妖精の棲家1
報奨金の話が街中に広がると、俺の悪い予測が的中してしまい、探索者同士のポータルの奪い合いが多数発生する事態になってしまった。
街全体の雰囲気がギクシャクしているように感じられ、実際にそこら中で探索者が言い争いをしているのが目に入る。
まだ死人こそ出ていないが、中には実力行使に出る輩もいるそうだ。
当然、そんな状態でポータル探しが捗る訳もなく、報奨金の意義が失われたのは誰の目にも明らかだった。
そんな中で、ある出来事が街中の話題になっていた。
それは、ポータルを探しに出ていた探索者によって、カルミナ村の様な集落が発見されたという事だった。
しかも、ひとつだけでは無く何ヶ所も見つかったという話だ。
どうやら探索者の行動範囲が広がったことが、新しい発見につながったようだ。
その集落の住人は、カルミナ村の時と同じく、ただセリフを繰り返し言うだけの操り人形のような奴らだったらしい。
探索者達はそんな住人をNPCと呼び始め、更にはここ最近の鬱憤を晴らすかのように雑に扱うようになっていった。
それがいい事だとは思えないが、本人達が苦情を訴える訳でも無いので誰にも止めようがない状態だった。
「私も、集落を見てたいです!」
結のそんなひと事で、俺たちはその発見された集落のひとつに向かうことになった。
俺は勿論反対したのだが、当然のように却下され、半ば無理やり部屋から連れ攫われてしまう。
俺を誘拐した真夏と結は、先日6号に会った場所のポータルまで転移することにしたらしい。
俺達が転移できる場所の中では、そこが一番目的の集落に近いからだそうだ。
出来ればそんな場所には近づきたくないが、誘拐犯供はどうしてもそこに行きたいらしい。
まあ、あんな何も無い場所に、いつまでも6号がいるとも思えないので大丈夫だとは思うが……
転移した後、真夏が下調べしてきた情報を元に森の中をしばらく進むと、少しだけ開けた場所に出る。
その先には、のどかで綺麗な景色が広がっていた。
「うわっー、凄いです!本当に集落があるですよ!」
その集落は、まるで森に溶け込むかのように、うまく自然を利用して作られていた。
まず目を引くのが集落の中に幾つか生えている大木で、その大木の根元に大きな木造の建築物が建てられていて、そこから上に螺旋階段が伸びており、枝の上にあるツリーハウスにつながっている。
そんな手の込んだ作りの建物がいくつか見受けらるので、それがこの集落の民家なのだろう。
その民家に続く道は、舗装こそされていないがしっかりと整備されたもので、その周りには小さな畑が幾つも並んでいて、作付けされた農作物が豊かに実っていた。
その畑の側には小川が流れていて、その小川に沿うように、多くの植物がさまざま色の花をつけて咲き誇っている。
まさしく田舎の農村といった感じだ。
「綺麗な所ですねー」
「だなー」
真夏は、その現実離れした光景に目を奪われたようだった。
確かに綺麗な場所だとは思うが、俺としては何でこんな場所に集落を作る必要があるのかという思いの方が強い。
どう考えても利便性が皆無で、見た目だけに全振りしてる感じだ。
まさしく自然に溶け込んだような村って感じだが、こんなのは逆に不自然だろ……
「この集落に名前はあるですか?」
「妖精の村リルクドアという名前みたいですね」
多分カルミナ村と同じように、この村の住人が探索者にそう言ったんだろう。
真夏はそれを人伝で聞いて、この村の名前を知ったという訳だ。
「ここを選んだのは、私たちが知っているポータルに近かったと言うのもありますけど……ここにはなんと!エルフが居るみたいなんですよ」
エルフ……なる程、そうきたか。
他にも見つかった集落があったのにも関わらず、やたらとここに来たがったのはそのせいか。
「エルフって、あの耳が長い人ですか?絶対見たいです!」
「ですね。じゃあ唯ちゃん、早速行きましょう!」
何がそんなに楽しいのか、ふたりは連れ立って走って先に行ってしまう。
仕方なしに後についていくと、すぐに人影が目に入ってきた。
「あれがエルフか?」
「みたいですね。本当に耳が長いんですね……」
「もっと近くで見るですよ!」
さらに近づくと、そのエルフは女だという事が分かった。
身につけた粗末な服の胸元が、ささやかに膨らんでいたからだ。
確かに耳が長いのは気になるが、更に目を引いたのはその容貌だった。
「綺麗な人ですねー」
真夏がその綺麗な顔を食い入るようにまじまじと見る。
普通に考えれば失礼極まりない行為だが、文句を言われる訳でもないので別に構わないだろう。
「エルフっていうと、そういうのが定番だよな」
だが、余りにも整い過ぎているその容貌は、俺にはどうにも作り物めいて見えてしまい、薄気味悪く感じてしまう。
「先輩、見惚れてません?」
「何いってんだ?んなわけねーだろ」
俺に人形を愛でる趣味なんかねーよ……俺に変な属性をつけるのは辞めてくれ。
「あのエルフの人、綺麗ですもんね!」
何が気に入らないのか知らんが、急に真夏が不機嫌になってしまう。
何なんだよ……寧ろ、無理やり連れてこられた俺の方が怒っていい気がするんだが?
「ここは妖精の村リルクドア。人間が興味を持つような場所ではない。さっさと立ち去れ!」
突然の怒号にそちらを振り向くと、男のエルフが結の事を怒鳴りつけているようだった。
「本当に喋ったです!」
「また話かけても、同じことを言うんですよ」
それを聞いた結が、何が楽しいのか何度も話し掛けては同じ台詞を喋らせる。
それを優しい表情で見守っている真夏は、さっきまでの怒りが収まったように見えた。
ナイスだ結!
「お楽しみのところ悪いが、コイツもこう言ってる事だしさっさと帰ろうぜ」
せっかく怒りが収まったところにこんな提案をするのもなんだが、目的の集落を見つけてエルフも見る事ができた。
ここに長居する必要は無いだろうし、何より俺を帰らせろ。
また6号が現れる可能性もあるしな……
「もう、帰るですか?」
結がおもちゃを取り上げられた子供みたいな目で見てきやがる。
そんな目で見られても、俺はこいつを甘やかす気はねーぞ。
「私の聞いた情報だと、村の中に入っても襲われるなんて事は無いみたいですよ。折角なんで中に入ってみましょうよ」
「入ってもいいですか?じゃあ早速、探検するです!」
俺が制止する間も無く、結が村の中に入って行ってしまった。
「大丈夫ですよ。この村で6号さんみたいな人を見かけたという話は聞きませんし」
真夏は、俺が気にしてた事を見抜いていたようだ。
だったら、せめて別の場所にしてほしかったんだが?
「また、あいつが来ても俺は知らねーぞ。真っ先に逃げるからな!」
「まあまあ、唯ちゃんも行っちゃいましたし、私たちも行きましょう」
結局、俺の意見は受け入れられず、村の中に入ることになってしまった。
村の中に入ると、そこそこ人口が多いのか、すぐに数人の村人が目に入る。
そいつらはただボーと突っ立っているだけで、全く動く気配は無かった。
そんなのもあって、俺が最も気になったのはもうひと組探索者の連中がいたことだ。
今は探索者間でのいざこざが多いので、出来れば接触は避けたい。
向こうもそう思ったのか、こちらを避けるように立ち去り、話し掛けてくる事は無かった。
「真夏先輩!あっちに道具屋があるみたいです。行ってみるですよ!」
どうやら、エルフに話し掛けてその情報を聞き出したようだ。
入り口では村に入るなとか言っていたくせに、なんでそんな親切に教えてくれんだ?
この村のN P Cは随分と出来が悪いようだ。
結の後に続き道具屋を目指して歩いていると、少し大きめの小屋のような建物が見えてる。
その小屋の壁には、葉っぱの模様が描かれている木製の看板が架けられていて、多分それが道具屋の目印なのだろう。
結がひとりでその店の中に入っていくのが見えたので、俺と真夏もその後に続く。
店の中には、日常品や、農作業に使う道具、何に使うかわからない雑草、宝石のような鉱石など、様々な物が所狭しと並べられていた。
暫くの間店の商品を眺めていると、真夏がある物を見つけてしまう。
「これって、6号さんが持ってた小石と同じ物じゃないですか?」
「そう言われると、似ている気がするな……」
記憶を辿ってみるが、あの時は追い詰められていてし、かなり小さい物だったのではっきりそうだと言い切ることが出来なかった。
それでも、その小石が気になるのは確かだ。
「この石、買ってみるか」
もしこれが6号が持っていた物と同じなら、調べる価値はありそうだ。
俺は真夏から石を受け取り、カウンターに向かう。
「買えるですか?」
そういえば、結はその事を知らなかったな。
俺は、アイテムボックスからカルミナ村で貰った銅貨を取り出す。
「ああ、この銅貨で買うことができる。それでこの店から持ち出せるようになるんだ。金を払わないと、外に出せないようになってるから、なんなら試してみろよ」
結がテーブルの上に並べてある商品の中から、雑草のような物を手に持って店の外に出て行く。
やってる事は完全に泥棒なのに、全く罪悪感を感じさせない潔さだ。
何か……結の将来が心配になってきたな。
「わっ!消えたですよ!」
店の外から結の驚きの声が聞こえた。
やはり結の手から雑草が消えたようで、いつの間にか元の位置に戻っている。
「本当に消えたですよ!」
結が急いで店の中に戻ってきた。
かなり興奮している様子で、何度も真夏に空になった手のひらを見せている。
「あら、本当に消えたんですか?良かったですねー」
真夏はわざと驚いた振りをしてから、結の頭を撫で撫でてやりつつ、一緒になって喜んでいた。
真夏は結の年齢をいくつだと思ってんだ?
それを嬉しそうに受け入れている結もどうかと思うが、まあ、それは今更だろ。
そんなふたりを横目に、俺は例の石をカウンターの上に乗せる。
「これをくれ」
「それだと、銅貨50枚だな」
カウンターの奥にいた、随分とツラのいいエルフの男がそう伝えてくる。
俺の持っている銅貨は2枚、明らかに足りてない。
手のひらに乗ったたった2枚の硬貨を眺めていると、なんだか自分の普段の生活を思い出して悲しくなる。
結局、世の中金だよな……
落ち込んでいても仕方ないので、アイテムボックスに入っているいらないものを売り払うことにした。
何げに、集会所で引き取ってもらえなかったドロップ品が結構溜まっている。
アイテムボックスから要らない物を全部取り出し、カウンターの上に適当に乗せていく。
その量はカウンターからこぼれ落ちそうな程だった。
「何するですか?」
「まあ、見てろよ。コイツを買い取ってくれ」
結が興味深々といった感じだったので、俺は得意げにそう返した。
「これなら、銅貨68枚だな。それでいいか」
あんだけ出してそれだけかよ……
自分がそんなゴミみたいな物を収集していたのかと思うと、何だか虚しくなってきた。
まあゴミを処分できて、少し金が貰えたと思えば損はしてないんだが……
「ああ、頼む」
カウンターからドロップ品が消え、銅貨が現れる。
「すごいです!銅貨になったですよ!」
楽しそうでなによりだが、こいつだんだん幼児化してねーか?
きっと真夏が甘やかしてるせいに違いない。
真夏に責任を押し付けつつ、買い物を済ませた俺達は店を出ることにした。
「さて、こいつを鑑定したいし、一旦街に戻るぞ」
6号の件もあるし、この石がいったい何なのか早く調べたかった。
こんな用途不明の小石を調べるには、街に帰って鑑定スキルを持つ奴に依頼するしかない。
「だったら戻る必要はないですよ。ふふん、つい先日、私は鑑定スキルをとったのです!」
やたらと偉そうな態度で、結が高らかに宣言した。
「……はあ!」
もう、驚くことしかできなかった。
「驚いたですか?スキルポイントが貯まったのでとってみたんです」
「唯ちゃん、凄い!いっぱいスキルポイントを貯めたんですねー。偉いです!」
真夏が結の頭を撫でて褒めちぎっている。
なんでそんな反応なんだ?
コイツらバカか?
結が鑑定を取ったことに、俺が抱いた感想は……
スキルポイントもったいねーーーー!




