!そうなんです?」


 若干一名、その事に気付いてない奴がいたが、それは別に結が悪い訳じゃない。

 サラマンダーと違い、口を動かすという動作がある分気付きづらい事だからだ。

 かく言う俺も完全にその事を忘れてしまっていて、普通に会話してるつもりになっていた。

 今更ながらこの不思議な現象の事が気になり出したが、俺には他にもう一つ引っ掛かる事があった。


「なあサラマンダー、その口振りだとお前は作り物じゃ無いって事になるが……お前はエレンと違って、作られたものじゃないって事なのか?」


 エレン達NPCは、自分達が作られた存在だと認識している。

 だが、サラマンダーはそうじゃないと自認しているようだ。

 モンスターとNPCは違うという事か?


「ふん、そのような物と一緒にするな!我は大いなる自然から発生した精霊だ。決してそこの人形風情や、この森に巣食うモンスターのような歪な存在では無い!」


 怒られてしまった。

 余りにもエレンに対して厳しい言いようだったが、その本人が何とも思っていなさそうだったので今は置いておく事にする。

 それにしても、サラマンダーの言う事を信じるならば、こいつはモンスターですら無く、この森で自然発生した事になる。

 もし本当にそうだとしたら、この世界はいよいよ本格的に壊れ始めてるのだと思えてきた。


「そもそも、精霊王と我はこの世界の住人では無い」


「……はぁ?今なんて言った?」


 サラマンダーが唐突に言い放った言葉に、完全に思考が停止してしまった。

 しばらく、沈黙が流れる。

 俺はどうしてもその言葉を飲み込むことが出来なかった。


「では、サラマンダーさんは異世界から来たと言う事ですか?」


 思考が止り、何も言えなくなった俺に代わって、真夏がサラマンダーに質問をした。


「この世界の人間からすれば、そう言う事になるな」


「異世界は本当にあるですか!凄いです!」


 結は、サラマンダーの言葉を簡単に信じてしまう。

 こいつ、バカすぎるだろ……

 新大陸はどんな事が起きてもおかしく無い場所ではあるが、流石に異世界の存在は信じられなかった。

 サラマンダーを作った奴が、そういう記憶を植え込んだと考える方がまだ自然に思える。

 それに、なんの意味があるのかは疑問だが。


「まあ、なんだ……聞きたい事は山ほどあるが、取り敢えずここに来た目的を果たそうぜ」


 何かもう面倒になってきたので、当初の目的を優先する事にした。


「ですね」


 真夏の同意を得て、俺は再びサラマンダーに向き合った。


「なあ、俺たちは本当に精霊王と話し合いに来ただけなんだ。合わせてくれよ」


「ならん!どうしても我が主人に拝したければ……」


 周囲の気温が再び上がっていくのが分かる。


「我と戦い、討ち果たすがよい!」


 尋常では無い殺気が押し寄せる。

 最早、戦うしか道は無いようだ。


「全員構えろ!もうやるしか無さそうだ!」


「しかし……それでは、ここまで来た意味が無くなってしまいます!」


 エレンは戦う事を否定した。

 それは当然の反応だった。

 自分達を保護して貰うためにここまで来たのに、戦闘になってしまっては目的が果たせなくなる。

 俺もそれは流石に拙いと思い、一旦引く事を考えるが……


「そうは言っても、もう、手遅れみたいだぜ……」


 いつの間にか、俺達の周囲は燃え盛る炎の壁で包囲されていた。

 サラマンダーの仕業だろう。

 逃げ道は閉ざされた。


「引くというのならば、命まではとらん。だが、また来られるのも面倒だ。少し痛ぶってやろう」


 そんな事を言われても、俺には黙って痛ぶられるような性癖は無い。

 絶対にここから逃げ出してやる……


「逃げるにしてもお前の力がいる。一旦頭を切り替えろ!」


 俺は、いまだに踏ん切りがつかないでいるエレンに檄を飛ばした。

 単に見た目からの印象だが、サラマンダーは先に戦ったシャドウと同じく、物理攻撃が通りにくそうに見える。

 エレンの協力がないと、逃げるどころか一方的にやられる展開になりかねない。


「……分かりました」


 渋々ながらエレンは納得したようだった。

 腰に携えたショートソードを抜き、構える。

 真夏と結は、すでに自分の獲物を手に戦闘態勢をとっていた。

 サラマンダーがかなり手強いモンスターだと感じていることが、ふたりの表情から読み取れる。

 いつもの間の抜けた雰囲気が抜け、完全に本気モードになっていた。


「矮小な人の身で、この4大精霊であるサラマンダーに向かってくるか。その意気や良し!先手はくれてやる、来るがよい!」


「随分と気前がいいな、それじゃあお言葉に甘えるぜ。エレン!」


「はい!」


 名前を呼んだだけでエレンは俺の意思を汲み取り、マインドエッジを使う。

 全員の獲物が、淡い光を纏った。


「成程、その刃ならば我の身体に届くであろう」


 サラマンダーがそう呟く。

 こちらの攻撃が通ると自ら宣言しているのにも関わらず、余裕を感じさせる態度だった。


「相手の情報が全く無いんだ、手加減なんて考えんなよ!」


「「「了解!」」」


 俺達はサラマンダーを半包囲するように、じっくりと間合いを詰める。

 張り詰める緊張感が限界に達しようとしていた。

 あと一歩、間合いを詰めたら仕掛ける……



 そして、張り詰めた緊張感が…………一気に霧散した。



「何ですと!」


 サラマンダーが、急に独り言を言い始めた。

 俺達は誰も話し掛けてはいない。


「しかし……」


 何か悩んでいる感じのサラマンダーを前に、こちらも戸惑ってしまい、攻撃の機会を完全に逃してしまった。

 それでも戦闘態勢は解かず、最大限に警戒しながらその動向を見守る。

 こんな手段で油断を誘う相手とも思えないが……


「分かりました……」


 サラマンダーの中で何か結論が出たようだった。

 俺たちの周りで燃え盛っていた炎の壁が、一瞬で消え去る。


「どういうつもりだ?」


 相手の意図が読めず、そう質問するしかなかった。

 サラマンダーはすぐに返事を返してはこなかったが、俺達に背を向けてもう戦う気が無い事を示してきた。


「精霊王がお逢いになられるそうだ。ついて来るが良い……」


 サラマンダーはその指示に納得し兼ねているのか、不満げにそう言うと、そのまま移動を始めた。

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