表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
33/79

黒幕は受付嬢1

 俺達が狩りを終えて戻ると、街は騒然としていた……なんて事は無く、いつもと全く変わらない様子だった。


「騒ぎになって無くて、良かったですね」


「だな。集会所に行くのが大変になるからな」


 既に夕方になっていて、人通りが増えてくる時間帯だったが、特に混乱している様子は見受けられなかった。

 前回のワールドクエストの時に、大きな人的被害が出なかったのがいい方向に働いたようだ。

 そんな中、俺達はノルマを達成した報告をするために、集会所に向かって歩いていた。

 しばらく街の様子を眺めながら歩いていると、先頭を歩いていた結が突然振り返る。


「早く集会所に行くですよ!お金が私を待ってるです!」


 結はそう言い残すと、周りの迷惑も考えずに急に走り出し、人混みをかき分けるようにして一人で先に行ってしまう。

 その姿を見て、俺と真夏は思わず顔を見合わせてしまった。

 あの金に対する執着は、いったい何処から湧いてくるんだろうか……


「私たちも行きますか」


「だな」


 俺と真夏は、足を早めて結の後を追う事にした。




「今日はー、またすごい量を持ってきたもんだねー」


 集会所に辿り着くと、俺達の受付をしてくれたのはしおりさんだった。

 いや、初めは別の受付嬢だったんだが、そこに何故かしおりさんが割って入ってきて無理やり受付を交代したのだ。


「まあな、今日中にノルマをクリアしたかったんだ」


 既に換金は終えており、早く帰って休みたかった俺は適当に返事を返した。


「最近のー、結ちゃんの調子はどうなのかなー。うまくやれてるかいー?」


 そんな俺の思惑が見抜かれたのか、しおりさんがすぐに次の別の質問をしてくる。

 どうやら、今日は簡単には解放してくれなさそうだ。


「ああ、かなり良くなってきたよ。むしろ強くなり過ぎてるくらいだな」


 調子の乗られては困るので、結には決して言わないが、しおりさんには思っている事を正直に伝える事にした。

 わざわざ聞いてくる当たり、しおりさんなりに心配してるみたいだしな。

 

「それは良かったよー。新庄ちゃんにー、任せた甲斐があったねー」


 しおりさんが、小さな子供を見守るような優しい顔をして結を見つめる。

 結はそんな視線に気付くこともなく、魔石を換金して受け取った現金を数えているところだった。

 何故か数え終わった後に、わざわざ自分で口座に入れ直すらしい。

 そんなんなら、最初から振り込みにすればいいと思うんだが……本人が言うには、現金を数えている時が至福の時間なんだそうだ。

 

 真夏はそんな結の様子を近くで見守っていた。

 こんな所で、大金を出しているのが心配なんだろう。

 最近ではもう見慣れた光景だった。


「任せたっていうか、押し付けたんだろーが……」


 結を押し付けられて以来、殆ど休みも無く訓練に付き合わされているので、正直、他の誰かに代わって貰いたいと思っていた。

 だが、そんな事をしてしまっては、俺がしおりさんと真夏の手によって処される事になるのが目に見えている。

 結果として、俺には結を受け入れるしか選択肢が無かった。

 

「そんな事言わないでよー。ちゃんと褒めてあげるからさー」


 しおりさんが、背伸びをしながらカウンター越しに俺の頭をよしよしと撫でてくる。

 俺はそんな事されて喜ぶような年齢じゃないし、周りの視線が痛かったので、すぐにその手を払い除けた。

 すると、その行動が周囲の人間が驚かせてしまったようで、注目を集めてしまう。

 だが、それ以降もしおりさんが機嫌良さそうに俺に話し掛けてきたので、その視線はすぐに散っていった。


「なあ、しおりさん。また街の外に出れなくなるのか?」


 一向に解放してくれそうになかったので、今後、集会所がどうするつもりなのか聞いてみる事にした。

 本来なら、受付の前で話し込んでしまっては迷惑になるだろうが、他の探索者たちはしおりさんを避けるように、別の受付嬢の所に並んでいるので別に問題は無い。


「今のところはー、それは無いみたいだねー。モンスターの強さも変わってないしー、所長もそんな話はして無かったしねー」


「そりゃ良かった。また、閉じ込められても困るしな」


 何かあるたびに街の外に出れなくなっては、魔石が集められなくなるので当然の判断だった。

 今回はエネルギー不足になるのを回避できそうだ。


「新庄ちゃんはー、ポータルを探したりするのかなー?」


「今の所は、そんなつもり無いけどな……」


 俺にその気が無くても、他のふたりが探すと言い出し兼ねない。

 そういう奴らだ。

 

「あのふたりは行くだろうねー」


 どうやら、しおりさんもそう思うらしい。

 金にならない仕事はしたくないので、俺は全く気乗りしないんだが……


「だよな。あーー、くそっ、やりたくねー!」


 思わず本音が漏れてしまう。


「ははっ。じゃあーそんな新庄ちゃんにー、お姉さんからー、耳寄りな情報をあげようかなー」


 そんな俺を見兼ねたのか、詩織さんが何か情報をくれるようだ。

 しおりさんは、気に入っている探索者に、こうやってたまに情報を流してくれる事がある。

 ベテランだけあって、その情報はなかなか馬鹿に出来ないものが多い。

 実際に、何度かそれに助けられた事もある。

 まあ、くだらない情報の時も多々あるのだが……


「その情報ってのはどんなだ?」


 俺はしおりさんに耳を近づける。

 もし旨い儲け話なら、他の奴に聞かせる訳にはいかない。

 しおりさんは俺の意図を汲んでくれて、小声でその内容を話し始めた。


「まだー、正式には決まってないんだけどー、どうやらー、ポータルを見つけた人にー、報奨金が出るみたいなんだよねー」


「マジかよ?……どれくらい貰えるか分かるか?」


 今回は当たりの情報みたいだ。

 報奨金と言われては聞き逃せない。

 それにしても、またも報奨金を出すとは、最近の集会所は随分と金回りがいいみたいだな。


「金額まではまだ分からないねー。でもー、所長が話してるのをこっそり聞いたからー、間違いないかなー」


 この人は、本当に仕事してんのかよ……

 実はどっかのスパイだったとか、そういうのは辞めてくれよな。


「どうかなー、少しはやる気になったかなー?」


 しおりさんが、何やら怪しげな視線を送ってきた。

 さっきの想像も相まって、俺も何か悪事を働いている気になってくる。


「ああ、そうだな。ちょっとやる気になったよ。ありがとな」


 俺はしおりさんの礼を伝え、その場を離れることにした。

 ここまで話に付き合ったんだから、そろそろ解放してくれるだろう。


「じゃあねー。新庄ちゃん、結ちゃんを頼んだよー」


 俺はしおりさんの別れの言葉に、軽く手を振り返してその場を離れた。

 それにしても、しおりさんはだいぶ結のこと気にかけてるみたいだな。

 俺に結を押し付けた事を、少しは気にしているのかもしれない。

 怪しい所もあるが、基本的に優しい人ではある。


「新庄さん、そろそろ帰るですよ」


 結がこちらに手を振っているのが見える。

 既に結の用事は済んだのか、ふたり揃って出口の前で俺を待っているようだった。

 どうせ、今日はもう解散になるだろうし、別に待ってなくても良かったんだが……


「しおりさんと何を話してたんですか?」


 真夏が露骨に怪しむような表情を見せる。

 今までの経験からか、俺としおりさんが何か悪巧みしているのではないかと疑っているようだ。


「また、街が封鎖されるのかって話だ」


 俺は適当に誤魔化して、報奨金の話は口に出さなかった。

 このふたりに話したら、一気に噂が広がってしまいそうだからだ。

 情報が開示されるまでは、黙っておく事にする。


「外に出れなくなるですか?」


 前回ワールドクエストに失敗した時には、結はまだ新大陸にいなかったので、この街が封鎖された事を知らなかったようだ。


「いや、今回は大丈夫みたいだな。そんな話は無いって、しおりさんが言ってたよ」


 俺は結の疑問に答えながら、上手く話を逸らす事ができたと思い安堵した。

 結が喰いついてくれたお陰で、真夏に報奨金の件がばれずにすみそうだ。


「良かったです!」


「本当ですね。またモンスターを狩れなくなるかと思いましたよ」


 そんな事とも知らず、ふたりとも俺の言葉を素直に受け入れて、安心したようだった。

 特に真夏は、前回外に出れなくなったのが余程応えたのか、かなりの喜びようだ。

 その表情を見て、俺は完全に真夏を欺けたと確信した。

 

 集会所を出た後はすぐに解散する流れになり、ひとりになった俺は、集会所で聞いたしおりさんの話を吟味しながら帰宅する事にした。

 まだ幾ら貰えるかは分からないが、報奨金というのはそれだけで魅力的な話だ。

 しかも、ポータルを探すだけなら上手くやれば戦闘を避けられる。

 どの道モンスターを狩るために、無理やり連れ出されている現状もある事だし、そのついでにポータルを見つければいい。

 これは、間違いなく旨い話だと俺の勘が伝えてくる。

 少しだけだが、やる気が出てきた。


 でもな……明日だけは休ませてくれ!

 俺のストレスはとっくに限界値を超えている。

 俺は家にたどり着くと、すぐにベッドに直行してそのまま爆睡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ