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新太平洋大陸  作者: 双理
一章 無謀な依頼
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探索者?2

 街を出て少しばかり歩くと、木々の生い茂る森になっている。

 学者様が言うには、この森の植物は見たことの無いものらしい。

 そう言われると、見慣れたこの景色も途端に気味悪く見えるから不思議なもんだ。

 俺たちがいるのは、そんな薄気味悪い森の中だった。


「ここからは、私が前衛で行きますね」


 そう言って真夏が俺の前に出る。

 まだ真夏のレベルが低かった頃、ちょこちょこと俺の後を付いてきてたのを思い出した。

 それを思い返すと、随分と成長したもんだと感心させられる。

 まあ、身長は全然伸びてないが……


「ああ、いいぞ。その方が楽だしな」


「もー、どうしてそんなにやる気がないんですか?」


 何でって言われても、おれは楽できる時は楽する主義だ。

 真夏は街でも指折りの腕利き探索者だし、任せて何が悪いっていうんだ。

 そもそも━━


「俺は狩りが嫌いなんだよ、知ってんだろーが……」


 いつからかは知らないが、モンスターを狩って生計を立てている奴らの事を探索者と呼ぶようになった。

 まあ、ゲーム好きな奴が勝手に言い出したんだろうな。

 俺はそんな現実味のない職業を毛嫌いしていた。


「もう、ちょっとは気を引き締めてくださよ。いつモンスターが出てもおかしくないんですからね!」


 俺たちは既にモンスターの縄張りの中に入っていた。

 確かに、油断はできない場所ではあるが……


「索敵に何も引っ掛からないから、まだ大丈夫だろ?」


「そういうことじゃなくて、心構えの問題ですよ。あっ!そういえば私も索敵のスキル取ったんですよ」


 いきなり話が変わったが、いつもの事なので気にはしない。

 俺がこんなに気を抜いていられるのは、索敵のスキルを持っているからだ。

 索敵は、周囲に敵がいないか調べる事ができるスキルだ。


 スキルを取得するためには、レベルを上げスキルポイントを入手する必要があった。

 ステータスウインドウから、このスキルポイントを消費する事によってスキルを得ることができる。

 スキルの中には魔法じみたものまであったりする。

 というか魔法がある。

 

 今では常識となってしまったが、初めて知った時はファンタジーかよ!と思わずツッコんだもんだ。

 魔法の類はスキルポイントの消費が多く、取得している奴は結構少ない。

 まあ、俺は持ってるがな。

 だって使ってみたいだろ……魔法。

 いや、あの頃はまだ俺も若かったんだ……


「今までは前衛系のスキルばっかり取ってたんですけど、便利ですよね索敵」


「別に要らなかったんじゃないか、持ってるやつと組めば問題ないだろ?」


 俺には、真夏にはそこまで必要なスキルだと思えなかった。

 コイツは人気者だからな。


「最近、結構ソロでいる事が多くて、仕方なく……」


「珍しいな。お前なら組むやつに困らんだろ?」


 真夏は口ごもり、何か隠しているようだった。

 気になったので無理やり事情を聞いてみると、少し前に、集会所で真夏の奪い合いみたいな事が起きたらしい。


「ホントに酷かったんですよ!掴み合いの喧嘩一歩手前って感じで……最後には所長まで出てきたんですから……」


 集会所は、その性質上どうしても柄の悪い連中が集まりやすい。

 そういう事があるのも、特に珍しい事じゃ無かった。

 まあコイツ、無駄に顔はいいしな……

 そんな事に巻き込まれるのも、ある意味では仕方ない事だった。

 

「暫く、集会所にも行けませんでしたよ……今日だって、先輩を見かけてやっと中に入ったぐらいです」


「何でだよ?そんなもん気にしなきゃいいだろ。別にお前が悪い訳じゃねーし」


「私は、先輩みたいに図太くないですからね」


「はいはい、そうですか」


 いや、ちょっと待て……

 よく考えたらそんな事があったってのに、集会所で真夏は俺に絡んできたのか?

 俺……やばくね?

 何か、後々拙い事が起きる予感がする……絶対に俺を巻き込まないでほしい。


「先輩!」


 真夏が急に身構えた。

 索敵にモンスターが引っ掛かったようだ。


「分かってる!」


「前方、敵6。かなり早いです。こちらに近づいてきます。気付かれてますね」


「ニオイだな。こっちが風上だ。多分、シャドーウルフだ」


 色々話しているうちに、シャドーウルフの活動範囲にまで入っていた。

 この近辺で、ここまでの速さを出せるのは奴らしかいない。

 おまけに鼻がきくとなれば、間違いないだろう。


「数が多いな。一旦引くか?」


「先輩ならともかく、私の足じゃすぐ追いつかれますよ。ここで迎え撃ちましょう」


 真夏は背中に担いでいた自分の獲物であるハンマーを手に取り、戦闘態勢をとる。

 俺も取り敢えず、腰のナイフを抜いて構える。


「5m、4、3‥‥‥来ます!」


「ガアアアッーーー!」


 茂みを抜けてきた黒い影が真夏を襲う。


「ぐっ!」


 真夏はハンマーの持ち手の部分を利用して、その攻撃を逸らす。

 黒い体毛に鋭い牙と爪、間違いなくシャドウウルフだ。

 初撃を躱したからだろうか、先頭のシャドウウルフ以外は襲い掛かって来なかった。

 モンスター達は警戒するように俺達の周りを周回し始める。


「随分腹ペコみたいだな。いきなり噛み付いてきたぞ」


「ですね。でも、食べられる気はありません。前に出て数を削ります!」


 真夏は前方に駆け出し、モンスターに近づくと更に加速した。


「うりゃっと!」


 その速さについて来れなかったのか、モンスターは真夏の攻撃に反応できなかった。

 ハンマーがその頭を正確に捉える。

 更にまだ反応できてない奴を見つけ、ついでとばかり叩き付けた。


「2匹め!」


 またも、正確に頭をぶっ叩く。

 おそらく、『瞬歩』というスキルを使ったのだろう。

 一瞬だけ速さを上げる事が出来るスキルだ。

 頭蓋を砕かれたモンスターは、そのまま光の粒になって消え去る。


「残り4です!」


「了解!」


 残りのシャドーウルフが真夏から距離を取り、俺達を取り囲む。

 その内の一匹が俺の真後ろを取ろうとした時、その前足が急に地面に吸い込まれた。


「簡単に後ろは取らせねーよ!」


 スラッジという土系統の初級魔法。

 効果は地面を泥に変えるだけ、その程度でも足止めには十分だ。

 地面にのまれて、動きを鈍らせたモンスターにナイフを突き刺す。

 その一撃で力尽きたモンスターの姿が消え去ると、泥になっていた地面も元に戻る。


「残り3だ!」


 振り返ると、真夏が更にもう一匹仕留めた所だった。


「2、ですけどね!」


 おいおい、コイツどんだけ強くなってやがる。

 久々に一緒に狩りに来てみれば、あっという間にシャドウウルフ3匹仕留めやがった……

 

「クゥ〜ン……」


 子犬のような情けない鳴き声が聞こえた。

 モンスターがビビってるんですけど……

 真夏はやばいと理解したのか、一匹が俺の方に襲いかかってきた。

 大きく口を開き、その牙で俺に噛みつこうと飛びかかってくる。


「こっち来んなよ!めんどくせぇな!」


 俺はその攻撃を闘牛士の様にヒラリと横にかわし、すれ違いざまに横っ腹にナイフを突き刺す。

 これで残り1匹、後は真夏に任せよう。

 そう思っていたら、最後のシャドウウルフが猛然と逃げ出してしまう。


「逃がすかよ、俺の晩飯代!」


 俺はモンスターの進行方向を予測してスラッジを使い、地面を泥に変える。

 その試みは成功して、モンスターは足を取られバランスを崩した。


「真夏!」


「了解です」


 真夏がシャドウウルフの頭を叩き潰し、これで0だ。

 

「他、敵影なし。終了です」


 最後に周りを見て確認する。

 戦闘中に他のモンスターを引きつけてしまうことがあるからだ。

 まあ癖みたいなもんだが、長生きしたいならこれは大事なことだ。

 これでやっと落ち着く事が出来る。

 俺達は、一息ついた後に魔石を回収する事にした。


「先輩、ドロップしてますよ!」


「マジかよ!そいつは、ついてるな」


 そちらを見てみると、真夏が黒い毛皮の様なものを広げていた。

 モンスターはたまに魔石以外の物を残すことがある。

 それらはドロップ品と呼ばれ、中々の高額で買い取ってもらえる代物だ。


「こりゃ、今日は焼肉だな」


「私も一緒にいいですか?」


「お前は、俺の一人焼肉の邪魔をする気なのか?」


「先輩……言ってて悲しくなりませんか?」


 うるせーよ、人の趣味をバカにすんじゃねー!

 別にいいだろ、ひとりで焼肉行っても……


「独り身の悲しい先輩に、こんな可愛い女の子が一緒に食事しましょうって言ってるんですから、つべこべ言わずに一緒に行けばいいんですよ!」


「自分で可愛いって言うなよ……てか、焼肉食いたいだけだろ」


「バレました?」


 そう言って笑う真夏は、とても楽しそうに見える。

 それを見ると、俺は言い返す気が無くなってしまう。

 まあ何か嫌な目にあったそうだし、今回だけは俺の趣味を邪魔するのを大目に見よう。


「じゃあ、早速帰りますか?」


「そうだな、さっさと帰って焼肉食うぞ!」


 思ったよりも早く狩りが終り、今はまだ昼過ぎ位だが、街に帰って魔石の換金を終わらせれば夕食ぐらいの時間になってるだろう。


「おっ、真夏ちゃんじゃ〜ん」


 俺達が帰ろうとした時、いかにも陽キャな感じの男達が声をかけてきた。

 数は3人。

 索敵に反応があったので気付いていたが、話し掛けてくるとは思わなかった。


「げっ!」


 何故か、顔を見ただけで真夏が露骨に嫌そうな顔をする。

 

「偶然だねー、こんなとこで会うなんて」


「随分、楽しそーだなぁ」


「俺らにも美味いもん食わせてくれよなー」


 男たちは、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら近づいてくる。

 何だ、このいかにも脳みそが足りてなさそうな奴らは?

 言っている事に、全くセンスが感じられない。

 絡んでくるにしても、もう少しオリジナリティを出して欲しいもんだ。

 

 コイツらは偶然と言ってるが、街からずっとついて来ているのは気付いていた。

 尾行するなら、せめて索敵に掛からない距離を保てよな……

 そんな知識も無い事から、コイツらの実力がどんなもんかが透けて見える。


「この前、私に絡んできた人たちです」


 真夏が小声で俺に囁いてきた。

 だろうなとは思ったが、さてどうしたもんか……


「で、俺らの誘いを断った真夏ちゃんは、どーしてこんなオヤジと一緒にいるのかなぁ?」


「ふざけてんの?こんなオヤジより俺らのほーがいいっしょ」


 ふざけているのはコイツらの方だと思うが、そんな事より……


「誰がオヤジだ、ゴラァ!」


 ここだけは、絶対に訂正しなければならない。

 間違っても、コイツらにオヤジ呼ばわりされる筋合いはない。


「ああっ!やんのかぁ!?」


「ちょっと先輩、やめてください!もう行きましょう」


 真夏が俺を止めようとするが、もう手遅だ。

 俺は既にキレてる。


「ちょっとガキに、お仕置きするだけだ。どいてろ……」


「んだと!」


 早速男がひとり掴みかかってきたが、軽く身をかわて足を払う。

 そいつは、顔面から地面に着地してそのまま動かなくなった。


「うわっ弱っ!よくそんなんでよく絡んできたな?」


 俺は鬱憤を晴らすように煽りまくる。


「調子に乗ってんじゃねーぞ、クソオヤジが!」


「オラァッ!!」


 残り2二人が、一斉に襲いかかってくる。

 

「よっと」


 まずは一人が打ってきたパンチを受け流し、カウンター気味に腹に膝を入れた。

 その男は呻き声をあげて、膝から地面に崩れ落ちる。

 更に俺は最後の一人の腕を掴むと、そのまま後ろに回り込み、腕を捻り上げて拘束した。


「イダッ!クソ離しやがれ!」


 そんな事言われて離すわけないだろ……

 男が暴れるのを辞めないので、俺は更に腕を締め上げた。


「おっ、折れる!」


 すると男が悲鳴をあげて益々うるさくなってしまい、仕方なく腕を離してやる。

 拘束していた男が、腕を押さえながら地べたに跪く。


「クソッ、細いくせになんつー、力してやがる……」


 男の言う通り、俺はそんなにがっしりとした体付きではない。

 むしろ、コイツらの方が体格がいいぐらいだ。


「お前らバカだろ?ここは新大陸だぞ。ここじゃあな、レベルがものをいうんだよ」


 こいつ等は、新大陸に来てまだ日が浅いのだろう。

 レベルが上がると、一般人の感覚では劇的に能力が上がったように感じる。

 それで調子に乗ってしまったんだと思う。


「んだと……」


 まだ文句がありそうだったので、相手に近づき首筋にナイフを突きつけてやった。


「いい事を教えてやる。良く聞いとけよ。お前らの防御力は俺の攻撃力を大きく下回っている。まずはそれを理解してくれ」


 俺がナイフを喉に突きつけているので、男は頷くこともできない。

 そんな事は無視して俺は話を続ける。


「それがどういう事か、バカなお前たちに実演してやろう。俺が軽くこのナイフに力を入れると……」


 殆ど力を入れていない俺のナイフが、糞ガキの体にスッと入り込む感覚があった。

 ほんの数ミリ刺しただけだが、顔がみるみる青ざめていくのが見てとれる。


「あら不思議。こんなに簡単に切れちまう。つまり、お前はこれから死ぬってことだ。良い勉強になったろ?」


 俺がそこまで言い終わると、男は恐怖のあまり失神してしまった。


「先輩!完全にやりすぎですよ!」


 真夏が俺を叱りつけてくるが、まだここで終わらせるつもりは無い。


「見た目で判断してんじゃねーよ!ここじゃな、ちゃんと相手の実力を見抜けないと、本当に死ぬ事になるぞ……」


 最後に、気絶した男以外も徹底的に脅しておく。

 また絡まれるのも面倒だからな。

 でも、こいつらに嘘をついたつもりは無い。

 モンスターの見た目に惑わされて、死んでいった奴など腐るほどいる。


 男たちは、もはや抜け殻の様になっていた。

 ……流石に、やり過ぎたかな?


「帰るぞ、真夏」


「えっと……はっはい……」


 男達を置き去りにして、俺達はその場を後にした。

 絡んできた奴の面倒を見る義理はないし、何より焼肉が待っている。

 さっさと街に戻ろう。

 俺の足取りが、朝より軽くなっていたのは仕方の無い事だった。

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