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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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精霊の王2

 翌朝、朝食を簡単に済ませるとすぐに出発する事になった。

 地べたで寝たので身体中が痛くて仕方ない。

 こうなってくると、何としても今日中にけりをつけて、二日連続の野宿は回避しなければならない!

 痛む腰を摩りながら、俺にしては珍しく、やる気に満ち溢れた目標を設定する事になった。


「体が痛いですー。もう野営は嫌です!」


「大丈夫ですか?」


 どうやら、結は僅か1日でその心境に達したようだった。

 昨日、あれだけ楽しみにしていたというのに、そんな感情は今となっては見る影もない。

 野営なんて物を気に入られてはたまったもんじゃないので、俺にとっては非常に喜ばしい事だ。


「皆さん、大変だとは思いますが急ぎましょう。また探索者が来るかと思うと、村のことが心配です」


「ああ、そうしよう。何日もこんなのが続いたら、俺の腰が保たないしな……」


「先輩の腰の事はともかく……先を急ぐのはには賛成です」


 俺の言葉に、真夏が頷いてきた。

 真夏も腕が痛むのか摩っているので、久しぶりの野営は真夏にとってもかなり堪えたようだった。

 俺達は昨日よりの早いペースで森の中を進む事にした。


「モンスターの反応があります。数は1匹……変ですね?」


 真夏の索敵スキルにモンスターの反応があったようだ。

 昨日は群れで行動する奴しか見かけなかったので、単独で行動するモンスターには違和感を感じる。

 もしかしたら、気付かない内に階層を跨いでしまったのかも知れない。


「迂回しますか?」


「いや、1匹なら回避するよりやっちまった方が早いかもな。まだ遭遇して無いモンスターだとしたら鑑定もしておきたいし、取り敢えず近づいて確認するぞ」


 精霊王の心証を考えて戦闘は控えていたが、相手が1匹となるとそれも面倒に思えてきた。

 ここまでもモンスターを倒してしまっているし、今更少し増えたところでそう結果は変わらないだろう。


「分かりました」


 俺達はモンスターに気付かれ無いように、音を立てずに反応がある位置まで近づいた。

 だが、とっくに目視できる距離に近づいているのに、モンスターの姿を確認できない。

 周りの草木が邪魔して視界が悪すぎる。


「拙いな……姿が見えない。全員、奇襲に警戒しろよ」


 そう伝えた直後だった。

 ガサッと茂みが動き、何かが結に飛びついた。


「結ちゃん!」


 真夏の叫び声が響く。

 俺は腰からナイフを引き抜き、急いで結の元へ駆けつける。


「結、無事か!」


「くすぐったいです。やめるですよ」


「ワンワン!」


 俺の心配とは裏腹に、そこに見えたのは何とも微笑ましい光景だった。

 結は、完全に子犬にしか見えない生物に顔をなめられていた。

 こんな所に子犬がいるはずが無いので、多分モンスターなのだろうが、どうやら結に攻撃した訳じゃ無さそうだ。


「もしかして、本当にただの犬なのか……何でこんな所にいるんだ?」


 見れば見るほど、そうとしか思えなくなってくる。


「変、ですよね……でも襲ってはきませんし……モンスターじゃなさそうです」


 真夏も訝しがっていたが、見ている内に子犬の可愛さに耐えられなくなったのか、終にはその頭を撫で始めた。

 一応エレンにも確認してみるが、見た事のない生き物だと言う。


「結、念のために鑑定をかけてくれ。犬じゃないかもしれん」


 俺は結から子犬を引き剥がし、鑑定させてみる事にした。


「分かったです。やってみるですよ」


 モンスターには見えないが、念の為だ。

 もしかしたら、見た目で取り入ってから攻撃してくるタイプの可能性もある。

 この新大陸では、見た目に騙されたら命を落とす事に直結してしまう。


「あれ?変です……何も解らないですよ」


「失敗したのか!」


 モンスターが強すぎる場合、鑑定に失敗する時がある。

 俺は思わず子犬をぶん投げそうになったが、次の結衣の言葉が俺にその行動を踏み止まらせた。


「失敗はしてないです!ウインドウはちゃんと出てるですよ。でも、何も書かれてないんです……」


「何だよ、それは?」


 意味が分からない。

 動物には鑑定が効かないという可能性はあるが、だったら何で人には効果があるのかって話になる。

 実際、鑑定は発動しているようだし、状況から考えると、表示する為のデータが無いって感じだ。

 一応、もう一度結に鑑定を掛けさせてみたが、結果は変わらなかった。

 そうなると、一番困るのはこいつをどう扱うかだった。

 念の為に処理するにしても、もし死体が残ってしまったらと思うと……想像したく無い。


「この子、どうしましょう?」


「可愛いから連れてくですよ!」


 結は、俺から子犬を奪い取り、しっかりと両腕で抱えながら俺の傍から逃げていく。

 完全に連れていく気になってやがる。


「無理言うなよ。そいつを連れて戦闘が出来んのか?ここに置いてくしかねーんだよ」


 モンスターでは無さそうだが、本当に唯の犬なのかも判明してない。

 連れていくのは遠慮したいところだ。


「ですね。ここに置いていくのも可哀想ですけど……戦闘もありますからね」


 これには、真夏も俺の意見に賛成のようで、子犬を放してやるように結を説得し始めた。


「ううー、分かったです……」


 真夏に何度も説得された結果、結は何とか子犬を置いていく事に納得したようだった。

 しばらく子犬を撫で回した後、地面にそっと放す。

 だが、先に進もうとした俺達の後を追い掛けるように、子犬がついて来てしまう。


「ついて来るですよ。可愛過ぎです!」


 結がしつこく子犬を指差して真夏にアピールしていたが、俺達はそれを無視して先を急ぐ事にした。

 戦闘が始まれば、その内に何処かに逃げていくだろう。


 しかし、俺の考えとは裏腹に、その子犬はいつまで経っても俺達の後ろをついて来てる。

 戦闘が始まると一時的にいなくなるが、移動を再開すると、いつの間にか現れて俺達の後を追いかけて来てしまうのだ。

 今や、子犬は完全に結に懐いてしまい、その足元を駆け回っているような状態だった。


「私が連れてきたんじゃないです。勝手について来るですよ」


 結は言い訳がましくそう言ってるが、その目がずっと子犬を追っている。

 どうしても連れて行きたいと言う思いが、態度に出過ぎだ。


「ああ、分かってる……何も言ってねーだろうが」


 俺はもう諦めていた。

 戦闘の邪魔になる訳でも無いし、ただ付いて来る分には別に構わないだろう。

 たとえ戦闘に巻き込まれて死ぬことになっても、俺の責任じゃ無いしな……

 今の所はそう思っているが、きっとその時が来たら子犬を俺は助けてしまうだろう。

 俺は犬が嫌いじゃ無いからな。

 



 そうして、俺達4人と1匹は黙々と森を進んでいると、少しずつ辺りの風景が変わり始めた。

 あれだけ視界を覆い尽くしていた草木が姿を消し、大きな石が転がる岩場に変わっていく。


「雰囲気が変わったな。違う階層に入ったのかも知れない、気を引き締めろよ」


 階層が変わると、モンスターが一気に強くなる可能性がある。

 子犬の件で緩みまくっていた真夏と結の表情が引き締まり、緊張感が高まっていく。

 エレンもここまで来るのは初めてのようで、この先は情報が無いらしい。

 それもあり、ここからは慎重に進む必要がありそうだ。


 岩場はかなり歩きにくく、俺達でも進むのに苦労するぐらいだったが、子犬はまだついて来ているようだった。

 小さな手足で、器用に岩と岩の間を飛び移っているのが見える。

 こうも必死に付いて来る姿を見ると、結の肩を持つ訳ではないが、俺にも段々可愛く思えてきた。


 さらに進むと岩の大きさがだんだん小さくなり、岩場というよりは砂地に近い感じになってきた。

 その時、索敵に反応がひとつ現れる。


「モンスターがいるぞ!数は1、警戒しろ。また犬だとも思えないからな……」


「また、シロみたいな子犬がいるですか!」


「ワン!」


 シロ言うのは子犬の名前らしい。

 いつの間にか、結が名づけてしまったようだ。


「違うって言ってんだろ。いいから警戒しろ!」


 全く、こいつは気を抜きすぎだっつーの。

 俺がナイフを抜き索敵に反応がある場所に近づいていくと、モンスターの気配に気付いたのか、シロがこの場から離れていくのが見えた。

 下手したら、結より賢いんじゃないか?


 モンスターの姿が見えると俺はその姿に息を呑んでしまった。

 炎を身に纏った人型のモンスターで、まだ結構な距離があるのに、纏っている炎の熱気がここまで伝わってくる。

 一目見ただけで、今までのモンスターと格が違うというのが分かった。

 


「結、鑑定をかけろ」


「了解です。……駄目です。何もわからないです!」


 さっきの子犬と違い、今回はモンスターの強さが原因で鑑定に失敗したらしい。

 かなり高レベルのモンスターのようだ。

 何か情報が欲しかったので、エレンに視線を向けるが……


「俺も、初めて見るモンスターです」


 首を振ってそう返してきただけだった。

 そうなると迂回して接触を避けたい所だが、この周辺は見晴らしが良く、見つからずに通り抜けるにはかなり移動しなければならなそうだ。

 敵にはまだ動く気配がない。

 俺は後ろを振り返り、念の為に退路を確認した。

 炎の熱さを考えれば、近づく事すらやばそうなモンスターだ。

 移動は面倒でも、迂回するしか無いだろう。

 そう思って移動の指示を出そうとした時、突然知らない声が聞こえてきた。


「ここで何をしている?人間風情が立ち寄っていい場所ではないぞ」


 話し掛けてきた奴を探すために周囲を見回すが、周りには俺達とモンスターしかいない。

 確かに知らない声だった……というか頭の中に直接響いた感じがする。

 まさかと思いモンスターを見ると、視線が交わった気がした。


「まさか……お前、話せるのか?」


 驚きのあまり、ついモンスター相手に話し掛けてしまった。

 すると、そいつはこちらの言葉を理解したのか、一度頷てから更に言葉を返してきた。


「意志を伝えることはできる」


 その反応を見るに、このモンスターが声の主なのは間違い無い。

 しかも、急に襲いかかってこない所を見ると、ちゃんと理性も持っているようだ。


「マジかよ……」


 どうやら、俺はモンスターと初めて会話した人間になりそうだった。

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