ギルド結成3
「なんで、そんな話になるんだよ?」
「いやー、結ちゃんをー、このまま返すのも気が引けてねー」
「説明になってねーよ……」
いきなりギルドに入れてくれと言われても、そう簡単に決めることなんて出来ない。
そもそも、まだ登録すらできてないので、ギルド自体がまだ存在してない。
「結ちゃんはー、2週間前に探索者になったばかりでねー。一緒に行動してくれる人を探してみたいなんだよー。でもー、今日あんな事になっちゃってねー。まあー、そういう事だよー」
「いや、どういう事だよ……」
全然説明になっていないが、まあ、しおりさんの言いたい事はだいたい読めてきた。
つまりは、俺に結の面倒をみろって事だろ。
「きゃっ!急になにするんです!」
突然、結の悲鳴が上がる。
何事かとそちらを見てみると、いつの間にか真夏が結を抱きしめていた。
「それは大変でしたね……分かりました!そういう事でしたら、私で力になれるなら何でもやりますよ!唯ちゃん、困った事があったら何でも私に相談して下さいね!」
真夏はしおりさんのあんな適当な説明で、何故か感情移入してしまったようだ。
変なスイッチが入ったのか、結に抱きついたまま離れようとしない。
結が引き離そうと必死にもがいているが、抜け出せないでいる。
……ちょっと待て、あれって……息できてるか?
「離じで……ほじいでず……ぐるじい……」
俺は慌てて真夏を結から引き剥がす。
「落ち着け!殺す気かよ!」
結の安否を確認すると、咳き込んではいたが無事なようだった。
だが、窒息で赤くなっていた顔が徐々に青ざめていき、その目の光が失われていく。
結は俺の後ろに隠れるようにして、真夏から距離をとった。
僅かに触れられた背中から、手の震えが伝わってくる。
どう見ても、新たなトラウマが刻まれてしまったようだ。
しかし、そんな結の態度を目にしても、真夏の暴走は止まらなかった。
「結ちゃん、ぜひ私と一緒にギルドを作りましょう!」
真夏は凄まじい速度で俺の後ろに回り込むと、今度は結の肩を掴み、前後に揺さぶり始めた。
あの勢いだと、完全に脳が揺さぶられてんな……
まだ、意識はあるか?
「わがっだ、です……だがら……はなじで、ほじいです……」
何とか意識はあったようだ。
探索者になりたての割に、中々の耐久力だ。
流石にかわいそ過ぎるので、今度は真夏を羽交締めにして引き離なす事にした。
「だから辞めろって、言ってんだろ!あと勝手に話を進めんてんじゃねー!」
俺の二度の説得により、なんとか真夏は落ち着きを取り戻してくれた。
拘束を解いて、離してやる。
すると、真夏はひと呼吸置き、なぜか自分の前髪を整え始めた。
「だめ、ですか?」
真夏は首を軽く傾げ、俺を見上げるようにしながら、猫撫で声でそう言ってきた。
何、急に可愛こぶってんだコイツ?
逆に、こえーよ……
俺が真夏の態度に青ざめるていると、さらに追い討ちをかけてくる人がいた。
「あれー?新庄ちゃんはー、反対なのかなー?」
しおりさんが、簡単に人を殺せてしまいそうな視線で俺を睨みつけてくる。
俺の脳裏に、集会所の惨状が浮かぶ……
「いっ、いや、反対ってか……俺達とこのお嬢さんじゃ……レベルが違いすぎて、うまくいくとは思えないっていうか……」
あまりの緊張からか、かなりおかしな言い訳をしてしまった。
これじゃあ、見合いを断ってる見たじゃねーか……
「新庄ちゃーん?そんな言い訳がー、私に通じると思っているのかなー?真夏ちゃんをー、立派な探索者にしたー、あのー、新庄ちゃんがー、どうしてそんな事を言うのかなー?」
もはや、トラウマものの恐怖だった。
自分の意思に反して、手が震えているのが分かる。
助けを求め真夏を見るが、真夏も俺の言葉を不服に思ったようでこちらを睨みつけていた。
それに釣られたのか、何故か結まで俺を睨んでくる。
いや待て、お前が睨むべきなのは真夏だろーが!
コイツ……もしかして、流されやすいタイプか?
「別に、良いじゃないですか。先輩もふたりだけかー、とか言ってましたし」
確かにそう言ったが、足手纏いを抱えるのは御免だ。
それが、結の為になるとも思えない。
だが、女共はそんな人の気も知らないで、ただただ俺を睨みつけてくる。
結が俺を睨む理由は無いはずだが?
あんだけ真夏に痛めつけられたのに、お前はそれでいいのかよ……
だが、女3人に徒党を組まれては、男の俺では手に負えない。
「分かったよ。もう好きにしてくれ……」
このまま反論していると、しおりさんに何をされるか分かったもんじゃないし……
「やったです!何かしりませんけど、勝ったですよ!」
真っ先に喜んだのは結だった。
コイツ……バカだろ……なんの話をしていたか分かってんのか?
それとも、脳を揺さぶられてイカれたか?
「では早速、ギルドの登録をしましょう!」
「じゃあー、この登録用紙にー、必要事項を書いて貰えるかなー」
真夏はしおりさんから用紙を受け取ると、早速記入し始めた。
こうなったらもう駄目だ、絶対にこのふたりは止まらない。
「代表者は、先輩にして……」
「おい、勝手に決めんな!お前が言い出したんだから、そこはお前だろ」
「そうですね。では、新庄守っと」
真夏は止めるのを無視して、俺の名前を記入する。
「だから、話を聞けって!」
「構成員は、私と唯ちゃんですね」
「はいです、よろしくお願いします!」
その後も真夏は、俺の話を聞く事なく黙々と必要事項を記入していく。
俺は、もう全てを諦めるしか無かった。
しばらく経つと、記入をしていた真夏の手が止まる。
「先輩、ギルド名はどうしますか?」
何故か、そこだけは俺の意見を聞いてくれるようだ。
「もう、勝手に決めてくれよ……」
俺にギルド名のアイディアなど無かったし、考えるのも嫌になっていた。
「実は、もう考えてあるんですよ」
じゃあ聞くなよ……
そう思うが、もう俺は口に出さなかった。
「その名も、真夏狩猟団です!!」
……
どうやら真夏には、ネーミングセンスというものが無いみたいだ。
そもそも代表者が俺なのに、何故、真夏の名前が入っているのかが疑問だし、ギルドの名に自分の名前を入れるという発想が信じられない。
「い、良い名前だねー……」
「私も、いいと……思うです……」
ふたりが気を遣ってるのが丸見えだ。
俺はもうとっくに諦めていたので、口を挟まなかった。
「では、これを書き込んでっと……終わりました。しおりさん、これでお願いします」
「真夏ちゃん……本当にこれで良いのかなー?」
しおりさんが、最後の確認をしてくれる。
ありがたい、しっかり確認するべきだ。
主に代表者とギルド名の所をな。
真夏、これが最後のチャンスだぞ!
「はい、大丈夫です!ちゃんと見直しましたし、間違いもありません」
……俺的には、色々間違っているように思えるが大丈夫らしい。
しおりさんがこちらに確認の視線を送ってくるが、もうどうでも良くなっていた。
「じゃあー、後は私がやっておくよー。今日は色々とありがとねー真夏ちゃん」
しおりさんも諦めたのか、その登録用紙を受理してしまった。
「いえ、こちらこそ有難うございました。しおりさんのお陰で、何とか今日中にギルド登録できましたし、唯ちゃんとも知り合えましたから」
「ありがとうございますです!」
真夏がしおりさんに礼を言うと、それにつられたのか結も頭を下げている。
そんな所を見ると、ふたりは姉妹のように見えた。
身長的に真夏の方が妹のように見えるのだが……
会った時はあんなに怯えていたのに、結はすっかり元気を取り戻していた。
あんな目に合わされたのに、真夏に懐きつつあるようだ。
一回、医者に診てもらえばいいと思う。
こうして、真夏狩猟団は結成される運びになった。
もう、好きにしてくれ……
俺達は、結と連絡先を交換すると集会所を出る事にした。
出口に向かうと、集会所の職員がまだ片付けをしていて、真夏と結がそれを手伝おうとしたが、しおりさんがそれを許さずに追い出される事になった。
外部の人間には、見せられない書類もあるだろうからそりゃそうだろう。
「今日はもう解散しましょうか?唯ちゃんも色々あって疲れているでしょうし」
「今日は助かりましたです!ありがとうございます!」
礼を言われる筋合いはなかった。
結を助けたのはしおりさんであって俺では無い。
ギルドの件にしても、トラウマを植え付けられたふたりによって、無理やり加入させられたようなものなので、何故結が嬉しそうに礼を言ってくるのか理解できなかった。
いったい、コイツの記憶がどうなってるのか、覗いてみたいもんだ。
「ああ、もう疲れたから、俺は帰るぞ……」
もう何も考えたくなかったので、さっさと帰ることにしたのだが、結が俺を呼び止めてきた。
「新庄さん。もしかしたらですけど……観光ガイドなんかをやってないですか?」
結が、俺の顔をまじまじと見つめてくる。
「急にどうした?まあ、たまにならやってるが……」
「やっぱりです!私、新庄さんにあった事あるです。半年ぐらい前です!」
突然そんな事を言い出した。
記憶を漁って思い返してみる。
半年前となると……
「ああっ!お前、まさかあの時の女子高生か!」
思い出したのは、半年ぐらい前、新太平洋大陸観覧ツアーの案内役をしていた時にいた女子高生だった。
やたらと質問してきてウザかったので、何となく覚えている。
髪を染めて印象が変わっていた為、今まで気付けなかった。
「はい、今はもう卒業して社会人になりましたです」
「そ、そうか……」
人の縁ってのは、どこで繋がるかわかんねーもんだな……
思わず、そんな年寄りくさい事を考えてしまった。
まさか、あんなツアーの客にまた会うと思わねーだろ?
「これから、よろしくお願いしますです。新庄さん」
俺は何故か、あの時結に振られた男の事を思い出した。
あいつ、元気にしてっかな……




