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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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妖精の棲家3

「お前……まともに喋れんのか?」


「はい、勿論です」


「凄いです!お話し出来るですよ!」


 結がなんか興奮しているが、今は無視だ。

 俺たちに話し掛けてきたのは、さっき蹴られていたエルフの女だった。

 通常のN P Cのように、発している言葉と口の動きが合って無くて違和感は感じるが、間違い無くこちらの言葉に返事をしている。

 NPCと会話が成り立つって事はつまり……俺はどうしたらいいんだ?

 頭が混乱してくる。


「何日か前に、突然体が動かなくなってしまい、まともに会話できなくなってしまったんです。その間に探索者だという人間が来たのですが、全く応対する事ができませんでした。人間が居なくなるとまた普通に動けるようになるのですが……」


 俺は別に求めてないのに、エルフの娘が勝手に事情を話し始める。

 多分、街の探索者がここを見つけた時の話だろうが、そいつにコイツらの動きを止めるような能力があったとは思えない。

 動けなくなった原因は、別にあるはずだ。


「かわいそうです……」


「そうですね……何とかしてあげたいですが……」


 真夏と結がエルフに同情していまい、またしても厄介ごとに首を突っ込むことになりそうな雰囲気になる。

 それはちょっと遠慮しときたいところだったが、俺としてもそんな不思議な話には興味が湧いてしまい、もう少しだけ話を聞いてみることにした。


「何か心あたりはないのか?」


「いいえ、全く。初めはその探索者が何かしたのかと疑ったのですが、その人達は、私が同じ反応しか返さない事の方を驚いてましたし……」


 やはり、探索者が何かしたということは無いようだ。


「でも人間が、この村に入ることが引き金になってはいるんだよな?」


「それも、よく分かりません。クロさんがいる時は、普通に動けますから」


「そのクロさんってのは誰だ?」


 俺達以外にも、NPCと意思疎通した奴がいるのか。

 だったら、とっくにその話が噂になっていてもおかしくない気がするが……


「名前を教えてもらえないので、私が勝手にそう呼んでるだけです。いつも黒い服を着ている人で、たまに村に来て買い物をしてくれるんですよ」


「もしかして、6号さんの事じゃないですか?」


 真夏に言われるまで完全に頭から抜けていた。

 まだ、NPCと会話出来るという衝撃が抜けきれてなかったみたいだ。

 エルフに6号の容姿を伝えて確認してみる。


「ええ、多分その人がクロさんです。6号さんっていうお名前なんですね……」


 若干この女の反応が気になるところだが、そのクロさんが6号ということで間違いないようだ。

 つまり、6号はこの村で転移石を入手したという事になる。


「詳しく話を聞きたんだが。構わないか?」


 6号がまた現れる心配はあるが、情報が欲しかった。

 アイツを回避する方法があるかもしれない。


「では、ここでは何ですので、私の家に行きましょうか。すぐそこですから」


「いや、そこまでゆっくりは出来ないかな……ちょっと6号と揉めててな。今は会いたくないんだ」


 エルフの女が6号の事をかなり信頼しているように見えた為、波風を立てないように表現を柔らかくして伝えた。


「そうなのですか?でも、クロさんはしばらくこの村には来ないと思いますよ。ちょっと前に来たばかりですから。いつも間が空くんです」


 そういう事ならと、俺たちはエルフの家を訪ねることにした。



 俺達が案内された家は、どこか温かさと懐かしさを感じさせる雰囲気だった。

 その入り口には多くの花が飾られ、住人の人柄の良さを表している。

 家の中にも花が飾られているので、よほど好きなのだろう。

 花が飾られている棚は木製で、塗装ではなく、自然に使い込まれた色合いをしている。

 他の家具も素朴な感じの物が多く、家主のセンスが良いのか、俺にはこの家にあっているように思えた。

 エルフの女は、テーグルの側にある椅子に座ると、俺達にその対面にある椅子に座るように促してきた。


「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。私の名前はシア・カウフです。シアと呼んでください」


「名前があるのか?」


「ふふっ、それはそうですよ。名前がないと不便じゃないですか」


 笑われてしまった。

 確かに、日常生活を送るなら名前は必要だろう。

 NPCがセリフ以外を喋らないために、勝手に名前は無いと思い込んでいたようだ。


「先輩、こっちも名乗らないと失礼ですよ」


 真夏に言われて、俺たちはそれぞれ自己紹介をした。

 お互いに、名前が分かった所で本題に入ることにする。


「6号は、よくここに来るのか?」


「ええ、私の兄が道具屋をしているのですが、月に一度くらい利用してくれるんです。たくさん買って頂けるので、とても助かってます」


 道具屋というと、さっき俺たちが買い物をした店か。

 あのカウンターの奥にいたエルフが、兄ということだろうな。

 その時、ドアが勢いよく開けられた。


「シア、人間に絡まれていたと聞いた!無事か!」


 あの道具屋にいたエルフが、勢い良く家の中に入ってくる。

 そいつは俺と目が合うと、唐突に腰に携えた剣を抜き俺に突き付けてきた。


「何故、家に人間がいる!」


「兄さん落ち着いて!この人達は私を助けてくれたの」


「そうなのか?でもな、勝手に家に入れるな!こいつらも探索者なんだろ!」


 かなり探索者を嫌っているようで、今にも切り掛かってきそうな勢いだった。

 まあ、あんな扱いを受けたのでは仕方ないとは思うが……


「まずは、その剣を締まってくれ。俺たちは何もしねーよ」


「クロさんの知り合いみたいだし、いい人達だから大丈夫だよ兄さん」


「クロさんの?確かに今は普通に動けるし、クロさんの知り合い……あっ!申し訳あれませんでした!」


 何か誤解があるようだが、シアの説得が効いたのかようやく剣を鞘に収めてくれた。

 6号はこの村ではかなり信頼されてるみたいだな……

 早速、ひとつ情報を得る事ができた。

 この村では、あまり6号の悪口は言わない方が良さそうだ。


「いえ、気持ちはわかりますし、分かってもらえればいいですよ」


「です、です」


 真夏と結はすぐにエルフの男を許してしまう。

 俺も少しイラつきはしたが、シアが馬鹿な探索者どもにされていたことを思い返せば、責める気にはなれなかった。


「少し話を聞いていただけだ。すぐに出てくよ」


「いえ、シアの恩人に失礼なことをしたみたいです。済みませんでした。私はエレン・カウフ、この村で道具屋をしています。よく見ればあなた達は、先程買い物をして頂いた方達ですね。シアを助けて頂きありがとうございました」


 俺には例を言われる筋合いはない、助けたのは真夏だ。

 あの時を思い出し、思わず痛む腹をさすってしまう。

 それよりも、他に気になることがある。


「話を聞いている感じだと、動けない時の記憶があるのか?」


「はい、その通りです。探索者の仕打ちを考えると、いっそ記憶が無ければいいとは思いますが……」


「かわいそうです……」


「何とかしてあげたいですね」


 まあ、意思があって記憶もある考えると、探索者の行動に腹が立つのも分かる。

 シアが受けた暴行は、意思がある無抵抗の相手に対して、してもいい範疇を軽く超えてた。


「まあ、そんな事言っても俺たちじゃ何もできないぞ。せいぜい集会所にこの事を報告して、注意してもらうくらいだ」


「たとえそれしか出来なくても、やりましょう。放っては置けません」


「やるです」


 そんな事でエルフに対する迫害が止まるとも思えないが、二人は完全にやる気になっている。


「分かった分かった。でも、今はもう少し話を聞こうぜ」


 ふたりが俺の言葉に頷く。

 その表情には、確固たる意思が感じられた。


 シアとエレンにもう少し話を聞きたいと伝えると、恩人の為ならと話を続けることになった。


 エルフがここにすみ始めたのは、約20年前、地震があった直後からのようだ。

 いつの間にか、この村に住んでいたらしい。

 ちょっと意味が分からないが、そうとしか表現できないそうだ

 その前の記憶は無いらしく、自分達はその時に神様の手によって作られたのだという。

 エルフは、自分達が何者かに作られた存在だと理解していた。

 まるで創世神話を聞かされている気分だが、太古の昔話ではない。

 だが、神とやらが新大陸を作ったと言うなら、それも信じられるような気がした。


 6号が村に訪れるのは、転移石を手に入れる為で間違いは無かった。

 5年程前に突然現れ、たまに買い物をしていくようになったらしい。

 主に転移石を買っていくみたいだが、他の物を買うこともあるそうだ。

 ごく稀にだが、村人に戦闘の手解きをしているようで、周囲のモンスターを倒すのに役立っているとのことだ。

 それもあって、エルフ達は6号を信頼している。


 探索者に話しかけられた時に、自分たちが繰り返す言葉には心当たりがあるそうだ。

 作られた当初からまるで頭の中に直接刻まれたかのように、その言葉がエルフ達の頭の中に存在してたらしい。

 その言葉は神言と言い、エルフにとっては神聖で大切なものなんだそうだ。

 探索者に話し掛けられた時に、初めてその神言を口に出した。

 その時、神言はこの為にあったのだと理解したらしい。


 きっと、探索者は神の使いでエルフを導いてくれる存在なのだと、初めはそう思ったらしいのだが、現実はひどいものだった。

 なんとかしたいとは思ったが、体が動かない。

 ただ、探索者が何もしないで立ち去るのを祈るだけだったという。


「お願いがあります!」


 話を聞き終わった直後だった。

 エレンが意を決して、俺たちに頼み事をしてきた。


「精霊の森に住むという精霊王様ならこの事態を解決出来ると思うのです。私と一緒に、精霊の森に行っていただけませんか?」


 …………絶対に嫌なんだけど?

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