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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
34/79

黒幕は受付嬢2

「よしお前ら、ポータルを探すぞ!」


 ………………


 あれ?おかしいな……返事が返ってこない。

 俺の前には確かに真夏と結がいるのだが、ふたりは石像のように固まっていて、全く動かない。


「先輩どうしたんですか!熱でもあるんじゃないですか!」


「新庄さんが……壊れたです……」


 ようやく動いたかと思ったら、真夏が血の気が引いた真っ青な顔で詰め寄ってきて、俺の心配をしてくる。

 一方、結の方はふざけているのか、自分の口で「ガーン」という効果音を鳴らして崩れ落ちる演技をしていた。


「うるせーよ!何だお前ら、喧嘩売ってんのか?」


 一日の休みを挟み、真夏と結はまるでそれが当然だと言わんばかりに、俺の家に押し掛けてきた。

 どうせ外に出るならとポータル探しを提案したのだが、返ってきたのはこんな反応だった。


「だって、先輩がお金にならない事をするなんて、信じられませんよ……」


「です……」


 何か聞き捨てならない事を言われた気がするが、今はそれよりも、ここを穏便に乗り切る為の言い訳を考えなければなかった。

 だが、隠し事をしている緊張感からか、頭がうまく回らない。


「まあ、世界の危機だし、俺も少ぐらい何にかしないとな、って思った訳だが……」


 ……何か、かなり苦しい言い訳になってしまった。

 それでも、今はまだこのふたりに褒賞金の話をする訳にはいかない。

 絶対に誰かに漏らすという確信がある。


「……先輩。一緒に病院行きましょ?」


「そうするですよ!このままじゃ、絶対にやばいです……」


 ふたりが、末期患者を相手にするかのように俺に接してくる。

 結に至っては、何故か来る筈も無い救急車を電話で呼ぼうとしていた。

 こいつは、新大陸にそんなものがあると本気で思ってんのか?

 

「お前らなぁ……もうそのノリはいいから。行くか、行かないか、早く決めろ!」


 このふたりとは、一辺、じっくりと話し合う必要がありそうだ。

 何としても、俺に対する認識を改めさせねばならない。

 まあ、実際のところ、報奨金の事を話してないので俺にも後ろ暗い所はあるんだが……


「行きますよ。今日は元からそのつもりで来ましたからね。ねっ、結ちゃん」


「はいです。真夏先輩と早くお出掛けしたいですよ」


 やはり、俺の予想通りにポータルを探すつもりだったようだ。


「ああ、そうですかー。だったら、最初から行くって言えよな……」


 全く、無駄な時間を過ごしてしまった。

 変なやり取りに付き合わされたせいで、妙に気疲れしてしまったが、何とかふたりを誘導する事には成功したようだ。



 それから、俺達は取り敢えず街の外に出る事にしたが、ポータルのある位置が俺に分かる筈も無いので、早速行き詰まってしまう。


「なあ、お前ら。ポータルがありそうな場所知ってるか?」


 仕方ないので、ふたりに心当たりがないか聞いてみる事にした。

 あまり期待はできないけどな……


「先輩は知らないんですか?」


「知ってたら聞かねーよ……」


 やはり、真夏にもそんな心当たりは無いようだった。

 少しばかりの期待を込めて、結の方に視線を移す。


「知ってる訳ないです」


 だよな……


 そもそも、仮にこいつらに心当たりが有ったとしても、とっくに集会所に報告しているだろうから意味のない質問ではあったが……


 現在、集会所では探索者から集めた情報を元に、ポータルの位置を記した地図を作りそれを無料公開している。

 だが、探索者達が情報を出し渋っている為、その地図はとても使い物になるようなものでは無かった。

 旨い狩場を奪われるような事を、自分から進んでやる奴はそうそういないって訳だ。


 それでも、今回出るであろう報奨金は、この地図情報を元にして新しく発見したポータルを仕分けるはずだ。

 そうしないと、重複して報告されてしまうポータルが出てきてしまうからだ。

 そして、報奨金を得る権利は先着順になるはず。

 確実に報奨金を得るためには、他の探索者が既に見つ出して隠しているポータルでは駄目だという事になる。

 詰まるところ、俺達は完全に未発見のポータルを見つける為に、大陸中央部に近い位置を探索しなければならなかった。


「先輩、索敵に反応がありますけど、どうしますか?」


 俺たちが今いるのは、木々が生い茂る森の中だ。

 モンスターが通った跡と思われる、獣道を歩いている。

 険しい道という程ではないが、草木が邪魔で索敵がないと奇襲を受けそうな場所だった。

 

「気付かれてないなら無視するぞ。今日の目的はあくまでポータルだからな」


 戦闘は極力避けたかった。

 ポータルが、どこにあるのか分からないのだから体力は温存しときたい。


「えー、戦わないですか?」


 こいつは戦闘狂かよ……

 戦闘しないことが、結にはどうしても不満らしい。


「ああ、迂回して進むぞ。今日は勝手に突っ込むなよ」


「分かったですよ……」


 言う事を聞くかは五分五分だが、取り敢えず結に釘を刺しておく。

 こいつのせいで、無駄に運動させられてはたまったもんじゃない。


「では、進みましょう」


 俺は頷き、真夏の後に続いた。



 暫くの間、俺達はモンスターの反応を迂回しながらポータルの捜索を続けた。

 途中、モンスターに気付かれてしまうこともあり、何度か戦闘にもなったが、それは問題なく処理できた。

 そして今、俺たちの前にはポータルが見えている。


「先輩どうします?モンスターが複数いますよ。ポータルは見つけたので、引き返すっていう手もありですけど……」


 ポータルの位置情報さえ分かっていれば、報奨金を受け取る上では問題はないだろう。

 なので、このまま引き返せば戦闘はしなくて済むが……


「……いや、やるぞ。今来た道を戻りたくねーからな」


 既にかなりの距離を移動して来たので、来た道を戻るよりもモンスターを片付けてポータルを使って戻った方が楽だと思えた。


「やるです!すぐにモンスターを魔石に変えてやるですよ!」


 何だ、その下っ端感丸出しのセリフは?

 できるだけ戦闘を避けてきた為か、結が異常なほどやる気を見せる。

 今にもモンスターに突っ込んでいきそうな勢いだ。


 モンスターの数は10匹、猿に似た姿をしているアッシュモンキーだ。

 群れで行動しているのか、ポータルを囲むようにして集まっている。

 その群れのボスと思われる猿が、扉の前でその灰色の体毛を毛繕いしてた。


「まずは、奇襲をかけて数を削る」


 俺は、真夏と結に簡単に作戦を支持する。

 奇襲を仕掛けるなら、初動は合わせたいところだ。


「最初の1匹を仕留めるまで音を立てんなよ。分かってるよな?結」


「分かってるですよ」


 万が一、音を立ててこちらに気づかれては、奇襲の意味が無くなる。

 念の為に、結には特に入念に釘を刺しておく。


「じゃあ、いくぞ」


「「了解」」


 作戦を支持し終えると、俺たちはそれぞれ別れて移動を始める。

 足音を立てないよう、森の茂みを利用して自分が狙う獲物に近づく。

 俺は、あらかじめ決めておいた場所に位置取ると、ふたりの方を見てその位置を確認する。

 あいつらも、所定の位置についたようだ。


 俺は、ふたりに見えるように大きな仕草で手を振り下ろす。

 突撃のサインだ。

 一斉に茂みから飛び出し、モンスターに向かって走り出す。

 声を出さず、俺は自分の獲物にナイフを突き刺した。


「ギャアアーーーー!」


 奇襲は成功し、モンスターの悲鳴が鳴り響く。

 モンスターが消えるのを確認し、ふたりの方を見る。

 どちらも奇襲に成功したようで、ふたりの前でモンスターの姿が消えていくのが見えた。


 俺の目の前には、奇襲に驚いている様子の猿が1匹。

 間抜けな奴もいたもんだ。


「ついでだ!」


「ギイイッーーーー!」


 間抜けなその猿を一撃で片付ける。

 このぐらいの強さのモンスターなら、まともに攻撃が当たれば一撃で倒せる。

 真夏の方も、もう1匹仕留めたようだ。

 だが、ここで流石にモンスター共も警戒し始め、俺達から大きく距離を取った。


「ギャッ、ギャッ、ギャッ!」


 猿どもが威嚇の声を上げる。


「残り5匹、結、俺の後ろに付け!俺が動きを止める。止めを頼む!」


「了解です!任せるですよ!」


 奇襲ならともかく、態勢を立て直したアッシュモンキーでは、今の結には少し荷が重い。

 あまり前に出す訳にはいかない。

 できれば、後は手出ししないで欲しいんだが、どうせ聞き入れやしないだろう。

 だったら、近くで遊ばせといた方がいいってもんだ。

 

「ギャッ!」


 結が俺の後ろに付くと、すぐに一匹の猿が仕掛けてきた。

 その手の爪で俺を切り裂こうと、俺に向かって飛び掛かってくる。


「よっと」


 俺は、猿の爪をナイフで受け止め、その動きを一瞬だけ止めてから、立ち位置を入れ替えるように高速で後ろに回り込む。


「ギャ?」


 俺の姿を見失ったのか、バカ猿が困惑した様子を見せる。


「おらっ、よそ見すんな!」


 その間に尻尾を掴み、振りかぶって思いっきり地面に向けてぶん投げてやった。


「やれ!」


「はいです!」


 地面に叩きつけられた猿の体を、結がショートソードで突き刺す。

 モンスターが消えていくのを確認して、更に周りを見回す。

 その時、猿が何かを投げつけてくるのが見えた。

 俺は体を捻って、ギリギリでそれを躱す。

 どうやら石を投げつけてきたようだ。


「猿が道具を使ってんじゃねーよ!」


 俺は、猿の方に向かってにナイフを振るう。

 猿との距離は離れていて、俺のナイフは空を切る。


「ギャアアアーーーー!」


 しかし、俺に石を投げつけた猿は、見えない刃によってその体を切り裂かれ、消えていった。

 飛刃というスキルだ。

 斬撃を飛ばすことができる。

 近距離で使っても、斬撃の威力が上がる使い勝手のいいスキルだ。


 残りは3匹だと思い、改めて周りを確認するとその残りは既に真夏が片づけていた。

 結もそうだが、真夏もかなり強くなったよな……

 半分は真夏が一人で片付けたはずだが、息一つ切らして無かった。


 俺達は周りにモンスターが居ないのを確認してから武器を収めると、魔石を回収しながらポータルの前に集合した。

 目的がポータル探しとはいえ、せっかく倒したモンスターの魔石を放置する理由は無い。

 ありがたく、俺の今日の晩飯代にする事にしよう。


「片付きましたね」


「だな」


「楽勝です!」


 全員怪我もなく、無事に戦闘を終える事が出来た。

 後はポータルを使って、帰るだけだ。



 パチ パチ パチ 


 どこかから、拍手が聞こえる。


「見事なもんだ。お前らは探索者か?」


 声がした方を振り向く。

 そこには、黒い戦闘服をきた男が立っていた。

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