表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
41/79

精霊の王1

『ダンジョン[精霊の森]に侵入しました』


 無機質な声がダンジョンに侵入した事を告げる。

 ここまでの道のりは、たいして距離があった訳でも無く、そう苦労せずに辿り着く事が出来た。

 そんな中で今のアナウンスが流れたので、少し気が抜けていた俺達はかなり驚いてしまった。


 ダンジョンに入ったのにも関わらず、周りの景色には大きな変化は見られなかった。

 強いて挙げるとすれば、周りの樹木が大きくなり、その密度が濃くなっていることくらいだ。

 アナウンスが無ければ、ダンジョンに入ったのだと気づけなかっただろう。

 ここから先は、気を引き締めなければならない。


「武器を木に引っ掛けないように気をつけろよー」


 こんな注意をすると、何だか自分が引率の先生にでもなったかのように思えてくる。

 まあ、引き連れているメンバーを考えれば、そう思ってしまうのも仕方ない所があるが……

 

「これは確かに邪魔ですね。足場も悪いし……」


 ハンマーを振り回す真夏とっては、お世辞にも好条件とは言えない。

 それに、真夏はだいぶ足元を気にしていて、全然進行方向を見ていなかった。

 多分、そのうち障害物にぶつかる事になるだろう。


「へぶ!」


 変な声がしたのでそちらの方向に目をやると、今真夏が言ったばかりだと言うのに、結が木の根っこに足を引っ掛けて盛大に転んでいた。

 大した怪我をした訳でも無いのに、すぐに自分にヒールを掛けて治療を始める。

 いきなり魔力を無駄使いしてんじゃねーよ……


「はぁー……」


 思わずため息が出てしまい、頭を抱えてしまった。

 まだ、精霊の森に入ったばかりだと言うのに、早速こんな有様だ。

 本当に、このメンツで先に進んでしまってもいいのだろうか?

 

「俺が先行して案内をします。ついて来て下さい」


 今の所役に立ってくれているのは、エルフ兄妹の兄、エレンだけだった。

 ここまでの道中もそうだったが、そのエレンが引き続き森の中を案内をしてくれるらしい。

 エレンも精霊の森の奥までは立ち入った事が無いそうだが、精霊王のいる位置はだいたい把握していると言う。

 なぜ分かるのか、それはエレン自身もよく理解して無いようだが、気配みたいなものを感じるらしい。

 俺の索敵スキルでは、そんなに遠距離のモンスターを感知する事ができないので、おおまかな位置でも分かるのはこの広い森の中では非常に助かる。


 エレンの後に続いてしばらく進むと、索敵にモンスターの反応が現れる。

 視認できる位置まで移動してその姿を確認する。

 そこには、人型をした手のひらサイズの小型モンスターが5匹、背中の羽をはためかせながらフワフワと空中に漂っていた。


「結、鑑定を頼む」


 折角、結が覚えたスキルだ。

 有効活用してやった方が喜ぶだろう。


「了解です!むむっ…………名前はピクシー、能力はそんなに高くないですよ」


 いや……それじゃ名前しか分からないんだが?

 嬉しそうにそう報告してきたが、実に結らしい、何の役にも立たない情報だった。


「ええ、ですが空中から魔法を使ってくる厄介な妖精です。そこには十分に気を付けて下さい」


 どうやらエレンも知っているモンスターのようだ。

 こちらは魔法を使うという、まだ有用性がある情報が含まれている。

 恐らく、前に来た時に実際に戦ったんだろう。


「倒してしまっても問題は無いのか?どう見ても、俺にはあのモンスターが精霊王の仲間に見えるんだが……」


 妖精っていうと精霊の親戚みたいなもんだろ?

 クエストの失敗条件に精霊王との決別とあったので、敵対行動と捉えられそうな行動は避けたい。


「正直、それは俺にも分かりませんが、襲ってくるなら仕方ありません」


 エレンも精霊王には会った事が無いので、どんな反応があるか分かるはずも無い。

 だだエレンを精霊王の元に連れて行くだけで済むと思っていたが、随分と厄介な状況だな。

 全部のモンスターを回避できるとも思えないし……


「一応、出来るだけモンスターとの戦闘は避けていくぞ」


 結局、俺にはそんな指示をする事しか出来なかった。


「はい、了解です。見た目が可愛くて、攻撃しずらいですもんね」


「かわいいです!」


 そう言う問題じゃねーよ……

 まあ、いつも真っ先に突っ込んで行く結が戦闘を避けるってんなら、それはそれでいいんだけどな。

 俺達は、ピクシーが気付かないように迂回して進むことにした。


 出来るだけ戦闘を避けるようにこそこそと森の中を進んだが、流石に全てのモンスターを回避するのは無理があった。

 モンスターに見つかってしまい、戦闘に突入してしまう。


「何だこいつ?攻撃がすり抜けるぞ!」


「私のハンマーも当たりません!」


 俺のナイフがモンスターの体をすり抜け、真夏のハンマーもただ地面を叩くだけだった。

 結もショートソードで何度も斬りつけているが、全く効果がない。

 そのモンスターは人影のような姿をしていて、いくら攻撃を仕掛けても全く手応えが無い。


「闇の精霊、シャドーです。実体を持たない、魔力の塊みたいな奴です!」


 何言ってんだ?

 意味わかんねーよ……


「うお!」


 シャドーが俺に拳を振るってきた。

 思わずナイフで拳を受け止めると、そこには確かな感触がある。


「向こうの攻撃は当たんのかよ!」


 流石に卑怯すぎんだろ!

 逃げ出したい所だが、コイツら、実体が無いせいか足が早すぎて逃げきれそうもない。

 何とか倒す手段を見つけたいが……


「攻撃するときだけ、影が濃くなってるです!」


 結の言葉を確認する為に、わざと隙を作って攻撃を誘発させると、確かに攻撃の瞬間だけ影の色が濃くなっているように見える。

 多分向こうとしても、俺達に攻撃を当てる為には実体化しなければならないのだろう。

 つまり、その瞬間を狙えってことか……難易度高くね?


「皆さん、一度下がって下さい!俺が何とかします!」


 どうやら、エレンに何か策があるようだ。

 その言葉に従って全員がモンスターから一斉に距離をとる。

 引き際の追撃が怖かったが、幸いにもシャドーがすぐに追ってくる事は無かった。

 今の内に作戦を聞こうと思いエレンに近づこうとすると、急に俺が持っているナイフが輝き出す。

 真夏と結も、自分の武器が輝き出したこと事に驚いている様子だった。


「マインドエッジのスキルです!実体を持たないモンスターにも攻撃が通るようになります!」


 どうやら、エレンの仕業だったらしい。

 NPCのエレンでもスキルは使えるようだ。

 その事実にはかなり驚かされたが、今はまだ戦闘中。

 まずは、目の前の敵を倒さなければならない。


「了解!試してみる!」


 早速その効果を確かめるために、俺はシャドーに向かって一直線に近づき、ナイフを突き刺す。

 すると、影が薄い状態では感じられなかった感触があり、シャドウは声も出さずにそのまま消え去った。


「よし、いける!一気にたたみ掛けるぞ!」


「「「了解!」」」


 その後は呆気ないものだった。

 攻撃さえ通れば、耐久力はそんなに高く無いモンスターだったからだ。

 全滅させるまでに、たいして時間は掛からなかった。


「攻撃が当たれば、どうって事なかったですね」


「楽勝です!」


 真夏と結は深く考えもしないでそう言ってるが、エレンのスキルが無かったら、逃げる事も出来ずに全滅させられる可能性もあった。

 かなり拙い状況だったと言える。

 マインドエッジか……出来るなら、ぜひ取っておきたいスキルだ。


 その後も、何度か戦闘になったものの、そう苦戦するという事は無かった。

 それは、エレンのスキルのお陰で、実体の無いモンスターが相手に手こずらずに済んだのが大きな要因だった。

 それに加え、エレン自身もかなりの剣の使い手で、充分に戦力になってくれている。

 それがある意味6号のおかげかと思うと、素直に喜べはしなかったが……


 順調に精霊の森の探索が進んでいたが、日が暮れ始め、周囲が暗くなってきたので、野営をする事にした。

 暗視スキルがあるので夜でも移動する事はできるが、既に結構な数の戦闘をこなして疲れが溜まってきているので、そこまで無理をする事もないだろう。

 結は野営するのが初めてだったらしく、やたらとテンションを上げてはしゃぎ始めた。


「外でお泊まりですよ!楽しみです!」


「良かったですね、唯ちゃん」


 そんなはしゃいでいる結を見て真夏が一緒になって喜んでいるが、俺にはその心境が全く理解できなかった。

 もしかしたら、野営とキャンプを同じ物だと考えているのかも知れない。

 残念だが、ただ携帯食を食って硬い地面の上で寝るだけだぞ。


「なあ、精霊王の所までは後どれぐらい掛かりそうだ?」


「そんなに遠くはありません。この速さなら、明日には着くでしょう」


 エレンの返事は、物凄く有難いものだった。

 明日も野宿するのは、絶対に嫌だ。

 それを聞いて安心した後に、俺達は持ち込んだ携帯食で食事を済ませる事にした。

 決して不味くはないし、取り敢えず腹を膨らませることは出来るが、全く満足出来ない。

 俺は、それを噛み締める毎に、自分の精神が少しずつ削られていく感覚を味わう事になった。


「……こういう時は、カレーを皆んなで作って食べるんじゃないんですか?」


 俺と同じように味気ない携帯食を食べている結の表情が、徐々に暗いものに変わっていく。


「キャンプじゃねーんだよ……」


 やはり結はキャンプと勘違いしていたようだ。

 その後、結がキャンプファイヤーをご所望したが、当然それは却下される。

 こんなモンスターだらけの場所で、そんな事ができる筈も無い。

 更に後は寝るだけだと知らされると、その目からは完全に光が失われ、膝から崩れ落ちてしまった。

 真夏がそんな姿を見て慰めようとしたが、結が立ち直る事は無く、静かに自分の寝床に行ってそのままふて寝してしまった。


「……酒でも飲むか」


 結が眠って落ち着いた所で、俺は酒を呑もうと思い、アイテムボックスから取り出す。

 それに口を付けようとすると、真夏が俺の手を掴んで阻止してきた。


「先輩駄目ですよ!仮にもダンジョンの中ですし、折角、エレンさんが見張りをしてくれてるんですから……早く寝ましょう」


 エレンは寝なくても大丈夫だからと、自ら見張り役を引き受けてくれた。

 それもあって、真夏の言い分が正しい事は分かっちゃいるが、まだそんなに遅い時間では無いので全然眠くならない。


「一口だけだよ。寝酒ってやつだ」


 そう言って、俺は一口だけ酒を口に含む。

 そんな俺を見て、真夏が呆れた表情をした。

 真夏に怒られなかったので調子に乗って更に酒を呑もうとすると、今度は何も言わずに俺を睨みつけてきた。

 無言の圧力が掛かる……


「分かったよ……もう寝るって」


「そうして下さい!」


 真夏はそう言って布を敷いただけの地面に、毛布にくるまって寝てしまった。

 特に寒くも無いのでそれで充分だろうが、明日の朝にはどこか痛めている事だろう。

 いまだに全く眠気を感じていなかったが、仕方なく俺も同じ様に横になって寝る事にした。

 地面が硬くて、なかなか寝付けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ