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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
32/79

新人教育3

 結成パーティーをした翌日からは、本格的に結の訓練を始める事にした。

 俺としては、ヒールを使えるだけで十分だと思っているので後衛を進めたんだが、結は前に出て戦いたいと言い出して、頑としてそれを受け入れなかった。

 もっと、自分の特性を活かすことを考えて欲しいもんだ。


 それで、仕方なく前衛としての戦闘技術を基礎から叩き込む事になったのだが、これが意外と筋が良く、俺と真夏が教えた事をあっという間に吸収していく。

 その成長率は異常とも言えるもので、ひと月も経つ頃には、駆け出しの探索者としてはかなりの実力を身に付けていた。


 その、急激な成長をもたらした要因はヒールにあった。

 たとえ怪我を負っても、自分のスキルで傷を治し、すぐさまモンスターに突撃していく。

 その姿は、俺にホラー映画のゾンビを連想させた。

 モンスターの立場からしたら、恐怖以外の何者でもないだろう。

 自分の身を顧みず特攻していく姿に若干の不安は覚えるが、やる気は十分に感じられる。

 その動機に関しては思う所があるが、結の探索者にないたいという気持ちは本物のようだ。

 まあ、根性だけは認めてやってもいい。


 更ににふた月が過ぎると、レベル差を無視すれば、中堅の探索者に引けを取らない程の戦闘技術を身につけていた。

 現在、俺たちはギルドのノルマをこなしながら、モンスターを狩る生活を送っている。


「だあーーー!」


「グアアアアーーーー!」


 結が、その手にしたショートソードでモンスターを切り裂く。

 その斬撃は少し前と比べると、信じられないぐらい鋭いものになっている。

 結はそのまま油断なくショートソードを構え直す。

 だが、先の一撃が止めになっていたようで、モンスターの姿は消えていった。


「ふっ、たわいも無いです……」


 馬鹿みたいな捨て台詞をほざきながら、やってやった感を醸し出す。

 俺は思わず、その頭をはたいてしまった。


「いでっ!何で叩くんです!」


「勝手に突っ込むなって、言ってんだろうが!」


 結が相手にしていたのは、猿を模したモンスター、アッシュモンキーだ。

 動きが素早く、ずる賢い性格をしているため、相手をするのが面倒なやつだ。

 だが、警戒心が強く積極的に絡んでくるモンスターでは無かったので、俺は無視して先に進もうとしていたのだが、勝手に結が突っ込んで行ってしまった。


「私の活躍を、見て欲しかったですよ……」


「この辺は、今のお前じゃまだ危ねーんだよ!」


 俺たちは、真夏がおすすめという狩場に来ていた。

 真夏のおすすめとあって、なかなか強いモンスターが生息している。

 ここに来た目的は、ギルドに課されたノルマをこなす事だった。

 まだ結にはきつい狩場なので、見学だけという約束で連れてきたはずだったのに、まあ、結果はご覧の有り様だ。


「まあまあ、倒せたんですから、良いじゃいいですか」


「そうです、倒せばいいんですよーだ!」


「お前らなあ……」


 どうにも、真夏は結を甘やかしてしまう所がある。

 初めて出来た後輩だからかもしれんが、少し危なっかしい。

 何か問題が起きないといいが……

 俺がそんな事を考えている間にも、真夏と結は先に進んで行く。


「はぁー……」


 ため息が出てしまう。

 コイツら言うことを聞きやしねー……

 俺には、諦めて後をついて行くことしかできなかった。


 結局、結はその後も戦闘に参加し続けた。

 まだ結には早いと思っていたんだが、意外にも俺と真夏の動きについてこれている。

 やはり、こいつの戦闘技術の伸び方は異常だ。

 まあ、スキルポイントを前衛系のスキルに振っているからそう感じるだけかもしれんが。

 俺としては、今後の安全のためにも回復スキルに振ってもらいたかったが、結が俺の意見を素直に受け入れるはずも無かった。


「今日は大漁でしたね!ノルマもクリア出来ましたし」


 その後、順調に狩りを進めた俺達は、ノルマ分の魔石は既に集め終わっていた。

 俺は色々と言いたいことがあったが、どうせ聞き入れて貰えないので口を噤んで黙々と歩く。

 今は街に帰る帰路の途中だった。


「結も頑張ったですよ!」


「そうですね。結ちゃんも大活躍でしたねー」


 女どもが、いつもの如くいちゃついているが、今はそんな事はどうでもいい。

 俺には、このタイミングで言うべき事があった……


「なあ、ノルマはクリアしたんだから、明日は休みでいいだろ?」


 俺は期待の眼差しで真夏を見つめる。

 真夏と結に付き合わされ、何日休んでないのかもう記憶にない。

 うちのギルドは、ブラックだった……


「ですね。ここ最近休みもなかったですし、そうしましょうか」


「ああ、そうしようぜ!ああー……これでやっと休める」


 俺は表面では冷静を装いながらも、心の中で大きくガッツポーズをした。

 余力がある事を悟らせてはならない。

 隙を見せれば、こいつらは簡単に俺の希望を奪い去っていくからだ。

 それでも、自然に口元が緩んでしまう。

 俺は休みを勝ち取った!明日は絶対ダラダラ過ごすぞ!

 しかし、ここで真夏の決定に異を唱える奴が現れる。


「ええー、結はもっとレベル上げがしたいです。もっとお金を稼ぐですよ!」


 余計なこと、言ってんじゃねー!

 つうか、いいかげん休ませろ!


「結ちゃんも、たまには休まないとダメですよ。そろそろ疲れが溜まる頃ですからね」


「……はいです」


 真夏の説得に、結は不承不承ながら納得してくれた。


「そうだぞ結。休むのも大事なことだぞー」


「新庄さんは自分が休みたいだけです。サボり魔ですよ」


 ふざけんなよクソガキ!

 寧ろ、もっと休みをよこせって言えるぐらいには働いてんだろうが。


「うっせー!何を言われても、明日はぜったい休むぞ!」


 こうして、俺は久しぶりの休みを勝ち取ったのだった。

 明日は絶対家から出ないからな!



 こんな感じで、俺はモンスターを狩りながら、結に戦闘訓練をする生活を過ごしていた。

 まあ、決して安全だとは言えないが、それでも平穏な日常だったと言える。

 だが、その平穏は打ち砕かれる事になる……



 ゴーーン ゴーーン ゴーーン



 鐘の音が鳴り響く。

 

「先輩この音は!」


「これ、前にも聞いたです!」


 それは、できればもう二度と耳にしたくない無い音だった。

 ワールドクエストが発生した時の鐘の音。


「落ち着け!アナウンスが流れるはずだ。まずは、それを聞くんだ」


 狼狽えるふたりに、落ち着くように言い聞かせる。

 まず、アナウンスの内容を聞かなければ、どうしたらいいのかの判断ができない。



『只今、100ヶ所目のポータルに接触が確認されました。これによりワールドクエストの発生条件が満たされました。これよりワールドクエストが発令されます。

 クエスト内容は、ひと月以内にポータルポイントを合計200箇所発見する、となります。

 なお、クエストが達成されなかった場合、ワールド難易度が上昇します。

 これよりワールドクエストが開始されます。

 残り時間は、720時間となります』



 アナウンスは、それで終わりだった。


「今回も、短かったですね……」


 別に長いのを期待していた訳じゃないが、何か肩透かしをくらった気分だった。


「ポータルを見つければいいです?」


「……だろうな」


 そうとしか捉えられない内容だったが、何でそんな事をさせるのかが分からない。

 それでも、モンスターの強化を防ぐためには指示に従うしかない。


「合計200箇所と言ってましたけど、これから200も探すんですかね?」


「ステータスウインドウで、確認できるんじゃないです?」


 珍しく頭を使った結のお陰で、俺はそのことを思い出せた。

 前のワールドクエストでは、その進行度をステータスウインドウで確認できたはずだ。

 ステータスウインドウを開いて確認する。



 ワールドクエスト発生中


 クエスト内容

 合計200箇所のポータルを発見する


 現在の進行度

 ダンジョン 100/200


 残り時間

 719:35:48

 

 ポータルをいっぱい見つけよう!

 何かいいことが起きるかも?



 前回とは違い、最後にかなりふざけた文面が書かれていた。

 どちらかと言うと、カルミナ村で受けたクエストに近いものを感じる。


「これを見ると、すでに発見されたポータルは合計に含まれているみたいですね」


 ワールドクエストが発生してから、まだあまり時間が経っていない。

 この短時間で100箇所のポータルを発見したとは思えないので、それで間違い無いだろう。


「そうだな、あと100箇所か……」


「そんなの楽勝です!」


 たく、こいつは何言ってんだよ……

 後100箇所というのが楽勝な訳がなかった。

 

 ポータルが現れて半年以上が経っている。

 その間に見つかったのが、100箇所のポータルだ。

 これからひと月で、同数のポータルを見つけなければならない。

 まあ、その半年間、探索者達はポータルだけを探してた訳じゃないので、クエストをこなす事は可能かも知れないが、それでもかなりの大仕事になりそうだ。


「まあ、ここで考えてても仕方ねーし。帰ろうぜ」


「ですね」


 真夏は笑顔でそう返してきた。

 前回のように、ひどく不安になっているという事は無さそうだ。

 結の存在がそうさせているのかも知れない。


「はいです」


 結に関しては、まあ……こいつは不安になるとかあんのか?


 そして、俺たちは街に戻る事にした。

 明日は、休みになって嬉かったはずだが、今は喜ぶ気分になれなかった。

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