表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
31/79

新人教育2

「お前……本当に最初から回復スキルを覚えていたのか?」


 間違って取れるようなスキルじゃないが、念のために確認をとる。


「はい、間違い無いです。初めてレベルが上がった時に、ステータスウインドウで確認したです」


 ステータスウインドウは、初めてレベルが上がり、レベルが1になったタイミングで見えるようになる。

 俺も初めての時は、その不思議な現象を面白く感じて隅々まで確認したのを覚えている。

 そんな時に確認したことが、間違っているとも思えない。


「そんなに私の『ヒール』が珍しいですか?」


 ヒールは回復スキルとしてはオーソドックスなものだ。

 最初のうちは擦り傷を治す程度だが、使用回数をこなすか、更にスキルポイントを割り振ることで回復効果が上がるといった感じのスキルだ。

 なので、別にそれには自体には問題はない。


「最初から覚えてたってのが、珍しいんだ」


「確かにそうですけど……でも、たまにですが、そう言う人もいるじゃないですか?そう驚くことでは無いのでは?」

 

 確かに、真夏の言うことは正しい。

 だが俺は、そんなのは新人の探索者が注目を集めたくて嘘をつていると思っていた。

 そういう奴らが覚たと言い張るスキルは、少ないポイントで取得できるスキルだったからだ。

 ある程度レベルを上げ、その時に得たポイントでスキルを取得する。

 その後、初めから持っていたと言い張れば、後は誰にも確認の取りようが無くなる。

 

 だが、それが回復スキルとなれば話は別だ。

 大量のスキルポイントが必要になるからだ。

 なので、回復スキルを使いたい奴は、最初からそれだけを目標にしてレベルを上げ、回復の専門家を目指すものだった。

 間違っても、今の結のレベル帯で取得できるものでは無い。


「そうだな……だが、この事はあまり人に言わない方がいいかもな」


 取り敢えずはそう言ってこの場を誤魔化す事にしたが、実際にはかなりの大事だった。

 最初からスキルを覚えているって事は、その分のスキルポイントが丸々浮くってことになる。

 それだけでも、結の探索者としての資質はかなりのものだと言えた。

 しかも、それが貴重な回復スキルだって言うのだから、下手をしたら結の争奪戦が起きかねない程の事案だった。

 

「わざわざ言われなくても、そんな事言いませんよ。人のステータス関連の事を勝手に喋るのはタブーですし……」


 まあ、真夏は一応ベテランなので、そこら辺は弁えているだろう。

 問題なのは結の方だ。


「何です?私、実は凄い人ですか?」


 人の心配をよそに、そんな事をほざきやがる。

 コイツに言うことを聞かせるには、どうしたもんか……


「そうだ、お前は凄い奴なんだ。だから絶対に他の奴には言うなよ。分かったか?」


 言い聞かせて口止め出来るとは思えなかったので、おだててみる事にした。


「やったです!よく分からないですけど、分かったです」


 いや、だからどっちだよ……

 少し不安ではあったが、一応は理解してくれたみたいだ。



 取り敢えずスキルの話は置いておく事にして、結の戦闘訓練を再開することにした。

 結がどんだけ資質に恵まれていても、それですぐ強くなれる訳じゃないし、戦闘技術に関しては、地道な努力をして身に付けるしかない。


 それから結は数回ほどスライムとの戦闘をこなし、ようやく攻撃の際に目を瞑らなくなってきた。

 俺と真夏はその都度アドバイスを与え、近くでその光景を見守っていた。

 俺は結が倒したスライムの魔石を拾い上げると、ある事を思い出した。


「そういえば、ギルドの依頼は受けなくてよかったのか?ノルマもあるんだろ?」


 どうせなら、依頼を受けてから来れば良かったと思ったのだ。

 朝に無理矢理連れてこられた為、そこまで頭が回らなかった。


「それは大丈夫です。私もそう思って朝に集会所に行って聞いたんですけど、実際はそのノルマ自体が依頼という事になっているらしくて、特に依頼を受けるという行為も必要ないみたいです」


「そうなのか?それは楽でいいな」


 わざわざ、集会所に行かなくて済むのはありがたい。


「ノルマは、ギルドの人数と実績を元にして増減するみたいですね。まだ始まったばかりですし、今はかなり少ないです。私たちノルマは、魔石の売値で月に6万円分に設定されていて、その量の魔石を集会所に納めればいいみたいですね。スマホから確認できますよ」


「ひとりあたま2万か……確かに少ないな」

 

 狩場にもよるが、俺と真夏なら半日も掛からずに集められる量だ。

 これで魔石の売り上げに報酬が上乗せされるなら、かなり美味い話ではある。


「まあ、その分報酬も少ないですけどね。でも、ノルマが増えれば報酬も増えてくみたいですし、仮にこなせなくてもペナルティはありません。登録しただけお得ですね」


「確かそうだな」


 そう聞けば、さっさとノルマをこなしたくなるが、流石にこの狩場では難しそうだ。

 結が倒せる程度のモンスターの魔石じゃ、ノルマをこなすのに何日掛かるか分かったもんじゃないが、今はまず結を鍛えることが優先だ。

 このままじゃ、良い狩場に連れていく事もできないからな。


「えいーっ!」


 結が、またスライムを仕留めたようだ。

 何とも気が抜ける掛け声だ。

 ……それも、俺が教えなきゃダメなのか?



 今日は初日というのもあって、訓練を少し早めに切り上げて街に戻る事にした。

 それもあって、真夏は結の歓迎会を兼ねた、真夏狩猟団の結成記念パーティーを開くつもりらしい。

 俺は帰らせろと言ったのだが、勿論、それが受け入れられる事はなかった。


「それでは、真夏狩猟団結成を祝いまして、カンパーイ!」


「カンパイですー!!」


「……」


 まずは、ギルド名を叫ぶなと言いたい……

 パーティ会場に選ばれたのは、街にあるファミレスだった。

 大手チェーンの店で、新大陸にも出店している。

 随分と気合が入った企業ではある。


 どうせやるなら飲み屋が良かったのだが、結が未成年だと言う事で却下された。

 この店でも、酒は飲めるようなのでまだ良かったが……


「先輩、暗い顔をして無いで、せっかくですから楽しみましょうよ」


「そうです!楽しむです!」


 そうは言われても、全く楽しめる気がしない。

 朝っぱらから、ずっと振り回されていったい何を楽しめと言うんだ?


「ああーー!もう、俺はのむぞ!」


 飲まずにはやってられなかった。

 せめて、酒を飲んでこの鬱憤を晴らそう。



「おふたりは、どうして探索者になったんです?」

 

 パーティが始ま待って少し時間が経った頃、不意に結がそんなことを聞いてきた。


「俺は探索者じゃねー。真夏に付き合わされているだけだ」


 俺は、そんな怪しい職業についたつもりは無い。

 そもそも、モンスターなんか見たくもない。

 危険だからな。

 今だけ、金の為に仕方なく付き合っているに過ぎない。


「じゃあ、新庄さんの仕事はなんなんです?」


「そうだな……強いて上げれば、何でも屋みたいなもんだな」


 それはそれで怪しい職業だよな……

 自分で言っておいて何だがそう思ってしまった。


「よく分からないですけど、分かったです」


 コイツ絶対俺の話に興味ないよな?

 だったら、最初っから聞くなってんだ……


「じゃあ、真夏先輩はどうなんです?」


 それは、俺も詳しくは知らなかった。

 俺が知っているのは、前にいた会社を辞めて、いつの間にか探索者になっていた事だけだ。

 少しだけだが、興味はある。


「そうですねー。私は元々ある企業の新規会社の社員で、仕事として新大陸に来たんですよ」


 真夏はそう話を切り出した。


「その企業は、探索者を育成して、魔石を売却する事によって収益を上げることを目的に会社を新規に立ち上げました。新入社員だった私は、その最初の足がかりを作るメンバーとして選ばれたんです。なので、私は元々探索者になる為にこの新大陸に来たんですよ。その時、案内役として雇われていたのが先輩なんです」


「そうなんです?」


 結の疑問に、無言で頷いて肯定する。

 そう言えば、そんな事もやったってたな。

 随分と金払いのいい会社だった気がする……殆ど忘れたけど。


「ですが、私が新大陸に来てすぐにある問題が起きてしまって、会社は新大陸から撤退することになってしまったんです。私はどうしてもその理由に納得できなくて、会社を辞める事にしました」


「どうして、その会社は撤退したんです?」


「そこは、まあ……色々あったんですよ」


 真夏は結の質問に答える気が無いようだった。

 俺は答えを知ってはいるのだが、真夏も話すつもりは無いようだし、この場に相応しいとも思えないので、言わないでおこう。


「私はこれからどうしようかと考え、新大陸に残って探索者を続けるのか悩んでいました。元々そのつもりでここにきた筈だったんですが、会社の支援もなしにひとりで探索者をやる自信がなかったんです」


「それで、どうしたですか?」


 結は、真夏の話によほど興味があるのか、ずっと真夏を見つめながら真剣に話を聞いていた。

 真夏は、そんな結の頭をひと撫でしてから話を続ける。

 

「日本に帰ろうかとも思ったんですけど、私には身寄りもありませんし、元々住んでいたアパートも引き払っていたので、どうしたら良いのか分からなかったんです。私は、悩みながら暫くだらだら過ごしていました」


 確かに今思えば、あの頃の真夏は確かに何か悩んでいたように思う。

 言ってくれれば、少しは力になったんだが……


「そんな時、ある人が私に声をかけてくれたんです。私が事情を話すと、その人はただ『やってみろよ』と言ってくれました。不安なら、俺が暫く面倒見るからと、私の背中を押してくれたんです。それから直ぐに私は探索者を続ける事を決めました。今の私があるのは、その人のおかげなんですよ」


 話し終わると、真夏はとても柔らかい表情をしていた。

 多分、そいつの事でも思い出しているんだろう。


「何ですかその人、カッコ良いです!」


 結が興奮して立ち上がる。

 ガッ!と鈍い音がしてテーフルが大きく揺れた。


「いっ、痛いです……」


「唯ちゃん、大丈夫ですか!」


 どうやら結はテーブルに太ももをぶつけたようで、かなり痛そうにしてさすっている。

 真夏が心配そうにしているが、興奮しすぎた結が悪い。

 自業自得だ。

 

「しかし、こんな街にもそん奴がいるんだな。俺はそんな人のいい奴知らねーけどな」


 マジで心当たりがない。

 この街は、クズの溜まり場だと俺は思っている。

 まあ、中には真夏が言ったような奴もいるかも知れないが……駄目だ、クズ野郎しか思い浮かばん。

 そいつの悪口を言われたと思ったのか、真夏が俺を睨みつけてくる。


「いるんですよ!かなり、鈍い人ですけどね!」


 ヤバい……完全に怒らせちまった。

 その態度を見ると、よっぽどそいつに恩義を感じてるようだ。


「いや、悪かった。別に、そいつの事を悪く言うつもりは無いから落ち着けって……」


 取り敢えず謝る。

 拳が飛んできてもおかしくない状況だ。


「知りませんよ!」


 拳こそ飛んでこなかったが、それ以降、真夏は視線すら合わせてくれなかった。

 真夏を宥めるのには、かなりの時間を消費したとだけ言っておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ