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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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妖精の棲家2

「お前なー……もう少し考えて、スキルポイント使えよな」


「ダメだったですか?」


「いや、ダメって事は無いが……」


 ただ、ひたすらに勿体無い。

 鑑定は確かに貴重で有意義なスキルではあるが、わざわざ自分で取得しなくても、持ってるやつに頼めばそれで済むという面がある。

 鑑定を取得するにはかなりのスキルポイントを消費するというのもあり、前衛をしたいのなら、もっと他のスキルを取った方が良かったのではと思ってしまう。


「先輩、結ちゃんは頑張ってスキルポイントを貯めてたんですから、褒めてあげないと駄目ですよ。それに、どのスキルを取るかは他人が決めるものじゃ無いです」


 どんなスキルを取るかは、確かに本人次第だ。

 まあ、俺ががどうこう言う問題じゃないか……


「ああ、悪かったよ。よく頑張ったな結」


「はいです。結は頑張ったですよ!」


 どうしても勿体無いと思ってしまうが、ここは考え方を変える事にしよう。

 ギルドにひとり鑑定を使えるやつがいると考えれば、かなり便利なことだとは思える。

 スキルを取得してしまった事実は変えようが無いので、そう考える事にしよう。


「じゃあ、早速だがこれを観てくれ」


「任せるですよ!」


 道具屋で買った石を渡すと、結は嬉しそうにそれを受け取った。

 頼られた事が、よっぽど嬉しかったようだ。

 なんてちょろい奴だ。


「うーん。この石は転移石と言うみたいです。使用すると登録してあるポータルまで転移できる、と書いてあるです」


 鑑定は、使用するとステータスウインドウのような画面が現れ、対象の情報が見えるようになるスキルだ。

 俺にはそのウインドウを見ることはできないので、結がどこまで正確に伝えられているのか不安がある。

 まあ、そこまで馬鹿ではないと信じるしか無いんだが……


「なるほどな……あの時、6号はこれを使って消えた訳か」


 6号が持っていた物は、この転移石で間違いなさそうだ。


「だとしたら、6号さんはこの村で転移石を買ったんですかね?」


「可能性はあるな」


 この村は、6号と会ったポータルの近くだ。

 ここで入手した可能性が高い。

 そして、本当にこれを買いに来たのだとしたら、またここに現れる可能性がある。


「早く帰ったほうが良さそうだ。それに、もうこの村には近づかない方がいいな」


「ですね。集会所にも一応報告した方がいいでですかね?」


 ここに危険人物が出るって報告するってのか?


「やめとけ。碌な事になんねーよ」


 集会所に報告なんかして危険人物として登録されたら、逆に6号を捕まえて名を上げようとする馬鹿な探索者が出てきそうだ。

 あいつに対抗できる探索者があの街にいるとは思えないので、やめておいた方が賢明だろう。


「もう、ここに来れないですか?」


「ええ、危ないから近づいちゃ駄目ですよ。6号さんが来ちゃいますからね」


 その言い方じゃあ、6号が妖怪かお化けみたいだろーが……

 でも、まあ似たようなもんか。


 村を出る事は決まったのだが、ひとつだけ懸念があった。

 今ここには、もうひと組の探索者達がいる。

 警告もしないで立ち去るのも気が引けたので、そいつらを探す事にした。



「ホント、こいつら同じ事しか言わねーなっと」


 ガッ!


 ひとりの男がエルフの女を蹴りつけている。

 蹴りを受けて倒れかけた女を別の男が支えると、今度はその女を近くに生えていた木に押しつけた。

 更に木にもたれ掛かったその女を、3人の男達が取り囲み、囃し立てるように小突き回している。


「何ですかあれ。いくら何でもひど過ぎますよ!」


「ちょっと止めてくるですよ!」


 真夏と結は、エルフの女に暴行を働く男達にかなりお怒りのようだ。

 N P Cに対して酷い扱いをする奴がいるとは聞いていたが、実際に見ると俺ですらかなり不快になってくる。

 そうだとしても、わざわざあんな奴らの相手をするのも馬鹿らしい事だ。


「いいから辞めとけって。警告だけして帰るぞ。変に絡まれるのも面倒だしな」


 ここであの男達に手を出してしまっては、俺たちの方が拙い立場になりかねない。

 あいつらが手を上げているのは、あくまでNPCであって人では無い。

 もし止めに入ってアイツらを傷つけてしまったら、こっちが責められることになるかもしれない。

 つまり、いくら不快であっても、簡単に手出しは出来ないってことだ。


 取り敢えず警告だけはしておこうと思い、男たちに声を掛けることにする。


「おい、お前ら!」


「ああ゛っ!んだよテメー!」


 俺が声を掛けると、さっきエルフを蹴っていた男が答えてきた。

 ただ話掛けただけなのに、やたらと挑発的な奴だ。


「この辺にヤバい奴がいるみたいでな。さっさと街に帰った方がいいぞ」


 簡単に用件だけを伝える。

 今の街の現状を考えても、あまり関わり合いにならない方がいいだろう。

 俺はそのまま立ち去ろうとしたが、それを許してはもらえなかった。


「何だー!正義の味方気取りか?やっちまうぞゴラァ!」


 そう捉えるか……

 どうやらこの男は、俺がエルフを助ける為に割って入ったと思ったようだ。

 もちろん、俺にそんなつもりはない。


「おっ、いいねー。最近ストレスたまってっし、やっちまおうぜ!」


「りょうかーい、後ろにいい女もいるしな」


 野郎供の舐め回すようないやらしい視線が、真夏と結を捉えている。

 思った以上に、クソ野郎だったみたいだ。


「何だ?お前らロリコンか?」


 挑発のつもりでそう言った直後だった。


 ゴフオオオオーーーーーー!


 とんでもない速度で、俺の横を何かが通り過ぎていくのが見えた。

 

 ドガッ!


 鈍い音が聞こえ、そちらをみると拳ぐらいの大きさの石が、大木にめり込んでいる。

 その大木の幹がメキメキという音を立てて裂け始め、終には爆音と共に倒れてしまった。

 それを見ていた男達が、地面に崩れ落ちて腰を抜かす。


 俺は、自分の後ろで爆発的に殺気が膨れ上がるのを感じた。

 振り返ると、そこには真夏の姿が……


「誰がロリじゃああああーーーーーー!!」


 真夏の拳が俺の腹部にめり込む。

 それは見事なボディブローだった。

 次の瞬間、俺は束の間の優雅な空の旅に旅立ち、きりもみしながら空中での景色を楽しみ、無事に顔面から地面に着地することになった。

 薄れゆく意識の中で少し顔を上げると、慌てて逃げていく男たちの姿がうっすら見えた。

 喧嘩売る相手は、選ばないとダメだぜ……

 俺は、そのまま気を失った。



 気がつくと、俺は真夏に膝枕されていた。


「先輩、起きましたか?」


 真夏が心配そうに覗き込んできた。

 なかなか寝心地いいな……そんなことを考えながら起きあがろうとすると、俺の腹部を猛烈な痛みが襲う。


「イテテッ……真夏、お前、いったい何してくれてんだよ!」


「先輩が、変なこと言うからですよ……」


 ちょっと拗ねた可愛らしい感じで言ってるが、あの見事なボディブローを思い出せば、むしろ恐怖心しか湧かない。


「ちょっと、あいつらを挑発しただけだろ。本当にそう思ってる訳じゃねーよ……」


 暴力を受けたのはこちらの方なのだが、取り敢えず言い訳をしておく。

 また殴られたら、もう取り返しがつかない事態になりそうだ。

 それにしても、コイツの攻撃……俺の防御力を軽く抜いてきやがった……

 どんな攻撃力してんだよ。


「だとしても、もうあんなこと絶対に言わないでくださいね」


 表情は笑っているのに、その目が笑ってない。

 背中に黒いオーラが見える気がする。

 俺は、もう二度と真夏をロリ扱いしないと心に誓った。


「それで?あいつらは、もういないのか?」


「とっくに逃げたです。新庄さんはもう大丈夫です?」


 結が心配してくれるが、全く大丈夫ではない。

 腹に風穴が空いてんのかと思うぐらいだ。

 足にきているのか、自分で立つことすら出来そうもない。


「私たちも、帰りましょう。先輩、肩を貸しますよ」


 真夏が優しく手を差し伸べてくるが、自分のせいだと言うことを忘れないで頂きたい。

 真夏の手をとるために伸ばした手が震えていたのは、ダメージが残っているからだけではなかった。


「……帰るとするか」


 心身ともにボロボロだったので、さっさと街へ帰ろうとした時にそれは起こった。


「先ほどは助けて頂いて、本当にありがとうございました」


 何の前触れもなく、突然エルフが話掛けてきた。

 それがこのエルフのセリフなのかと思ったのだが、俺の行動に反応したようにも見える。

 まさかなと思い、じっとエルフを見つめると、その表情が困ったものに変わる。

 その後、何かを納得したような仕草をして、エルフが更に話し掛けてきた。


「えーと、私達、普段は普通に会話できるんですよ」


 その表情には今までの作り物っぽい感じがなくなり、美しいというよりは、可愛い感じだった。

 結局、俺は真夏の攻撃を喰らった時と同等の衝撃を再び受ける事になった。

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