妖精の棲家4
話を聞いてみると、どうやら精霊の森はリルクドアの近くにあるらしい。
精霊王とやらはかなりの力を持っているそうで、助力して貰えるならば今の惨状を打開できるかも知れないとの事だ。
今までも自力で行こうと試みたらしいが、精霊の森のモンスターはかなり強力で、全然先に進めなかった言う。
「6号に頼めばよかったんじゃないか?」
6号はこの村の事を気に掛けているようだし、アイツなら楽勝だと思うんだが……
「何度かお願いはしたのですが、聞き入れてはもらえませんでした。何でも、あまり派手には動けないそうで……」
確かに、俺たちがあった時も、6号は何者かを警戒している様子だった。
もしかしたら、6号より強い奴がいんのか?
……頭が痛くなる話だ。
「先輩、行きましょう!これは、私達にしかできない事ですよ!」
「いくです!エルフさんを助けるですよ!」
ふたりは謎の正義感に目覚めたようで、今にも精霊の森に向かって駆け出しそうだ。
「駄目だ。精霊の森ってのは多分ダンジョンだ。話を聞く限りでも、ここよりは強いモンスターが出るだろう。危険すぎる」
真夏と結が不満そうな顔をするが、そう簡単にダンジョンになんぞ入ってたまるか。
いくらモンスターが弱体化していると言っても、簡単にダンジョンに入ってしまうような感覚は危険すぎる。
「そうですか……残念ですが、無理にお願いできる事でもありませんね」
「そうだよ兄さん。今日助けて頂いただけでも有難いんだから、あまり無理を言っては……」
残念がってはいるが、エルフの兄妹は納得してくれたようだ。
「先輩……」
「新庄さん……」
真夏と結が、捨てられた子犬のような目で俺を見てくる。
何か、酷いことをしている気分になってきた。
エルフの兄妹を見ると、さっきの探索者供がしていた事を思い出してしまう。
確かに、気分のいいものでは無かったけどな……
「……まずは、様子見だけだ。無理そうだったらすぐ手を引くからな」
「じゃあ、行くんですね!」
「いくですか!」
真夏と結の目が輝き出し、その期待の眼差しで俺を攻め立ててくる。
断ったらコイツらだけで特攻してしまいそうだし、だったらお目付け役は必要だろ。
「まあ、出来るだけの事はやってみるか」
「やったです!」
ふたりの笑顔が弾ける。
よほど嬉しかったようだ。
人の為にこんなに喜ぶとは、人がいいにも程がある。
まあ、そんな奴らだからこそ、俺はこんな面倒ごとにも手を貸してしまうんだろうが……
「引き受けて頂いてありがとう御座います。お礼は必ずいたしますので」
「本当に……ありがとう御座います」
シアが涙をこぼす。
どんだけ嫌な思いしてたんだよ……
まあ、何か報酬が貰えるってんなら、俺としても少しはやる気が出るってもんだ。
できれば現金がいいが……流石にそれは無いだろうな。
「先輩、もしかしたらですけど、これってクエストじゃないですか?」
真夏が、不意にそんな事を言い出した。
俺はカルミナ村の事を思い出し、慌ててステータスウインドウを開く。
クエスト
困っているエルフを救え!!
成功条件
精霊王に会い、エルフを救う。
失敗条件
エルフの全滅
精霊王との決別
精霊王の死亡
リルクドアのエルフたちが困っているようだ。
手伝って助けてあげよう!
報酬もあるよ♪
前回と変わらずふざけた内容だった。
このクエスト、誰が作っているのか知らないが、遊ばれているように感じる。
失敗条件があるってのも気になるところだ。
失敗したらなんか起きるのか?
「今日はもう遅いですし、この村に泊まっていきませんか?宿屋もありますから」
シアがそんな事を提案してきた。
だいぶ長い間話し込んでしまったようで、窓から外を覗くと、もう日が暮れ始めていた。
「泊まっていいですか?それならお泊まりしたいです!」
当然のように乗り気な結。
コイツには警戒心ってもんがないのか……
「ちょっと待て、飯はどうする?こいつらは食べねーんだぞ」
いくら寝る事が出来ても、食事が出来ないのではかなり厳しいものがある。
今日は元々日帰りの予定だったので、余計な食料は持ってきてない。
そして、もうすでに俺は腹が減っている。
「食事なら、私たちもしますけど?」
「お前ら飯を食もべれんのか?」
カルミナ村では、NPCは食事をしなかったはずだ。
「ええ、別に食事を取らなくても問題はないんですけど……お腹は空きますし、美味しいですからね」
少し照れくさそうに、シアはそう答えた。
話を聞けば、どうやらNPCも食事は取れるようで、村の畑で育てた作物を食べているとの事だった。
それにしても、食事を必要としないのになぜ腹が減るのかが疑問だ。
エルフを作った神様とやらは、相当に変わり者のようだ。
だが、これによって俺達がリルクドアの村に泊まる事が決定してしまう。
反対する理由が無くなり、結の暴走を止めることが出来なかったからだ。
村の宿屋は質素な作りだったが、一泊位ならば問題なさそうだった。
入浴もでき、無事に食事も出てきたのだが、その食事は主食のパンこそあったが、ほとんど野菜ばかりの料理だったので俺にはかなり物足りなかった。
よく考えれば、モンスターを倒しても肉は残らないのだから当然の事だった。
幸い、酒はあったのでそれで我慢するしかない。
俺は宿のテラスで丁度いい椅子を見つけて、そこで酒を楽しむ事にした。
夜の景色も悪くなく、淡く光る不思議な植物が、まるで村の全体をライトアップしているようだった。
その光もそう強いものでは無く、空を見上げれば綺麗な星空が見える。
「綺麗ですね……」
いつの間にか、俺の隣には真夏が来ていた。
テーブルを挟み俺と反対側の椅子に座る。
「そうだな。いい景色だ」
素直にそう答える。
この景色を前にしては、いつもの軽口も出てこなかった。
真夏も景色に見惚れてるようだ。
しばらくの沈黙の後、真夏が口を開いた。
「済みません先輩。いつも無理なお願いをしてしまって……」
どうやら、少しは気にしていたようだ。
そんな事をわざわざ伝えに来たんだろうか?
「ああ、いいよ……何かもう慣れてきたしな。でも、もうちょっと手加減して貰えると助かるけどな。後、ボディブローはもう勘弁してくれ、メチャクチャ痛かったんだぞ」
「ふふっ、ですね。でもそれは先輩次第ですよ」
真夏は冗談だと思ったのか、笑いながらそう答える。
俺としては、マジでそう思ってるんだが……
だが、その態度を見る限りでは、ロリ発言の事は許してもらえたみたいだ。
「お前も、飲んでみるか?」
真夏は酒を殆ど飲まなかったが、たまにはと思い勧めてみた。
「いえ、辞めておきます。明日もありますからね。先輩も飲み過ぎないでくださいよ」
「ああ、分かってるって」
その後は、軽く雑談をするだけだった。
真夏は明日もあるからと言う割に、最後まで飲む事もなく俺の酒に付き合ってくれた。




